15話 3デブマラソンイチゴ味
「これにて一件落着」
加奈子ちゃんが勝利宣言をした。
すんでのところで3人の悪代官から貞操を守られた僕は安堵して加奈子ちゃんに抱きついた。
もう泣かないと決めたのに目尻には涙が待機していた。
こうしていると幼い頃、近所の年上のガキ大将に僕が小さくて弱くて女みたいだという理由でいじめられていたことを思い出す。
そのときは加奈子ちゃんが年齢差を感じさせない戦いぶりでガキ大将を懲らしめて反省させてくれたのだ。
今みたいにこうして加奈子ちゃんの胸を借りたっけ。
「ちょっ千秋!やわらかっ……色々当たってる!……じゃなくて!いい年してベソかいてくっつかないの!」
加奈子ちゃんが赤面して抗議した。
「あ、ご、ごめん。」
高校生にもなって、下着姿で幼馴染みに抱きついているという事実に僕も赤くなって加奈子ちゃんの体から離れた。
「ともかく、千秋には女の子同士のスキンシップに免疫はないんだから、本人が嫌がったらやらないで。」
土下座のまま面を上げていた3人衆は、ははーと再び頭を下げた。
教室に戻ってきたところで2限目が終了し、3限目古文。簡単なオリエンテーションの後、早速教科書の内容に入っていった。
三春南高校は授業の速度が速いと聞いていたが、その通りだった。
進学校なので必要箇所を終わらせたら早めに受験対策をしていきたい方針のようだ。
授業スピードについてこれない生徒に関しては放課後いくらでも質疑応答、進路相談に乗ってくれるらしい。
逆に相談すらしない生徒は容赦なくふるい落としていくそうだ。
高校生になるのだ。自らを助けようとしない者については面倒を見るつもりはないということだ。
僕は地頭の良い方ではないので、予習と復習にはなるべく時間を割くようにしている。
今日の感想としてはなんとか授業にもついていけそうとのことだった。
分からないところがあればヒロトや加奈子ちゃんと一緒に考えてもいいし、先生に質問しにいけばいい。
授業が終わり昼休みになった。
僕と加奈子ちゃんはお弁当だったのでお互いの机をくっつけて食べることにした。
中学まではヒロトや他に付き合いのあった男子と食べていたけど、今は加奈子ちゃんなのでなんだか新鮮だ。
加奈子ちゃんのお弁当は卵焼き、ボイルしたアスパラ、唐揚げ等の定番メニューが詰まっている。
僕は今朝自分で作った、いや母さんに花嫁修業と称して作らされたサンドイッチを取り出した。
僕の好きなカニカマに家庭菜園で採れたレタスとトマトを挟んでいる。
「カニカマってアンタ本当にカニ好きね。」
カニじゃないけど……と付け加える。
うん、前の打ち上げで食べたタラバガニは美味しかった。
またみんなで食べたいな。それまでは似た味のもので我慢だ。
「ま、千秋の趣味はともかく授業どうだった?」
「僕はなんとかついていけそうだよ。」
「三春は赤点に関しては容赦ないらしいからね、テスト前になったら中学の時みたいに勉強会しましょ。」
「うん、ヒロトも加わればなんとかなるよ。」
ヒロトは僕ら二人が少し苦手な理数系に強いのだ。直接教えてもらえばは早いけど僕も時間さえちゃんとかけていれば追い付くことができるのでヒロトの足を引っ張らないようにしておきたい。
「修業馬鹿のアイツが一番成績いいもんね。そうねテスト前に勉強会するならいつも通り千秋の部屋にする?」
うーん、僕は少し悩んだ。
僕の家は会社を経営する父さんの収入あってか大きめだ。
僕の部屋も3人が入っても十分な広さがある。
けど、僕がこの体になったことで母さんが興奮して女の子ぽいパステルカラーの壁紙やカーテンに変えちゃったんだよね。絨毯や家具も。
母さんやりすぎだよ、父さんも無駄遣いは駄目だから注意しようよと抗議したのだが、父さんには『この部屋で過ごす千秋を見ていたいんだ。』と力説されてしまった。
家の中では寡黙で自己主張の薄い父さんがあまりに情熱的に母さんに協力したものだから僕は普段冷遇気味の父さんの顔をたてて文句を引っ込めることにした。
そんなわけで今の部屋を人に見られるのはできるだけ避けたい。
あまりに女子女子した部屋なので、略してジョジョな部屋なので二人にドン引きされるかもしれない。
「今度からは加奈子ちゃんやヒロトの部屋にしない?ほら、僕は逆に二人の部屋そんなに行ったことないし。」
「別にいいわよ。千秋の家と違って普通のお宅でいいなら。」
「あ、ヒロトの家のタロにも会いたいな。」
タロとはヒロトの家で飼われている雑種犬である。
ヒロトの家では昔から犬を飼っていてタロは以前の犬が老衰で亡くなった際引き取ってきた犬だ。
「アハハハ、タロと遊んでたら勉強会じゃなくなっちゃうわよ?」
「うん、勉強会とは関係なくたまにはヒロトの家に遊びに行こうかな。」
春休み中うちの家庭菜園によく来てくれたしそれなら僕もね。
楽しい昼休みを過ごして残りの授業を消化し放課後になった。今日は金曜日。明日以降の土日の園芸部の活動については水やりのみで、週ごとに持ち回りで行うらしい。
部室に顔を出すと吉野先輩に、こないだ合コンで不在になったと思われる二年生の3人がいた。
3人組ね、僕はもう3人組の女の子という記号に警戒心を覚えている。
変態じゃありませんように。
僕らの姿を認めた3人が近づいてきた。
1人はストレートの髪を肩口で切り揃えた中肉中背の清純そうな女の子。クラスにいると あ、いいなとときめいてしまいそうなタイプだ。
2人目は三つ編みに眼鏡で痩せていて文学少女といった感じの女の子。
3人目は僕が男の子だった頃と同じぐらいの低い背丈で髪をツインテールにしている。無邪気そうな女の子だ。
それぞれなかなかの美少女だけど積極的に合コンに行くようなタイプには見えないけどなあ。
「ちょっと吉野先輩!新入部員ってもしかして噂の妖精さんだったの!知っていれば合コンキャンセルしたのに。妖精さんを独り占めしたんですね!ずるいですよ!結局合コンに例のイケメン男子来なかったし!」
ストレートの先輩が言った。
「それよりも妖精さんに私たちの名前を覚えてもらうのが先じゃない?」三つ編みの先輩が指摘した。
「じゃあ恵那からね♪わたしは日森恵那!先輩だけど気軽に恵那って呼んでね♪趣味は男の子に貢がせることだよ♪」
ツインテールの先輩が自己紹介した。
ん?
「私は竹井文香よ。よろしくね妖精さん。趣味は旦那シーフよ。」
こたらは三つ編みの先輩。
んん?
「最後に私ね。佐々木美波。趣味は男漁りよ。」
んんん?この人たち顔と趣味に著しいギャップを感じるぞ!
「えっと妖精ではないんですけど、小原千秋といいます。よろしくお願いします。先輩方。」
「私は千秋の幼馴染みの清水加奈子です。よろしくお願いします。それと千秋へのセクハラは私が許しませんので。胆に命じていただきたく。」
加奈子ちゃんがこれまでにしたことのない釘を先輩たちに刺した。
「おおう♪千秋ちゃん愛されてるねえ♪」
「私異性愛者ですけどなんだか旦那シーフの血が騒ぎますわ。」
「噂通りすっごい可愛いね千秋ちゃん!これならどんな男の子もATMだよ♪」
またも僕は個性的な3人組に囲まれることになるのであった。




