いつかは本番やってくる(乙女ゲーム突入前夜)
「公爵様、よろしいですか」
ん? ああ、マリーたちに付けている護衛のAランク冒険者の女性か。
「なんだね?」
「ご報告なんですが… お嬢様たち、来月の更新時期にAランクに上がります…」
「は!? 才能あるのは知っていたが… Aランクって、騎士団でも隊長クラスじゃなかったかね?」
「その通りです…。先日Bランクの試験があったのですが、ケルベロスの群れ、本来だと5匹ほどなのですが20匹ほどのものと当たりまして、それらを二人であっさりと…。
さらに本部に更新に行った際、ワイバーンの群れが街に近づいてきて緊急招集を受けたのですが、それを二人で片づけるから試験代わりにしてほしい、と…
もちろん危なくなっったら命に代えてもお助けするつもりでギルドマスターや他の者と控えてたのですが…
そちらも危なげなく…」
「…… わいばーん。 確かそれ騎士団が出てきて討伐をするものじゃ…」
「…… はい」
「… あの子たち、なんだかまだいろいろ研究や訓練してたと思うんだがね。
うちの娘たちはいったい何と戦うつもりなんだね…?」
「あー、それは…」
「? 何か知ってるのかね?」
「私もつい聞いたことがあるんですけど、ジャンナ様のほうが、昏い、いや思い詰めたような眼をして『運命とかな』 って答えて。 マリー様もそれに頷いてて…」
ん? 『運命』? それどこかで…
あ! そういえばマリーが昔、勉強に集中しすぎて体調崩しても休もうとしなかった時にたしなめたら、
『運命を変えたいの。休むわけには…』とぽろっと言ってたことが…
ジャンナが来てから明るくなったように見えて安心してたんだが…、二人とも勉強やギルドでのランク上げ、未だに頑張ってやっているな。相変わらず一生懸命に。
なんだ? 何か理由があるということか? そしてそれはまだ解決していないと?
どんな理由だ? そしてジャンナはそれを… 知っているんだろうな。
しかし会うまで会ったことは無かったはずなのに、なぜ? 『運命の姉妹』だからか?
マリーの以前の態度もまさかそのせいだろうか。 私たち家族は役に立たないのか?
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えーっと、ギルドから帰ってきたら、マリーと一緒に公爵様からお呼び出しがかかりました。
「えーと、お前たちAランクになると聞いたんだが…」
「ええまあ」
「そうか…」
んー? なんか言いたそうにしてるけど…
「今さらだが、お前たち、どうしてそんなに生き急いでいるのか聞いても良いかな? 我々は頼りにはならないか?」
思わずマリーと目配せを交わし合います。
ちょうどよかった。 そろそろこっちから話しに行こうとは思ってたんだよね。
できれば公爵家からのバックアップも欲しいからね。
といっても 『前世で~ 』 とか 『乙女ゲームの世界で~ 』 て言うのは、頭がおかしいと思われかねないから、なんとかうまく説明できる方法を… といろいろな資料を漁って。
で、その中の『運命の~ 』についての民間伝承に『夢告げ』っていうものが。
まあ要するに夢によるお告げっていうか予知夢みたいなものかな。
とある『運命の夫婦』の妻が、夫の危機を夢で見る。どうにも気にかかって、夫について行ったら、夢の通りの風景が。そして必死に夫を引き止めたら、危機一髪で助かる、ってお話。
ナイス設定! しかも『運命の~ 』に対する憧れと共に『夢告げ』のお話もそれなりに知られてるから~。
とはいえ、50人に1人くらいしか会えない人間が危機に遭う時の話だから… 本当にそんなのがあるのかどうかは、神のみぞ知る?
この設定でいこうか、と話し合って、あとどこまで伝えるか、とか。
今の私達だとゲーム通りの行動なんかとるはずないけど… でも変なゲーム補正とかかかったら…ってことで。
あと早まってヒロイン排除とかは止めてね。 切に。
そうして練り上げた渾身のストーリーを、今、披露いたします!
…… 公爵様、悩んでる。
まあさすがに受け入れやすく話作ったとはいえ、あっさり鵜呑みにされてもなあ。
受け入れがたいが、人に対する信頼と今までの態度による裏付けによって、否定もできないって感じかな。
いくつか腑に落ちたこともあるだろうしね。
とりあえず、そういったことが起こるかもしれない(信じられないが)。本人たちはそう思ってる、ってことは納得してもらえたかな。
ウラノスにも公爵様の口添え有って、一応お知らせを。
うーん、こっちも悩んでるなあ。ただ全面的に否定はできないみたいね。
これなら他の当事者たちにも、伝えるだけ伝えておいても、悪くは転ばないかな。
一応公爵様に相談して、王子達にも、さらっと伝えることに。
他にも、事が起こった時、手を回せるであろう人物に、言っとくだけは言っといてくれるって。へえ、侍従長とか王様とか?
で、王子たちに伝えてみた感触では、やっぱり胡乱げではあるものの、公爵様たちみたいに、一部納得のできることはあったようで。
公爵令嬢がAランク冒険者にまでなっててみたり、野宿とか家事とか出来たり、勉強とか二人ともなんだか思い詰めた様子で頑張っていたり、とか。
そうだった? まあ、最近学園入学が近づいてきたから、ラストスパートはかけてたけど…
正直、実際にゲーム通りのことが起こるか起こらないかは、私達にも分からないからね…
でもまあ、これで事が起こった時の保険は掛けられたかな。
何事も無ければ『夢告げ』が当たらなかった、いやそれはまずいか。『夢告げ』を見て、行動したら危機は避けられることもある、ってまとめとこうか。
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そしていよいよ学園入学前夜。 明日から乙女ゲームに突入です。
正直、打てる手は全て打ちました。
念のため、最終確認を。
マジックバッグのポーチには、10年は暮らせる資金が。あと宝石やポーション。食料や水も1年分は。
アクセサリーに見える異次元収納にも同じようにいろいろと。
今まで稼いだ金で隠れ家もいくつか確保。そちらにも資金や食料を。
ゲーム補正入って敵対しちゃった時の為、共同じゃない個人の隠れ家もお互いに。
シナリオ通りだと、マリーが魔の森に捨てられちゃいますから、信頼できる冒険者数組に、卒業式の日から1週間魔の森付近で待機してもらって、送り込まれるようなら保護してもらうクエストを発注。
まあ念のためですけど。
能力は上げれるだけ上げたし、知識もいろいろと。本来なら学園で習うはずの分と王妃教育分も先にね…
準備よーし、知識よーし、実力よーし、保険よーし。
さあ、どこからでもかかって来い、乙女ゲーム!




