第十七話:【プリースト】のスキルを取得
結局、俺が倒したシャドウウルフは一匹当たり金貨二枚で交換してくれることになった。
金貨二枚がどれくらいの価値かは知らないが、別にシャドウウルフくらいだったら大した手間でもないので金額に関しては適当に任せておいた。
まあでも、俺の持っているお金は使えるか怪しいらしいから現地のお金が手に入ったのはありがたい。
とりあえず、金貨十枚ほどを残して収納にしまい、残りは腰に付けたポーチに入れておくことにした。流石に、いちいち収納から取り出していたら目立ちすぎるからな。足りないようであれば適宜補充していくとしよう。
「さて、レベルアップタイムなの」
深夜だったということもあり、一度寝たいところだったが、戦いの興奮がまだ残っているのかあまり眠くない。
死体の処理や砦の修復に関しても兵士達がやってくれるというし、俺はゆっくり休んでほしいと言われて暇である。
なので、せっかく魔物を倒したのだから経験値が入っているだろうと考え、レベルアップ作業に勤しむことにした。
キャラシを開き、『レベルアップ処理』の項目を開く。経験値の欄を見ると、とんでもない量が表示されていた。
「さ、3000……」
今回倒したのはシャドウウルフ二十体ちょっと。大体一体辺り130~150くらい入っているだろうか。
雑魚ばかりだったとはいえ、二週間くらい魔物を相手にして手にした経験値が約1000くらいだと考えるとその三倍。ゼフトさんの言う通り、シャドウウルフは強敵の部類に入るようだ。基本的に敵が強いほど経験値は多くなるからな。
まあ、それはいいとして、3000かぁ……。単純に全部使ってレベルアップすれば今なら8レベル分になるだろうか。
8レベルともなればそれだけで中堅者冒険者レベルだ。この世界基準で考えれば恐らく騎士レベルは軽く超えるだろう。
ほんのちょっと敵を倒しただけなのにこの上昇量。やはり普通ではない。
これ、その内最強の生物になってしまうのでは? 俺としてはさっさと元の世界に帰りたいというのはあるけど、それが無理ならただ普通に暮らせるだけで十分なんだけど。
ある程度の力は必要だが、力がありすぎるのもトラブルの種になる。俺が原因で争いが起こるとか嫌だぞ……。
もちろん、経験値を使わないという手もある。レベルアップは任意であり、意図的にしなくても何も問題はない。
ただ、やはり不測の事態は怖い。人間としてはこの国の剣聖より強いっぽいけど、他の国ではどうかわからないし、めっちゃ強い魔物とかもいるかもしれない。
流石に、それらに会った時にじゃあレベルアップしますって言うのは難しいだろう。保険をかけるなら初めからレベルアップしておくほかない。
とりあえず、当初の予定である病気や呪いに対抗できるスキルを手に入れるというのを優先しよう。仮に強くなったとしても、隠しておけばそこまで大きな騒ぎにはならないだろうし。
「8レベルもあれば、もう【プリースト】になれそうなの」
すでに前提スキルは半分以上取得している。今回のレベルアップで残りを取得し、【プリースト】へと転職した上でさらに目当てのスキルを手に入れるだけの枠は十分にあった。
「これだけあればとりあえずは怪我や病気とは無縁になれるの」
怪我の治療に状態異常の回復、病気の治癒。神官である【プリースト】は上級職ということもありその辺りのことに関してはスペシャリストだった。
もちろん、麻痺や沈黙など口を封じられてしまうとそれらは使えなくなってしまうが、アリスの場合は【詠唱破棄】というNPCスキルのおかげで言葉にしなくてもスキルを発動させることが出来る。
元々これは行動順を無視して最初に行動できるというスキルだったけど、フレーバーテキストを見る限り多分行ける気がする。
まあ、仮にできなかったとしても【状態異常無効】というスキルもあるからそもそも麻痺や沈黙にはならないけどね。
つくづく盛りすぎだと思う。これがボスで出てきたら多分誰も勝てないんじゃないかな。
「次はどんなスキルを取るべきだろう」
回復関連に関してはこれで十分だろう。となると、次は戦闘面の強化か、あるいはこの世界のスキルを試してみるか。
正直、戦闘面に関してはこれ以上取らなくても十分な気はする。一応、取りたいスキルがないわけではないけれど、レベル30の時点で割と完成形だったのは間違いない。
後取るとしたら補助系か、あるいは別のクラスに転職して弓以外も使えるようにするかと言ったところ。
個人的には、この世界特有のスキルを試してみたいところ。今のところはまだ少ないけど、多分キャラシで確認できれば増えていくだろうし、面白そうなものがあれば試してみたい。
まあ、その辺りに関してはまた経験値が溜まってから考えよう。今回のレベルアップでまたほぼゼロになってしまったし。
しばらく横になりながらキャラシを眺めていたらちょうどよく眠気も襲ってきたし、今日はもう寝ることにする。
お休みなさい……。
いくら深夜に寝たと言ってもこの体は早起きが身についているらしく、いつもよりは若干遅いものの割と早い段階で起きることが出来た。
ふわぁと欠伸をしながら伸びをし、てきぱきと顔を洗いに行く。
食堂に顔を出せば、兵士達は皆疲れた様子で眠そうな顔で食事をとっていた。
まあ、俺のスキルは傷は癒せても精神的な疲れまでは癒せない。あの後も砦の修理やら周囲の警戒やらで忙しかっただろうし、寝不足なのは仕方がないだろう。
それでもカステルさんは健在のようで、食事はいつも通り美味しかった。
一応、昨日の騒ぎで目を覚ましていたらしいんだけど、元気なことだ。
「アリス、おはよう。昨日は助かった」
「おはようなの」
食事をしていると、ゼフトさんが話しかけてきた。
お礼に関しては昨日散々聞いたけど、やはり全滅しかけたところを助けられたというのは恩が大きいらしい。
シャドウウルフも買い取ってくれたし、早々に休ませてくれたのだからもうお礼はお腹いっぱいなんだけど、まあ、ゼフトさんが言いたいなら好きにさせておこう。
「それで、アリスさえよければ町に送っていこうと思うんだが、どうする?」
「伝令役が戻ってくるまで待機じゃなかったの?」
確か、明日には帰ってくるという予定だったはずだ。町に行けるのは嬉しいが、わざわざ伝令に行かせたのにその報告を待たずして通してしまってもいいのだろうか? 一応、俺は国籍不明の不審人物としてここにいるわけだし。
「今回のことはすぐに報告しなければならないから、伝令役にはこちらから迎えをやって既に報告を受けている。アリスの処遇に関しては、兎族ならば危険性は低いから通してもよい、だそうだ」
獣人は力が強いことで有名だが、兎族に限っては特に力も持たずいくら冒険者と言っているとはいっても大したことはできないと判断されたようだ。
まあ、仮に兎族ではなかったとしても恐らく通っただろうが、なんだか馬鹿にされているようで少し気分が悪い。
少しむっとした表情を浮かべていると、ゼフトさんが笑って続きを話す。
「もちろん、今回の報告でアリスの活躍はしっかりと報告するように頼んである。場合によっては、領主様に呼び出されるかもしれないが、悪いようにはされないだろう」
「呼ばれるだけで迷惑なの……」
報告が信じられるにしろ信じられないにしろ、真面目なゼフトさんの事だからいつも報告はきっちり行っているだろうし、そんなゼフトさんにそこまで言わせる人物とはどんな奴なのだろうと接触を図ってくることは確定だろう。
俺は別にこの砦を超えられれば後はどこでもいいし、その町に固執する必要もない。出て行けと言うなら出ていく所存だったんだけど、なんだか話がややこしくなってきた。
逃げてもいいけど、それはそれで後々面倒事になりそうだし、もし呼ばれたのなら行くしかない。
変なことにならなきゃいいけど……。
「まあまあ。それで、行くか?」
「まあ、それはお願いするの」
なんにせよ、いつまでもここに留まっているわけにはいかない。町に行くこと自体は賛成だった。
一抹の不安を抱えながらも頷くと、すぐに馬車を用意すると言って去っていった。
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