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おまたせしました。
瓦礫があらかた取り除かれた厨房に戻った、アマーリエ達。
『あ』
ゲオルグの肩に乗っていた精霊が、壁の大穴を見てアワアワし始める。
「……精霊さん、あの壁の向こうに居たんですよね?壁ぶち破るほど何にびっくりしたんです?(大方、村の結界が壊れたせいだろうけど)」
アマーリエがちゃっちゃと口火を切る。それにがっくりと肩を落として、答え始める精霊。
『いつもは何かあったら、ジョルの子孫達が眠っている私を起こしに来てくれるの』
精霊の言葉にぽんと手を打つゲオルグ。
「魔物の暴走の時の儀式はそのためじゃったのか!」
「儀式とかあったんだ。……ん?大隠居様、ご先祖様から詳細伝わってないんですか?」
「魔物の暴走の時のみ精霊の力を借りるようにとしか伝わっとらん」
いたって真面目な顔で大雑把な説明するゲオルグに、肩をすくめるアマーリエ。
「ざっくりですね。んーでも、初代様きっと、無闇矢鱈、精霊に頼って人が駄目にならないようにしたんでしょうね」
「おそらく。わしでもそうするじゃろうな」
何でもかんでも精霊頼みになって、自分達でどうにかする力をつけなくなっては、生き残れないと初代辺境伯が考えたのだろうと推測するアマーリエにゲオルグも同意する。
『ジョルに、人の力が足りないときに、助けてやってくれって頼まれたの。村の方は、要だから守ってやってくれって。だから、私が目を覚ますのは、人じゃどうしようもない大きなことがあった時だけって言う約束なの』
「なるほどの」
『でもね、ちょっと前に、村の結界に穴が空いた時に少しだけ目が覚めちゃったの。騎士に警報鳴らして、村の危機を教えて』
「え、あ、もしかしてあんちゃんが村に来た時か?」
顔をひきつらせながら、アマーリエが思い当たることを口に出す。ゲオルグとスケさん達は、思わず、やっぱりお前かと、アマーリエに視線をやってしまう。
『結界もすぐ元に戻ったし、騎士達も出動しないようだったから大丈夫だとは思ったんだけど、ちょっと心配だったから仮初の姿を村に送って、村の中を見回ったの。久しぶりに目が覚めたし』
「……村に出るだけのレイスって、精霊さんだったのか」
想定外の事象の原因が自分にもあると知って、がっくりするアマーリエ。
『?』
「あ、なんでもない、なんでもない。それで?」
『大丈夫そうだったから、また寝たの』
「うんうん」
『そしたら、今度は古代竜に結界壊されたから、完全に目が覚めてちゃって。慌てて騎士達に警報鳴らしたあと、結界張り直そうとしたら、張り直せなくなっちゃって、私の、私の存在意義が……ウワーン、いらない子になっちゃった!』
またもや、揺れ始めた砦に、ゲオルグ達が慌てて精霊の機嫌をとりにかかる。
「大丈夫じゃ、精霊様にはまだまだ守ってもらわねばならんから!ここの領地は、精霊様の存在あってのことじゃから!」
「居てくださって本当に助かってますから!ね!泣かないでください」
「アマーリエ、お前もなんとか言え」
「なんとか」
焦るノールを、反射的に茶化しにかかるアマーリエ。
「「「「アマーリエ?」」」」
「つい、習慣で。精霊さん、泣かないでください。守らなきゃいけない人達が困ってますよ」
『う、うう』
「結界が張り直せなくて驚いたんですね?それで、慌てて壁ぶちやぶちゃったんですか?」
ズズーッと鼻をすすり上げて、必死に涙をこらえる精霊に、アマーリエは話の続きを促す。
『……今までになかったことだから、驚いちゃって部屋から出ちゃったの。何度も結界張り直そうとして直せないから、慌てふためいたら力が暴走しはじめて、わけがわからなくなって泣いちゃったの』
「砦で起きたアレヤコレヤは、うちの領地の守護精霊様のせいだったのか」
ボソリともらして、ぐったりと肩を落とすノールに、背中を軽くたたいて慰めるグゥエンだった。
「まあ、大変だったのねぇ。契約なのに、護りたい者が守れないって焦ってしまったのね」
『そうなの』
東の魔女が精霊を慰める。
「「「「「……」」」」」
ゲオルグを始め騎士達は、ジーッとアマーリエの方を見る。
「元凶、私ってことですか?ここまでくると、もうどうしようもないというか、いつも以上に想定外なんですけど」
「じゃの」
「だな」
いつものことに盛大に溜息をおとす、ゲオルグと騎士達。バタフライ効果ならぬアマーリエ効果によって、今回もがっつりとばっちりを受けた騎士達であった。
「ゴホン。それで、精霊さん結界どうする?古代竜さん達に一回結界解いてもらって、精霊さんが結界張り直して、さらにその上からまた古代竜さんに結界張ってもらおうか?結界が頑丈な方が村の人も喜ぶんだけど」
アマーリエの言葉に、考え始める精霊。
『うーん、古代竜達の結界の上から張ることにする。そうしないと、何かあった時に真っ先に騎士達に警報出せないし、間に合わなくて皆を守れないのは怖い』
「そりゃそうだ。んと、結界の範囲と位置が変わるから、どっか修正しないとだめだったりするの?」
アマーリエが、奥の魔法陣を指差すと精霊が頷いて言う。
『一度村まで行って、結界見ながら張り直して、こっちの魔法陣とのつながりを修正したい』
「うむ、わかった。では、壁の穴はとりあえずそのままじゃ。精霊様は一緒に村に行こうかの」
精霊の言葉に、さっさと予定を立てるゲオルグ。
『ウン』
「アマーリエは、最後にこの壁直すの手伝うんじゃぞ」
「えー、穴塞いじゃうんですか?(面倒くさい)もういっそ精霊さんも、起きちゃってていいんじゃないかなぁ。もうそろそろ魔物の暴走ですよね?」
「魔法陣を悪意のある人間から守るためじゃ」
「あーそうか。……石がなぁ、瓦礫片付けちゃったし」
石が足りるかどうかで、首を傾げるアマーリエ。
『石出そうか?』
「お願いしますー」
「では、騎士達にも精霊様を紹介しようかの。精霊様に甘えぬようにも言うておかねばなるまいて」
そういって、ゲオルグは騎士達を修練場に集めるように砦の司令に指示し、騎士達と修練場に向かう。アマーリエも黒紅を抱っこして、その後ろをトボトボついていく。
騎士達はゲオルグから事の次第の説明を受けたあと、一生のうちに見ることが出来るかどうかという存在の精霊と黒紅を紹介され盛り上がる。銀の鷹達も、見たことのない精霊に驚いている。
『いっぱい驚かせてごめんね』
「ほんとご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」
『妾の両親のうっかりで、迷惑かけたな。すまぬ』
騎士達に謝った、精霊とアマーリエと黒紅であった。騎士達はアマーリエに貸しだからなとツッコミを入れ、黒紅と精霊には気にするなと手を振って応える。
「チェッ、みんな強者にはおもねるんだもんな」
『守護精霊様がすねて、また砦が揺れたり、古代竜様に暴れられて砦がなくなったら困るのは俺達なんだ!リエは自重しろ!』
ぶすっともらしたアマーリエの言葉を拾ったノールが、念話でアマーリエをたしなめる。
「それとじゃ、アルバン村に黒紅様のご家族がしばらく住むことになったからの」
「「「「はいー?」」」」
ゲオルグの言葉に耳を疑う騎士達。
「ちーっとばっかし、過剰防衛になりそうじゃから、そなた達、村に何かあったら、古代竜様達が行動起こす前にすぐさま向かうようにの」
「はっ!」
なんの因果か、騎士達は機動力を上げることも要求されることとなったのである。
村の結界は精霊が結界を張り直し、四重の防御結界となり、攻撃したほうが完全に自滅するレベルにまで引き上げられる。
そして精霊は、古代竜達がそそのかしたせいで、起きたまま砦で騎士達の訓練を手伝うこととなった。これ以降、土属性の魔法に攻め立てられる、騎士達と訓練有志参加の冒険者達の姿が、砦の外で見られるようになる。
こうして、夏前に起こった村のお化け騒動は幕を閉じたのであった。
咳だけがまだ抜け切らないんですよね。このところまた寒かったりしましたし。温度調整が難しい。皆さんも、お身体お大事にね。




