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41話

「来るな! ラフィー」


 掴まれたままのレグルスは走り寄ってくるラフィリアに向けて再度と叫びかけた。だが、ラフィリアはそんな事など御構い無しに止まる様子は見せない。


レグルスはちらりとハーローの方へと視線を向けた。


「ほぉ、根性あるな」


ハーローはそう言うと視線をラフィリアへと向けた。どことなく可笑しそうに笑う姿に危機感を覚えたレグルスは掴まれた腕へと足を蹴り上げて絡ませる。


「チッ、さっさと離しやがれ!」


その行動に驚いたハーローはもう一方の腕で足を剥がそうと力を込めた。するとレグルスは両腕を上下に掲げると滅竜技を発動させた。


「離しやがれ!」

「な!?」


両手から放たれた暴風によって体は駒のように回り、その勢いに負けたハーローは思わず手を離してしまう。そのまま掴んでいては自分が吹き飛ばされると瞬時に判断したのだ。


回る勢いをそのままにレグルスは綺麗に着地すると、地面に手を置き続けざまに技を発動させて行く。次々と地面から吹き上がる炎に後退を余儀なくされたハーロー。


「クソがッ!」


悪態を吐いたハーローはすぐさま黒土無双を構えるとレグルスに向けて斬りかかろうとした。


「僕を忘れて貰っては困る!」

「雷獣牙!」


後ろから雷光を纏って突撃するマリーとそれに続くロイスによってハーローはその対応をせざるおえなくなった。


その隙を見計らったレグルスは走り寄るラフィリアの元へと駆けつけると身を守るように背中に隠して問いかけた。


「ラフィリア! なんでここに……」

「そんな事よりもあの人は!? それに、大丈夫なのですか!?」


ラフィリアはいつもの落ち着いた様子は消えており、レグルスに詰め寄った。さらに、続けざまに質問を浴びせかける。


「心配したんですよ!! 夕食の手伝いに来てみたら……」


そもそもレグルスが苦戦するところなど見たことの無いラフィリアにとっては衝撃の光景だったのだ。


「落ち着けラフィリア」

「は、はい」


振り返ったレグルスは取り乱すラフィリアの肩に手を置くと落ち着かせるようにジッと瞳を見つめた。その行為に何とか冷静になったラフィリアは目の前で戦うロイス達とハーローを見やった。


先ほど見た為か地面から現れる剣に対応している二人だったが押されているのは違いない。二人が負けるのも時間の問題のように見えた。


「本気を出せば勝てますか?」


そう話したラフィリアは普段から実力を隠しているレグルスが本気を出せば勝てると言いたいようだった。


「もう出してる」

「そ、そんな!?」


その返しに驚愕の声を上げるラフィリア。レグルスとしても既にローズが言う第五階梯の滅竜技を連発している状況だ。


苦々しく話したレグルスは驚くラフィリアにさらに続けた。


「俺が隙を作る。だから、ロイスとマリーを連れてお前は逃げろ」

「嫌です」


レグルスの言葉に毅然とした態度で返したラフィリア。押されるロイス達を見てレグルスはさらに焦る。


「早くしろ! アレは化け物級だ!!」

「私も戦います。その為にこの学園に来たのですから!!」


そう言い放ったラフィリアはレグルスの聖域がこの場に広がっている為、手に風精の剣を顕現させるとハーローの元へと向かっていこうとした。


「ラフィー!」

「ふふ、久し振りにラフィーって呼んでくれましたね」

「そんな事を言ってる場合か!」

「私も戦います」


ラフィリアとて目の前のハーローがとんでもない強さという事くらいは理解できる。だが、ここで逃げるという選択肢は無かった。


「それに、私がいないとレグルスさんはいつも無理をしますから……あの紋章を使わないように私も加勢します」


そう笑うラフィリアを見て既にレグルスは説得を諦めていた。こうなったラフィリアはテコでも動かないのだから仕方がない。


「はいはい、分かった分かった」


やけくそ気味に呟いたレグルスだったが


「レグルス! もう持たないぞ」

「レグルス様!!」


先ほどの攻撃と合わさり体に限界が来ていたロイスは叫び声を上げた。それと同時に地面から突き出す黒土の剣。


範囲は大きくよろけた二人は避けることが出来ないのは明白だった。


「竜紋解放!! ラフィー」

「そ、それは……レグルスさん」


悲しげな表情を浮かべたラフィリアだったが、この状況で止める事も出来ない。微笑むと受け入れるように両腕を広げた。


「全開で行くぞ」


その呟きと共に眩い緑光がラフィリアを起点に辺りを包み込んでいく。その閃光は広がり続け、ロイス達をも呑み込んだ。


「な、何だこれは!?」

「ロイス様!」


光の中で二人の驚く声が聞こえる。だが、そんな光の中でハーローは事態を正しく認識しているのかその場からレグルスの元へ向けて走り出した。


「使いやがったか!」


すると、緑光が収束していったと思えば前方かは巨大な緑光が飛んで来た。周囲に広がった光を呑み込みさらに巨大化していく。


その光線を迎え打とうとハーローは地面に黒土無双を突き立てる。すると、何重にも地面から巨大な剣が天を刺すように現れていく。


ドオオオォン


緑光は剣に激突した凄まじい轟音と衝撃を撒き散らす。拮抗したのは一瞬だった。何本もの剣は瞬く間に破壊されていく。


「出鱈目だろうがよぉ」


悪態を吐きながらもハーローは壊される側から黒土の剣を生やしていくが、その生成スピードでは間に合わない。


「これが……竜お……ゴフッ」


やがて辿り着いた緑光に呑み込まれた。


「はあはあ」

「レグルスさん、大丈夫ですか?」


地面に膝をついたレグルスの元へと顔を悲しみに歪めたラフィリアは駆け寄る。彼が竜紋を使えばこうなる事はいつもと同じだ。


今まで何度か見てきた光景だったが、レグルスが苦しむ姿に心を痛めた様子であった。


「あ、ああ。ロイスとマリーは?」

「無事です。あちらにいます」


ラフィリアの指差す方を見ればロイスがマリーを守るように地面に剣を突き立てた状態でピクリとも動かない。


だが、マリーがロイスをそっと寝かせると安堵した表情を浮かべた。だが、マリーもまたロイスに折り重なるように倒れ込んだ。


その事からハーローとのやり取りで負った疲れで気を失っているのだろう事は理解できた。


「それで、あの敵は?」

「分からん」


ラフィリアの言葉にレグルスも分からないといった様子だ。徐々に晴れていく閃光の中に見える大きな人形の影。


「あれは……」


ラフィリアの言葉にレグルスもまたそこ方向へと目を向けた。そこには、巨大な二本の剣を持った巨人の影。よく目を凝らして見るとその巨人が動いた。


「な!?」


レグルスは余りの事態に声を上げると、その巨人の影は地面へと吸い込まれるように消えていった。


そこから現れたのは


「腕と足がいかれたな……」


首をコキコキと鳴らし、足を引きずりながら進むハーローは服が所とごろ破けており、かなりのダメージが入っている事はわかった。


「生きてるのか……」

「おうよ」


そう言って片手を上げたハーローを見たレグルスは苦々しく顔を歪める。彼が持つ最強の竜紋を使ってなお倒せない相手。


レグルスはもう一度と手に握る風精の剣を振り上げる。


カラン


地面に剣が落ちる音が聞こえた。


「くっ、ぐぁっ」


頭を抑え込み地面に這い蹲るレグルス。ローズの時にも見せた強烈な頭痛が彼を襲う。


「く、くそが……こんな時に」

「あーあー、言わんこっちゃない」


弱々しく言葉を放ったレグルスの元へとハーローは歩みを進める。そして、ゆっくりと黒土無双を振り上げた。


ハーローを睨みつけるレグルスの視界を遮るように影が走った。


「何の真似だ嬢ちゃん」

「や、めろ、ラフィリア」

「やめません。今日は美味しい唐揚げを作る予定なので」


レグルスを庇うように両手を広げたラフィリアは毅然とした態度でハーローを睨みつけていた。何かを決意した表情のラフィリアにハーローもまたその意思を察した。


「ふぅ、あんまり殺したくはないんだがな……仕方がないか」


ハーローはそう言うと片手で上げた黒土無双を両手で握り直す。その行動から止めるつもりはないとすぐにわかった。


「止めろ!!」

(考えろ……何か、何かある筈だ。ラフィリアを守る術が……)

「契約もせずに俺に勝てると思ったか? まあ、グッバイだ」


そう呟いたハーローは静かに剣を振り下ろした。その光景がレグルスにはスローモーションに見えた。


「ラフィー!」

「好きでしたよ……レグルスさん」


最後の言葉とばかりにラフィリアはそう呟いた。



「俺の面倒を一生見てくれ! ラフィリアがいないと生きていけない!!」

「は?」


そんな叫び声にハーローはぽかんとした表情を浮かべ振り下ろした剣も止まる。まさかこの場面でそんな言葉を聞くとは思っても見なかった様子だ。


人は予想外の事態に対応出来ないとはこの事である。


だが、言われた本人はその言葉の意味を理解していた。彼女は何度も頷くと瞳から溢れる涙と共に言葉を放った。


「ふふ、こんな時も相変わらずですね。勿論、私はその為に家事スキルを磨いてきたのですから、作戦成功です。では、契約しましょう」

「ラフィーも相変わらずだな……これからもよろしくな」


その瞬間、辺りを光が天をも巻き込み全てを覆い尽くした。何もかもを綺麗な翡翠色に染め上げていく。


「はは、ようやくか」


ハーローはその神々しいまでの光景にそんな呟きを漏らした。


彼の視線の先では、天に昇った光が収束していき巨大な竜の形を作り上げた。神々しいまでの翡翠の光は見るもの全てに安らぎを与える。


そして、一度羽ばたくと翡翠の竜はレグルスの元へと飛んでいき一直線に呑み込まれていった。


光が収まるとレグルスの手には剣が握られていた。


精緻な竜の彫刻が柄に刻まれており、羽ばたくような翼が交差するように剣身に薄く刻まれている。その剣は翡翠色に輝き神々しく翡翠の光を発していた。


「さあ、続きをやろうぜ」


翡翠に染まった瞳がハーローを射抜く。レグルスは剣を掲げるとそう宣言したのだった。


そんな姿を見たハーローは黒土無双を地面に勢いよく突き刺した。その行動にレグルスもまた剣を構える。そんな一触即発の中


「はぁ〜終わりだ。俺じゃもうお前には勝てねぇよ」


どっかりと地面に腰を下ろしたハーローは手をひらひらさせながらそんな事をのたまった。その言葉通りに黒土無双が光るとネルに戻る。


「は!?」

「いやいや、俺の作戦通りって訳だ」

「だから何がだーー」

「喰らい尽くすのじゃ。炎獅子」


ゴオオオォ


レグルスの言葉を遮るように蒼炎がハーローとネルを包み込んだ。凄まじい熱量にこんな芸当が出来る者は一人しかいない。


「バッハさん」

「遅くなってしもうたわい」


レグルスの後ろから歩み寄ってきたベルンバッハはチラリとレグルスの手にある剣を見つめる。


「ん?」


そして、目の前で燃え上がる蒼炎に目を向けたが、眉がピクリと跳ね上がった。


「おいおい、俺を殺す気かよ」


蒼炎が弾き飛ばされ中から所々に火傷跡が見えるハーローとネルが出てきた。


「光を見て駆けつけてみれば死神か……何か来るとは思っておったがまさかこんな大物が引っかかりおるとわのぉ」

「チッ、面倒な奴が現れやがった。大物はそっちだろうがよ」


何事もないように話すハーローを油断なく睨みつけるベルンバッハ。地面に突き刺した炎獅子は既に戦闘態勢に入っている事が伺える。


「この世界でも最強に近いお主なら学園の警戒網をすり抜けるのは容易いじゃろうて。ならば、儂が相手をしてやろう」

「冗談は辞めてくれ」

「さて、ゆるりと燃やしてやろうかのぉ」

「黒土無双!」


ドオォン


その瞬間、蒼炎と黒土の剣がぶつかり合った。


圧倒的な熱量が剣をドロドロと溶かしていくが剣もまた瞬時に直されていく。


「俺の要件は済んだ、じゃあな」


その拮抗の中、地面から蠢く大地に飛び乗ったハーローは宙へと昇っていく。


「待つのじゃ! お主は何をしにきた?」

「レグルス! お前はさっさと他の竜姫候補と契約しろ。それと、ベルンバッハ。聞きたいなら炎を止めろ」


その疑問の言葉にハーローはそう答えた。何が何だか分からない様子のレグルス。そのやり取りを見つめるベルンバッハは炎獅子を地面から抜き取った。すると、蒼炎は霧散するように消え去った。


「ふぅ」

「で、何じゃ? 場合によっては逃がさんぞ」


そう話すベルンバッハ、そしてレグルスもまた自分の力について何か知っている様子のハーローを逃す手はないと剣を構える。


「わかってるって。はぁ、最近、竜王の棲家が活発化してるだろ? それとそこのレグルスが関係している」

「ふむ、続きを」

「人類にとっての災厄。その竜王はあの五つの棲家に封印されてる。だが、その封印が効果を弱めているんだよ。それを抑えるためにレグルスには契約をして貰わなくちゃならん訳だ。という事だレグルス。手荒な真似をして済まなかったな」

「それを信じろと言うのか?」


レグルスはハーローの言葉にそう返した。それは、ベルンバッハもまた同様である。


「なぜお主がそんな事を知っておる? お前は何者だ?」

「俺は竜王の棲家でどんぱちやらかす奴らを見つけて、場合によっちゃあ殺し回ってるって訳だ。後は自分達で調べな、ヒントはアガーー」

「ハーロー、少し話しすぎよ」


突然鈴のような声が聞こえてきた。音もなく空間を裂くように現れた真っ暗な空洞からである。


「わりぃわりぃ。じゃあな」


ハーローは押し黙るとその真っ暗な空間に身を投じた。その余りの出来事に呆然としていたベルンバッハとレグルスだったが、即座に動く。


「逃がすか! ラフィリア、頼むぞ」

「炎獅子、吠えよ!」


剣身から放たれる翡翠の閃光と灼熱の蒼炎が空間に向けて放たれた。


「逃げられたか」

「のようじゃのお。聞きたい事はまだまだあったのじゃが」


彼らの視線の先には既に何も無かった。

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