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16話

明日も9時投稿予定です!


王都の中でも一際目立つ建物がある。それは、王都を王都たらしめている王族が住まう宮殿であった。


だが、宮殿は外から見る事が出来ない作りになっていた。


何故そんな作りになっているのかというと、城壁に囲まれた宮殿は、空を飛び、縦横無尽に駆ける事ができるドラゴンに対して上空からしか攻撃できないようにする為の対抗手段だった。


そして、宮殿には常時、多数の竜騎士や騎士を含めた精鋭が詰めており常時目を光らせている。


そもそもが、何故城ではないのか?という疑問が湧いてくるかもしれないが、空高く建てられる城はドラゴンにとって格好の的なのだ。


それは、歴史的に見ても物語っていた。


そんな宮殿の中の一室。ここは、宮殿において並みの身分では入れない地区である。


テーブルを囲むように座る3人の人影があった。グラスに並々と注がれた赤いワインと色とりどりの果物が置かれている。


誰が見ても只ならぬ雰囲気を醸し出す3人。彼らは並みの地位ではない者達だ。


その中で1人の老人が面白そうに呟いた。


「リンガス、どうやらヘマをしたらしいな」


その言葉には確信が籠っているのか、対面に座るリンガスを見つめていた。チラッと横を見れば、機嫌そうな表情を作る男の姿があった。


彼は他国にもその武勇が轟く翡翠ひすい騎士団のシュナイデル団長である。年は40を超えた辺りか、眉間には深い皺が刻まれている。


そして、特に印象深いのは片目に大きく跡を残す三本の傷である。何か鋭いもので引っかかれたような傷だった。


「返す言葉もありません」


上司2人に挟まれた形のリンガスは何時もの様子ではなく、深く反省しているようだ。だが、シュナイデルの眉間には更に深く皺が寄る。


そして


ドンッ


「この馬鹿たれがっ! 候補生に万が一があったらどうしてたんだ!!」


机を叩く音と共に、シュナイデルは声を荒げた。


その凄まじい衝激に机が軋むが、すかさずベルンバッハがテーブルを抑えたお陰で、ワインなどが吹き飛ぶ事にはならなかった。


「申し訳ありません」


深く頭を下げるリンガスに、尚も溜飲が収まらないのかシュナイデルはリンガスの襟を掴むと、軽々と持ち上げた。


大人1人を軽く持ち上げられる腕力は、騎士団長の名に恥じぬ流石というべきである。


「俺にも娘のローズがいる。まだ何も知らない子供をお前達2人に預けた親の気持ちがわかるか?」


シュナイデルの言葉は正しく的を射ていた。


リンガスと、この場には居ないがメリーがしっかりと観察していれば、サーシャの件やエリク達も暴走しなかったかもしれないのだ。


「2人の少年は罪を犯した。それをかばうつもりは無い。だが、今回の事件は翡翠ひすい騎士団の隊長であるお前のせいでもある」


話すうちに徐々に怒りが湧いてくるシュナイデルは拳を握り込む。するの、翡翠色の騎士服が筋肉で盛り上がりメチメチと音を立て始めた。


そんな怒り狂ったシュナイデルを止める声が聞こえる。


「よせ、シュナイデル。ほれ、リンガスも反省しておる」

「ですが!」


事態を見守っていたベルンバッハが止めに入ったのだが、シュナイデルは尚も言い募る。彼にとって今回の件は笑って済ませられる事では無かったのだ。


ベルンバッハは大きく頷く。


「幸いにも竜姫候補は守れた。それだけで良しとしよう」


ベルンバッハにも思う所はあるがここでリンガスを殴ったとしても過去の結果は変わらない。それは、この場にいる3人共が理解できていた。


「シュナイデル、まぁこれでも飲め」

「ふぅ……。ありがとうございます」


差し出されたグラスを受け取るとグイッと煽ると、暫く深呼吸をして落ち着かせるシュナイデル。


「落ち着きました」


ようやく落ち着いたシュナイデルは再び席に座った。


そんな様子を殴られる覚悟で待っていたリンガスは、静かに事態を見守っていた。


未だに思い詰めた様子のリンガスは唇を噛み締めている。レグルス達の前では心配をかけないように振舞っていたのだが、彼にとっても猛省すべき事件だったのだ。



冷静になったシュナイデルは、リンガスのそんな表情を見て幾分か優しい表情に戻る。


「リンガス、お前は優秀だがいつも詰めが甘い。いつまでたっても私が引退できないだろう」

「本当に申し訳ありません」

「頼むぞ、リンガス」


シュナイデルが怒り狂った理由には、彼がリンガスを次代の騎士団長にするという思惑があったからだ。


騎士団で長い間ともに行動していたリンガスに信頼を置いているシュナイデル。


リンガスは竜騎士としても優秀であり、性格も良く、面倒見が良いと騎士団でも評判だ。だが、少し抜けている部分があり、何とかシュナイデルが現役の間に治さねばと思っていたのだった。


「リンガス、お前は暫くの謹慎だ。少し頭を冷やして考えろ」

「はっ」


今回は滅竜師候補の2人が犯罪奴隷に落ちたが、そこは余り問題では無い。そんな考えを持っていた2人を見抜けというのも酷な事であり、危険な思想を持つ者を事前に排除出来た事は良いという判断も含まれていた。


幸いにも、サーシャは無事であったお陰でリンガスには数日間の謹慎という処分が下ったのだ。


「儂が滅竜騎士になる為に引退してシュナイデルが騎士団長に就いた。まだ坊主だったリンガスが次とは時が流れるのもはやいのぉ」


場の空気を変えるために、ベルンバッハは懐かしそうに語る。この辺りはやはりというべきか、年の功が成せるものだ。


「閣下の後任に就くことができ、身に余るお言葉です」

「相変わらず主は固い。して、リンガスよ。お主が連れてきた者達は優秀じゃのぉ」


シュナイデルの固さに苦笑いをしながら、件のサーシャを含めた4人の話題に移る。


「竜姫候補の3人は既に騎士と行動を共にしても問題ない竜具を持っています。ですが、若く経験不足の為、今はまだ発展途上です」


リンガスの3人への評価はかねこのような感じだ。竜式の際に口にした言葉通りのままであった。


「ほぉ、ローズの後輩にそんな者が現れたか」


感心した様子のシュナイデルは楽しそうに呟いた。騎士団長の肩書きは伊達ではなく、後輩達が優秀だと聞いて嬉しそうな様子だ。


「そして、あの少年か」

「はぁ、レグルスですか?」


どこか含みを持たせたような言葉にリンガスは曖昧な表現を口にする。だが、ベルンバッハはそんなリンガスを見て愉快そうに笑う。


「今さら隠さずとも良い。儂も見たのじゃが、お主は戦って見てどうじゃった?」


その言葉に、シュナイデルは関心が湧いたのか聞き耳をたてる。ベルンバッハが特別扱いする子供とは、それだけで途轍もない事なのだ。


「私もレグルスも本気では無かったのですが、体術で言えば高く見積もって、私より少し劣る程かと」

「学生でリンガスと張り合えるか。ローズの後輩にとんでもない奴が現れたな。これは一度見てみるか?」


不敵に笑うシュナイデルは、ウズウズとした様子で呟いた。自然と筋肉がパンプアップしていく。


「団長、悪い癖が出てますよ」

「おっと、危なかった」

「お主は相変わらず強い者に目がないのぉ」

「性分でして」


恥ずかしそうに俯くシュナイデルは強い者とは手合わせをしたい戦闘狂でもあった。リンガスもよく相手をさせられるの為、心の中でレグルスに謝るのだった。


「滅竜技については未知数か……。何処でその技術を身につけたのか、はてさて、いったい何を隠しておるのか気になるのぉ」

「確かにそうですね」


リンガスの脳裏には、レグルスが寂しげに笑う姿が浮かぶ。この件と関係しているのではないかと疑問が浮かぶが、約束した事もありこの場では話さなかった。


「あの少年は今後も注目するべき生徒じゃな。他にも今回は粒ぞろいじゃて」

「閣下の目に止まる生徒が他にも?」


驚きを隠せない様子のシュナイデルは尋ねる。ここまで上機嫌なベルンバッハを見る機会などそうそうないからだ。


「突出した者はロイス・バーミリオンにシャリア・エルレイン。他にも家柄も含めて優秀な者は多い。今年は楽しみじゃのぉ」

「やはり、バーミリオン家とエルレイン家は流石に優秀ですか」


両家共に家格は高く、歴代の滅竜師を見ても優秀な者が多い家である。そして、やはりと言うべきか幼い頃から滅竜師が身近にいる環境を持つ貴族達は、平民と比べて優秀だった。


たまにアリス達のような平民でも飛び抜けた才能を持つ者も現れるのだが。


「主の娘も三年生ではトップじゃろうが」

「ははは。僭越ながら私の娘ですので。ローズは幼い頃から可愛いらしいのですが、何と言っても飲み込みが早い。私がーー」


そう言って胸を張るシュナイデルは、自慢気にローズについて語り始める。誰が見ても親バカといっても過言ではない様子だ。


可愛いらしいだの、優秀だの、目に入れても痛くないなどと、最後には可愛いとしか言わないシュナイデルに2人は溜息を吐く。


「ふぅ、もうよいか?」

「は! これは失礼しました」

「団長、流石に長いですよ」


2人に言われてバツが悪そうな顔をするシュナイデル。そんな話をしていると、ふと窓から外を見たベルンバッハが言葉を漏らした。


「今夜は騒がしいのぉ。騎士まで出張っておる」


窓の外から見える光景は、兵士が慌ただしく宮殿の入り口に置かれている詰め所から出る姿や騎士らしき人物がいる事も見受けられた。


その言葉に何かを思い出した様子のシュナイデル。


「昨晩から名無し(ネームレス)を語るゴロツキが王都に溢れかえっていまして、その対応かと。捕らえた奴らは口を割らないようで、名無し(ネームレス)との関係もハッキリとはしていません」

「私も聞いた話ですが、その者らの実力はチンピラと大差が無いようで、明らかに名無し(ネームレス)ではないかと」


シュナイデルが騎士団から上がってきた報告を口にすると、現場の知り合いに同じように聞いていたリンガスが補足する。


「以前から大きな組織を語る奴はいたが、主達から聞けば何かありそうじゃの」


そういうベルンバッハもこの異常な事態に何かが起こるのではないかと胸騒ぎがする様子だ。ちらほらと虚勢を張るためのハッタリに使う者はいたが、これ程大規模に行われた前例はないのだ。


「シュナイデル、リンガス。今後、奴らが動き出すかもしれん。警戒は怠るなよ。儂も学園で警戒する事にしよう」

「「はっ!」」


同時に返事をした2人にも何かが動き始めているように思えていた。


「リンガス、もし何かあれば謹慎など関係なく主も動け。王には儂から伝えておこう」


ベルンバッハの言葉には名無し(ネームレス)に対する警戒の高さが伺えた。竜騎士という貴重な戦力を留めておく程に相手は生易しい者達ではないという事だ。


「さて、何も無ければよいのじゃがな」


そう呟いたベルンバッハの視線の先には、爛々と輝く王都が写っていた。


だが、既に事は重大な迄に動いていた。その事にこの場の者も含めて気付いていた者はいなかった。


最近は余り時間が取れず、目は通しているのですが、感想の返信が出来ていません。申し訳ありませんが、今後とも宜しくお願いしますm(_ _)m

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