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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第20章 すねた子の機嫌を治すのは大変なんです
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 アマーリエの米の炊き方レクチャーが終わる頃、ゲオルグが東の魔女とともに砦にやってきた。気になったアマーリエとシルヴァンも東の魔女のそばにいって、ゲオルグ達の様子をうかがう。

「ゲオルグ様!」

「何があった?」

 司令官から詳細説明を受けながら厨房に向かうゲオルグ。東の魔女やスケさんとカクさんと一緒にアマーリエとシルヴァンもその後を追う。

 砦は中央を鍛錬場とするロの字型の石造り建物で、中央にある中庭兼鍛錬場から、庭沿いの外通路をアマーリエ達は小走りに厨房へと向かう。

「ノール、厨房の様子をゲオルグ様に」

「はっ!本日早朝のことなのですが、突如厨房の壁が崩れました。その倒壊に壁側にあったパン焼き竈も普通の竈も巻き込まれまして使えなくなっています。食事が作れない状況でしてたが、これはアマーリエ達が、先程仮設厨房を設営しましたので問題は解消しています。」

「ふむ」

「そして、その壁の崩れた奥に部屋がありまして……」

「え?構造がおかしくないですか?竈の奥って煙突ですよね?そのまま外壁になってるはずじゃ?」

「ああ。そのはずだったんだ。壁が崩れるまではな」

 思わず足を止めて突っ込んだアマーリエに、ノールが苦い顔で応え、そのまま立ち止まって報告を続ける。

「出入り口のない部屋で、魔法によって隠されていた隠し部屋かと思われます。そこに起動したままの大きな魔方陣があります。魔法騎士達が解析した結果、この村の結界と連動しているようなのですが、詳細がわからず、今から砦にある古い文献を調べることになっています。こちらの件をゲオルグ様に確認せねばと」

「なるほどの」

「まぁ!魔法陣ですか?気になりますわ」

 魔法陣と聞いて食いついてきた東の魔女に苦笑を浮かべるゲオルグ。

「まず、ではその魔法陣とやらを見なければならんの。騎士達の食事の方じゃが」

 言葉を切ってゲオルグがアマーリエを見る。

「料理人さん達と話して、村役場で備蓄してたパンを砦で購入してもらうって話になりました。許可お願いしますね」

「ウム、問題ない」

「後は、竈が直るまで米でしのいでもらって、どうしても米がだめな人の分だけ、うちで少量だけパンの注文を受けることにしました」

「助かる、アマーリエ」

「いえ、いつも色々お世話になってますから、これぐらいはやらないと」

 アマーリエの殊勝な言葉に、ノールがウンウンと大きく頷いている。

「では、この泣き声の元を探す者と、厨房の瓦礫撤去作業及び修繕を行う者とに班分けし、すぐさま事にあたるんじゃ」

「「「はっ!」」」

 ゲオルグの命令に従って、騎士達が動き始める。アマーリエとシルヴァンは、厨房に向かうゲオルグの後ろにくっついていく。

 西側にある食堂から厨房に入ると、そこには大きく穴の空いた壁の奥に別の部屋があった。

「こりゃひどいの。確かにこれではしばらくここは使えんじゃろうな」

「あの~、ちょっといいですか?」

「なんじゃ、アマーリエ?」

「魔力が多い方なら精密な視覚の魔力察知で、異質な魔力の特定ってできませんか?今、わたし、視覚で魔力感知使ってみたんです。古代竜ほど濃い魔力じゃないですが、なんか砦全体がモヤ〜ってしてるんですよ。精度が高ければもうちょっと魔力の濃度がわかりやすくなるかなーと」

「あら、そうね!私がやってみましょう」

 いそいそと東の魔女が目に魔力を集め、魔力を見始める。

「あらあら、ほんとに砦を不思議な魔力が覆っていますわね。だいぶ濃い部分があちらの方なのがわかるぐらいね」

 そう言って、ロの字型の砦の北側にある塔の一つを指差す東の魔女。

「あの塔ですか。早速調べましょう」

 カクさんが頷いて、そばにいたグゥエン達を呼び寄せる。

「私、魔法陣を見てきてもよろしいかしら?」

「ああ、見に行こう。アマーリエはここで待機じゃ」

 そういうとゲオルグは、東の魔女とスケルヴァンを連れて、壊れた壁の奥の部屋へと入る。

「キュウ」

「ん、何?どうした?」

 砦に来たときから、クンクンとあたりの匂いを嗅いでいたシルヴァンがアマーリエを呼ぶ。念話でプリンの画像がアマーリエに届く。

「え!?」

「どうした?アマーリエ?」

 側にいたカクさんがいきなり驚いたアマーリエに声をかける。

「や、ちょっとシルヴァンが何か嗅ぎ分けたっぽいんですけど……ちょっと待って下さい」

 慌てて、アマーリエはシルヴァンに念話を飛ばす。

『シルヴァン。プリンて?もしかしてこの魔力、プリンの匂いがシルヴァンにはするの?』

「オン!」

「どこから?」

 シルヴァンはこっちと言うように視線をやる。

「あっちは、壊れた厨房だぞ?」

 シルヴァンの視線の先を、目で追ったカクさんが首を傾げる。

「うん、向こうから匂いがするんだ。それで?」

 今度は食堂の入り口の方に視線を向けるシルヴァンに、アマーリエは首をかしげる。

「誰かがあの部屋から出ていったってこと?」

「オン!」

「は?なんだって?」

 アマーリエの言葉とシルヴァンの返事に、カクさんが顔をひきつらせる。

「あー、でも調べるためにノールさんとかが出入りしたと思うんですが」

「あ、ああそうか」

 アマーリエの嫌な事態を否定する言葉に一瞬顔を緩めるカクさん。

「キュウ」

 困った顔で顔を横に振るシルヴァンに、アマーリエが確認するように言う。

「うーん、そういう人達の匂いとは違うの?」

「オン!」

 自信満々なシルヴァンに、思わず顔を見合わせるアマーリエとカクさんだった。

「それ、まずいですよね?」

「ああ」

「何かが、あそこに封印されてたって可能性出ますよね?」

「……ああ」

「匂いの跡、辿ったほうがいいですよね?」

「…………ああ」

 アマーリエが言葉を重ねるたびに返事の間が長く、声が重くなるカクさんを見て、シルヴァンはそっとアマーリエの後ろに隠れる。

 カクさんは一つ息を吐いて、探索に回ることに決めた。

「ゲオルグ様。シルヴァンが何かに気付いたようなので、見てまいります」

「わかった。わしはここに居るから頼んだぞ」

「はっ!」

「私は付いていかないほうがいいんですよね?」

 危ないことに首を突っ込むなと言われ、戦闘能力もないので大人しく留守番することに異議を唱えることのないアマーリエ。危険な場所に行くときは、問題ないと判断され、アマーリエが必要と判断されるときだけである。

「……シルヴァン、危険な感じはするのか?」

 カクさんの言葉に首を傾げ、首を横に振るシルヴァン。

「なら、アマーリエはシルヴァンとの意思疎通のためにも一緒に来い」

「わかりました」

「シルヴァン行くぞ。その後をグゥエン達が続け。アマーリエは私の傍を離れるな」

 シルヴァンを先頭にグゥエン、ノール、ミカエラが続き、その後ろをアマーリエとカクさんが続く。

 シルヴァンはトットコ食堂を抜けると中庭側の通路に出て、北側の建物を目指す。

「あっちの建物は?」

「砦の中央棟だ。領主様の部屋や会議室なんかがある」

「へ~」

「シルヴァンは何の匂いを追っているんだ?」

「多分、魔力察知があの子嗅覚なんだと思うんですよね。それで他と違った魔力の匂いを追いかけてるようなんです」

「魔力に匂い?」

 カクさんの言葉にシルヴァンが歩みを止めて頷く。

「ああ、魔力察知に嗅覚があるとこの間判明しましたよ。人によって香りの受け取り方が違うそうなんですが魔力の濃い場所ほど匂いがきつくなるのは同じようですよ」

 ミカエラが気を緩めず肯定する。

「シルヴァン、人によって魔力の匂いも違うのか?」

 ノールが面白がってシルヴァンに尋ねる。

「オン!」

「リエは?」

 ノールの言葉に、シルヴァンがアマーリエにお菓子の念話画像を送る。

「お菓子?甘い匂いがするってこと?」

「オン!」

「アハハ、アマーリエさんらしい!シルヴァン、じゃあ私は?」

 ミカエラに聞かれたシルヴァンが、鼻先をミカエラにくっつけて匂いをかいで、念話をミカエラに送る。

「おお!すずらんの花だ!私の魔力って花の香なんだ!じゃあじゃあ、グゥエン様は?」

 聞かれたシルヴァンは伺うようにグゥエンを見る。

「?」

 首をかしげるグゥエンに、アマーリエが助け舟を出す。

「匂い嗅いでいいかって」

「ああ」

 許可をもらったシルヴァンはグゥエンに近づいて匂いをかいで、画像念話を送る。

「柑橘類か?」

「ああ、柑橘系の爽やかな香りがするんだね」

「オンオン!」

「おお!じゃあ、カークスウェル様は?」

 調子に乗ったミカエラがシルヴァンに言うと、わりとノリの良いカクさんはシルヴァンに許可を与える。匂いを嗅いだシルヴァンはアマーリエにムスク系の香水瓶の画像を念話する。

「麝香とかの甘い香りに香辛料のツンとした香りが混ざった香りみたいですよ」

「ホォ~」

「俺は?」

 ノールに聞かれたシルヴァンは素直に嗅いで、スペアミントの画像をノールに念話する。

「草!?」

 ノールの素っ頓狂な声に皆一斉に吹き出す。

「ちょ!?シルヴァン?どういうことだ?」

「お、落ち着いてくださいよ、ノールさん!」

 シルヴァンににじり寄るノールを慌ててミカエラが止めにかかる。ノールに迫られたシルヴァンは慌てて、アマーリエに画像をおくる。

「アハハ、草は草でも薄荷の香りだそうですよ。すっとする香りみたいです」

「なんだ」

「よかったですね、おじさん臭いって言われなくて」

「キュゥ」

 ミカエラの遠慮のない言葉に、シルヴァンはちょっと鳴いて視線をそらす。

「あ、おじさん臭いのは臭いのか」

 アマーリエの言葉にガーンとショックを受け、硬直するノールだった。

「さ、シルヴァン、探索の続きだ」

 いつものこととあっさりノールを放置して、探索を促すグゥエンだった。

「行きますよ、ノールさん。大丈夫ですよ!シルヴァンは魔狼で鼻がいいだけですから!私はまだ匂いません!」

 ミカエラのフォローになっていない言葉にノールが再起動して噛み付く。

「それはいずれするようになるってこったろ!」

「今度、薄荷水を贈りますよ。すっとする香りがするし、消臭効果もありますから」

 アマーリエが半笑いでノールに絡まれているミカエラを助け出す。

「頼んだぞ!」

「はいはい」

 シルヴァンはそそくさと先頭に戻り、匂いの跡を辿りはじめる。

「ほら、行くぞ」

 カクさんに言われ探索に戻るノール。結局、緊張感が解けてしまったアマーリエ達であった。

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