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ラブソングス

伯爵令息様、今更実は好きだったと言われても、もう遅いのです

作者: 間咲正樹
掲載日:2026/01/16

「デイヴィッド様!」

「……ん?」


 王立貴族学園のとある昼休み。

 お一人で廊下を歩かれていた伯爵令息のデイヴィッド様に、私は後ろから声を掛けた。


「……何だ? 俺に何か用か?」


 ダルそうに振り返られたデイヴィッド様は、今日も氷のように冷たい瞳で私を見下ろしていらっしゃる。

 ――嗚呼、でも、その冷たいお顔も素敵!


「あ、はい! あの! ク、クッキーを作ってみたのですが、よろしければ受け取ってはいただけないでしょうか!?」

「クッキー……?」


 私は震える手で、透明な袋に包んだクッキーを差し出す。


「……」


 デイヴィッド様は無言でクッキーを掴まれると、暫くそれをじっと見つめられていたが――。


「何だこの歪なクッキーは。食えるかこんなもの」

「――!?」


 クッキーの袋を、床に投げ捨ててしまったのだった。

 その拍子に袋が破れ、クッキーが床に散乱する。

 嗚呼ッ!?


「あ、ああぁ……!」


 慌ててクッキーを拾い集める私。


「……フン」


 デイヴィッド様はそんな私を鼻で笑うと、そのままスタスタとどこかへ行ってしまわれたのだった。

 うぅ……、クッキー作戦も失敗だったわね……。

 やっぱり私、デイヴィッド様に嫌われてるのかしら……。




 ――あれは今から、一ヶ月ほど前のことだった。

 私が放課後に一人で、校舎裏を歩いていると――。


「やあそこの君、なかなか可愛いね」

「――!」


 如何にも軽薄そうな顔をした、一人の男子生徒が声を掛けてきた。

 この人は……、女遊びが激しいことで有名な、子爵令息……。


「……私に何か御用でしょうか?」

「オイオイ、そんな警戒すんなって。君だって貴族学園(ここ)に、婚約者を探しにきてるんだろ? 君さえよければ、僕が婚約者になってあげないこともないよ」


 子爵令息は口端をいやらしく吊り上げながら、こちらににじり寄って来る。

 ……そう、確かにこの貴族学園は、貴族の家に生まれた人間が、未来の伴侶を探す場でもある。

 昔は貴族といえば政略結婚が相場だったけれど、昨今はある程度当人たちの気持ちも重んじられるようになり、その社交場として、この王立貴族学園が設立されたのだ。

 ……でも。


「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

「なっ!?」


 私は子爵令息に軽く頭を下げると、彼の横を通り過ぎようとした。

 こんな明らかに結婚したら不幸になる未来しか見えない人を、とても婚約者に選ぶ気にはなれない。

 私は結婚するなら、ちゃんとお互いの気持ちが通じ合った人としたいのだ――。


「クッ!? あんま調子に乗るなよ、このアマがぁ!!」

「キャッ!?」


 その時だった。

 子爵令息に思い切り腕を掴まれて、壁に押し付けられた。


「い、痛いッ! 放してくださいッ!」

「ガタガタうるせぇな。この僕の女にしてやるって言ってるんだから、素直になれよ。へへっ」


 子爵令息が嗜虐的な笑みを浮かべながら、その悪魔みたいな顔を寄せてくる。

 い、嫌……!

 誰か……!

 誰か助けて……!!


「何をしてるんだ、お前」

「ぶべらっ!?」

「っ!!?」


 その時だった。

 誰かが子爵令息の顔を横から思い切り殴り、子爵令息は錐揉み回転しながら吹っ飛んでいった。

 なっ!!?


「い、痛ぇな!? 何しやがんだッ!! …………あっ、デイヴィッド様」


 起き上がった子爵令息の顔が、真っ青に染まった。

 そこにいたのは名門伯爵家の令息である、デイヴィッド様だったのだ。


「お前は前々から問題行動が目立っていたな。この件は俺から学園長に報告しておく。――精々覚悟しておくんだな」

「あ……うぅ……うわあああああああ!!!!」


 子爵令息は頭を抱えながら、その場に(くずお)れた。

 これで多分、この人は退学処分ね……。

 自業自得とはいえ、哀れだわ……。


「た、助けていただき、ありがとうございました!」


 私はデイヴィッド様に、深く頭を下げた。


「……たまたま見掛けただけだ。次はないと思えよ。お前も貴族令嬢なら、自分の身は自分で守れ」

「あ、はい! 今後は気を付けます!」

「……フン」


 デイヴィッド様は素っ気なく背を向けると、そのままスタスタと行ってしまわれた。

 ――この瞬間、私の胸がこれでもかとときめいた。

 嗚呼、何て素敵なお方なのかしら――!

 将来結婚するなら、あのお方以外考えられない――!


 ――こうしてこの日から私の、デイヴィッド様への猛烈なアプローチが始まったのである。




「ハァ……」


 とはいえ、今日のこのクッキー作戦も失敗に終わってしまった。

 私は床に落ちたクッキーを一つ一つ拾い上げながら、溜め息を零す。

 ううん、まだ諦めるのは早いわよ、私!

 クッキーがダメなら、また次の手を考えればいいだけだもの!


「おやおや、これは勿体ない。デイヴィッドがいらないなら、僕がもらうね」

「っ!?」


 その時だった。

 一人の男子生徒が、床に落ちているクッキーの一つを拾い上げると、それを自分の口に入れてしまった。

 嗚呼――!?


「トリスタン様! ダメですそんなものを食べられては! 不衛生ですよ!」


 そこにいたのは筆頭侯爵家の令息である、トリスタン様だった。

 今日もサラサラの金髪と、神様が彫ったのではないかと錯覚するほどの、芸術的なご尊顔が光り輝いていらっしゃる。


「大丈夫だよ、3秒ルールってやつさ。それに、せっかくのシェリーが作ったクッキーなんだから、たとえ泥水にまみれてたとしても、僕は食べるよ」

「……トリスタン様」


 トリスタン様は今日もニコッと、ヒマワリみたいな笑みを私に向けてくださる――。


「……な、なんでいつも、そんなに私に優しくしてくださるのですか?」

「フフ、そんなの決まってるじゃないか。――僕が君を好きだからだよ」

「――!!?」


 途端、いつになく真剣なお顔をしながら、とんでもない爆弾発言をしたトリスタン様。


「な、なななななな!?!? 変なご冗談はおやめください!? 心臓に悪いですッ!」

「冗談なんかじゃないよ。――僕はずっと前から、君のことが好きだったんだ、シェリー」

「ト、トリスタン様……」


 トリスタン様の私を見つめる瞳は、火傷しそうなくらい、熱く燃えている。


「僕がこの学園に転校して間もない頃、なまじ身分が高かったばかりにクラスで遠巻きにされていた僕に、唯一普通に接してくれたのが、君だったじゃないか、シェリー」

「……あ」


 初めてトリスタン様に声を掛けた時の記憶が、私の頭に蘇る。

 教室の隅で、一人ポツンと窓の外を眺めてらっしゃるトリスタン様が、私はどうしても放っておけなかったのだ。


「君のお陰で、僕の心は救われたんだ。だから僕は――将来結婚するなら君しかいないと思っている」

「けっ!?」


 結婚!?

 私がトリスタン様と、けけけけけ結婚!?


「……どうかな? 僕の婚約者になってくれないかな、シェリー?」


 トリスタン様が雨に濡れた子犬みたいなうるうるした瞳で、私を見つめてくる。

 あわわわわわ……!?

 ――くっ!


「……も、申し訳ございません」

「――!」


 私は震えながら、トリスタン様に頭を下げる。


「トリスタン様のお気持ちは、本当に嬉しいです。で、でも私には――好きな人がいるんです……。ですから、トリスタン様のお気持ちには応えられません……!」

「……フフ、その君の好きな相手というのは、デイヴィッドのことだよね?」

「……っ!?」


 ト、トリスタン様!?


「あ、そりゃバレバレですよね……」


 あんなにしょっちゅう露骨なアプローチをしてれば……。


「うん、バレバレだね。でもありがとう、ちゃんと言ってくれて」


 トリスタン様のお顔は、春の青空みたいに晴れ晴れとされている。

 トリスタン様……。


「そういうことなら、()()()()()()()退散するよ」

「…………え?」


 今日のところ、は……?


「まだ僕はシェリーのことを諦めたわけじゃないからね。今後もガンガンアプローチしていくから、覚悟しておいてね」

「っ!? トリスタン様!?」

「あっ、このクッキーはもらっていくね。じゃあね」

「トリスタン様ッ!」


 トリスタン様は素早くクッキーを一つ残らず拾い上げると、そのままスタスタとどこかへ行ってしまわれた。

 ……トリスタン様。




「……よし!」


 あれから一週間。

 私はここ数日、夜もろくに寝ずに、とあるものを用意した。

 それは私が自分で刺繡を施した、一枚のハンカチだった。

 もちろんデイヴィッド様へのプレゼント用だ。

 クッキーがダメなら刺繡!

 我ながら単純な作戦だとは思うけれど、何もやらないよりは百倍マシよ!

 刺繡なんて初めてしたから、ほぼ全ての指が自分で刺した針でズタズタになってしまったけれど、何とか形にはなった。

 デイヴィッド様には孤高な大鷲のイメージがあるから、鷲の刺繡をしてみた。

 これならデイヴィッド様も、受け取ってくださるかもしれないわ!

 私は軽く息を吐いて覚悟を決めると、例によって昼休みにお一人で廊下を歩かれていたデイヴィッド様に、後ろから声を掛けた。


「デイヴィッド様!」

「……ん? 何だ、またお前か」


 ダルそうに振り返られたデイヴィッド様の瞳は、今日も氷のように冷たい。

 ――嗚呼、でも、そんなところも好き!


「あ、はい! あの! 今日はデイヴィッド様をイメージして、ハンカチに刺繡をしてみたのです! よろしければ受け取ってはいただけないでしょうか!?」


 私は震える手で、デイヴィッド様にハンカチを差し出す。


「刺繡……?」


 デイヴィッド様は訝しげなお顔でハンカチを掴むと、刺繡の部分をじっと見つめられた。

 訝しげなお顔のデイヴィッド様も素敵!


「……何だこのミミズみたいなものは」

「っ!?」


 ミミズ!?


「いや、ミミズではなく、鷲のつもりだったのですが……」

「鷲? いや、どう見てもミミズだろう、これは。こんなダサいものいらん」

「あっ!?」


 デイヴィッド様はハンカチを床に投げ捨ててしまった。


「う、うぅ……」


 奥歯を嚙みしめながら、そっとハンカチを拾い上げる私。


「……フン」


 デイヴィッド様はそんな私を鼻で笑うと、そのままスタスタとどこかへ行ってしまわれたのだった。

 ……ハァ、ハンカチ作戦も失敗かぁ。

 まあ、ダメだったものは仕方ないわよね!

 また次の作戦を考えればいいだけの話よ!


「……あ、あれ?」


 その時だった。

 私の頬を、冷たいものが伝う感覚がした。

 ふと手を触れると、それは私の涙だった。

 わ、私、泣いてる……?


「……シェリー」

「――!!」


 そんな私の涙を、誰かがハンカチで拭いてくださった。

 ――それは他でもない、トリスタン様だった。

 いつもは常に朗らかな笑顔を浮かべてらっしゃるトリスタン様が、今日は真冬の曇り空みたいな、悲しそうなお顔をされている。


「あ、ありがとうございます。いやあ、目にゴミでも入っちゃったんですかね。あはははは」

「……シェリー、そんなに無理しなくていいんだよ。辛い時は、泣いたっていいんだ」

「――!」


 ト、トリスタン様……!!


「う、うぐ、うわあああああああああああ」


 私はトリスタン様の差し出してくださったハンカチに顔を埋めると、声を押し殺して泣いた。

 トリスタン様はそんな私のことを、いつまでも無言で見守っていてくださった。




「……落ち着いたかい?」

「あ、はい。お見苦しいものをお見せしました……」


 やっと涙が収まったと思ったら、今度はとんでもない羞恥心が襲ってきた。

 わ、私、トリスタン様の前で、あんなに子どもみたいにワンワン泣いちゃった……!

 は、恥ずかしいいいいい!!


「あ、すいませんでしたこのハンカチ、汚しちゃって! ちゃんと洗ってお返しいたしますので!」

「フフ、いいよ、そのハンカチはシェリーにあげる。――その代わり、このハンカチをもらってもいいかな?」

「っ!?」


 トリスタン様は私が刺繡を施したハンカチを、ヒョイと私から取った。

 なっ!?


「ダ、ダメです! こんな高級そうなハンカチとそんな安物では、とても釣り合いが取れません!」


 多分このハンカチは、平民の月収相当の値段がするものと思われる……!

 その辺の市場で買った私のハンカチとは、あまりにも価値が違いすぎる……!


「いいや、むしろシェリーがそんなに指をボロボロにしてまで刺繡してくれたこのハンカチは、僕にとっては国宝よりも価値のあるものだよ」

「ト、トリスタン様……!」


 トリスタン様は私の包帯だらけの指をそっと撫でられながら、いつものヒマワリみたいな笑みを向けてくださった――。

 嗚呼――!


「じゃあね、シェリー」

「あ、はい……」


 トリスタン様は私のハンカチを宝物みたいに抱えながら、颯爽と去って行かれた。

 私はそんなトリスタン様の背中を、無言でじっと見つめていた――。




 ――そして遂に迎えた、貴族学園の卒業式当日。

 今日で私たちも、この学園を去ることになる。

 ――つまり私がデイヴィッド様と会えるのも、今日が最後なのだ。

 卒業式自体はつつがなく終わり、現在私たち卒業生は謝恩会の会場で、終わってみればあっという間だった学園生活に思いを馳せていた。


「……デイヴィッド様」

「……ん? 何だ?」


 そんな中私は、壁際にお一人で佇まれていたデイヴィッド様の前に立った。

 そして――。


「どうかこれを、受け取ってはいただけないでしょうか?」

「……!」


 私はデイヴィッド様に、一通の手紙を差し出した。


「……これは」


 デイヴィッド様は困惑の色を浮かべながらも、私の手から手紙を取り、それをじっと見つめられている。


「失礼いたします」

「っ!? オイ!?」


 私はデイヴィッド様に軽く頭を下げると、そのまま謝恩会の会場から抜け出し、とある場所へと向かった――。




「……ふぅ」


 そして私がやって来たのは、校舎裏にある一本の桜の木の下。

 まだ桜は咲いておらず、無数の小さな蕾たちが、今か今かと春の訪れを待ち望んでいる。

 ――この学園には、卒業式の日にこの桜の木の下でプロポーズをした男女は、幸せな家庭を築けるというジンクスがあるのだ。

 だからこそ私はこのジンクスを頼りに、最後の賭けに出た。

 ――私は先ほどデイヴィッド様にお渡しした手紙に、私がどれだけデイヴィッド様をお慕いしているかを赤裸々に綴り、最後に私のプロポーズを受けてくださるなら、校舎裏の桜まで来てほしいといった旨を記した。

 後はここでデイヴィッド様が来てくださるのを信じて、ひたすら待つだけよ――。




「………………ハァ」


 だが、そろそろ陽も落ちようかという時間になっても、デイヴィッド様のお姿は見える気配すらなかった。

 ……うん、まあ、半ばわかっていたことよ。

 今日までのデイヴィッド様の私に対する態度を見ていたら、とても私の気持ちが通じていたとは思えないもの……。

 ――でも、これでやっと、私はデイヴィッド様のことを諦められる。

 ――さようなら、デイヴィッド様。


「――シェリー」

「――! ……トリスタン様」


 その時だった。

 いつものヒマワリのような笑みを浮かべながら、トリスタン様がどこからともなく現れた。


「……デイヴィッドは、来なかったんだね?」

「……! 何故トリスタン様が、デイヴィッド様のことを……?」

「……君がデイヴィッドに手紙を渡した後、会場から出て行くのが見えたからね。ロマンチストな君のことだ、この桜の木のジンクスに賭けて、デイヴィッドをここに呼び出したんじゃないかと思っただけだよ」


 ……トリスタン様。


「ふふ、トリスタン様には、何でもお見通しなのですね」

「ああ、何せ僕は――ずっと君のことだけを見てきたからね」

「――!」


 トリスタン様の瞳は、初めて私に愛の告白をしてくださったあの日と同じく、熱く燃えていた。


「シェリー、改めて言うよ――僕は君が好きだ」

「ト、トリスタン様……」

「君のことだけが好きだ。僕は君とだったら、きっと幸せな家庭が築けると思っている。――だからどうか僕と、結婚してくれないかな?」


 嗚呼――。

 私の視界が、水の膜で歪む。


「ほ、本当に、私なんかでよろしいのですか?」

「ああ、君でなくちゃダメなんだ、シェリー」


 ――この瞬間、私の中で何かが弾けた。


「――トリスタン様!」


 私はトリスタン様の胸に飛び込んだ。


「――愛しているよ、シェリー」


 トリスタン様はそんな私を、そっと優しく抱きしめてくださったのだった――。

 私はトリスタン様の胸の中で、いつまでもワンワンと子どものように泣いた――。




「新郎トリスタンは、ここにいるシェリーを病める時も健やかなる時も妻として愛し、生涯を共に過ごすことを誓いますか?」

「はい、誓います」


 あれから半年。

 今日で遂に私は、トリスタン様と正式に夫婦になる。


「新婦シェリーは、ここにいるトリスタンを病める時も健やかなる時も夫として愛し、生涯を共に過ごすことを誓いますか?」

「はい……誓います」


 私はこの半年のトリスタン様との婚約者生活を嚙みしめながら、誓いの言葉を吐いた。


「それでは、誓いのキスを」


 私とトリスタン様は互いに向き合う。

 トリスタン様はおもむろに私のベールを上げると、その天使のようなご尊顔をこちらに寄せられる。

 そっと目を閉じる私。

 ――その時。


「愛してるよ、シェリー」

「――!」


 私にだけ聞こえるようにボソッと、トリスタン様がそう囁いたのだった。

 ええ、私も愛しておりますわ、トリスタン様――。

 ――生まれて初めてしたキスは、甘い幸せの味がした。




「おめでとー!」

「おめでとー、二人ともー!」

「お幸せにー!」


 教会から出た私とトリスタン様を、来賓の方々が万雷の拍手で祝福してくださった。

 中には貴族学園時代の同級生の姿もあり、思わず笑みが零れる。


「シェ、シェリー……!!」

「「「――!!」」」


 その時だった。

 この場では()()()()()()()()()()の声が、私の鼓膜を震わせた。

 こ、この声は――!


「……デイヴィッド様」


 そこにいたのは全身汗だくで青い顔をされている、デイヴィッド様だった。

 な、何故デイヴィッド様がここに……!?

 あんなことがあった以上、デイヴィッド様には招待状は出していなかったのに……。


「どういうことだよ、これは!?」

「…………は?」


 どういうこと、とは……?


「お前は俺のことが好きだったんじゃないのかよッ! それなのに、なんでトリスタン様と結婚してるんだッ!? おかしいじゃねえかッ!」


 んんんん!?!?

 何を仰ってるのですか、デイヴィッド様??

 それはもう、昔の話でしょう??


「お、俺もずっと……お前のことが……、す、好きだったんだぞ、シェリーッ!」

「「「――!!?」」」


 なっ!!?

 そんなバカな……!!?


「お前をあの子爵令息から助けた時だって、本当は偶然なんかじゃなく、遠くからお前を見てたから、すぐ気付けたんだ!」


 そ、そうだったのですか……。


「でも、私がクッキーやハンカチをプレゼントしても、受け取ってくださらなかったじゃないですか……」

「いや!? あれは、その……、お、お前を目の前にしたら恥ずかしくなって、素っ気ない態度を取っちまっただけだよ!」


 ……えぇ。


「じゃあ、卒業式の日、桜の木に来てくださらなかったのは……?」

「あ、あれも……!? まさかあんな風に告白されるとは思ってなかったからテンパっちまって……!! あたふたしてる内に、気が付いたら日が暮れてたんだ!」


 そ、そんな……。


「でも、勇気を出して桜の木まで行ったら、もうお前はいなくなってたし、仕方なくあの日は帰ったんだ。あれ以来、俺はずっとお前がまた告白してくるのを毎日待ってたんだぞ! そしたら今日になって、トリスタン様と結婚式を挙げるって噂を耳にして……! 俺がどれだけショックだったか、お前にわかるかッ!?」

「いや、今更何を言っているんだい?」

「っ!?」


 その時だった。

 いつもは常に朗らかな笑みを浮かべてらっしゃるトリスタン様が、この時ばかりは氷のように冷たい目をしながら、デイヴィッド様の前に立たれた。

 トリスタン様……!


「君の愚かな行いが、どれだけシェリーを傷付けていたと思ってるんだ? 本当にシェリーが好きなら、もっと早くシェリーの気持ちに応えてあげればよかったじゃないか」

「あ、うぅ……あぁ……」


 トリスタン様からのぐうの音も出ない正論に、デイヴィッド様は陸に上げられた魚みたいに、口をパクパクさせている。


「……デイヴィッド様」

「っ! シェリー……!」


 今度は私が、デイヴィッド様の前に立った。

 以前は優雅に空を飛ぶ大鷲のようだったデイヴィッド様が、今は迷子の雛鳥のように見える。


「……ごめんなさい。今の私が愛しているのは、()()()()()()なのです」

「あ……! うぐ……! ぐ……! ああああああああああああああああああああああああああ」


 デイヴィッド様は頭を抱えながら、その場に(くずお)れた。

 ……今度こそ本当にさようなら、デイヴィッド様。


「さあ、参りましょう、トリスタン様」

「ああ」


 私はトリスタン様と手を取り合いながら、デイヴィッド様の横を通り過ぎた。


 ――背中からはいつまでも、デイヴィッド様の慟哭が響いていた。



拙作、『12歳の侯爵令息からプロポーズされたので、諦めさせるために到底達成できない条件を3つも出したら、6年後全部達成してきた!?』がcomic スピラ様より2025年10月16日に発売された『一途に溺愛されて、幸せを掴み取ってみせますわ!異世界アンソロジーコミック 11巻』に収録されています。

よろしければそちらもご高覧ください。⬇⬇(ページ下部のバナーから作品にとべます)

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― 新着の感想 ―
デイヴィッド君よ…… ちょっとばかり素直になるのが遅かったな。 いや、取り繕うのがうますぎたというべきなのか…… 「そっ、そんなものっ、いっ、いら、いらないんだからねっ///」とでもなっていればハッピ…
うわぁ。 息子が残した一欠片を捨てるのはもったいないかとヒョイパクしたら、 それ大事にとってたのー!と泣きながら走ってきたのを思い出したょ。 次はナイ!キリッ
もはや馬鹿すぎて怖い………
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