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掲載するか迷いましたが、アマーリエの尻拭いに奔走する方々のお話を別章にしました。
アマーリエ達が砦でドタバタしている一方———。
ウィルヘルムは王都の屋敷にいる父親に相互通信機器で連絡を入れたあと、詳細をかいた手紙を簡易転送陣で送り、王と貴族の対処をお願いする。そして、ダールに連絡中継を頼み、ゲオルグと一緒に、アルバン村へ東と南の魔女の転移魔法で跳んだ。
一方、朝早くから息子の連絡を受けたフリードリヒは、密やかに王との面会許可を取ると、古代竜のアルバン村滞在許可を求めに登城した。ここでフリードリヒが危急と大騒ぎして、口さがない宮廷雀達に口撃のスキを与えるわけには行かないのだ。
「……黒紅様のご両親がアルバンにやってきた?滞在は断りようがないだろ?断れるやつが居るのか?居るなら勇者として取り立ててやらんこともないぞ?」
現在、古代竜と交渉したのがわかっているのはアーロンとアマーリエの二人だけ。ただしそれは、古代竜にとってはゴミ同然のものを向こうの欲しいものと交換しただけという、向こうが優位な、人からのお願いに近い。
今度の場合、相手の方がはるか昔から利用している場所?に人が村を作って、そこに娘が滞在?しちゃった。ちょうどいいから滞在させてね!なわけで、断るにしてもどう断ればいいのか皆目見当がつかない状況なのだ。断固拒否する理由もない。しかも拒否した結果どうなるのか、誰にもわからないのだ。
「許可を頂いたということでよろしいですね?」
寝ぼけ眼の王国のやんごとなきお方の軽口に、肩をすくめるフリードリヒ。
「ああ、許可するぞ。しかし、展開が早すぎて、わしはついていけぬのだが?」
さっさと思考を放棄し、結論を出した王国のやんごとなきお方である。その場に居た王太子も驚いてはいるが、若い分、ウィルヘルムと同じで古代竜が増えたことに興味のほうが先立っている。
「ダール、ウィルヘルムに陛下から許可を頂いたと伝えてくれ」
相互通信機を使って、ダールに指示を入れるフリードリヒ。
「なんだその便利そうな魔道具は?」
「離れている者と会話するための魔道具ですよ。登録できる人数に限りがありますので、誰とでも話せるわけではありませんがね。まだウチの領内だけです」
「わしには?」
「顔を合わせて話すだけで十分です。夜中に起こされるのはまっぴらごめんですので」
「わしがいつ夜中に起こした!」
「オヤ、記憶にないと?あれは確か……」
「まて!その話はするな!」
慌てて、フリードリヒの口を抑える王国のやんごとなきお方。どうやら息子に聞かせたくない話らしい。王太子の方は興味津々で二人を見つめるが、王国のやんごとなきお方は必死で聞くなと首を横に振っている。
「話を古代竜に戻しますが。陛下?わたくし、古代竜にお会いしてもいないのですが?陛下方は古代竜ともお会いしたんでしょ?しかも温泉まで行って!私なんてまだですよ!まったく!その上、【世界・食の祭典!第一回古代竜杯!古代竜の加護を得る料理人は誰だ!?】だぁ?なんです、その間抜けなお題は!聞いてませんよ!」
ほぼ息子と父親、王から、毎度事後報告を受け、他の貴族との調整をこなさなければいけないフリードリヒ。しかも今回は古代竜!誰にもどーにもできんわとふて寝したい気分であった。隠居したのに楽隠居じゃねーじゃねーかとはフリードリヒの愚痴である。
「いや、題名は、そなたのところのパン屋の娘のせいだろ。古代竜存在のための解決策として、食の祭典をやってほしいというのは昨日聞いたばかりで、今日、文官達とつめた上で発表する話で、まだ大枠しか決まっとらんわ。それに、そなたはわしと違って、もうとっくに隠居の身なのだから、いつでも温泉に行けるではないか」
「ええ、今すぐ他の奴らなんぞ放置して、妻と領地に戻りたいですね!いっそバルシュテインは独立しましょうか?」
面倒くさくなって、独立自治を目指そうかと王を脅す先代辺境伯に、慌てだす王国のやんごとなきお方。
「そ、それは待ってくれ!それは困る!」
「わかってますよ。こちららとて、独立は時期尚早ですしね」
「ちょ、本気で独立する気か?」
「せめて、私が王を退位してからにしてくださいね」
すかさず、守りに入った王太子であった。
「気に入らない王がたてば、そのつもりですよ。それは初代様の頃からずっと我々が言い続けてきたことです。殿下?貴方も見捨てられないよう頑張ることですね!」
「いや、まあ、そうなんだがな」
なにげに、代々の辺境伯、王に偉そうに文句が言えるだけの実績を重ねてきたようである。口ばっかりじゃ、辺境伯は務まらないのである。辺境伯の、独立したろか?は歴代の王達へのいましめである。
「ウィルとは仲良くしとこ」
二人のやり取りを見て、気を引き締め、ボソリと呟いた王太子であった。
「ゴホン、それで貴族達はどうする?」
「会いたいのなら、会ってもらいましょう、古代竜達に。別にうちの領地に居ていただかなければいけないわけじゃありません。こっちとしては、誰が竜の逆鱗に触れて、いつ領地が消し飛ぶかもしれないとヒヤヒヤ物ですからね。代わりに古代竜を受け入れてくれると言うなら大歓迎です。ダールの髪も守れますしね」
「……ダールは苦労が増えたみたいだな。あとでわしからも何か贈っておく」
若い頃フリードリヒとともにやんちゃして、ダールににこやかに諌められた王国のやんごとなきお方。フォローをしておくに越したことがないのは、身にしみてよくわかっていた。地味に仕返しされる方が、あとからのダメージがでかいからだ。
「ふん!まぁ、実際に古代竜を見て、自分達ではどうしようもない存在だと実感すれば黙るでしょう。王妃様が、黒紅様を王都に招待したそうですしね」
「え!?聞いとらんぞ」
「知りませんよ、後でご本人に確認してください」
「ぬう」
「母上いつの間に?」
「話を戻しますよ!アマーリエの【世界・食の祭典!第一回古代竜杯!古代竜の加護を得る料理人は誰だ!?】は少々マヌケなお題ですが、的を得てます。黒紅様のスキル判定紙とともに公開して、古代竜に会って、利益を得るためには平和的努力をするしかないと思い込ませるのが一番ですね」
「つまり、古代竜達が遊びに来たくなるような面白い領地に発展させろと?」
フリードリヒの意図を汲んで皇太子が言葉にする。
「ええ。どうせ古代竜を無理やりどうこうすることもできないし、アマーリエに何かあれば、やったやつの領地が消し飛ぶ可能性もあるとわからせればいいのです。美味しいものや古代竜の興味を引くものがあれば、向こうが勝手に来るんです。貴族達にはせっせと、食の祭典の準備のための努力をさせましょう」
「まあ、他の古代竜も、帝国の緑青様のように、人型でうろついてそうだしな。どの領地にも、古代竜が滞在する可能性はあるわけだ。いいか悪いかは別として」
知らずに古代竜を配下に持つことになった幼馴染の苦労に、ちょっと同情する王国のやんごとなきお方だった。
「ああ、そうでしたね、父上。羨ましいような、大変なような?なんともいえませんね」
王太子の方は、緑青にやり込められていた帝国のやんごとなきお方の姿を思い出して、首をかしげている。
「南の魔女様からの情報ですが、他にも二頭古代竜がいるのは確実なようですしね」
「なら、バルシュテインで古代竜の生態を研究してもらうというのを大義名分にしてしまいましょう。ある程度古代竜を把握して、安全に利益を得られる道筋を立てるためと言えば、他の貴族も納得するでしょう」
いつものごとく、バルシュテインに丸投げする王太子。それが無駄なく、他の領地にとって一番安全かつ平和だからだ。
「ええ。まったく!文句ばかり言う領地貴族には、最初の人柱になって欲しいもんですね。この苦労を味あわせてやりたい!」
アマーリエのやらかすことの調整で、毎度大変な目に遭うフリードリヒ。アマーリエに放浪グセや上昇志向があれば、よその領地や王も自分と同等に大変な目に合うはずなのにと、ちょっぴりどころでなく思っているのである。
「しょうがあるまい、パン屋の娘はそなた達の領地が落ち着くようなのだから。(古代竜も居心地がいいと思ったのであろうな)」
「アマーリエを陛下の料理番に、期間限定で取り立ててみませんか?」
問題児を押し付ける気満々のフリードリヒに、首を横に振る王国のやんごとなきお方。
「料理は捨てがたいが遠慮する。料理と菓子は簡易転送陣で直接、わしに送ってくれればそれでいい」
「そうおっしゃらず」
「あのな!わしは、民の意志に反することはせんからな!無理やり言うことを聞かせようなど恐ろしい!古代竜の威圧さえ、カエルの面に小便と流すような肝の太い娘だぞ?仕返しに何をされるかわからんではないか!会ってみてようわかったぞ、あのパン屋の娘。正面切って反抗なんぞしやせん!刺し違えようなんてもってのほか!自分は安全圏にいて、仕返し相手が頼むから殺してくれと言いたくなるような搦め手で、やり込めに来る型の人間ではないか!」
王の手の者が、飼育不可!と報告を送ってきていたバルシュテイン領のパン屋の娘。実際にあってみたら飼育不可どころか、古代竜並みにとんでも生物だと実感した王国のやんごとなきお方であった。
「ええ、アマーリエがただの平民だなどと甘いことを考えてるバカにはアレの怖さがわからないようですがね」
人を見る目がありすぎる王と先代辺境伯。アマーリエのようなタイプを追い詰めたら碌でも無いことにしかならないとよくわかっているのである。
「とりあえず、食の祭典と古代竜は一緒の問題ということを文官達にも周知徹底させましょう。その上で食の祭典の計画を練りましょう」
アマーリエについてはウィルヘルムに丸投げと肚の中で決め、淡々と結論を述べる王太子。
「そなた、食の祭典の責任者として頼んだぞ」
「はい、父上、今後の世界情勢をも決める話ですから、しかと承りました」
自分の息子がしっかりしていることを、とても心強く思う王国のやんごとなきお方であった。その後は、アマーリエに王と直通の簡易転送陣を渡すかどうかというどうでもいいことで、大揉めに揉めた、王国のやんごとなきお方とフリードリヒであった。




