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あと2日で、3巻発売です!お楽しみに〜。
店に戻ったアマーリエは、回収していた自家製マヨネーズの瓶を浄化し、今度はガラス屋に持っていく。
「すみませーん」
「おう!パン屋さんいらっしゃい!」
「瓶を注文しにきたんですが」
アマーリエはマヨネーズの瓶の再利用として、少し小さくしてジャム用の瓶に変えてもらうことにしたのだ。アイテムバッグから、瓶を取り出して事情を説明する。
「ふむ、それじゃ納期は早めのほうが良いだろうな」
アマーリエから話を聞いたガラス屋の親爺は、鍛冶屋に瓶の蓋の発注も決めて注文をまとめ始める。
「そりゃ、できれば早いほうが良いですけど。あんまり無理しないでくださいよ」
「なる早、三日でなんとかしよう」
「え、良いんですか?」
「でなきゃ、ジャムが手に入らんだろ?瓶がなきゃ売れんのだから」
「そりゃそうですけど」
親爺のはりきり具合に首を傾げるアマーリエ。
「注文分じゃ足りんのはよくわかった。任せとけ、ガラスの材料は多めに注文しておく」
魔法瓶や魔法マグの話を魔道具屋の職人から聞いて知っている、ガラス職人でもある店の親父。アマーリエの二百個の注文程度ではすぐ足りなくなると見越す。
「え?足りなくなりますかね?食べ終わった瓶の回収もするつもりなんですけど」
「パン屋さん、一家に一瓶のつもりか?甘い。村の住人は千人程度だが、冒険者も居るし、村の外にもジャムは出ると思うぞ」
「ありゃ」
「それにだ、今、自家製カレー粉用に、小口で瓶の注文が増えてんだ。当たり前だがポーションの瓶の生産もある。ジャムも自分ちで作れるんだろ?」
「できますね」
「そうなったら、職人の手が足りなくなる可能性もある。パン屋さんは先に瓶を確保しといたほうが良い」
「……わかりました。追加で千個とか?」
「それぐらいは必要だと思うぞ」
「見積もりが甘かったかなぁ?街じゃ、マヨネーズもちょっとずつしか売れなかったから、瓶の心配なんてしなかったしなぁ」
そもそも、ガラス職人の数も領都と村では違いすぎる。それに領都の場合、口コミで広がるにしても、村ほど早いわけではない。顔見知りの範囲が狭いからだ。
「マヨネーズ!あれはいいな!うちのチビ達も野菜をよく食うようになった。そういや、そっちの瓶はどうしてんだ?」
「回収して、街の契約してるガラス屋さんに戻す予定だったんですけど、ジャムの瓶が急遽必要になったから、素材込みのが良いかと思って」
そう言って、手渡したガラス瓶を指差すアマーリエ。マヨネーズの方は、実家の方から仕入れて空き瓶は戻すことになっていたのだ。
「何だ、こいつはマヨネーズの瓶だったのか」
「マヨネーズの瓶だと、大きすぎるかなーって」
「ふむ。小さくなりゃ、個数は稼げるな。ありものの型吹きでいいか?」
瓶を手にとって、アマーリエに確認する親爺。
「あ、はい。けど、ジャムの減りが早くなるなら、回転が早くなっちゃいますよね?」
「その可能性はあるな。甘いものは、まだまだ珍しい方だからな。うちの村でも」
「うーん悩むなぁ」
「あんまり大きすぎても、蓋を開けちまったら中身が傷むのが早くなるだろう?食べきるのに時間がかかるよりはいいんじゃないか?」
「そうなんですよね。アイテムバッグって、村の人は?」
「魔物の暴走のときの緊急避難用に、一家に一つだ」
「一応あるんだ」
「そりゃな。職人の村だし、皆それなりに金はある。けど、生活用じゃねーんだよ」
「あ、そうか。余分なもの入れられないか」
「おうよ」
「じゃあ、瓶の大きさは注文のままでいいか。数の方は、最悪、足りなさそうだったら、街のガラス屋さんにも頼むしかないか」
「その腹づもりはしといたほうが良い。申し訳ないが村の中の職人だけじゃ、回せなくなる可能性がある」
「わかりました。とりあえず、急ぎ二百で、残りの千個はできた順に」
「おう、それでいこう」
親爺は一つ頷いて、注文書を仕上げていく。
「じゃあ、三日後にシルヴァンに取りに行かせますね」
「シルヴァンにか?」
「ええ。冒険者登録してるんですけど、階級審査のために依頼をこなす必要があるので、配達依頼をね」
「なるほどな!ならウチも頼もうか?薬師のところにポーションの瓶を届けてもらえたら助かるんだが」
「見習いさん達の仕事に支障をきたしませんか?顧客の話を聞くのも仕事のうちですよね?ただ注文を受けた瓶を運ぶだけじゃないですよね?」
「う、そうだった。ついシルヴァンに会えるならと思っちまった」
ここにもモフモフスキーが居たかとアマーリエがつぶやく。
職人の場合、顧客の要望や顧客の仕事の内容を聞くのも仕事のうちである。例え愚痴であってもだ。
そこにある不便を解消すべく、実地で見て聞いて何ができるか考えるからこそ。顧客のニーズに合った、いい商品が生まれるのだ。職人は職人であって、芸術家ではないのだ。
「あーっと、見習いさんの助手で運ぶの手伝うのはありですか?」
「お!シルヴァンで、釣るんだな!それなら、うちの見習い達も喜んで配達やりそうだな。ガラスを作るだけが仕事じゃねーんだが、配達は嫌がるからなぁ」
「本当は、自分達でどの仕事も自分の糧になるって気がつけば一番いいんですけどね」
「そこに気がつきゃ、一流の職人への道は始まったも同然なんだかな。なかなかそこにたどり着くまでがな」
「「難しいんだ」ですよね」
二人声を揃えてため息をつく。お互い顔を見合わせて苦笑を浮かべたあと、アマーリエは注文書の控えを受け取り、ガラスの素材購入用に前金を渡して店を出た。そのあとは、紙屋でラベル用の紙の注文を済ませる。
「さて、シルヴァンを迎えに行かないと」
アマーリエは、つぶやいてそのまま神殿に向かった。
「オンオンオン!」
『主!』
「迎えに来たよ〜」
「「「パン屋さ〜ん」」」
神殿前の広場で遊んでいたらしい村の子ども達が、シルヴァンと黒紅と一緒に駆け寄ってくる。なぜかグレゴールとネスキオが、背中合わせでぐったり座り込んでいる。
「はい、こんにちは。何して遊んでたの?」
「かくれんぼ!」
「へ〜、皆はねずみなの?」
「そう!」
『そうなのじゃ!』
「オン!」
「で、そこでへばってるのが猫?」
「「そう〜」」
アマーリエが声を掛けると、よれよれになった二人が声を上げる。
「なかなかやるね!(あの体力のありそうな二人がぐったりするまでやるとか、絶対混ざりたくない)」
顔をひきつらせて笑うアマーリエだった。
「パン屋さん!なんか面白い遊びない?」
「街でどんなことしてた?」
「一、二、三、お星様!(だるまさんがころんだ)かなぁ」
「それどうするの?」
「ええっとね」
アマーリエは子ども達に遊び方を教えて、アルギスと話があるからとそそくさとその場から離脱する。
「アルギスさ~ん?」
神殿の中に入っていき、中庭に居たアルギスに声を掛ける。
「ああ、来たね!食堂でお茶しながらでいいかい?」
「いいですよ〜」
「先に行っててくれる?」
「はーい」
アマーリエは、食堂に向かい、アルギスは自室に戻って、兄から託されたものを食堂に持っていく。
お茶をもらいに、アマーリエが厨房に入っていくと、魔女のお弟子さん達とファルが夕食の準備をしていた。皆に挨拶し、お茶をもらって食堂に戻るアマーリエ。
「おまたせ」
そう言うとアルギスは、持ってきた木の箱を机に置き、中から紙に包まれたものを取り出していく。
「?」
「陶器のお皿だよ、下町の窯のね」
首をかしげるアマーリエに、ニコニコ笑ってアルギスが中身を教える。
「おお!」
「兄上お抱えの陶工の物だと、リエが使いにくいだろうって、わざわざ下町で手に入れてくれたんだよ」
「そりゃそうですよ。あんちゃんお抱えとか、とてつもなく職人技が炸裂してそうで普段遣いなんてできないですよ、もったいなくて」
「一応、兄上の陶工は、国賓に贈る物を作ってるからね」
「でしょ?うちだったら、壊さないようにしまいこんじゃいますよ、そんな高価なもの。普段遣いしやすいもののほうが遠慮なく使えますから」
「ほら、開けてみて」
苦笑しながら、紙の包みの一つをアマーリエに渡すアルギス。
「わーい!では遠慮なく……おお!使いやすそう!」
手のひらサイズのココット皿のようなものを取り出して、遠慮なく皿の出来を確かめるアマーリエ。
「こっちはそれより大きな皿だね」
アルギスが取り出した皿を、アマーリエに手渡す。
「こっちの小さい方はプリンを作れますよ。ま、大きくても良いんですけどね。この大きな方はいろんなオーブン料理に使えそう」
「新しい料理ができる?」
「いろいろ種類は増えますよ」
「ふふふ、楽しみ。あ、お皿は追加注文できるから言ってね」
「おいくらですか?」
「ああ、兄上が代金を持つから、リエは気にしないで注文しなよ。わたしも世話になってるからそのお礼も兼ねてる」
「気にしなくっていいのに」
「心配しないで。兄上達の分のお皿もこちらに届くと思うから」
「はいぃ?兄上達の分?」
「うん、宰相補や武官達の分も送ってほしいんだって」
「緑青さん……。やっぱり、偉い人の贈り物には罠がいっぱい」
「ま、諦めて。その分いっぱい、お皿注文して構わないから」
「それはそれで下町の陶工さんが大変になるような?付け届けしたほうがいいのか?」
「うーん、気にしなくてもいいと思うけど、甘いパンとかつけてあげたら喜ぶんじゃないかな?」
「そうします。あと、この大きい方より更に大きなお皿ってできますかね?」
「大きさを言ってくれれば、書いて注文出すよ。無理なら無理って言ってくると思うよ」
「ふむふむ、では……」
遠慮なく、皿の注文をしたアマーリエであった。
作中の「1,2,3,お星様!」はイタリアのだるまさんがころんだの掛け声です。ちなみにうちの実家の方は「坊さんが屁をこいた」という、ある意味実社会向きの鍛錬(笑っちゃいけない場面でぐっと堪える練習)のような掛け声でありました。皆さんはどんな掛け声でした?




