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17話 ドンと来い!TS現象

「ただいまー」

既に帰宅していた夏美に声をかける。

「おかえりー」

部屋着に着替えていて、ソファーに腰かけ雑誌を読みながら足をパタパタさせている。

我が妹ながらキュートな仕草だ。

そう言えば夏美って可愛いのに彼氏の話とか聞いたことないな。

女友達と遊びに行ってることが多いから、友情の方が大切なんだろう。

「それにしてもお兄ちゃん。入学2日目なのに制服が板についてるねぇ。告白とかされちゃったりした?」

「な、何を言ってるんだよ!そんなことあるわけないだろ!」

女の勘ってやつか、びっくりしたなぁもう。

「ふーん」

不満げな表情を見せた夏美は雑誌をぱたんと閉じて僕に近づいてきた。


「ペロ、これは嘘をついてる味だぜ。」


夏美の柔らかくしっとりとした舌が首筋を這った。

うひゃああああ!首筋を舐められた!

ぞくっとしたぞ!


「うわぁ。脳が蕩けそうな甘い味がするよお姉ちゃん!」


またたびキメた猫みたいに恍惚とした表情で夏美が僕の首筋の食レポをした。

汗のしょっぱい味しかしないと思うけどね。

「それにお姉ちゃんめっちゃいい匂いする!香水みたいな不自然なのじゃなくて天然ものの花の香りみたいな。

お兄ちゃんが男の時、こんな味も匂いもしなかったよ。不思議だね。」


匂いはともかく男の頃の僕の味なんていつ確かめたんだ!?怖っ!?夏美怖っ!?


「やめてよね!僕の味や香りなんてどうでもいいじゃないか。それよりお兄ちゃんなのかお姉ちゃんなのかせめてどっちかにしてくれない?ずっと気になってたんだよ。お兄ちゃんと呼んだりお姉ちゃんと呼んだりどういう基準なのさ?」

「うーん、基本的にお兄ちゃんがヘタレてるときはお兄ちゃん、お兄ちゃんが可愛いなと思ったらお姉ちゃんかな。」

なんだろうそれ、どっちで呼ばれても嬉しくないゾ。

「そうそうお兄ちゃんにごまかされるところだった。」


「で、どんな人に告白されたの?」


「えー、別に夏美が知らなくてもいいじゃないか。僕としては早く忘れたいんだよ。」

どうして女の子ってのは恋愛の話が好きなのかね。

「ってことは結局お断りしたんだ?」

「当たり前じゃないか。男と付き合うなんて無理に決まってるだろ。それに歯の浮くような口説き文句を吐くイケメンなんて生理的に無理。」


男の時でも避けたいタイプだあの人。


「じゃあ元の性別通り女の子ならいいの?」

「それも今は分からなくなってるよ。そもそも男のときだって別にモテなかったし。」

「ふーん。じゃあさ試しに明日アタシとデートしてよ。」

「何でそうなるのさ。」

「もしかしたら女の子の方が好きになってデートすることになるかもしれないよ。予行演習だと思ってさ。」


デートだ恋愛だはともかく女の子と友達としての付き合い方は覚えておくべきかもしれない。

今後クラスの女の子とのコミュニケーションはしていかなければならないし、加奈子ちゃんとの付き合いは以前より増えてきたのだ。

ん?デートの練習なら加奈子ちゃんの方が適役じゃないか?

夏美はなんだかんだで家族だしね。

「そういうことなら加奈子ちゃんに頼もうかなぁ。頼りになるし。」

「じゃあこないだ約束したデート権を行使します。」

夜桜を見に一人で出かけた時のことか。

「あれは結局父さんと母さんにバレちゃったじゃないか。無効だよ。」

「アタシは黙ってることを約束しただけで、お父さんとお母さんが自分で気づく分には契約外だよ?」

うぐぐ、詭弁な気もするけど一応筋は通っているので反論できない。

そこは僕の落ち度だ反省せねばなるまい。

まあ、妹とお出かけするだけだ。別に何が減るってわけでもないし。

「はいはい分かったよ。デートでもお出かけでもドンと来いだよ。」

「やったー明日が楽しみだよ。お姉ちゃんはアタシがエスコートするね。」

む?僕が仮に女の子と付き合ったらどっちがエスコートするものだろう?

女の子同士ってこういうのどうしてるか分かんないな。


「話は聞かせてもらったわ!どうやら私の出番のようね。うふふふ」

買い物に出ていたらしい母さんが帰ってきていた。

「嫌な予感しかしないんだけど。」

たいてい母さんがはりきっている時はロクな目にあっていない。

どんな恥ずかしい格好をさせられるんだろう。ぶるぶる。

「男の子も女の子も必ず殺す最強のコーデを目指すわ。」


思ったよりも物騒な発言が出てきた。

「いや、もうそういうのお腹いっぱいっていうか。」

「何を言っているの!異世界に来て最初の防具屋で誰にも見向きもされず埋もれていたチート装備を主人公が選ぶのは鉄板なのよ!常識なのよ!最強装備を身に付けなかったら主人公じゃないわ!」

母さんが何の常識を言っているのか微塵も理解できない。

異世界語ではなく日本語で話して欲しい。

「それに明日のデートのために追加のお小遣いを支給するわよー?母さんはもっと千秋に女らしさを磨いて欲しいの。」

母さんがひらひらとお札を振った。

お札に描かれたあの御仁はみんな大好き諭吉先生だ。


「僕は貴女の犬ですワン。何でもお申しつけくださいワン。」

女らしさを磨く意図については汲んでやれないが、目先の欲望に負けた僕は表面上だけでも尻尾を振ることにした。

これじゃ佐々木先輩達と同レベルだな僕。

でもま、余ったお金で新しい鉢植え買っちゃおう♪

先輩達の火遊びと違って誰も傷つけることはないのだ。

そう納得して、あれかこれかと僕に着せる服を姦しく選ぶ母と妹に僕は身を任せるのであった。

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