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第四十四話:城の工房

 エリクサーに貴重な素材を使うとは言っても、なにもすべての材料がそうというわけではない。むしろ、ほとんどの材料はありふれた素材であり、決め手となるのは数種類だけだ。

 まあ、賢者の石と合わせて作るならもう少し必要ではあるけど、賢者の石の入手方法には当てがある。だめだったら、またその時別の方法を考えよう。


「とりあえず、ここにある薬草を見せて欲しいの」


「それはいいが、城にあるような材料でできるのか?」


「大体は揃うと思うの」


 もちろん、決め手となる材料はないだろうが、他の材料があるかどうかを確認しておかないとまた取りに行かなくちゃいけなくなって二度手間になる可能性がある。

 そもそも、そこまで貴重でもない材料なら俺が材料を探しに行っている間に用意してもらうこともできるだろうし、その指示を出す意味でも確認は大事だ。


「そんなものでエリクサーができるとは思えんが……まあいい。工房に案内してやる」


「なら、私はここで待ってるわね。お父様が心配だし……」


「あんまり遅くならないうちに戻れよ」


 エミリオ様はそう言って立ち上がり、先導するように部屋を出た。

 この城には薬の研究をする工房があるらしく、多くの医師や薬師が協力して薬の開発に勤しんでいるらしい。

 これは王様が倒れてから作られたもので、歴史的にはまだかなり新しいのだが、それでも国中から集めた人材が揃っているだけあってこの国では間違いなく最先端の場所だそうだ。

 一度外に出てからしばらく歩き、少し奥まった場所にある建物へと辿り着く。

 ここが工房か。意外と小さいけど、最先端というからには恐らく凄い技術があるのだろう。

 エミリオ様は無造作に扉を開け、中に入った。


「おお、これはエミリオ様。いかがされましたか?」


 対応に出てきたのは白衣を着た中年の男性。背が高く痩せ型で、なんだか頼りなさそうな印象ではあるが、その服に染みついた薬草の汁は日々薬の研究をしているのだなということを窺わせる。


「こいつがこの城にある材料を見せて欲しいと言ったのでな。薬草などの保管はお前達に任せていただろう。だから来た」


「なるほど。で、失礼ですがそちらは誰でしょうか?」


「治癒術師のアリスだ。まあ、今はエリクサーを作ろうとしているようだがな」


「なんと、あのエリクサーをですか?」


 男性が胡乱げな目でこちらを見てくる。

 エリクサー云々に関してはあまり言わないで欲しいんだけど……まあ言ってしまったものは仕方がない。

 それにみんなエリクサーなんて作れるはずがないと思っているようだし、むしろ俺がエリクサーを作ろうとしてるってことは広まってくれた方がいいのか?

 たとえ犯人に伝わったとしても本気にしないだろうし、下手に隠して邪魔をされる方が厄介かもしれない。

 うん、このまま行こうか。


「はは、ご冗談を。エリクサーは伝説の霊薬。御伽噺の中でしか存在しません。もしそんなものが作れるのなら、私達はここで苦心などしておりませんよ」


 この工房は王様を救うために作られた工房らしい。だから、ここで働く者は皆王様の回復を祈っている。

 もちろん、エリクサーなんてものが作れるならとっくにその方法を探したことだろう。だけど、できなかった。

 いつまでも伝説上の薬を追い求めるよりは、現実的に治す方法を模索した方がいいに決まっている。だから、こうして日夜研究しているわけだ。

 いきなり現れて、エリクサーを作りますなんて言っても、お前は何を言っているんだとなるに決まっている。


「エリクサーはそう簡単に作れるものじゃないの。でも、私なら作れるの」


「はは、それは頼もしいですね。では、何をご所望なのでしょうか? 大抵の薬草は揃っていますよ」


 信じたわけではないだろうが、俺の見た目が子供だから相手したって感じだな。

 まあいい。材料が見られるなら好都合だ。

 俺は必要となる材料の名を言っていく。言うだけのことはあり、大抵のものは揃っているようだった。

 ただ、名前が同じでももしかしたら効果が異なる場合もあるかもしれない。この世界は『スターダストファンタジー』と同じようで少し違うようだから普通にあり得る。

 実際に見て確かめた方が無難だろう。


「……実際に見せてもらうことはできるの?」


「え? まあ、構いませんよ」


 まさか俺がすらすらと薬草の名前を言えるとは思ってなかったのか、少し呆けたような表情をしていた。

 まあ、大体の名称はルルブを読み込んである程度把握しているからな。これくらいなら軽い。というか、そうでなかったらエリクサーを作ろうなんて考えない。


「こちらが保管庫です」


 男性が案内してくれたのはちょっとした小屋。工房のすぐ隣に建てられている建物だ。

 薬草を保管するだけなのに大袈裟だと思うかもしれないが、薬草はかなりの種類がある上、見た目が似ているものが多い。だから、ちゃんと管理して分けておかないとわからなくなってしまうのだ。

 中には保存に特殊な方法を用いるものもあるし、薬草を保管するためだけの小屋があったとしても別に不思議はない。

 薬草は木箱に収められているらしく、割とすぐに取り出せるようになっているようだ。

 さて、目当てのものはあるかな?


「他国から取り寄せた貴重な薬草もありますのであまりむやみに荒らさぬようにしてくださいね」


 男性の注意を聞きつつ、手近な木箱を開いていく。

 見た目が似ている薬草を見ただけで判別できるのかという疑問だが、その点は問題ない。

 どうやら俺は、手にした道具の詳細を把握することが出来るようなのだ。

 だから、薬草を手に取ればこの通り……。



名称:ナキ草

種別:薬草

レア度:1


雨が降った後によく見つかる薬草の一種。多量の栄養を含んだ蜜を分泌し、それを塗り込むと保湿効果がある。



 と、このような感じで目の前に情報が出てくる。

 この表示の仕方はアイテム鑑定をした際の書き方とまったく同じで、やはりどこか『スターダストファンタジー』っぽい世界だと思わされる。

 『スターダストファンタジー』と同じだというのなら、普通ならアイテム鑑定判定を行って成功しなければわからないと思うんだけど、その辺りはよくわからない。

 俺がアリスではなく真崎秋一としての記憶を持っているからだろうか。だとしても、今鑑定したナキ草なんてアイテムは『スターダストファンタジー』には存在しなかったから知識として知っているから、って言うのは少しおかしい。

 アリスとしての能力なのだろうか? 俺はそんな能力付けた覚えはないんだが……。

 まあ、別にデメリットがあるわけでもないし、全然いいんだが。


「ん? これは……」


 その調子でいくつかの薬草を手にしてその都度効果を読んでいく。すると、見慣れた文章を見つけた。

 それは俺が探しているエリクサーの材料の一つ。どうやらちゃんと効果も一緒らしい。


「効果が同じなら、問題はないの」


 もしかしたらこの世界では作れないんじゃないかという不安も少しあったが、どうやら何とかなりそうだ。

 俺はその調子で薬草を選別していく。かなりの量があったこともあり、選別が終わるころには日が暮れてしまっていた。


「やっぱりあの薬草はなかったの」


 期待はしていなかったが、やはり決め手となる材料はなかった。他は全部あったんだけどな。

 まあいい。想定済みだ。

 明日はその薬草を探しに旅に出ることになるだろう。すぐに戻ってこられればいいが、場合によっては結構時間がかかるかもしれないな。

 暗くなってきた小屋から出て空を見上げる。

 さて、うまくいくといいな。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  突然“ルルブ”って出たから(・Д・)スターダストファンタジーの中に旅の手引き書(見る食べる遊ぶガイドブック)みたいなんがあるんかなー、と一瞬思い浮かべた金具素屯の頭の中は砂糖菓子。し…
[一言] 他の人からしたら見た目小さい子が、おままごと感覚でエリクサー作る と言ってる様なものなので誰も信じないですよね 必要な薬草の場所の当てはあるのでしょうか まぁ、それは次回以降と言うことで
[一言] キーアイテムは転がってなかった( ˘ω˘ )
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