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43話 テスト週間 お前がママに

久々に

HOST OF EMBERS DESTROYED

この瞬間のために闇霊やってます。


「君に気持ちを伝えずにはいられなかった。

 オレと付き合ってもらえませんか?」


「ごめんなさい」



放課後の廊下で僕は入学してから何度目になるか数えるのも忘れた告白を受けていた。

相手はヒロトと同じクラスの男子生徒だ。

入試の成績が1位だったため、入学式で新入生の代表として挨拶をしていたので顔だけは覚えている。

告白にはかなりの勇気を必要としたのだろう、手足が震えているのが見てとれた。

しかし、彼は僕のすげない返事に、気丈にも泣き出したいのを堪え、頭を下げて去っていった。

彼に対して好意など全く無い。

これまで通りはっきりと拒絶した。

友達からだとか希望の余地を残すつもりもない。

その方がかえって残酷だと思うから。

入試の成績1位の秀才ですら夢中にさせる『恋愛』とは一体何なのだろう。

先日の日曜日ヒロトと映画を観て、その後一緒にご飯を食べて、のんびりして

ちょっとしたハプニングが原因とはいえ、ヒロトに押し倒された時、何をされてもいいと思った。

むしろ狂おしい程ヒロトのことが愛しくて、僕からキスをせがんだほどだ。

映画に感化されて恋愛がしたくなってしまったのだろうか?

否定はしない。流されやすい性格だし。

では、恋愛ごっこの代用品としてヒロトを求めたのか?

それはない。

第一恋の代用品扱いなんて、これまでと変わらぬ友情を示してくれたヒロトに対して失礼ではないか。

僕は誰でもいいなんて言えるような節操なしじゃない。

現にさっき男子に告白されて、断ることへの罪悪感はあったが、それ以上の感情は湧かなかった。

女の子の体になって女性ホルモンが増えたぐらいで男性を好きになるなんてことはないのだ。

ならばなぜ、男性の中でヒロトにだけ特別な気持ちを抱いてしまうのだろう?

男の子だった頃ヒロトを恋愛対象として見たことなんてなかったのに。


わからない。


じゃあ女の子はどうかというと、着替えでドキドキさせられるのはいつものことだし、加奈子ちゃんに通学路でキスを迫られたとき、男の子として嬉しいと感じた。

女の子になったからといって丸っきり興味を失ったわけではないのだ。

もうこれは僕が認識する恋愛感情と皆の認識との間には大きな隔たりがあるのではないかとすら思う。

恋愛経験なんて物語を通してでしか知らないのだから、僕が二人に抱いた感情は実は錯覚なのではないか?

ただでさえ心と体があべこべな存在なのだ。

友情と愛情の区別すらつかない。

それならば性別の違うどちらにも好意を持ってしまうことに説明がつく。

ならばこの気持ちが恋愛感情なのか、それとも友情が生み出した錯覚に過ぎないのか、はっきりするまで保留にさせてもらおう。

後ろ向きな決意だけど、僕には経験が少なすぎて結論が出せない。

それに今は恋愛にかまけてはいられない。明日から中間テストなのだから。



帰宅後3人で僕の部屋に集まって勉強会をする。

テスト範囲の問題を解き、これまでのおさらいに時間を費やす。

日頃予習復習に時間を割いているおかげか、詰まることもなく、教科書と問題集の復習がすんなり終わった。


「こんなもんかなあ、点数取れるといいんだけど。」

「先輩に過去問を見せてもらったが高校のテストは中学と大きく違わないと思うぞ。むしろ学校の定期テストよりも今後の模試の方が恐ろしいな。先生も言ってただろ?」


ヒロトの言うことはもっともだ。僕もそんな話を授業で聞いたことがある。

範囲が明確な学校の定期テストで点を取ることはたやすい。

だが、定期テストの出来に気を良くしていたら、模試で散々な結果になり、心をへし折られる結果になるのだとも言っていた。

先生が高校生だった時、最初の問題は肩慣らしだろうと思って模試の問題に取り組んだら、

最初の問題から挫折して、結局ほとんど解ける問題がなく、惨憺たる結果に終わったことがあるのだそうだ。

高校生活定番の落とし穴なのだと。

模試の成績で勉強を諦めてしまう高校生が多いのだと嘆いていた。

だからこそ広範囲の出題に対応するため、地力を普段から蓄えることと、頻出の問題の傾向を知っておくことが重要なのだそうだ。

出題者が学生に出したい問題というとある程度絞ることができる。

それを把握するためには実際に出題された問題の数をこなさなくてはならない。

また、模試の後配布される解答には正答率が記載されている。

10%以下の正答率の問題の解析は後回しにして、正答率が高く、自分が解けなかった問題を復習するのが実力の向上に欠かせないという。

模試はやる前よりやった後のケアが最も肝心だと、どの先生も口を酸っぱくして主張していた。

さすがに進学校だけあって受験のテクニックに精通した先生が多いと感心した。

学生時代苦い経験を味わっただけに、僕達に同じ道を歩んで欲しくないのだ。


「模試の難易度は実戦と同じレベルなんだよね。うう、心が重いよ。」


「ああ、だから授業で模試で頻出の問題が載ったプリントをもらったろ?」


僕達がさっきまでやっていたプリントだ。


「数値や表現を一切変えたりしないでそのままテストに100%出すって言ってたわね。

 それだけ、重要だってことか。」


「定期テストで模試の対策ができるのはありがたいことだ。

 後で解説もしてくれるんだから至れり尽くせりだな。」


「1年生の頃から受験生のつもりでいろってことだね。」


「その通りだ、3年になってから本気を出したところで凡人が天才を追い越すのは至難の業だからな。

 3年間は短いようで長い。問題はモチベーションの維持なんだが……」


「目標が必要になるよね。ねえ、ヒロトと加奈子ちゃんは進路って決めてたりする?」


それぞれに夢があるはずだ。

けど、学部は違ってもせめて大学も同じところがいいなんていうのはわがままだろうか?


「私は決めてないわよ。」

「俺もだな。自分の適性からなんとなく理系にすることぐらいしか考えていない。」


僕と同じなのは意外だった。

てっきり2人は将来の職業まで考えているかと思っていた。

だからこそ2人がどんな大学を選んでもついていけるよう精進しなければなるまい。


「もし、千秋が受験に失敗したら私がもらってあげるから心配しなくてもいいわよ?」


「ええ!?えっと、その時はその、不束者ですがよろしくお願いします。」


「なんなら今からでも結婚する?」


「今結婚ってからかわないでよもう。」


「選択肢の一つぐらいには考えといて。

 そう言えば千秋、アンタまた告白されたって噂になってるわよ。」


教科書に集中していたヒロトの眉がピクリと動いた。


「うん、確かヒロトと同じクラスの人だったかな。入試で一番だったっていう。

 お断りしたけど。」


「なるほど、テストの対策をダシに千秋とお近づきになろうって思ったわけね。」


「これといった取り柄もない僕のにどこがいいんだろうね。僕より可愛くて気立てのよい女の子なんていっぱいいるじゃないか。」


会話のひとつもしたことのないほとんど初対面の人が多かった。

ゲーム感覚で告白してる感じでもない。皆真剣だったと思う。


「そりゃ千秋が可愛いからに決まってるでしょ。可愛いのが見た目だけじゃないことぐらい、遠目に見てたって分かるわよ。」


「買いかぶりすぎだと思うけど。実際に付き合って理想と全然違いましたーでもいいの?」


「千秋に限ってそれはありえないけど、男なんて単純なんだからよっぽど異常な性格でもしていなければ大抵のことには目を瞑れるでしょ。

 あとはおっぱいね。アンタまた大きくなってない?」


「きゃ!? や、ん……」


加奈子ちゃんが正面から胸を鷲掴みにしてきた。

痛みを感じないように配慮した指が食いこんでおっぱいの形が変形する。

あまりに自然な動作に身をよじることすらできなかった。

胸の大きさの増減なんて外から見ただけで分かるもんなのか!?

というかヒロト見ないで!

男の子が例外なくおっぱいが好きなのは理解したから!

興味あるならまた2人きりの時に……


「やめ、あん……それより、進路の話から脱線してない?」


加奈子ちゃんは僕のおっぱいから手を離して『そうだったっけ?』という表情をした。


「千秋が大学進学できなかったら私のお嫁さんになる話ね。

 安心して落ちなさいよ。私が養ってあげるから。」


「僕が進学できないの前提の話だったったっけ!?」


「アンタがママになるのよ。」


「女の子同士で子供はできないと思うけど!?

 そもそも法律が」


「子供は将来の科学の発展に期待しましょ。

 法律なんてくだらないわね。まあ、元々男の子だったわけだし、戸籍を男に戻すぐらいはできるんじゃない?

 それにそんなの気の持ちようよ。事実婚でも幸せな夫婦なんて世の中にたくさんいるわ。」


将来か……

小学生の頃大人になったらなりたいものは?と先生に訊かれて、お母さんって答える女の子結構いたよね。

僕もなろうと思えばなれるのか、……お母さん。

お父さんになる機会は永遠に失われてしまったけど。


「結婚はともかく、俺は千秋が希望の大学に合格できるよう勉強に付き合うぞ。」


「ありがとうヒロト。僕もヒロトに教えられるようがんばるよ。」


「その意気だ。実力がついてきてから進路を考えたっていいんじゃないか?

 行ける大学が増えれば視野もある程度広がるだろう。」


「なら私も2人に置いていかれないようにしないとね。

 千秋とキャンパスライフ送りたいし。」



まだ見ぬ大学生活に思いを馳せ、再び僕達は勉強に戻るのであった。


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