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お待ちどう様です。
時は戻って、炊き出しの準備が終わったアマーリエ達。
厨房から食堂に場所を移し、村人に並んでもらって食事を配り始める。黒紅はヴァレーリオの頭の上に乗っかり、その様子を見ている。
それをうっとりした表情で見ているのが、バネッサだった。竜人族にとって古代竜は尊崇の対象であるらしいのだが、明らかにバネッサの態度は度を越しているように思うアマーリエであった。
『あれ!父上、母上』
「まあ、紅ちゃん!」
「黒紅、元気そうだな」
村人がうっかり連れてきた元凶夫婦が、娘と再会した瞬間であった。両手にはしっかり配給食を持っているあたり、何やら村の人達に馴染み始めている雰囲気がある。
アマーリエは、こりゃ長期滞在になりそうだと内心でため息をつく。
「……こちらがこの古代竜のご両親か?」
ボソリとヴァレーリオがつぶやき、周りに居た村人達が目をキラキラさせ始める。
「はじめまして、人の神官殿。娘がお世話になってるようで」
「人と仲良くできるようになってて、良かったわ」
ニコニコ言う夫婦に、げっそりしながら頷くヴァレーリオ。
「できたらだな、村の結界を破らんでくれんか?入り口から入って欲しいんだが」
「あら!」
「すまん」
「「直してこよう!」」
回れ右しそうな勢いの夫婦をため息を吐きながら留めにかかるヴァレーリオであった。
「いや、まずは、朝食を取ってくれ。娘とも話すことがあるんだろう?」
「ではお言葉に甘えよう」
そんなこんなで、古代竜の親子を囲んでの食事会が始まったのであった。
そこへ、アルギスに呼び戻されたベルン達が、役場前の広場で合流したスケさんとカクさんと一緒に戻ってくる。シルヴァンの方は勢い良くアマーリエに飛びついて、キュウキュウ鳴きながら寂しかったと訴えている。
「アルギスさん?」
「あ、ベルン殿、お帰り。古代竜が三頭になったよ」
「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」
「黒紅様のご両親がいらっしゃったんだ」
ニコニコ言うアルギスに、顔が引きつるベルン達であった。
「お腹すいたでしょう?朝食の用意はできてるから、まずは食べてください」
「うぐぅ、なんとなく原因はわかるが、納得がいかん。ちゃんと説明はあるんですよね?」
「ええ。朝食を終えたら、皆に説明することになってますから」
「ふぅ、わかった。よし、食事にするぞ」
ベルン達は色々ぶつけたいあれこれをぐっと飲み込み、アマーリエが手を振る配膳台の方に向かう。その場に残ったカクさんがアルギスに姿の見えないゲオルグのことを尋ねる。
「アルギス殿、ゲオルグ様は?」
「ああ、ゲオルグ殿は領都に戻られてご領主殿と相談を終えたら、村に戻ってくることになった」
「そうか。わかった」
「スケルヴァン、砦に魔鳥を」
「ああ、向こうも大騒ぎになってるだろうな」
ため息を吐きながら、自分達の仕事を始めるカクさんとスケさんであった。
村人達は、せっせと朝食を腹におさめ、ヴァレーリオの話がいつ始まるのかワクワク待っている。村長と村役場の人々は、ヴァレーリオにその場を任せて村の中に異変がないか、調査を始めてた。
「さて、皆ちゃんと食事は取ったかな?」
ヴァレーリオに答える村人達の顔を見回し、黒紅とその両親を呼ぶヴァレーリオ。
「皆に報告がある。古代竜の黒紅殿とそのご両親だ」
「おお!」
『初めましてなのじゃ!黒紅と呼んでたも』
「皆さん、はじめまして。ここに来るのは何百年ぶりかしら?黒紅の母の辰砂です」
「しばらくよろしく頼む。父の漆黒だ」
(((((しばらく?)))))
古代竜の挨拶に引っかかりを覚える常識人達、数名。好奇心旺盛な村人達は拍手で歓迎してしまっている。さすがのゲオルグも、この状況を見たら寝込みそうである。
「それで、辰砂殿と漆黒殿は娘に会いにこの村へ?」
「そうなのですけど、ついでに魔の山で魔物狩りを」
「はぁ」
「妻が久方ぶりに身ごもっていてね。魔力が必要なんだ」
「はいはい、質問!そのまま魔の山で巣作りしないんですか?」
気になったアマーリエがすかさず質問を入れる。
「あそこは魔力が濃すぎるんだ。流石に我々でも魔力にあてられて狂ってしまう。だから魔物を食べて、魔力を取り込むことで卵を育てる分の魔力を補うんだよ」
「なるほど〜」
「それで、しばらくこの村に滞在したいのだが」
「そ〜れに関しては、すまんがここの領主に許可を取ってもらえんかな?」
コテンと首をかしげる漆黒にヴァレーリオはうっかり頷きそうになって、慌てて返答を責任を果たすべき人間に放り投げる。
「わかった。領主はどこに?」
「あ、あたしがぁ、呼んでくるわよぉ。待っててぇ」
機転を利かせた南の魔女が、結界が壊れたままなのでそのまま領都へ転移する。領都にいきなり古代竜が現れたらどうなるのかと血の気の引いた、南の魔女と常識人達であった。
「あ、すまない。なんと気の早い人だな」
あっけにとられた漆黒であった。
『父上、母上!妾に弟妹ができるのですか?』
「ええ、そうよ。古代竜の皆が楽しみに待ってるわ。なにせあなた以来の赤子だから」
「緑青から皆に話が行くだろうから、祝いに来ると思う」
『おお!白金殿や浅葱殿もいらっしゃるのか?』
「ええ、皆さん、世界で行う食の祭典の話も楽しみにしてるのよ」
「私達も人の祭りに参加していいと、聞いたんだ」
(緑青さん何言っちゃってんの!?)
話を聞いていたアマーリエが天を仰ぐ。村人の方は、食の祭典と聞きアマーリエの方に視線を向ける。ベルン達の方はと言えば、またアマーリエのせいだったかと首を横に振っている。
そのまま、食の祭典の話を終え、俄然、参加する気になった村人と古代竜達。そして、結界の修復に向かう古代竜達の後ろをぞろぞろついていく村人達。もはや仕事どころではないようである。
役場前の広場に着くと、古代竜は最適な大きさに戻り、村人からのお願いでブレスをお披露目したのであった。
アーロンを始めとする絵心のある職人達は、その姿をせっせと写生し始めている。細工師などは、細工の意匠に使うためとか言っているが、どう考えても古代竜という浪漫あふれる生き物を絵に残したいという気持ちのほうが勝っているようにしか思えない。
バネッサはバネッサで、うっとりしながら三頭を見上げつつ、出来のいい絵を描いている職人と買い取り交渉を始めていた。
冒険者達の方は、鍛冶職達とこのブレスをどう防ぐかという話で盛り上がっている。
そのほのぼのした空気に肩をすくめ、アマーリエは綿菓子機を店から取ってきて、ちゃっかり稼ぎ始めることにした。
そんな状況を何も知らぬ騎士達は、村の外から見ることになり、勝ち目のない戦いを想像し、絶望に打ち震えることになったのだ。
「あ、騎士様!」
門番のところまでたどり着いたグゥエン達三人。三人の悲壮な形相に首を傾げながら、夜番と交代した門番がのんきそうに挨拶する。
「朝早うから、お疲れ様です。今丁度、古代竜が壊した結界修復するそうですよ。騎士様方もご覧になっては?」
「は?」
「古代竜?」
「村の人は無事なんですか!」
目を白黒させるグゥエンとアーノルドをよそに、唯一まともに反応を返せたのはミカエラであった。
「驚きはしたが、皆無事ですよ。朝も一緒に炊き出しで食べましたよ。村役場の人が村の中の異常を調べとりますが、大丈夫そうですよ」
「良かった。いや、良かったのか?」
頭を抱え始めるグゥエンをおいて、今度はアーノルドが質問する。
「ゲオルグ様は?」
「先々代様は、お出かけですよ。まだお戻りじゃないです。ああ、カークスウェル殿とスケルヴァン殿はいらっしゃいますよ」
「「「はぁ?(護衛じゃないのか!?)」」」
「なんでも内緒のお出かけだそうで」
わからないままゲオルグに言われたことを騎士に伝える門番。
「意味がわからん」
「カークスウェル殿達は村の中か?」
「ええ」
「行くぞ!」
グゥエン達は騎乗して、役場前の広場まで必死で馬を駆けさせた。そしてそこで見たのは、古代竜三頭がキラキラ輝き、結界が構築されていく様子をやんやと見守る村人達と、綿菓子をかじっているアマーリエと子供達の姿であった。
その頃、スケルヴァンから魔鳥の連絡を受け取った砦の司令官と騎士達はと言うと。
「ちょっと~、なんで扉がバタバタ勝手に開閉するんですか!?」
「オェ〜、揺れてる。揺れてるぞ」
突如始まった、朝っぱらからのポルターガイストに為す術もなく右往左往していた。
「む、村の方とゲオルグ様は大丈夫だそうだ。古代竜が来ただけとある……はぁ?古代竜が来て無事とか意味がわからん!何がどうなってる!?おい!浄霊魔法が使えるやつは居たか?」
「今使ってますけど効果ありません!」
「レイスのせいじゃないのか?」
「そもそもうちの砦になんでレイスが居るんですか!」
「居たことはないな」
首をかしげる司令官に、ブチ切れるノール。
「じゃ、原因は別でしょう!」
「調べたくても、こう床が揺れてると……オェ〜」
「馬鹿!ここで吐くんじゃない!おい!酔い止め!」
「ノール殿!ここは海じゃないんで、そんなもんありません」
「状態異常解除魔法が効きますかね?」
てんやわんやであった。まだしばらくはこの状況が続きそうである。




