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番外?

しょうせ

日曜の朝、軽い朝食を終えた僕はパジャマからジャージに着替え、家庭菜園での作業に精を出していた。

(領地)の視察に熱心な()がしばらく不在だったのだ。

野菜()を不安にさせることは僕の望むところではない。

民よ王の凱旋だ。え、今は女王陛下じゃないのかって?ハハハ、こやつめ。

僕は不敬罪を働いたトマトの苗木の枝を剪定(処刑)した。

「ふぅ」

少し休憩でも入れるかなと思っていたところで、シロネコの配達員さんが玄関の前でチャイムを押そうとしているのが見えた。

せっかくなので声をかけることにした。

「御苦労様です。荷物ですか?」

急に声をかけられたことにビックリしたのか配達員のお兄さんはダンボールを落としそうになる。

すんでのところでダンボールをキャッチしたお兄さんは頭を下げた。

僕の珍しい髪色もあいまって2重に驚かせてしまったようだ。申し訳ない。

「は、はい小原様のお宅でよろしいでしょうか?」

「ええ、そうです。」

「お荷物ジュオンモールさんから……では、サインをいただけますか?

はい、確かに。」

「ありがとうございました♪」

お兄さんに謝意を示すのも含めて笑顔でお礼を言った。

「で、では…」

次の配送に戻ろうとする配達員さんの背中を見て、僕はこないだテレビのドキュメンタリーで配送業界の過酷な実態を見たことを思い出した。

母さんの話では特に多忙な配達員さんは異世界への運送業もしてるんだとか。

異世界って何の比喩なんだろうかと母さんに聞いてみたが僕には教えてはくれなかった。

とにかく大変なんだな……思いきって僕は声をかけることにした。

「あ、あの…」

お兄さんが振り返る。

「お仕事無理なさらないでくださいね。」

お兄さんは帽子をとって深々と一礼した。

そしてスキップでもせんばかりの勢いでトラックに戻っていく。

うん、あの様子なら彼は大丈夫そうだ。


とりあえずダンボールの送り状に目を通してみる。

ええと、ジュオンモール1F衣料品売り場から小原千秋様宛。

僕の荷物か。

こないだジュオンに行った時に制服の採寸をしたんだっけ。

僕はダンボールを抱えて玄関に入った。

リビングでコーヒーをすすっていた父さんと母さんがこっちを見る。

夏美は不在だ。

恐らくベッドの中だろう。あいつは朝は弱いのだ。


「あら、荷物来てたの?」

「うん。多分中身は制服かな。」

ガムテープをはがして中身をあらためる。

思っていた通りのものが入っていた。

僕が合格した三春市立南高校のものだ。

制服は男女ともに濃紺のブレザーで特に独特なデザインではない。ごく普通のものだ。


「念のため試着してきたら?登校初日にサイズが合わないって言われても私は知らないわよ。そして母さんはこの場での生着替えを要求するわ!」


変態の意見に耳を貸す気はないが、サイズについては万が一のこともあるので僕は制服を抱えて自室に向かった。

ジャージを脱いでワイシャツに袖を通し、スカートを履き、最後にジャケットを羽織る。

うん、問題ないみたいだ。

成長する可能性を考慮してか多少の余裕もある。

ちなみに中学の頃来てた学ランはダブついたまま卒業式を迎えました。

卒業してから着られなくなるほど背が伸びるとは思わなかったけどね!

さて、後はネクタイだな。

ワンタッチ式の簡単なものがあるらしいんだけど、

三春のネクタイは結ぶタイプだ。

ネクタイを結んだことのない僕はとりあえずスマホで結び方を検索してみることにした。

イラスト付きの結び方が出てきたので、それを参考にして結んでみる。


30分後……

僕は自身の不器用さを呪った。

呪われた強化の結晶石[6]が目からあふれそうだ。存在しないはずの雫型が出そう…

四苦八苦していると廊下から父さんが鼻歌を歌って歩いているのが耳に届いた。

僕の中に一筋の光明が差す。

そうだ!父さんなら毎日のようにネクタイをしているから結び方を教えてくれるかも!

部屋のドアを開けて父さんに声をかけてみる。


「父さん。」

「どうした?千秋。おお!制服よく似合ってるぞ。」

「ありがとう。その、ネクタイの結び方、調べてもうまくできなくて……教えてくれない?」


息子に頼られたことが嬉しかったのか父さんは胸を叩いて快諾した。

父さんがまず僕の方のネクタイを結んでくれる。

さすが毎日のように結んでいるだけあって淀みなく綺麗だ。

そうして父さんの方でも結んで見せてくれた。

何回かそうしたことを繰り返して僕はコツを掴んできた。


「うーん、もう一回!」

「ああ、できるまで付き合ってやるぞ。」


父さんが皺になるのを配慮してか僕のネクタイに手をかけてほどいてくれた。

しゅるしゅるという音がする。


そこにパシャリとシャッター音が鳴った。

音源に視線を向けると、ドアの隙間から夏美が体を割り込ませてスマホのレンズを向けていた。

夏美は満面の笑みを浮かべ、大スクープをゲットしたパパラッチのようなガッツポーズをしてリビングの母さんの方へ走って行った。

父さんが血相を変えて夏美を追いかける。

「待ちなさい夏美!!」

「おかあさーーん!」

僕も父さんに続いて母さんの所に向かう。

母さんは夏美のスマホの画面を覗きこんでいる。

「なるほど。ベッドの前で向かい合って女子高生のネクタイをほどく中年のおじさんね……これをお巡りさんが見たらなんて言うかしら?」

「母さん!違うんだこれは!」

有罪(ギルティ)よ」

「今110番されるのと今夜絞られるのどっちがいいかしら?」

「そんな!明日は早朝から会議が……」

「どっち?」

母さんは有無を言わせない剣幕だ。

父さんはしゅんとうなだれて、「がんばらせていただきます。」と母さんに頭を下げた。


「お兄ちゃん。」

夏美が僕の二の腕をつつく。

「アタシ達に弟か妹ができるかもしれないね♪」

「え、なんで?」

「さあね。」

夏美はニヤニヤして僕のを問いをはぐらかした。



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