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2巻お買い上げ頂きありがとうございます。引き続きダンジョン村をよろしくお願いします〜。
「はい、皆さん、注目〜。こちら古代竜の黒紅ちゃん。私、彼女から加護をもらいました。で、彼女が自己紹介代わりに、このスキル鑑定書を皆に読んでほしいそうです」
にこやかにとんでもないことを言うアマーリエを、思わず注視するゲオルグ達。明らかに耳が聞くことを拒否しているようである。
『妾のことを公正に判断して書き記すとは、さすが神の魔道具!ぜひ妾を知ってもらうためにも読んでほしいのじゃ』
古代竜黒紅の、色々ツッコミどころ満載の言葉とその威圧に、皆、黒紅のスキル鑑定書を読み回すこととなった。
鑑定書は紙のほんの一部にスキルと九割方の長さになった備考部分に別れていた。そして備考部分に、ざっくりとそれまでの黒紅の生涯が載っていた。その八割が、正当防衛をしようとして過剰防衛になった結果であった。
例えば、とある火の山で生まれたばかりの頃。親の竜の留守を狙って、生まれたての竜を隷属させようと捕獲しに来たお馬鹿達が、赤ちゃん黒紅からブレスを受け、そのまま火山が爆発した。火山近くにあった領地や国が滅び、世界は噴煙で日照不足になり、不作が続いて飢饉に陥ったとか。
「すんげーとばっちり」
ネスキオがボソリとつぶやく。
「……エルフの古文書にあった千年前の火山爆発による気候変動って、これがもとだったのか?アホどもめ!幼き古代竜に手をだし、世界を危険にさらすなど言語道断!千回八つ裂きにしても足りないではないか!」
西の魔女がこめかみに青筋を立てて怒鳴る。
「まあ、西の。死んでしまった者は八つ裂きにできませんよ」
「わかってる!東の。ただ、言わずにいられないだろう!」
「そうでしょうけど」
西の魔女にすれば、祖父母の頃の話、東の魔女にすれば千年も前の話である。寿命の差が物事から受ける感覚をズレさせるのは致し方ないことではある。
そしてまだまだ、それぞれの時代の阿呆がやらかした話が書き連なっている。例えば、古代竜の鱗が不死の秘薬になると聞いた考えなしが、確認もしないで問答無用で鱗を引剥しにきて、あっさり黒紅のブレスで返り討ちにあった際に、山脈の一部に穴が空いたとか。
「んまぁ、オールソロギュン山脈のトンネルってぇ、これが原因だったのぉ?」
両の拳で口元を抑えてガクブルする南の魔女。
「穴?どんなトンネルなんですか?」
アマーリエが気になって尋ねる。
「レンガの三階建ての建物二つ分ぐらいの高さがあるトンネルよぉ。今じゃぁ、山脈を挟んだ国同士の丁度いい通り道になっちゃってるけどねぇ」
「うへー」
身振り手振りで説明する南の魔女に、アマーリエが肩をすくめる。
「あの、あの、竜の鱗って不死の薬なんですか?」
魔女の弟子の質問に黒紅が首を横に振る。
『ただの魔力を含んだ鱗ぞ?そんじょそこらの鈍ら武器で傷がつけられない程度の硬さというだけじゃ』
(鈍らって、それ何基準でですかー)
物理職の心は一つになった。
そして、ここに鍛冶職が居たら、その硬度を確かめるために必死になったであろう。
「うわぁ、色々やらかして、他の古代竜から、アルバンダンジョンの主に預けられたんだ。ダンジョンの中で侵入者相手に力加減覚えろって。へー、常識的な古代竜も居るんだね」
最後までじっくり読み切ったネスキオがぶっちゃける。
『ウム。緑青にこっぴどく叱られて、アルバンダンジョンの主に預けられたのだ。だが、未だ妾が居る階層に侵入者が来ず、ものすごく暇であった。久方ぶりに人とおしゃべりできて楽しかったぞ』
(((((つまり力加減がまだできないってことですよね!)))))
ニコニコと返事をする黒紅の言葉を聞いて常識人達は内心で思いっきり突っ込んだ。黒紅のどこに地雷があるかわからないので、言葉にする勇気はまるでない。
「なるほど。五百年前ぐらいから悪名高き黒炎の竜の姿を見なくなったと古文書にあったのは、そのせいなのか」
西の魔女の言葉に、悪いことをすると黒炎の竜にぱっくり食べられてしまうぞと脅されて育った人々が、西の魔女と黒紅を交互に見比べ、複雑な心境に陥った。
こうして、読み終えたゲオルグ達は色々精神的に削られたのである。そして、皆が心の中で泣きながら鑑定書を読んで、出た言葉はただ一つ。
「アマーリエ、黒紅様をおうちに返しに行こうか?」
『なぜじゃー!妾は主とかれーを楽しむのじゃ!』
(カレーなのか!)
(シルヴァンの弁当か?あれが餌付けになったのか?)
「あら、ベルンさんと好みが一緒ね」
「東の魔女様!」
皆がそれぞれ内心で突っ込む中、東の魔女がおっとりと相づちをうち、ベルンが悲鳴を上げた。
『そうなのか?かれーは刺激的でうまいな!な?』
「あ、ああ。そうだな」
黒紅から、共感を求められ、目が虚ろになるベルンであった。
「まあ、読んだ限り、自分達だってやられたら嫌なことをやってやり返されてるわけで。周りは、とばっちりと言えばとばっちりですけど」
「アマーリエ?」
「いや、誰だって隷属の首輪をはめられそうになったり、髪の毛や爪を剥ぎ取られそうになって許せます?怒りますよね?」
アマーリエの、人の身に変えたごくごく当たり前の言葉に皆、言葉をなくす。
「しかも相手の力量を考えないでやらかしてる時点で、やったほうが馬鹿でしょ」
「ウグッ」
「命のやり取りってのは自然の摂理ですけど、食うか食われるかならいざしらず、明らかに、これ馬鹿な行いでしょ?アホなことしなければ起きなかったことです。実際、アーロンさんは物々交換で、黒紅ちゃんから鱗を手に入れてますから、きちんと交渉できる相手ってことですよね?」
冒険者としての矜持を持つ者達ばかりのこの場所で、アマーリエの正論は、冒険者の精神といえるものでもあった。
「力量をわきまえず、冒険に挑むものは冒険者にあらず。ただの愚か者にすぎない、か」
ベルンが、そう言って深々とため息を吐く。
「とにかく、また、そういうお馬鹿を出さないためにも色々やらねばならんのです!大隠居様!アルギスさん!ご協力お願いします!世界の平和のために!ここで頑張んないと、うちの国どころでなく滅びかねないですからね?」
アマーリエの言葉に、深く頷いたゲオルグとアルギスであった。
「でも、良い手はあるの?流石に私でもダンジョンに返して、なかったコトにするほうがいい気がしてきたんだけど?皇国の総力あげてリエと家族を守るよ?兄上にも頼む」
あまりにも黒紅の悪名が高すぎて、なかったことにしたほうがまだいいんじゃないかと心が傾くアルギス。
「アルギスさん、あったことをなかったコトにできないのが世の常ですよね?それすると必ず変な歪がでますよね?結局さらに碌でもないことになるのがオチじゃないですか?うちの家族守るためにも、ウヤムヤは無しです」
心当たりのあるアルギスが、アマーリエの視線から、目をそらす。
「まぁの。それで、お前はどうする気なんじゃ?」
机に頬杖をついて、お疲れ気味のゲオルグがアマーリエを見る。
「魔力溜まりと同じで、全世界に告知です!大隠居様」
「んー、悪名高き黒炎の竜が復活したと世界に知らせるのか?」
眉をしかめて、西の魔女がアマーリエに問いただす。
「それやったら、逆効果ですよ、西の魔女様。みんなして黒炎の竜退治になっちゃいますよ。そうなったらこの星、まだらハゲになりますよ?」
鑑定書の結果を読んだために、アマーリエの言葉に激しく同意したゲオルグ達であった。
「んじゃぁ、どうするのよぉ?はっ!?芋っ娘ぉ!わざと黒紅ちゃんの鑑定書、私達に読ませたわねぇ!」
「え」
気がついた南の魔女の言葉に、皆呆然とする。それを見てアマーリエは肩をすくめて言い切った。
「巻き込まないでどうしますか。私だけ読むとかどんな罰ですか」
あっさりゲロったアマーリエに、皆、目が座る。
「あんた、また碌でもないこと考えてるでしょぉ?」
アマーリエの近くに居て、だんだんその言動が不穏なものだと身にしみ始めてきている南の魔女が、胡乱な目でアマーリエを見つめる。
「んふふふ。ものすごく平和的解決ですよ〜」
「平和……、平和のぅ?」
ゲオルグが、アマーリエに猜疑の目を向ける。やんごとなきお方に村の結界をぶち破られたのは、ほんのちょっと前の話である。
「大丈夫ですって!みんな楽しめますから」
「楽しむ?それでこの間、朝市に出る羽目になったのは誰だ?」
ジロッとアマーリエを見るヴァレーリオ。
「大丈夫ですって!」
アマーリエの大丈夫が、大丈夫だった試しがあっただろうかと、首を傾げる銀の鷹のメンバー。
「みんな平和作戦!その名も【世界・食の祭典!第一回古代竜杯!古代竜の加護を得る料理人は誰だ!?】です」
ふんぞり返ってドヤ顔でキャッチコピーを言うアマーリエの言葉が咀嚼できず、ポカーンとするゲオルグ達。シルヴァンだけが、食べ物祭りだ!と喜び始める。
「アマーリエ?」
首をかしげるゲオルグに、ニヨっと笑ってアマーリエが説明を始めた。
そして、アマーリエから作戦内容を聞かされ、説得されたゲオルグ達は、作戦遂行のためにそれぞれ用意を始める。
「アマーリエ、そなたとにかく、あるだけの材料使って美味い物を作るんじゃ」
「はーい、袖の下大事ですよね」
「アルギス殿、兄上とすぐに連絡を取ってくだされ。わしも、陛下と連絡を取ってすぐさま、場所をこしらえる」
「わかりました!」
「魔女様方!申し訳ないが王都まで我らを運んでくだされ。これはギルドを通さぬ、内緒の依頼じゃ」
「ええ、もちろんお手伝いしますわ。三人なら余裕で王都に跳べますよ」
東の魔女がニッコリ請け負うと、西の魔女が弟子達に指示を出す。
「お前達は、私達が帰ってくるまで、銀の鷹の面子と一緒に訓練をしたり、村の仕事を手伝うように」
「「「はい!お師匠様!」」」
良い返事をする弟子達に、南の魔女が任せたわよとニッコリ笑う。
「キュゥ、キュゥ」
シルヴァンがアマーリエに、自分も行きたいと訴えるが、アマーリエは首を横に振る。
「だめ。今回はお留守番。お店は休めないから、私はすぐ南の魔女様とアルギスさんと帰ってくるし。それと、シルヴァン?今度ダンジョンからなんか持って帰ってくる前に、必ず念話で報連相!いいね?」
「キュゥーン」
置いて行かないでくれと訴えるシルヴァンに、アマーリエが絶対に駄目と言い切る。
「シルヴァン、お前、反省してるか?」
ベルンにまでじっと見つめられ、ベルンの膝にべったり顎をひっつけ、上目遣いで反省の意を表すシルヴァン。ベルンがそのまま、シルヴァンの顔をモフりだす。
「可愛い顔してもだめだからな〜」
「キュゥ」
「アマーリエ。用意でき次第、宿に来るようにの」
「はい、大隠居様。あ、格好はどうしましょう?」
「非公式じゃ、多少取り繕っておけば良い」
「わかりましたー。じゃあ、パン屋に戻って、アイテムボックスに料理とお菓子詰めてきます」
そう言うとアマーリエは、シルヴァンをベルン達に頼んで店に大急ぎで戻ったのであった。




