25 すべてお見通し
25 すべてお見通し
世界が大騒ぎしているとも知らず、俺は軽やかな足取りで塔の階段を駆け上がっていた。
劇場とかにありそうな大きな石階段は貸し切りで、まわりには誰もいない。
最後の一段を「一番乗り……っと!」とジャンプして飛び越える。
階段の頂上、目の前には壁一面に描かれた魔法陣があった。
「これに触ればいいんだよな」
手のひらをパーにして壁にペタッと付けてみると、まわりにさざ波のような小さな光がおこる。
たぶんこれで、俺は1階を踏破したとみなされたはずだ。
「よーし、この調子で、ガンガン上に登っていくぞ!」
俺は成績とか名誉とかはどうでもよかったが、この塔にあるものには非常に興味があった。
なぜならばこの『白き塔』は魔術の発祥の地と言われているから。
いまこの世にある魔導装置の大半は、この塔で見つかって研究され、量産されたものがほとんどだそうだ。
この塔を登っていけば、原初魔法をもっと極めることができるかもしれない。
芸術品のような美しさの魔法陣を見つめていると、本当にそんな気がしてきた。
ふと魔法陣の片隅に、小さな文字が彫り込まれているのを見つける。
それは『星霜、其は時をさかのぼるものなり』と読めた。
「これ……なんだろうな……?」
考えてもよくわからなかったので、気を取り直して2階のエントランスに向かってみると、人だかりに迎えられる。
みんな俺を見るなり、「あちゃー!」と顔を押えていた。
「なんだよ!? コウモリ野郎じゃねぇか!」
「いちばん最初に2階に来るのは、ザガロ様とアイスクリン様だと思ってたのによぉ!」
「なんであんなゴミみたいなヤツが!?」
「きっとインチキしたに決まってるだろ! 無効だ無効! やってられるか!」
彼らはみな上級生で、新入生で誰がいちばん最初に2階に来るか賭けていたらしい。
まるで招かれざる客人が来て、パーティがメチャクチャにされたみたいな雰囲気になっている。
上級生たちは賭け札を俺に投げつけながら解散していった。
賭けが成立しなくなったせいか、エントランスはすぐに日常であろう光景を取り戻す。
エントランスはどの階も中継地点を兼ねているようで、商人系の上級生たちが露店を開いている。
戦闘系の上級生が、2階で狩ったモンスターの素材を取引していたり、装備の修繕を頼んだりしていた。
1階のときは準備しているところしか見られなかったけど、実際に客がいると活気があって面白いな。
せっかくだからと、俺はいろんな店を見てまわることにする。
露店は無作為に展開されているようにみえて、扱っているものでちゃんと区画が分けられていた。
武器屋通り、道具屋通り、休憩所通り……。
俺は一文ナシなのでなにも買えないんだが、いいものを見つけたら、いつか金を貯めて……。
なんて思いながら歩いているうちに、占い屋通りに入った。
占い屋というのは魔術師の生徒たちが運営していて、主に塔の探索においての吉方を占うのに使われるらしい。
剣士たちは魔術を嫌っているが占いだけは別なようで、占ってもらっている剣士たちの姿がちらほらある。
俺は占いの類いは信じないので、引き返して別の通りに行こうとしたのだが、遠くのほうに見覚えのある顔を見つけた。
メガネに三つ編みの女生徒……グラシアだ。
彼女は3人組の剣士たちを、水晶球で占っている。
剣士たちがコワモテのせいか、グラシアは怯えているようだった。
「今日……このままだと……あなた方は……地獄に堕ちます……。
屈辱的な……敗北を喫し……それを……大勢の人たちに……見られ……恥を晒すことに……。
で……でも……この護符があれば……助かると……思い……ます……」
蚊の鳴くような声で、護符を売りつけようとするグラシア。
……すげぇ占いだな。なんて思っていると、
「ふざけんじゃねぇぞっ! この女!」
「人が下手に出てりゃ、好き勝手言いやがって! このインチキ占い師が!」
「かまわねぇ、こんな店、ブッ壊しちまえっ!」
剣士たちはかなり沸点が低く、さっそく暴れだそうとしていた。
俺は助けに行こうとしたが、それより早く、剣士たちが振りかざした拳を掴む者が。
「ったく、メガネブスが……だからやめとけって言ったんだよ」
両目をきつく閉じていたグラシアが、おそるおそる目を開けて言った。
「ろ……ロック……さん……?」
ロックと呼ばれていたのは、この前、図書館の廊下でグラシアをからかっていた上級生たちのひとり。
着崩したローブにリーゼントという、いかにもワルぶったリーダー格の男だった。
ロックは剣士たちに向かって鼻を鳴らす。
「ふん、こんなメガネブスを殴ったら拳が汚れちまうぞ。だから今日のところは……」
言葉の途中で、目の前にいた剣士のパンチがロックの頬にめりこんだ。
「ぐはっ!?」とよろめくロック。
「それじゃあ今日のところは、テメェをボコボコにするとするかぁ!」
ロックは「くそっ!」と懐から杖を取り出す。
しかし詠唱より早く、杖を蹴り飛ばされていた。
「へなちょこ魔術師の行動パターンくらい、こっちはお見通しだ!」
「弱ぇくせにイキがりやがって、前から気に入らなかったんだよ!」
「さぁて、二度と見られない顔にしてやろうかぁ!」
「へっ……! 杖が無くたって、テメェらなんかに負けるかよっ!」
ロックは拳闘のようなポーズを取り、剣士たちに向かっていく。
そのパンチは悪くはなかったが、通用するのは魔術師までだろう。
頬にめりこませても、目の前の剣士はびくともしなかった。
「なんだぁ? その女みてぇなパンチは……? 蚊が止まったかと思ったぜぇ!」
3人がかりで袋叩きにされたあと、トドメの前蹴りで吹っ飛ばされてしまうロック。
待ち構えていた俺は、その身体を受け止める。
ロックは俺の腕のなかで、「お……お前は……!?」とアザだらけの顔を歪ませていた。
俺はニッと片笑みを返す。
「お前、ただのチンピラかと思ってたけど、なかなか根性あるじゃねぇか。
ここまでやれたらじゅうぶんだぜ、あとは俺に任せろ」
「な……なにを言って……!?」
フラフラになっているロックを他の生徒に預け、俺は剣士たちの元へと向かう。
剣士トリオはさっそく、ガラの悪そうな視線を向けてきた。
「テメェは……コウモリ野郎じゃねぇか。なんだぁ、その顔は?」
「やろうってのか、ああん? どうやら成績だけじゃなくて、先輩に対する礼儀も落ちこぼれみてぇだな」
「ここはひとつ、空気を読めねぇ新入生に、きつーいお仕置きをしてやるかぁ……!」
俺は振り下ろされたパンチを軽くかわしつつ、カウンターの膝蹴りを入れる。
「ぐふっ!?」と目を剥いて崩れ落ちる、剣士A。
「ふ……ふざけやがってぇ! どうせテメェも、蚊が止まるようなへなちょこパンチ……はぎゃあっ!?」
リクエストに応え、パンチを頬にくれてやる。
ひしゃげた顔で吹っ飛んでいく、剣士B。
「てっ……てめぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」
剣士Cは腰の剣を抜こうとしていたが、俺はすでに懐に潜り込んでいて、その手首を掴んでいた。
「ぐっ……ぎぎぎぎっ……!」
剣士Cは歯を食いしばり、力任せに抜刀しようとするが、びくともしていない。
そりゃそうだ。俺はこんなのよりずっとヤバい兄弟たちと、毎日のように命のやりとりをしていたんだから。
だから……。
「へなちょこ剣士の行動パターンくらい、こっちはお見通しだ」
頭突きと同時に手首を離してやると、剣士Cは鼻血を吹き出しながら、真後ろにブッ倒れた。
今日は特別に2話更新とさせていただきました!
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