7.1.異質な旅路
今回は余裕を持って完成ました。
そして第八章は確実に投稿できます(すでに完成している)
だけど終着点が遠すぎるぅ!!!
気長にお付き合いくださいまし
乾いた草花が擦れる音が四方から聞こえてくる。
木枯らしを楽しむ分にはいいのかもしれないが、その中を突き進む場合は厄介なことこの上ない。
歩いているだけで服にいろんな植物の種が引っ付いてくる。
それを取らずに歩けば皮膚にチクチクと突き刺さってうっとうしい。
広大な草原を二人の男が歩いていた。
会話などは一切なく、ただ黙々と目的地へと向かっているだけだ。
それを寂しいとは思わないし二人はそういう間柄ではない。
鬼である地伝は分厚い服のお陰が、それとも鬼の肉体のお陰か引っ付いてくる植物の種を意にかえすことなく歩みを進めている。
その後ろを歩いている衣笠は、眉をひそめながら左右に見える遠くの道を吟味していた。
「おっ」
地伝の背後を少し離れ、放棄されていた角材を手に取る。
雨風に晒されていて少し腐食している部分もあったが、芯は生きているようだ。
道に戻りながら腐食した部分を簡単にてで引きちぎった。
軽く振って壊れないかどうか確認したあと、目の前にある草花を凪払う。
これで種が服に引っ付くことが多少たりとも減るだろう。
その様子を見た地伝は小さく首をかしげる。
「何をしている」
「虫が鬱陶しいのだ」
「時期に群生地を抜ける。辛抱しろ」
「人間様は繊細なのだ」
「よく言う」
本当に繊細であれば虫を口にはしない。
鼻で一笑してから再び歩みを進めた。
あれからどれ程歩いただろうか。
霞のかかった山は相変わらず遠くに鎮座しており、山頂付近は白くなっている。
山を越えるとなると雪を覚悟しておかなければならないだろう。
これは麓を進む方が利口かもしれないが。
「んー……?」
衣笠が目を細めて遠くを見る。
声に気づいた地伝は立ち止まった彼の方を振り返った。
「どうした」
「このまま真っ直ぐ行くのか?」
「山に着くまでは直進するつもりだが……。なにかあるか?」
「いやぁ、可哀想だと思ってよ」
「誰が」
すると、衣笠は顎を使って『前を見ろ』と促してきた。
振り向いてみれば数人の盗賊らしき男共が枯れ草の中から立ち上がった。
彼らは地伝と衣笠が所持している日本刀に目を向けているようだ。
「そういうことか」
「どうする。お前がやるか?」
「私が動けば騒ぎになるぞ?」
「そうだな。では、私がやろう」
コキリと首を鳴らした衣笠は、面倒くさそうにしながら前に出た。
鬼が暴れて更なる増援を呼ばれても面倒だ。
なのでここは衣笠が率先して対処することにしたのだが……。
盗賊の顔ぶれを見るや否や、大きなため息をつく。
腰から小太刀を一振り抜き放ち、脱力の構えで対峙する。
彼らは『いい獲物が出てきた』とニヤニヤしながら近づいて来た。
「良い武器持ってんじゃねぇか。ありゃ高く売れそうだな」
「でも目立った装飾とかないぜ? 大丈夫なのか?」
「どちらにせよ何か持ってんだろ。足しになりゃ何でもいい」
「あ、あの~……。奥の奴、角生えてないか……? 魔物か……?」
「はぁ~?」
戸惑いながら指をさしている男は、地伝を見ていた。
他の者たちも指先を追ってみやるが、全員が首を横に振る。
「人型の魔物なんている訳ねぇだろ! 飾りだよ飾り!」
「そうは見えないんだけど……」
「なんだっていいさ! 何より服装も武器も見事なもんじゃねぇか~!」
彼らはそんなことを話し続けている。
人数有利ということもあって気が大きくなっているのだろう。
衣笠が確認した限りでも十五名はいる。
潜伏している物を合わせれば二十名はくだらないだろうか。
これを一人で始末しなければならない。
衣笠は再び大きなため息をついて頭を掻いた。
ちっとも動揺した様子がないのは、この“作業”を非常に面倒くさがっているだけだ。
なにせ骨のあるようなやつが一人もいない。
「やるならばもう少々……苦戦させてほしいものだ……」
「あー? なんか言ったかぁ~?」
隊長格らしき盗賊がおちょくるように声をかけたその時、衣笠は近くにいた盗賊の一人を簡単に殺害した。
近づき、小太刀で喉を貫いただけ。
一瞬の出来事で何が起きたか分からなかったらしく、彼らの表情は固まったままだ。
だが鮮血を吹き出しながら倒れる仲間を見て、ようやく我に返った。
「て、てめぇ!」
「賊がいる……つまりどこかに村がある。手前らが村のない場所を放浪しているはずがなし」
「なに訳のわかんねぇこと言ってんだ! やっちまえお前ら!」
一斉に武器を構えて襲いかかってくる盗賊を見て、衣笠は小太刀を逆手に持った。
一人の攻撃を半歩で回避し、すれ違いざまに突き立てる。
そんな調子で五人を簡単に仕留めてしまった。
誰もが反応することができずに倒れ伏す。
一瞬で五人がやられたところを見て、盗賊たちもようやく『マズい』と悟ったらしい。
他数名が後退しはじめたのだが、それと同時に背後に潜んでいた射手が矢を射ってきた。
それをカンッと小太刀で軽くいなし、事なきを得る。
小さな矢だ。
弓も小さく引く動作が短いため、日ノ本の大弓よりも連射速度は早い。
もう既に次の矢を準備している最中だ。
衣笠は側で倒れている死体を持ち上げる。
これを壁にしてずんずんと前に進み、近づいたところで死体を放り投げて射手を仕留めようとした。
驚いて逃げようとしていたが、そう簡単に逃がしはしない。
死体から小刀を盗み、投擲する。
それは吸い込まれるように射手の脚に突き刺さり転倒させた。
あとは作業なので、しっかり近づいて簡単に首を掻く。
バッと飛びかかってきた敵を無抵抗のまま二人程仕留め、息を吐く。
にじりにじりと近づいて来てカウンターを狙っていた賊も、抵抗させることなく首を掻き切った。
(衣笠の太刀筋を誰も見切っておらんな)
彼の攻撃は必ず命中する。
回避されることも防がれることもなく、スッ……と小太刀が振るわれて命を刈り取るのだ。
考えてみてもカラクリが分からない。
だが、大したものだ。
瞬く間に九人を仕留めた衣笠は『こんなものか』と呟きながら死体の衣服を使って小太刀に付着した血液を拭い取る。
恐れを成して逃走していく盗賊の背中を見送っていたが、思い出したかのように小刀を手にして投擲した。
逃走を図っていた賊の一人に命中し、転倒する。
「脚がっ……! くそ、くそ!」
「おい」
「く、くるなぁあ!」
無表情のまま近づいたところで、衣笠は男の髪の毛を鷲掴みにして持ち上げる。
痛そうに顔を歪めていた男に向かって小太刀の切っ先を向けた。
「村まで案内しろ」
【お願い】
広告下の『☆☆☆☆☆』より評価してくださると創作活動の大きな励みとなり、作品の今後に繋がります。
「応援したい」「続きが楽しみ」「おもしろい」
と思ってくださった方は、評価してくださると幸いです。




