17.いざ潜入
「じゃあ、アッシュ。陽動は頼んだよ」
「ふははは、注目を浴びるのはいいが、俺たちがアンドラスを倒してしまっても構わないのだろう?」
「ほう、威勢がいいじゃないか? 俺たち潜入組とどっちが早く倒せるか勝負するか?」
某弓兵のようなことを言うアッシュにジークも好戦的な笑みを浮かべて受ける。いや、そんな場合をしているじゃないんだけど……と苦笑していると、ヴァリスさんとアニスさんがやってくる。
「そっちの準備はできた? じゃあ、そろそろはじめるわよ」
「ふふ、勇者様から教わった私の必殺技をみせてあげるね!! 『流星矢』!!」
うなづくと、アニスさんがはるか遠く……かすかに城壁の上にいる見張りの獣人んが見えるくらいの距離に向けて何本もの矢を放つ。
風の魔力を纏った矢は通常では考えられないほどの速さと高さに飛んでいったかと思うと、いきなり軌道を斜め下に変えて火の魔法による爆発によりまるでロケットのように猛スピードで降り注ぎ爆発や氷漬けなどあらゆる魔法が敵に襲い掛かる。
ゲーム終盤に覚えるはずの業だが俺がゲーム知識でやり方を教えた結果完全に使いこなしているのである。
「エルフの魔法矢……あらためてみるとすごいな……」
「おお。たまらず敵がやってきたぞ!! 貴様ら!! エルフに負けるなよ、冒険者の力をみせてやるぞ!!」
「我らの里を蹂躙した借りを返すぞ、獣人は……」
「「皆殺しぃぃぃぃぃ!!」」
これ以上一方的にやられてたまるかとばかりに砦の扉が開いて大量の獣人たちがこちらにむかってくるの打ち倒そうと冒険者たちやエルフも走り出す。
てか、エルフこわ!!
そう思っていると後ろでぼそりと声が聞こえた。
「やっぱりアニスはすごいわね……この短期間で新しい技をものにするなんて……」
ヴァリスが複雑そうな顔をしてぼそりとつぶやくのが聞こえる。じつは彼女にも教えたのだがこちらは覚えられなかったのだ。
よほど努力してたのだろう、包帯のまかれた両手がなんとも痛々しい。ああ、わかるよ……努力だけではどうにもならない才能の差をみせられるのはつらいよね……勇者を騙っていた時はいつもかんじていたものだ。
「大丈夫……ヴァリスさんだってそれだけ努力していたんだ。そのうちできるようになるよ」
「別に気にしてないわ……でも、ありがとう」
そして、俺たちは砦に侵入するための隠し通路へと向かうのだった。
「これはなんだ!! 隠し通路と聞いていたんだが!? これはどう見ても違うよな?」
「潜入すればいっしょだよ。おかしくないよね。お姉ちゃん」
「ええ、隠し通路と言ったでしょう? それが地上の道だろうが空中の道でも関係ないわ」
「あはは、やっぱり驚くよね」
そこにあるのは特殊な樹木で作られ魔力の伝達率をあげた巨大なバリスタだった。背後にいるエルフの青年が魔法で放つのだ。それはいいのだが、そこに矢はない。なぜならば矢は俺たちなのだから……
「じゃあ、いくよーー、大丈夫!! 今のところ成功率は100%だから。おじさんよろしく!!」
「ほいよ!! がんばってくれよ!! アニスちゃん」
「待て……いや、ほんとに待って、まだ心の準備がぁぁぁ。きゃぁぁぁぁ!!」
アニスさんは文句を言うジークを抱きかかえると即座にバリスタにのっかかり、女みたいな悲鳴をあげてそのまま空を飛んでいく。
「じゃあ、私たちもいくわよ。しっかりつかまりなさい。下手したら死ぬわよ」
「大丈夫だよ。俺はヴァリスさんを信じているから」
今度はこっちだとばかりに、バリスタに乗ったヴァリスさんに正面から抱き着く。やわらかい感触と甘いににおいにくらくらとしそうになるが、安心させようとほほ笑むが……
「ふーん、かっこいいこというわね、じゃあ、ちょっとサービスしてあげる」
「え?」
彼女もぎゅーっと抱き着いてくるからものだから、より豊かな胸が押し付けられる。
「ははは、お熱いねぇ、この子は昔から妹以外にはあまり心を開かなかったから心配してたんだ。エルフの抱擁は高い。責任を取ってくれよ。人間の青年」
「別に私たちは……」
「いや、俺は……ああああああ!!」
からかわれ顔を赤くしている間に発射されてすさまじい風圧におもわず悲鳴を上げてしまう。
「これが男性のからだ……おもったよりもがっちりしているし、それにこのにおいなんか落ち着く……」
「あのヴァリスさん。そろそろ地上がちかづいてきたよぉぉぉ!!」
「え、すぐに制御するわ!!」
俺の胸に顔をうずめていたヴァリスさんの詠唱によって体全体が風につつまれて、そして、目的地の屋上にたどりついた。
俺とヴァリスさんが気恥ずかしくなって即座にはなれていると後ろから声が聞こえた。
「あー、死ぬかと思った……」
「あはは、とっても楽しかったね!! またやりたいなぁ」
すわりこんでいるとジークと目をきらきらさせているアニスさんを見て二人も無事にたどり着いていると安心したその時だった。
「おいおいおいおい、マジでエルフと人間が侵入しているじゃねーか」
乱暴そうな声が響く、物音に気付いたのか、いったいの獣人がいた。俺はこいつを知っている。
「アンドラス……」
「そう、俺様が『傲慢のアンドラス』!! おまえらの命をうばうものだ。わが手にかかることを光栄におもうがいい!!」
数人の人狼を引き連れた獅子の頭を持つ獣人は本来は手にしていないはずの魔剣をもって、俺たちに、むかってあざけるようにわらうのだった。
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