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81話



「全ての国へ裏組織及び竜の同時侵攻が確認されました!! また、戦況は芳しくありません……報告によるとメシア王国では八刃のうち三人が既に殺害されたとのーー」


ガタンッ



 城門の内部である広間で報告を聞いていたエックハルトは苛立ちを露わに立ち上がる。八刃の半数近くが死亡という未曾有の事態に焦燥感が湧き上がる。


「メシアの戦況はどうなった!? あそこにはレグルス達がいるんだぞ!」


 エックハルトの剣幕に押されながらも兵士は簡潔に事実を述べていく。


「はっ、報告時点では無事だとの事です。それと、情報の真偽は不明ですが死神ハローグッバイが助成したとあります」

「な、何が起きている。いや……一先ずは持ちこたえたか……」


 死神の行動には疑問符が上がるが助成とあるならば後回しとした王。それよりも八刃の存在は各国でも有名である。対人戦技を極めた集団の中でトップに君臨する存在。


「すまない、取り乱してしまった」


 そんな者達が早々に退場するという異常事態に戦いの鍵であるレグルスがいたのだ。無事だという報を聞き平静さを失っていたエックハルトであったが落ち着いた様子を見せた。


「失礼します!」


 だが、エックハルトの気は休まらない。続けざまに駆け込んでくる伝令兵に再び場に緊張感が漂う。


「伝令 王都に攻め寄せる竜の対処は滞りなく騎士団で対応できております。また名無しの構成員が王都内にて騎士団と交戦中ですが、騎士団長及び幹部騎士により被害は軽微です」

「次から次へと裏組織の規模はどうなっておる」

「全世界に潜んでいた裏組織が活動を開始したのかと思われます」

「被害を考えて大規模にせなんだが、本腰を入れて掃討しておくべきだつまたか……」


 名無しを含めた裏組織は守るものもなく、市民に紛れて潜んでいる。そんな彼らと大規模な戦闘を行えば被害を被るのは市民や領地であり、巡りに巡って国にまで被害を及ぼすものだ。


「厄介な事を――」


 ドオオォン


「次は何事だ!?」


 エックハルトが声を上げたと同時に城門から嫌な音が耳に響き渡った。煙が上がるそこは西門でありガルツ・ファラミアが守る場所である。騎士団長が詰める西門にもまた敵が迫っている証拠である。



◆◇◆◇◆



「名無しの構成員程度でこの門を抜けると思っているのか? いや、本命はまだか……」


 その巨軀に似合う声で呟いたガルツは事もなげに城門に飛びかかっていた名無しを三人まとめて切り刻んでいた。


 同じ地の属性竜の系譜とはいえハーローとは違った能力を持つ竜姫ナタリー。地表に存在する一定数の砂を操り極小の刃で斬りつける。全方位に舞う砂刃がガルツの周りを高速回転している。名無し達は飛び込む事も出来ずただ狩られていた。


 だが、構成員が最大とも呼ばれる名無しはとにかく数が多い。流石に一国に匹敵する程の人数はないが、その分を竜が分散させていた。


 血が舞う戦場において淀みなく足を進めるガルツ。怒号と剣戟が響き渡る王都を見てガルツは冷静に判断を下した。脇を固めていた隊長2人に指示を出す。


「サリハン、キエン。お前達は王都西方の陣頭指揮を取ってこい」

「「はっ!」」


 各隊長が下された命令を迅速に対応するべく動き出そうとしたその時、空間が歪んだ。暗闇が出現し、虚空に口を開けるが如くその歪みはさらに大きくなっていく。


「これは?」


 見上げたガルツに向けて空から突風が吹きつける。砂刃を間に挟むことで突風を散らしたガルツは張本人をにらみつける。


「何者だ?」


 そして、現れたのはローブを着た男と


「さっさと終わらせるわよ、クレスト」

「承知しましたよ、カレン様」


 真紅の髪を結った吊り目の少女と痩せこけた風貌の男。少女と痩せた男というのはこの戦場には似つかわしくない。


 クレストの姿は貧弱そうではあるが、決定的に人間と違う部分があった。それは、彼が空中に浮いたままだと言うことと、翼を持っているということだ。


 ガルツの行動は早かった。


「サリハンはここに残れ。キエンは北門と南門に救援を呼びに行け! 爆砂壁刃」


 キエンが走るよりも早くガルツは防御壁を展開した。砂刃が寄り集まり密度を上げていくと壁が蠢くようにしてカレン達の前を遮った。


「団長、サリハン……お気を付けて」


 キエンは神妙な面持ちで頭を下げると持てる全力を走る事にリソースを分けて駆け出した。


「サリハン、恐らく報告があった冥府と化け物のような少女だ。時間を持たせるぞ」

「はっ!」


 だがガルツは勘違いをしていた。時間を持たせることが彼が思うよりも遥かに難易度が高かったのだと。


 騎士団のトップとはいえ、相手は八刃を三人相手にして勝利を収める冥府の仲間。何よりカレンは竜王の半身でもあるのだ。


「うっざいわねぇ」


 唐突に金切り声が壁越しに聞こえてくる。ガルツが誇る絶対防御を前に足踏みをしているとサリハンが笑みを浮かべたが、すぐにその笑みの質が変化した。


「う、うそだろ……」


 砂刃の壁が赤熱しドロドロと崩れ落ちていく。すぐに再生しようと蠢くが集まるたびに溶かされていた。


 そしてちょうど人が通れる程まで広くなった時、何事も無かったかのようにカレンと続いてクレストが姿を現していた。


「ふむ。これは想像以上。いや、まさしく化物か」


 既に人間の域を超えた存在であるガルツをして化物と呼ばせる目の前の存在にサリハンは青褪めた。


 ガルツの防御力は騎士団内でも突出している。カレンがどれだけ異常なのかを知らされるいいデモンストレーションになっていた。更に追い討ちをかけるように羽ばたきながら降りてくる男。


「遅いじゃない、ジャック。さて、じゃあ始めましょう! 一点突破ってテルフィナが煩いからそうするけど、悪く思わないでね!!」


 カレンがいつのまにか取り出した竜具を横薙ぎに振るった。ただそれだけで黒炎の一閃がガルツとサリハンを襲う。


「どうやら名無し共の命は使い捨てという訳か。ならば死守するのみ、砂刃積層門」


 横一列に並んだ砂刃が門を形作ると黒炎が衝突する。触れた先から溶けていく砂刃だが、門が開かれるようにくの字へと曲がる。


 斬撃は誘導されるように門の中心へと集まった所で突如として砂刃が黒炎を包み込み圧縮した。


「へぇ〜、流石は騎士団長ね。並みの竜騎士なら今ので何十人って死んでたよ?」


 目を細めるカレンは内心で感心していた。竜王の力を抑え込むその技量と竜具の強さはやはり強国セレニア王国のトップに君臨するだけはあると。


「本当ならもうちょっと遊びたかったんだけど、今回はこっちも時間が無いんだよね」

「それは同感だ。カレンとやら」


 既にサリハンレベルでは介入できないレベルにガルツは後ろへと下がらせる。共闘した所で守る相手が出来るだけだと。門を背にガルツは覚悟を決める。



「死んどけ、熱閃」

「それでは私も、死風」


 小指ほどの超高温の光と突風がガルツ目掛けて放たれた。更に続けてもう一振りしたカレンの攻撃も合わさる。


「ナタリー、ここが別れ目だ。巨刃装甲」


 その言葉に応えるように砂刃がガルツへと纏わり付いていく。見る見る間に巨大化していくガルツはまるでゴーレムのような姿へと変貌した。


 迎え撃つは三人の攻撃。両腕を広げて門を死守せんと踏ん張る。そして、ガルツはその身を吹き飛ばされて門へと衝突した。


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