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 宴会を終えたアマーリエと人々は、片付けを明日にまわし、自宅が同じ方向の者同士連れだって帰っていく。

 アマーリエは寝てしまったシルヴァンを背中にしょって、神殿方向グループにまじる。役場の横の道を入り、裏手まで来たところで、同じく寝てしまった黒紅を抱っこした漆黒がアマーリエに声を掛ける。

「じゃあ、パン屋さん、明日また黒紅をよろしく頼む」

「あ、はい。こちらこそ。……ん?漆黒さん達のお家って?そういやどこに決まったんですか?」

「パン屋さんのお隣よ」

「黒紅が通いやすいようにと村長さんが便宜を図ってくれたよ」

 首をかしげるアマーリエに、パン屋の隣を指さして教える辰砂と成り行きを話す漆黒。

「サヨウデ。ヨロシクオネガイシマス?」

 頼もしすぎるお隣さんに、片言で挨拶をするアマーリエ。漆黒達がよろしくと答え、新しい我が家へと去っていった。

「古代竜達は、パン屋の隣に住むことになったのか。心強いな、リエ。誰も襲おうと思わないだろうな」

 珍しく、飲んでもしゃっきりしているベルンが、シルヴァンを起こさないようにしながらアマーリエの肩を叩く。

「ソウデスネー」

「うちの拠点の内装もそろそろ終わりそうだ。神殿暮らしも後少しだよ。それはそれで寂しくなる気はするが」

「ソウナンデスネー」

 ダリウスが感慨深げに話す様子に、頷き返すも頭の中真っ白アマーリエ。

「明日からは、黒紅様も一緒に訓練か」

「どんな訓練にしようね」

 少しばかり心配そうなグレゴールに、楽しげな西の魔女。

「あ!そうだ。シルヴァンは冒険者ギルドの階級試験のために、依頼を受けさせないとだめですから、そこも考慮してくださいね。えーっと、一番低い階級からだっけ?」

 別なことに意識を向けてアマーリエが再起動を図る。

「ああ、そうだったな」

「ならぁ、あんたがパンの配達とか始めたら良いんじゃないのぉ?パンの配達希望者でも募って、冒険者ギルドに配達の依頼を出せばいいのよぉ。立派な初級向け依頼よぉ」

「それいいですね!やってみよう。ダンジョンの採集依頼も個人的に出そーっと」

「ダンジョンはBクラス以上よ!庭の草引きや芝刈りの依頼でも出しなさい。初級の依頼なんだから、簡単なのでいいのよ」

「なるほど」

 マリエッタの言葉にうなずくアマーリエ。

「何だろ、シルヴァンが配達始めたら、他の人も配達依頼を出しそうな気がするのは?」

 話を聞いていたアルギスが、シルヴァンの配達姿を想像して、それ見たさに指名依頼を出す人が増えそうだと推測する。

「シルヴァンの配達姿かー。かわいいだろうなぁ。俺もお昼の配達依頼出そーっと」

「ネス?」

「アルもどうせ出すんだろー」

「グッ」

「どんな姿を想像してんのか知りませんけど、お二人とも程々でお願いしますよー」

 ネスキオとアルギス、似た者同士のモフモフスキーの会話に、軽めの釘を刺しておくアマーリエだった。

「「わかった」」

「ああ、あとは黒紅ちゃんを冒険者ギルドで登録しないとだめなんだっけ?」

「それは、古代竜達が村に住むことになったから住人登録に変更になったよ」

「え、西の魔女様、まじですか?」

「ああ。仮住まいと言ったところで、古代竜の思うちょっとと、我々の思うちょっとじゃ隔たりがありすぎてね」

「ああ〜それもそうかー」

「古代竜から鱗や爪、魔物の素材ももらってたし、村の職人さん達も新しい素材の加工で大忙しでしょうねぇ」

 マリエッタが宴会を振り返って、職人連中のハッチャケぶりが続くだろうと予想する。

「そうなったら、ちょっとはパン屋に専念できそうかな」

 このところのドタバタぶりを思い出し、少しぐらいは落ち着くかななどと平穏に思いを馳せるアマーリエ。

「リエは、自分で仕事を増やしすぎてるだけだろ」

「うぐぐっ」

「自重するんだな」

 ベルンの言葉に周りの人々が深くうなずいて同意し、がっくりうなだれたアマーリエであった。

「ああ。そうだ、リエ。昨日……」

「昨日?昨日もなんだかんだ大変でしたよね、アルギスさん。あんちゃんに会ったり。もう、うんと前のことのような気がする」

「だねぇ、昨日なんだよね。ほんとすごく、すごく前のことに思えるぐらい、今日も濃い一日だったねぇ」

 思わずしみじみする二人に、同意したり苦笑したりする周りの人々。

「それで昨日がどうしたんです?」

「ん、ああ。兄上からいいものをもらったんだよ。明日、シルヴァンを迎えに来た時に渡すね」

「はぁ、あんちゃんから良いものですか」

 帝国のやんごとなきお方からのいいものと聞いて、微妙な顔をするアマーリエ。

「うん。私がいろいろお世話になってるお礼も兼ねて」

「気にしなくていいのに。食の祭典の準備頑張っていただけたら、それで十分ですよー」

「そっちは、もう国家運営も絡むし、リエの手は離れちゃってるようなものだからね。兄上の手土産は、リエも気にいると思うから、遠慮しないでもらっときなよ」

「わかりました。明日、シルヴァンを迎えに行った時にいただきます」

 ちょうどパン屋の前にたどり着き、そのまま、また明日と皆に挨拶を済ませたアマーリエだった。



 翌日、夜も明けきらぬ頃には、すでに習慣になりつつある魔女の弟子達がパン屋の勝手口の戸を叩く。

「おはようございます。今日もご苦労さまです。二日酔いとか大丈夫ですか?」

「「「「おはようございます。飲む前に、ウコン飲まされたから!ヴァレーリオ様に!」」」」

「ああ、薬効見るためにですね」

「そう!」

「おかげかどうかわかんないけど、今日は二日酔いはないよ」

「すっきり目は覚めたね」

「お腹の辺りももったりした感じはないよ」

「そりゃ良かった。じゃ、今日から新しいパンを出そうと思うんで、定番のパンを任せていいですか?」

「「「「大丈夫!任せて!」」」」

「シルヴァン、サンドイッチの具は今日から芋サラダと蒸し鶏の二種類ね」

「オン!」

 アマーリエは担当を振り分け、今日から新商品を発売することにする。

「新商品か〜、楽しみ〜」

 魔女の弟子達も慣れた手付きで、定番のパンをこしらえ始める。要所要所で魔法を使いこなし、どんどんパンを焼いていく。

 そうこうするうちに夜が明け、パンの準備が整う。そして、アマーリエは、魔女の弟子達とシルヴァンに神殿組とお隣の朝食も込みで持たせ、訓練に送り出す。

「申し訳ないんだけど、隣に寄って朝食渡してくれる?で、黒紅ちゃんも訓練に連れて行ってほしいんだけど」

「オン!」

「わかりました〜」

魔女の弟子達とシルヴァンは隣に寄って、すでに起きていた漆黒に朝食を渡し、黒紅と一緒に訓練に行くことを伝える。

「やあ、わざわざありがとう。パン屋さんにもお礼を言っておかないと。黒紅ー!皆さんが迎えに来てくれたよ」

『おはようなのじゃ。今日からよろしくの!』

「広場の片付けを手伝ってから、神殿に行くけどいい?」

『妾も手伝うのじゃ!』

「黒紅!力加減をちゃんとするんだよ!皆、いってらっしゃい!」

『わかった!行ってくるのじゃ』

「「「「いってきます〜」」」」

「オン!」

 漆黒に見送られ、シルヴァン達は役場前の広場に行く。村の人に指示されながら宴会会場の片付けを手伝いはじめる。

 黒紅は気持ち身体を大きくして椅子運びを手伝い、シルヴァン達はあちこちで浄化魔法をかけていく。

 片付けが終わると、村の人から依頼終了書を手渡され、冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドで宴会の手伝い依頼終了を告げ、依頼料をもらったあと、神殿に向かう。

「ええ!?黒紅様がいらっしゃってたんですか!わたしもお会いしたかったのにー!」

 バネッサの発狂ぶりに、今度はちゃんと呼ぼうと冒険者ギルド内での内緒のルールができあがる。

 神殿では、すでにベルン達をはじめ、冒険者達がそれぞれの訓練の準備や訓練を始めていて、やってきたシルヴァン達を指導し始める。朝食は訓練が終わってから皆で揃ってとっている。


 一方パン屋の方は、アマーリエの朝食が終わる頃、いつもより少し遅れてブリギッテ達がやってくる。

「おはよ〜。昨日はいろいろ凄かったねぇ」

 ブリギッテ達と昨日の話で盛り上がりながら、開店準備を終えると店を開け、やってきた村の人を迎え入れる。

 やってきた村の人達も昨日のことや古代竜達のこと、自分達の仕事をいつも以上に賑やかに話しながらも、パン屋の新商品に目が釘付けになる。

「今日からのサンドイッチはじゃがいもとハムのサラダサンドと蒸し鶏ときゅうりのスパイシーサンドになります」

「新しい具だね!」

「蒸し鶏の方はカレー粉を使ってますよ」

「おお!それは聞き捨てならん!」

 カレーの会に所属する村人の一人が他の会員にも知らせねばと、そそくさとサンドイッチを購入して店を出ていく。

「こっちの新しいパンは?バターのいい香りがするけど、見た目が変わってるねぇ」

「クロワッサンといいます。パン生地にバターを練り込んだパンで、食感も変わってますよ。ぜひお試しください」

 試食用に切ったクロワッサンを、ブリギッテとアリッサが村の人達に勧める。

「サクッとした歯ごたえが面白いわ」

「美味しいわ」

「どれを買っていこうかしら。悩むわ」

「うーん、日常が戻ってきた気がする〜」

 村の人々の姿に、平穏な日々が戻ってきた実感を覚え、フィーっと息を吐き出すアマーリエ。

「あはは、アマーリエさんたら!」

 村の人と大笑いしながら、のんびりパン屋家業に励むアマーリエだった。

「ダンジョン村のパン屋さん3~美味しい携帯食を作ろう!編~」2018年7月10日発売!

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