第七十三話:育成方針
能力値は精神力、知力、運を上げるとして、問題はクラスだ。
当然ながら、アルマさんはクラスを持っていなかった。だから、ここでクラスを与えれば、クラス補正もあってかなり強くなることだろう。
問題は何のクラスに就かせるかだけど……【水魔法】に【火魔法】が得意ならやはり【キャスター】が無難だろうか。
シリウスを目指すのなら【アコライト】だろうけど、一からスキルを取得しなおすのはかなり難しい……いや、そうでもないか?
レベルアップさえできれば、スキルを二つ取得できるから、そこまで苦労はしないかもしれない。
もちろん、レベルアップするだけの経験値を集めるのは大変そうだけど、パーティを組んでいれば経験値は分配されるようだし、最悪俺がパワーレベリングしてやれば最低限は揃えられるはず。
ここは希望を聞いてみようか。
「アルマ様、シリウスに憧れていると言ってたけど、シリウスみたいになりたいの?」
「その気持ちがないわけではないわ。シリウスの【治癒魔法】は素晴らしいし、アリスのも実際に見て凄かった。でも、私にその才能はないと思うの」
「それはどうしてなの?」
「以前、シリウスが来るよりも前に治癒術師のお世話になることがあって、憧れたことがあったわ。その時に、私も将来は治癒術師になりたいって思って色々本を読んだりして特訓したんだけど、一向に使えるようにならなかったから」
それがいつのことかは知らないけど、【水魔法】とかがそれなりに育っているのに【治癒魔法】がないってことは確かに才能がなかったのかもしれない。
俺だって、【弓術】やら【剣術】やらはすぐに覚えられたし、兵士達だって【弓術】自体は早い段階で覚えていた気がする。
最初のとっかかりさえあれば、スキルを覚えるだけならそう難しいことではないはずなのに、覚えられていないということはそう言うことなんだろう。
「だから、私は自分にできることを伸ばして、役に立てたらと思うわ。【治癒魔法】はシリウスが、他の魔法では私が、役割分担ね」
「役割分担」
「と言っても、私じゃ難しいかもしれないけどね」
まあ、確かに役割分担した方がパーティ的には強くなりやすい。
同じパーティに回復役が二人いたところで使われるのはより優れた魔法を使う方だ。
もちろん、一人がやられてももう一人いるっていうのは安心感があるけど、それをやるんだったらアタッカーを増やした方が楽である。
火力不足になるとそれだけ戦闘の時間が長引いて、結局回復役の負担が増えるからな。
まあでも、アタッカーだからと言って回復役を担ってはいけないというわけではない。
例えば『スターダストファンタジー』には前線で戦いながら回復も担う【クルセイダー】というクラスもあった。
どちらもやりたいというのなら、やればいいのである。
「なら、向いているとか向いていないとかは関係なく、シリウスみたいになりたくはないの?」
「そりゃ、できることならなりたいけど……いくらアリスでもそれは無理でしょ? いくら教え方がうまくても、才能のないものを使えるようにするなんて……」
「できるの」
「え?」
「多分できるの」
はっきり断言してあげたかったが、ちょっと不安になったので多分と言ってしまった。
でも、できると思うんだよね。
最初にクラスで【アコライト】を与え、もう一度レベルアップした時に【治癒魔法】を覚えさせれば、多分できると思う。
いや、もしかしたら才能がないものは除外されるかもしれないという可能性があるんだよね。
【アコライト】のスキルである【ヒールライト】を覚えさせるのならともかく、【治癒魔法】というスキルはどのクラスにも属さない、言うなればこの世界特有のスキルだ。
本当なら、【ヒールライト】を覚えさせたいところだけど、この世界の人だから覚えられない可能性だってあるし、そう言う意味で予防線を張った。
覚えられればすぐにでもシリウスと同じ魔法を使えるようになる。もし覚えられず、【治癒魔法】というくくりになるなら地道に上げていくしかない。そして、そもそも覚えられないとなったら、残念だけど諦めてもらうしかないね。
まあ、どれにしても、チャレンジして見ないことにはわからない。
今後のためにも、少し確かめておきたいのもあるし、アルマさん自身が望んでいるなら、やってみてもいいんじゃないかなと。
「ほ、ほんとに?」
「やってみないことにはわからないけど」
「あなたの秘伝を教えてくれるというのね! ありがとう、アリス!」
俺の手を握ってぶんぶん振り回すアルマさん。
こんだけ期待させておいてできませんでしただったらかなり心苦しいけど、そこまでの気持ちがあるなら、とりあえずやるだけやってみるとしよう。
そう言うわけで、俺はクラスを【アコライト】に定めた。
最悪、覚えられなかったとしても、もう一度レベルアップして【キャスター】にクラスチェンジすることはできるし、犠牲になるのは経験値だけである。
それくらいは、俺が稼いであげればいい。王都に着くまでに間に合うかは置いておいて。
「ひとまず、アルマ様には【アコライト】のクラスを授けるの」
「あこらいと?」
「称号のようなものなの。シリウスも同じものを持っているの」
「へぇ、アリスの国ではそう言う風に呼ぶのね。わかったわ、私は【アコライト】よ」
さて、これでレベルアップは完了した。
【アコライト】に就いたことによって、クラス補正で能力値が上昇している。
10歳のステータスじゃないだろうな、これ。俺も人のこと言えないけど。
「それで、なにをするの?」
「一番簡単なのは魔物を倒して経験を積むことなの」
「ま、魔物を相手にするの?」
「強くなりたいならそれが一番手っ取り早いの。大丈夫、いざとなったら私がサクッと倒すの」
「サクッとって……確かにアリスは強いみたいだけど……」
恐らく、アルマさんも全く魔物を相手にしたことがないってわけでもないと思う。
多分、狩りみたいな感覚で親とか護衛とかと一緒に魔物を相手にして、止めだけ譲ってもらったとかそう言うことをやっていたんだと思う。
そうでなければ、ここまで経験値が多いわけがない。いくら三年かけたと言っても、修行だけじゃここまで上がらないだろう。まだ子供だし。
アルマさんの親は、一体何を考えてそんなことさせたんだろうね。
この世界で経験値を稼ぐと言ったら、基本的には修行をすることだと思っていたんだけど。いやまあ、確かに魔物を倒すことでも経験値は手に入れられるのは知っているだろうけどさ。
経験値というか、ある程度の経験を積めばレベルが上がるって解釈みたいだし。
おかげでサクッとレベルアップできて楽だったけど。
「心配なら護衛の人も一緒に見ていればいいの。絶対に怪我はさせないの」
「まあ、そこまで言うなら……」
あんまり乗り気ではなかったみたいだけど、最後には同意してくれた。
魔物を相手にするという、護衛対象にあるまじきことをするわけだから、ジョンさんも護衛の二人もあまりいい顔はしなかったけど、これも強くなるためというアルマさんの説得によってしぶしぶ納得したようだ。
まあ、レベルが低いおかげかレベルアップまでの経験値量はそこまで高いわけではないし、これなら少なくとも2、3レベルくらいは上げられるだろう。
それでどこまで変わるかってところだろうね。
俺はシリウスのことを気にしつつも、どうやって効率的にレベルを上げてやろうかと思案していた。
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