#131:即席な(あるいは、オヒキの花道)
「カードをよう、どう持ったらいいんだ? 全部グーにしたら七年殺しを喰らうことは無くなんめえ」
丸男はそう言うが、言いたいことは分かるものの、そんな極端な手札にしたら、そこを相手に突かれてしまうんじゃないだろうか。でも手札の指定は初っ端のこの作戦タイムの時だけであって、以降、1ピリオドごとに1枚づつ使用していくのみ。カードは減ることはあっても、補充されるということは無い、と思われる。詳しく説明されたわけではないけど。が、
「そいつは認識違いだぁ、相棒。勘違いしやすいとこだが、例え『属性』で勝ったとしても、評点で負けたら相手の出してきた『属性』を喰らう。つまり向こうが『チョキ』でこっちが『グー』を出したとしても、下駄履かせた自分の評点が相手の評点を上回れなかったら? ……結局は菊門貫通弾を喰らうハメになっちまうんだ」
アオナギのもっともな指摘。そうか、僕も「ジャンケン」ということに気を取られすぎていて、そんな当たり前のことを履き違えていた。あぶないあぶない。
「喰らいたくねえ『属性』に勝つカードをたくさん持つとか、相手が何を出そうと対応出来るようにバランスよくカードを配分するとか、そういうのは二義的なことだと俺は思うぜえ。あくまでDEPがメイン。有利手が『1.5倍』になるっつってたが、お粗末なDEPを放って、1000が1500になるようなしょっぱい事になったら元も子もねえ」
確かに確かに。僕は対局の本質を見失っていたよ。さすがアオナギ七段、冷静だ。
「……だから俺はあの腐れ執事共に喰らわせたい属性……『チョキ』を8枚持つことにする。残る2枚はグーとパー。これは念のための保険みたいなもんだ。それと重要なのは……その時に何のカードを出すのか、チーム内で共有出来るようにしといた方がいいってことだな。こっちの方が、この戦いにおいて戦略的に必要なことと思われる。向こうも当然やってくるとは思うが」
うーん、なかなかに状況を把握してらっしゃる。でも、味方が何を出すかを知ることでどう戦略に活かすつもりなんだろう?疑問を持ったままだが、時間が無いこともあり、ひとまず即席の「サイン」を覚え込まされた。
●自分がグーを出すというサイン:右手で自分の「首から上のどこか」を触る
●自分がチョキを出すというサイン:右手で自分の「首から下のどこか」を触る
●自分がパーを出すというサイン:右手は自分の体のどこにも触らない
※味方に「○○を出せ」と要請したい場合:左手を装置のバーの上に握り拳を作って置く。右手は上記サインの出し方に準ずる。
「サイン出しそのものも『ここぞ』という時だけ使いてえ。毎回毎回やってたら、それを読まれて裏をかかれるっつー展開もありえなくねえからな。サインが欲しい時は、思いっきり『フゥゥゥゥ』とため息をついてくれ。おっと、だからよぉ……それ以外の場合はため息禁止だ。例えつきたくなるような状況に陥ったとしても、な」
最後にやりとしつつ、アオナギはぞんざいにカードを数えて掴むと、自らの「装置」の方へと向かっていった。そうだよ、大切なのはカードじゃない、どれだけDEPを撃ち込めるかという……それだけだ。僕、そして丸男も自分の手札を選択すると、それぞれの持ち場へと別れていく。いよいよ対局開始だっ!




