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 新商品と昨日のパン屋の急な休みのせいで、一日大賑わいだったアマーリエのパン屋。ちょっと、ぐったりしているブリギッテ達を見送った後、アマーリエは冒険者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドは宴会の翌日だからか、酒場の方でのんびり過ごす冒険者の姿がいつもより多く見られた。

 気安い冒険者が、アマーリエに挨拶を投げてよこすのに、彼女もニカッと笑って応える。

 そして、そのまま依頼受付係のミルフィリアがいる窓口に行く。

「ミルフィリアさん、こんにちは」

「あ、いらっしゃい、パン屋さん」

「昨日の宴会のせいですか?」

 視線を酒場の方に向けて言うアマーリエに、ミルフィリアが吹き出しそうな口元を抑えて頷く。

「ええ。それに、漆黒様が上級魔物の素材を沢山納品してくださいましたから、冒険者の方達も装備の新調やら補強やらでダンジョン攻略をお休みの方が多いんですよ」

「今日店に来た職人のおじさん達も、質のいい素材が大量に手に入ったから、下準備に大忙しだって嬉しそうに話してましたねぇ」

「ええ。今年は、色んな理由でここに来たいと許可を求める冒険者が増えそうです」

「あー、確かに」

「ですが、辰砂様はご懐妊中ですし、生半可な冒険者では許可が降りないでしょうね」

「何かやらかしたら、村ごと無くなりそうですもんね」

「ええ。でもそうなる前にバネッサ様が、始末つけそうですけどね」

 大真面目に頷くミルフィリアと身震いするアマーリエだった。

「それで、パン屋さん本日は?」

「えっとですね、採集依頼を出したいんですが」

「じゃあ、この依頼書に記入お願いします。何の採集を?」

「シルヴァンの階級審査用に近辺のベリー採集を頼もうかと」

「ああ、漆黒様達がいらっしゃって、うっかり頭からこぼれ落ちちゃってましたが、シルヴァンの階級審査がありましたねえ」

 バネッサから、一年以内にF〜Dクラスまでの審査を受けるように言われている、仮免Cクラスのシルヴァンであった。F〜Dクラスは、いわゆる冒険者見習いというもので、本式に冒険者を名乗れるようになるのはCクラスからなのだ。

 村の子ども達などは、薬草やら薪の採集など子どもにもできる仕事があるため、小遣い稼ぎと野外歩きを実地で学ぶのも兼ねて、冒険者見習いの依頼を受けていたりするのだ。

「そうなんですよ。パンの配達希望とかもあったら、シルヴァンで指名依頼しちゃおうかなーとか」

「じゃあ、うちも配達依頼をシルヴァンに指名で出そうかな」

「あんまりやると身内びいきのズルになんないか、そこが心配なんですけどね」

「なんなら、村の子ども達とパーティーでも組ませますか?配達依頼なら色んな所が頼みたいと思いますし。それに村の外での採集なら上級の冒険者の監督もつきますよ。最初のF〜Dクラスは村の子なら成人前に終わらせますから、シルヴァンならもっと早く終わりそうですね」

「親御さん達とシルヴァンに問題がなければ、それもありですかね」

「クスクス。親の方はむしろ、子守代わりにシルヴァンを頼りにしそうですよ。冒険者の人達が、神殿の訓練を見に来てる子ども達の子守を、シルヴァンがよくしてるって言ってましたよ」

「あれ?訓練?あの子何してんだ?」

「訓練の一環で、スキルを使った本気の隠れんぼだって、ダフネさんがおっしゃってますけどね」

「ブハッ。あれか!神殿内での隠れんぼ!子ども達に変なスキルが生えなきゃいいけど」

 なにげに隠れんぼをするというのは大事なことなのだ。鬼から自分を見えない位置に隠すという遊びは、客観的、俯瞰的に自分を見る訓練をしているようなものだからだ。小さな子供が隠れるのが下手なのは、自分を客観的に見るということが、まだまだ慣れないことだからだ。

 こういう実地の遊びを通して、「多面的に観る」を体験していくのである。

「うふふふ。どんなスキルでも使いようですから」

「ふむふむ。あ、後そうだ。個人的に米と鬱金の採集をお願いしたいんですよね」

「ふふっ、カレーライスの消費が増えそうですものね」

 昨日の漆黒達のカレーの食べっぷりを思い出して、ミルフィリアがにこやかに突っ込む。

「ハハハ」

 ミルフィリアの言葉に顔をひきつらせるアマーリエ。

「パン屋さんなら報酬はお金だけじゃなく、つり合いが取れていれば物品でも、お金と物品でも可ですよ。前回、報酬を携帯食にしたみたいに」

「そうですね!報酬は選択制にしてみようかな」

 聞くともなしに二人の会話を聞いていた冒険者達が色めき立つが、アマーリエは依頼書の記入に気を取られて、その様子をまるっきり見ていなかった。

 あれこれ考えながら、アマーリエは条件などを書き込んでいく。

「ベリー採集の方は……。子どもが一抱えできる程度のカゴの大きさって……?うーん、直径20ナーク、高さ10ナーク程度のカゴ一杯につき五百シリング、もしくは五百シリング相当のベリーのジャム一瓶。期限は、今日からベリーの時期が終わる頃まで……」

 アマーリエは、ベリーの種類ごとに仕分けされているとなおよしと注釈を書き入れる。鬱金と米の方はギルド依頼と同じ金額になるように量と価格を調整して書き込む。

「鬱金の方はおまけでカレーパン!米の方はライスカレーコロッケをおまけにしようっと」

 それぞれ、冒険者達に店でいつ売るのか聞かれる二つをおまけで付けることにしたアマーリエ。背後の冒険者達の目がマジになっていることには、まだまだ気がついていないようである。

「期間……ミルフィリアさん、どうしましょう?」

「依頼受領から1週間にしてみては?こういう依頼は、手持ちがある冒険者がついでで受けるものですし」

「なるほど、なるほど」

 ミルフィリアにうなずいて、アマーリエは期限を書き入れ、米の方は区画ごとに米を分けてほしいと注釈を入れる。

「これでお願いします」

 カウンターの上に依頼書を置いて、ミルフィリアに確認を取るアマーリエ。

「あら!甘い物好きがベリーを取り尽くしそうですね」

「はい?毎年、村の外もいっぱいベリー類がなってるって、ダリウスさんから聞きましたよ?今年はせっせとダリウスさんとファルさんとダフネさんが、暇を見つけては採ってると言ってましたけど、取りきるのは無理だなぁって」

「ふふふ、村の人達と冒険者を甘く見ちゃだめですよ」

 ジャムの瓶のところをトントンと指さして言うミルフィリアの笑顔に思わず、追加条件を書き込むアマーリエ。お一人様または一パーティ三回までと、依頼を受けられる上限を決める。

「それがいいですね。後は……こんな風に依頼を受けられる人数制限ですね。一日に三人または三パーティーまで受領可能にしますか」

「なるほどなるほど」

「みんな個人で受けそうですけど。なんにも上限入れないと、毎日依頼を果たそうとする人も出そうですから。薬草ならそれでもいいんですけどねぇ。いくらあっても困りませんから」

「ハハハハハー、聞いてよかった。パン屋がジャム屋になるところだった。あ、ジャム作りの助手も募集しちゃおうかなぁ」

「クスクス。そうした方が絶対いいですよ。それでベリーが終わったら、次は?」

「つ、次ですか?きのこにしようかな。山菜も欲しいですね。後は松の実とかくるみとか木の実系?」

 次の予定まで聞かれ、慌てて、欲しいものをひねり出すアマーリエ。

「ふむふむ。予告入れときますね。きっとベリー採集の時に、きのこが取れる場所や木の実が取れる場所の確認を採集者がすると思いますので」

「あ、なるほどね。この辺りは野生のりんごの木とか野ぶどうとかあるんですか?」

「梨の木もありますよ。近くの村じゃ栽培農家もありまして、手伝いをよく募集されてますよ」

「ほうほう」

「うちの村だと栽培農家に買い出しをお願いする依頼とかもありますよ」

「あ、それいいですね。うちも頼もう。今度の朝市で栽培農家を教えてもらいますよ。それで運搬依頼を出します」

「となると、馬車を持つ上級向けに依頼になりますね」

「ふむふむ。そうなると依頼料も上がりますね」

「パン屋さんの場合、特別なお菓子をおまけで付けたらみんなやると思いますけどね」

「あ、その手があったか。考えときます。とりあえず今日はこの依頼でお願いします」

「はい。ではこちらが依頼人控えです」

 ミルフィリアから、控えを受け取って店に戻ったアマーリエだった。

 二人の様子をこっそり見守っていた冒険者達が、アマーリエが帰った途端、依頼張り出し掲示板に依頼書が張り出されるのを虎視眈々と見張ってる。視線の熱量に掲示板が燃え上がりそうである。

「ちょっと皆さん!怖いですから落ち着いてくださいよね!」

「「「ぬ、わかった。でも気になるから早く頼む!」」」

 ベリー採集の依頼書の複製を多めに作っていたミルフィリアが窓口から、冒険者達を牽制する一幕がおこる。

「もう。ウコンの採集依頼は私の権限で窓口特別依頼にしちゃおうっと。掲示板に貼ったら大騒動だわ。ギルドのウコン依頼を達成したパーティーについでで受けてもらえばいいわ」

 このところのカレーブームもあって、冒険者もせっせと鬱金と米の採集を受けているのだ。カレーの会からも、たまに採集依頼があり、そちらの報酬はカレーの会開催日の特別参加券がおまけでつく。

 冒険者の方もカレー粉の調合依頼を出したり、カレー味の携帯食を頼む者も、徐々にではあるが増えてきている。

 商業ギルドの方では、鬱金以外の香辛料の注文を、他の支部や冒険者ギルドに発注しはじめた。入手ルートを増やし、どこかが何かでだめになっても、供給が止まらないようにと工夫しているのだ。

 アマーリエの知らないそこここで、カレー文化の種が蒔かれて、芽を出し始めている。

 そして、ダンジョン攻略の方の進捗は、浅層の探索のせいで遅れ気味になっているのだった。そのため、ダンジョンの主が暇を持て余して、結局ダンジョンの階層がさらに増えたり広くなっていくのである。

「ダンジョン村のパン屋さん3〜美味しい携帯食を作ろう編〜」2018年7月10日発売!

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