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70 ブッ飛ばしランキング

70 ブッ飛ばしランキング


 数秒前まで喧噪にあふれていた『ファイティング・ストリート』。

 しかし今は、焚火の燃える音だけしか聞こえてこない。


 ヤジ馬たちは言葉を失っていたが、やがてうわごとのようにつぶやきはじめる。


「う……ウソだろ……!?」


「剣士相手にはカスリもさせなかったが、あの『殴られ屋』のノラが……!」


「ワンパンを、もらっちまったぞ……!」


「しかも、ノックダウンさせられるなんて……!」


「そ、それどころじゃねぇぞ! あんなにブッ飛んでやがる!」


 もう対戦は終わったというのに、ヤジ馬たちは対戦中以上の大騒ぎをはじめる。


「おい、計測係! さっさと計測しろっ!」


 するとヤジ馬の中からいかにもやんちゃそうな男の子が飛び出してきて、俺の足元に跪く。

 男の子は薄汚れた巻き尺を手にしており、俺の立ち位置から、ノラが倒れている距離までを測っていた。


「に……2メートル、58っ!」


 男の子の発表に「おおーっ!」と沸くヤジ馬たち。

 みな一斉に後ろを向いて、通りの向こうにある掲示板のようなものを見やる。


 彼らの視線は、『ブッ飛ばしランキング 拳撃部門』というランキングボードに集中していた。


「2メートル58ってことは……ごっ、50位!?」


「ま、まさか、剣士がランク入りするだなんて……!」


「しかも、一気に50人もぶち抜きやがった!?」


 俺はすでに蚊帳の外で、ランキングボードは勝手に書き換えられていく。


『50位 デュランダル(剣士) 右フック 2メートル58センチ』


 そして気づくと、ヤジ馬のなかの大半が、四つ足でうなだれていた。


「ぬ……抜かれちまった……! 剣士なんかに……!」


「お前なんかまだいいよ……! 俺なんか、ランク外になっちまったんだぞ……! もう、ここにはいられねぇよ……!」


 なんだかよくわからなかったが、おおよその事情は理解できた。

 この『ファイティング・ストリート』では、ケンカで相手を吹っ飛ばした距離を競っているらしい。


 種目はいくつかあり、100位まであるのだが、ランク入りしているのはすべて拳士だった。

 どうやら俺が、剣士として史上初のランクインらしい。


 そんなことよりも俺は、意外に思っていた。


 これがもし剣士や魔術師のランキングだったとしたら、絶対に俺をランクインさせなかっただろう。

 いまのはインチキだとか、ランキングが汚れるとか、なんやかんや理由を付けていたに違いない。


 剣士や魔術師はその強さだけでなく、家柄も伴っていないと評価されないからな。

 でも拳士たちは、その点については公平なようだ。


「まあ……ランキングなんて、俺にはどうでもいいんだけどな」


 ふと、地獄の底から這い上がってくるような声がした。


「どうでもいい、だとっ……!?」


 ランキングボードから視線を戻すと、そこにはノックダウンから回復したノラが立っていた。

 ヤツは口の端から垂れていた血を拭うと、さらなる怒りを露わにした。


「我ら拳士の修練の証を侮辱するとは……! 許さんぞっ……!」


「いや、ランキングをバカにしたわけじゃないさ。記録のためにがんばることはいいことだと思う。ただ、俺には興味が無いだけで……」


「ならば、消し去ってくれよう……! この戦いにおいて、貴様をさらにブッ飛ばせば……! 貴様の記録は取り消しとなるのだ……!」


「そういうルールがあるのか? でも消し去りたいならそんなことしなくても、俺をランキングから外してくれていいよ。っていうか、ワンパン入れたら終わりなんじゃねぇのかよ?」


「いいや……! 俺はもはや『殴られ屋』などではない……! これはもはや、拳士と剣士の沽券をかけた戦いとなったのだ……!」


 どうやら俺にブッ飛ばされたことに、相当プライドが傷付いたらしい。

 ノラは拳を握り固めながら宣言する。


「『餓狼咆哮拳(がろうほうこうけん)』を、使わざるをえない……!」


 すると、木箱の上にいたペコが慌てて飛び降り、ノラにすがりついた。


「ダメね、ノラ兄様! もう、勝負はついたね! それに、防具を着けてない剣士相手に餓狼咆哮拳なんて使ったら、死んでしまうね!」


 しかしすっかり頭に血が上っているノラは聞く耳を持たない。

「うるさいっ!」とペコを平手でぶって払いのけていた。

 さすがにその仕打ちには、俺もカチンとくる。


「おい、テメェ! 妹に手を上げるだなんて、それでも兄貴かよっ!?」


「うるさいっ! 拳士の世界は、技こそがすべて! この俺を止めたければ、受けてみよっ!」


 ダッ! と地を蹴るノラ。

 俺が構えを取るより早く、ヤツは俺の懐に潜り込んでくる。


 それはわずか一瞬で、魔術を併用した俺のダッシュと遜色ない速さだった。

 今度は俺が、虚を突かれる番となる。


「なっ!?」


 ノラは俺の胸めがけ、両の手のひらを使った掌底を放つ。

 それはさながら、飢えた狼が大きく口を開き、獲物に食らいつく瞬間のようだった。


「……餓狼っ! 咆哮拳ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」


 ……ドッ!


 砲弾がブチ込まれたような衝撃が、みぞおちを襲う。


「ぐっ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 気づくと俺は真後ろにブッ飛ばされ、ガラクタの山に突っ込んでいた。


「はぁ、はぁ、はぁ……! これで望み通り、貴様はランクから外れた……!」


 肩で荒く息をするノラは、どうだ、といわんばかりだった。


「もっとも、剣士としてもランク外となってしまったようだな……! この餓狼咆哮拳をまともに受けた人間は、二度と戦えぬ身体となるのだ……!」


「でゅ……デュランダル兄様! にいさまーっ!」


 泣きながら俺に駆け寄ろうとするペコの肩を、ノラは掴んで押えていた。


「あの男を、兄様と呼ぶなと言っただろう! それのあの男はもう、去勢された野良犬同然だ! この『ファイティング・ストリート』に踏み込んだことを、一生後悔する人生を送るのだ!」


 ノラは、わぁわぁ泣くペコの胸倉を掴み、頬をピシャリと打ち据える。

 その瞬間、


 ……ドォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 まるで爆発が起きたかのように、ガラクタが吹っ飛んだ。


「一度ならず、二度までも……! テメェだけは、許さねぇっ……!」


「な……なにっ……!? 餓狼咆哮拳を受けて立ち上がった人間など、ひとりも……! ぐはあっ!?」


 俺はヤツに瞬きも許さず、首根っこを掴んでいた。

 そしてヤツの頬を、音高く打った。


 ……スパァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 ノラの顔が「ぐはっ!?」とのけぞる。

 しかし、この一発だけじゃすまさない。


 ……スパァン! スパァン! スパァン! スパァン! スパァン!


「うっ!? ぐっ!? ううっ!? うがっ!?」


 ノラの顔が左右にぶれるたびに、赤く腫れあがっていく。

 しかし、この四発や五発だけじゃすまさない。


「……筐裡の第一節を(セレヴォファース) ・ 奔出せよ(ディステア) ・ 裡門より(ドロワ)っ!」


 包丁やノコギリを高速で動かしたときの術式を、手にかけた。

 俺の右手が光ってうなる。


 ……ドババババババババババババァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


「ふっ……ふぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?!?」


 秒間数十発の往復ビンタが炸裂し、ヤツの顔が高速回転でブン回されたようになる。

 成長するリンゴを早回しで見ているかのように、みるみるうちにヤツの顔が膨れ上がっていく。


 俺は我をわすれて叫んでいた。


「……誓え! 二度と、ペコには手を上げねぇって! でなければテメーを、ここ()ち殺すっ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 世捨て人ではなく、心を持つこと。 [気になる点] まあ、盗賊ランキングに載せられても嬉しくないし……。 [一言] 闘気とかはわからんけど、魔法拳士では無さそう。
[気になる点] ランキングに興味ないとかナチュラルに馬鹿にしたらそりゃブチ切れられんべ。 そういうところっすよ
2022/05/26 20:07 退会済み
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