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精霊が、村の結界を張り直すのを砦で待っていたアマーリエと銀の鷹。銀の鷹とシルヴァンの方は、騎士達の訓練に付き合うこととなった。
「よし!今日はかの有名な銀の鷹の方々が訓練を見てくれるぞ!お前たち!心して訓練に臨め!」
銀の鷹達から、物理職と魔法職関係なく省魔力の方法を習う騎士達。少ない魔力で最大限の効果を得られるよう、シルヴァンも見本を見せながら訓練している。
すでに、グゥエンから浄化魔法の見直しを言いつけられ、日々の中に鍛錬方法を取り込むよう言われていた騎士達は、銀の鷹達から更に独自の鍛錬法などを熱心に聞いている。
一方のアマーリエは、砦の厨房を任されているおっかさん達と一緒に食事の用意である。
膨大にある根菜類の皮むきに始まり、大量の汁物づくりに、メインの肉料理の調理。
「なんか料理スキルの派生スキルが生えちゃったし。何この【料理量産加速】って?」
昼食と夕食の準備を終えたアマーリエが、スキルの生える感触に首を傾げ、ボソリと言う。
「ああ、それかい?一定時間内に大量の料理をこしらえると生えるスキルだね。あたし達もみんな持ってるよ。それがないと、騎士様方の腹は満たせないからね!」
おっかさんの一人に説明を受け、変なスキルを生やしてしまったとがっくりうなだれるアマーリエであった。
ゲオルグ達が砦に戻って来ると、アマーリエは精霊と一緒に厨房の壁の修繕を終える。そして、銀の鷹の馬車で村へと帰るのであった。
ちなみに精霊は、何かあれば分体を村に送るとゲオルグに約束し、騎士達と一緒に砦にとどまることとなった。
そんなこんなで、やっと村に帰ってきたアマーリエ達が村の広場で見たのものはというと。
夕闇が迫る中、大量の魔物をさばくヒャッハーな村人達と冒険者達の姿であった。
「「「「「「……」」」」」」
ポカーンと口を開け絶句する銀の鷹達とゲオルグ主従。シルヴァンも毎度のごとく顎を落として、その光景に目を見張る。
「まあ!すごいわね。魔物の暴走の時でもこんなに大量の魔物は残らないのよ。解体スキル持ちがとどめを刺せないから。それに上級範囲魔法も使われて、ほとんど形が残らないのよ。最後の方に何頭か残った魔物を仕留められるぐらいなのに」
東の魔女が感嘆のため息を吐いて、アマーリエに教える。
「はぁ、そうなんですか。……(ブラッディ・パーティか、はたまたサバトか?)」
アマーリエの方は東の魔女に生返事をしながら、村人達の魔物をさばく様子に現実逃避した。
「あ!先々代様!」
「パン屋さん!」
「ベルンさん達!」
「「「「おかえりなさいーい」」」」
帰ってきた一行に気づいた村人が声をかけるも、大小様々な解体ナイフを持って振り向く様子に、さしもの一行も、思わず後ずさったのであった。
『大猟じゃな!父上か?』
パタパタと自前の羽で飛んで、自身の父親のところにいく黒紅。漆黒もまた、人の姿に変えて、村人と一緒に解体作業をやっていたのである。完全に、村に馴染んでいるようだった。
「黒紅、おかえり。今日は運が良くてな。何者かが大量に魔物を始末していて、私は持って帰ってくるだけですんだんだ」
『それは重畳でしたね!父上』
「いや、それってさ。今日、精霊の魔法を弾き返したせいなんじゃないの、黒紅ちゃん?魔の山に着弾してたよね?」
アマーリエの言葉に深くうなずくスケさんとカクさん。それを見て、黒紅が首を傾げる。
『あれ?妾達のせいか?主』
「間違いなく、私達のせいだと思うよ。魔物達もとばっちりだな。漆黒さん、山肌が凹んでませんでした?」
「凹んでいたな」
『ありゃ』
「「やっぱり」」
「まあ」
漆黒の言葉に、またやってしまったと焦る黒紅、目が虚ろになるスケさんとカクさん、精霊の威力に興奮する東の魔女であった。銀の鷹達は、魔の山のことは聞いていないので首を傾げている。ゲオルグの方はと言うと、すべてを受け入れた者の顔であった。
「あれ?魔物って、解体スキルを持ってる人がとどめ刺さないと、全部残らないって聞いてたんですけど」
旅の道中ベルン達から聞いた話を思い出して、アマーリエは銀の鷹達のほうを見る。
「ああ、そうだぞ。うちの場合は、グレゴールが持ってる。魔物の素材を余さずとる場合は、グレゴールがトドメを刺して解体するんだ」
「あれー?んじゃなんで魔の山の魔物は残ってるの?私はそんなスキル持ってないし、シルヴァンもないよね?」
「オン」
「黒紅ちゃんは持ってる?」
『父上しかまだ解体スキルは覚えておらぬぞ、主』
「あら、漆黒さん覚えたんだ。んじゃ、魔の山の魔物がそのまま残ってたのって、精霊さんが解体スキル持ってたってことになるんですけど。必然的に」
アマーリエの言葉に、スケさんとカクさんが確かにと頷く。
『呼んだ?』
突如現れた、精霊の分体に、その場にいた人々が驚きざわめく。
「呼んだつもりはなかったけど。まあ、いいや。精霊さんて解体スキル持ってるの?」
『持ってるよ!ジョルとガイが冒険の途中で飢え死にしそうになって、私が解体スキルと料理スキルを覚えたの!』
思いもよらぬところからのご先祖様の黒歴史披露に、がっくり来たゲオルグであった。
「へー、じゃあ、砦のおっかさん達と一緒に料理できるね」
初代の恥部を晒すのもどうかと、さっさと話を逸らすアマーリエ。
『やる!楽しそう!』
「それで、ガイってもしかしなくてもウチの初代国王様?」
『そう!皆が生き延びれるような国を作るって頑張ってた!』
「そっかぁ。おかげで、結構大きな国になってるよ」
『ほんと?』
「うん。今度の魔物の暴走が終わったら、大隠居様と一緒に国内旅行でもしてきたら?今までずっと、砦にこもってたんだしさ」
呼んでもないのにこう何度も精霊が現れるのも心臓に悪いと、精霊に遠く離れてもらうため、いいことを言ってるふりをして、ゲオルグを生贄にするアマーリエだった。
『それも楽しそう。ガイやジョル達が作った国を見て回るの!』
「ふむ。一緒にわしらと冒険するかの?」
『ウン!』
「「……」」
初代と同じように旅するのもいいかとうっかりアマーリエの提案に乗るゲオルグに、つきあわされることになるんだろうなと、ちょっと遠い目をしたスケさんとカクさんであった。
「お祖父様!それ精霊様ですよね!紹介!紹介してください!」
「私もです!」
まだ村に居残っていたウィルヘルムと仲良くなったアルギス、魔女達や弟子達が一緒にゲオルグのそばにすっ飛んでくる。
『あ。なんかガイにちょっぴり似たのとジョルにちょっと似たのが来た』
「へー、アルギスさんて、初代国王陛下の面影があるんだ。一応、祖は一緒だもんね。ご領主様は、まあ血筋だしねぇ」
「どのあたりがだろうか?精霊様!」
期待に満ち満ちたアルギスに、皆も固唾をのんで見守る。
『瞳の色?』
「「「「……(ほんとにちょっぴりだった)」」」」
「ということはウチの八代様とも、瞳の色が同じ!嬉しい」
何やら感極まっているアルギスに、首をかしげるアマーリエ達。それに気がついたアルギスが、聞いてもいないのに、帝国の八代皇帝がいかに素晴らしかったのかと歴史披露を始める。
そうこうしているうちに、解体し終えた村人達もゲオルグから、突如現れたレイスが領地を加護し、村の結界を維持している土の精霊の分体であるという話を聞いて、驚きの声を上げている。
「ご領主様!先々代様!古代竜様達と精霊様の歓迎会をしてはどうでしょう?」
アルバン村の村長がウィルヘルムとゲオルグに進言する。それに、村人達がいいぞと呼応する。
「わぁ、みんな落ち着いて。漆黒様達の希望も聞かなきゃ。皆が一緒に宴会を開いて、漆黒様たちを歓迎したいと申し出てるんですが、いかがですか?精霊様も?」
「構わないのか?」
『いいの?』
首をかしげる漆黒と精霊に、もちろんと村の衆から大きな声が上がる。
「こんなに歓迎されるのは初めてだ。では、解体した魔物の肉を使ってくれ。辰砂を迎えに行ってくる」
「おお!」
『私、準備手伝う!料理作るの久しぶり!』
「精霊様と一緒に料理!」
領地の守護者にして伝説、村をこれまで守り続けてきた結界の維持者との共同作業ということで大いに盛り上がる村の人々。そこに、古代竜から料理素材の提供を受けたものだから、俄然やる気に火をつけた村の職人達。
「「「「今すぐ最高の調理道具を用意するぞ!」」」」
そう叫んで、各々の職場に走っていく。
「では冒険者ギルドからの直接依頼です!宴の準備を手伝った冒険者には中級ポーションセットと一万シリングを報奨とします!受付は今から!」
「「「「流石、統括本部長!任せとけ!」」」」
バネッサの破格の依頼に我先にと冒険者が、冒険者ギルドの職員の前に集まりだす。
「んじゃ、私はパンを焼いて提供しよう」
「「「「何言ってんの!パン屋さん!あなたは私達と宴会の料理づくりよ!」」」」
その場を離脱しようとしたアマーリエは、携帯食を作っている村の高料理スキル保持者によって確保される。
「「「「シルヴァンちゃんもよ!精霊様も!ほらほら!アーロンさん!ミルフィリア!廉価版魔導コンロを全部借りるから準備して!」」」」
村のおっかさん達のパワーに押され、イエス・マム!とばかりに動き出すシルヴァン達。アーロンとミルフィリアを手伝って、広場に仮設調理場の設営を始める冒険者達。
食料品店の店主は店から食材や調味料を用意し、鍛冶職人達は鍋や包丁を持ってくる。子ども達は突如始まった大人達の大騒ぎに、驚きながらも一緒に騒ぎ始めるのであった。
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今後とも宜しくお願いいたします。




