第七十二話:養殖
「……その気持ちは嬉しいの。でも、それを受けることはできないの」
「どうして? 私はこれでも魔法も使えて……」
「それなら、なんであの時助けに入らなかったの?」
アルマさんが魔法が使えることくらい知っている。スキルのレベルからして、10歳にしてはかなり高レベルの魔法の使い手だろう。
でも、それは10歳にしてはというだけで、私から見ればそこまで強いというわけではない。
だから、魔物に襲われて護衛が倒れている時、ただ悲鳴を上げるだけで助けに入れなかったことはわかる。
だけど、あえてそれを指摘してやった。それだけの力があるなら、なぜ助けに入らなかったのかと。
「そ、それは、ジョンに止められて……」
「まあ、アルマ様は護衛対象なわけだし、あの時戦う必要はなかったの。だけど、シリウスの旅についていくというのなら、そうならない時だって必ずあるはずなの」
「わ、わかっているわ。多少の魔物くらい、私にだって……」
「本当に? 言っておくけど、さっきの雑魚とは比べ物にならないくらいの魔物だって出てくるかもしれないの。それでも、自力で倒せるって言えるの?」
「……」
まあ、実際にはそこまで自力で倒せっていう場面はないとは思う。
俺が一緒だったら代わりに倒してあげられるし、シリウスだけだったとしても守り切ることくらいはできるだろう。その辺の護衛に任せるよりはよっぽど安全だとは思う。
でも、万が一ということもある。
今回のように、普段は誰も入らないような森の奥に入ることだってあるかもしれないし、どこかのタイミングで不意打ちを受けることだってあるだろう。
そんな時、少なくともある程度の戦える力がないとすぐに命を落とすと思う。
知り合いが殺される姿なんて見たくないし、正直足手まといだと思う。そう考えると、少しきつい言葉になってしまった。
「……そうよね。私じゃ、足手まといよね……」
「わかってくれたの?」
「ええ。ごめんなさい、私はシリウスに憧れているけど、困らせたいわけじゃないの。せめて、魔物くらい一人で倒せるようにならなきゃだめよね……」
どうにか諦めてくれたようだ。
でも、ちょっと可哀そうだったかな?
アルマさんがシリウスのことを思う気持ちは本物だろう。俺としても、そこまでシリウスのことを慕っているなら会わせてあげたいという気持ちはある。
だけど、まだ若すぎるだろう。
この調子で行けば、アルマさんは優秀な人材となることは間違いない。実力至上主義のこの国ならば、将来はいいポストに就くことだって可能なはずだ。
そんな順調に続いている道を途絶えさせるわけにはいかないし、そんな優秀な人材を連れ去ったとあればこの国への印象も悪い。
まあ、俺からしたらシリウスを追いかけまわしているこの国にはいい印象はないけれど、だからと言って敵対したいわけでもない。
だからせめて、将来この国を変えてくれたらと思う。シリウスのような犠牲者が出ないようにね。
「まあ、もし強くなりたいというのなら私でよければ色々教えるの」
「え、いいの?」
「旅に出るにしろ出ないにしろ、知り合いが酷い目に遭う姿は見たくないの」
貴族の令嬢なんて、ただでさえ狙われやすい人種だ。
仮に旅なんて出なかったとしても、そのうちどこかのタイミングで狙われたりすることもあるだろう。
ちょっと気になっていることもあるんだよね。
俺は以前、マリクスの町で兵士をレベルアップさせたことがあったが、その際にクラスを付与することができた。
クラスっていうのは【アコライト】とか【アーチャー】とかそう言う職業的なものだけど、この世界ではこのクラスがないらしい。
だからこそ、クラス補正で上昇するはずの能力値上昇がなく、さらに通常のレベルアップではレベルアップ時の能力値上昇ボーナスもないので、この世界の人々はレベルの割に能力値が低い人が多い。
しかし、俺がレベルアップをさせると、レベルアップ時の能力値上昇ボーナスを受けることができ、さらにクラスも付与することができる。
これはつまり、この世界の人々も『スターダストファンタジー』と同じような強さにできるかもしれないということだ。
あの時は、レベルを少し上げた程度で、その後はあまり上げていなかったけど、もし継続的に上げて行ったらどうなるだろうか。
この世界の人々はレベルアップに必要な経験値の量も膨大なのでそうそうレベル上げはできないかもしれないが、もし上げることができたなら、相当強くなるんじゃないだろうか。
特に、レベルが低く、レベルアップ時の能力値上昇ボーナスの恩恵を存分に受けられる子供とかならなおさら。
そう言うわけで、できることならこの世界の人を育てて、ていうのはやってみたいところである。
そう言う意味では連れて行ってもいいかもしれないけど、まあ、流石に貴族の令嬢はだめだよね。
なので、王都に着くまでの間にどれだけレベルアップできるか試すくらいで留めておこうと思う。
「アリス強いもんね。ぜひお願いするわ」
「王都に着くまでの間だけなの」
「それでもいいわ。その強さの秘密、教えてもらうわよ」
強さの秘密と言われても、そう言うキャラを作ったからとしか言いようがないけど、まあレベルを上げて物理で殴れば大抵は強くなるのだ。
あ、そうだ。強くするのだったら、これは聞いておかないといけないね。
「その前に、アルマ様は今レベルアップできるとしたらしたいの?」
「え? 何よ急に」
「いいから答えるの」
「もちろんよ。というか、レベルアップは誰でもしたいんじゃないかしら。私も7歳の時に教会に連れて行ってもらってレベルアップしたけど、あの時はとても嬉しかったわ」
なるほど。確かにこの世界ではレベルアップは教会にお金を払ってするものらしいし、レベルアップしたいからと言ってすぐにレベルアップできるわけでもないだろう。
仮にレベルアップできなくても、教会に厄介になるだけでお金は取られるみたいだし、ある程度低レベルで敵を倒すことは普通のことなのかもしれない。
だからこそ、レベルアップできるならすぐにでもしたいっていう人は多いのかもね。それは貴族でも変わらないと。
「なら、どんな能力が欲しいの?」
「能力? そうね、私は魔法が使えるから、その威力を上げていきたいかしら。って、なんでそんなこと聞くの」
「なるほどなるほど」
まあ、剣術を使うって柄でもないだろうし、魔法型になるのは必然か。
となると、上げるべき能力はMP、魔力の量に関係する精神力と、魔法の威力に関係する知力かな。
レベルアップ時には三つまで能力を上昇させることができるけど、あと一つは何にしようか。
……運かな。運がよくなれば結果的にいい方向に向かうことが多くなるだろうし、腐りにくいだろう。
魅力でもいいけど、アルマさんは今でも十分可愛いし、別に上げなくてもよさそうな気がする。
「自分の将来を考えるのは大切なことなの。特に、レベルアップした時には一気に強くなることがあるから、あらかじめイメージしておくことは重要なの」
「へぇ? まあ、確かに一理あるわね」
俺がレベルアップできるということはなるべく秘密にしておくつもりだ。どう考えても教会に喧嘩売ってる行為だしな。
さて、魔術師タイプがお望みというのならそれに応えてあげようではないか。
幸いにして、すでに1レベル分レベルアップできるだけの経験値は溜まっているようである。
7歳の時にレベルアップして、今10歳ということは、3年でこれだけの経験値を集めたってことか。かなり凄いことだ。
勝手に積み上げてきた経験値を使うのはちょっとあれだけど、これも強くなるためである。
俺は【レベルアップ処理】の項目から、アルマさんのレベルを上げることにした。
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