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ほぼ連続更新はここまでです。また、週一ペースに戻りますね。
成人の皆様、親御様おめでとうございます。
パン屋の外で待っていたアーロンが、心配になって厨房まで足をすすめると、そこには頭を抱えたアマーリエとグレゴール、ラスクの瓶に入ってせっせとラスクを食べるミニドラゴン、それを必死で取り出そうとするシルヴァンの姿があった。
「なんじゃ?ん?この石は?」
アーロンは床に散らばっていたキラキラした石をつまみ上げて、慌てて鑑定する。
「こ!これは!」
アーロンは大声を上げたまま硬直する。
その大声に我に返ったアマーリエとグレゴール、シルヴァンがそちらを見る。ミニドラゴンはちらりと視線をやるが、そのまませっせとラスクを頬張っている。
「「あ、アーロンさん?」」
二人の声に硬直が解けたアーロンは、そのまま二人に散らばっている石を一つ残さず集めるように言って、自分も石を集めだす。
言われた方も、アーロンの必死さにあてられて、石を拾い出す。
「ぜ、全部集まったかの?」
「多分?」
「隙間に入ってたら、わかりませんけど」
「オン!」
シルヴァンが風魔法で物のすき間全てに風を送り込んで、すべての石をかき集めた。
『ふん、駄狼のくせにやるの』
ラスクの瓶の中から言うミニドラゴンにムカっときたシルヴァンは、そのまま瓶に蓋をして、床で転がし始める。
『こ、これ!やめぬか〜』
「あ、あれは何じゃ?小さいがドラゴンではないのか?喋っとるぞ?」
「……アーロンさん、世の中には知らないほうが幸せなことってありますよね?」
「……ただの羽つきトカゲですよ。嫌だなぁ、アーロンさん」
アマーリエとグレゴールの目が笑ってない笑顔に、空気を読みきった大商人、アーロンだった。
「えっとじゃの。その石じゃが【竜の雫】じゃ」
「へ?あの?」
グレゴールは思わず声を漏らし、作業台に集めた石の一つをつまみ上げる。
「?竜の雫って何ですか?」
アマーリエが尋ねると、アーロンは一つ空咳をして竜の雫について説明を始めた。
「竜の涙が凝固して竜の雫となるのじゃが、いかんせん竜が泣くのは産卵の時のみという話での」
「(ウミガメか?)ああ、そうなると人って近寄れませんよね」
「うむ。ごくごくまれに、竜から直に受け取る者や産後の竜の巣から採取できたものがおるぐらいじゃ」
「つまりお値段めちゃくちゃ高いってことですね。はい、また問題増えました!」
「これ一粒で、小国の国家予算半年分じゃ」
「「グハッ」」
「じゃが、これだけあればちーとばっかし、値下がりするかもしれんの」
「……シルヴァン、それ置いといて木鉢取ってくれるかな?」
アマーリエの低い声に、シルヴァンは慌ててラスクの瓶を置いて、棚から風魔法で木鉢を取ってアマーリエに手渡す。アマーリエは、魔法マグの中の水を木鉢に入れた。
「「!」」
木鉢の中にはダチョウの卵より少し小さなぐらいの竜の雫が出来上がっていた。
「……国が買えちゃったりするんだろうなー。あー、問題増えまくり」
「買えるのう……」
「どうするのこれ?」
「……天岩戸ってどこかにないかなー」
「「?」」
「キュゥ」
逃げに入ったアマーリエに、首をかしげるアーロンとグレゴール。シルヴァンはちょっぴり申し訳無さそうな顔をする。
『うっ、ぐっ、うにゅうう、はあ、でられた。この駄狼!』
「はい、そこまで。おすわり」
「キュウ!」
『ウッ』
アマーリエの凍てつくような声に、すぐさまお座りをするシルヴァンとミニドラゴンであった。それに乗じて、すかさず鑑定を済ませたアーロン、ちゃっかりミニドラゴンにおねだりを始める。
「!なんと古代竜!それしか鑑定できんかった!すまん、老い先短い爺の頼みを聞いてくれぬかの?いと美しく滑らかなる鱗をお持ちになる黒紅色のお方よ」
『ふふん、なんぞ?そこまで褒められては無碍にはできぬの。申してみよ』
「え、アーロンさん?」
「……おだてに弱いの?この子」
いきなりのことにグレゴールは目を点にし、アマーリエは目が座り始める。
「鱗を、その美しい鱗を一枚、お守りにいただけませんかの?」
『妾の鱗か?』
「ええ、このライスカレーコロッケとカレーパンと交換でいかがですかの?」
「「えぇ?」」
あまりにあれな取引に思わず変顔になるグレゴールとアマーリエ。
『かれーとな!?それは人が作る刺激的な食物のことか?』
「ええ、ええ、とても刺激的で美味しいですよ?いかがです?」
ミニドラゴンはアーロンから手渡されたライスカレーコロッケにそっとかぶりつく。
『!』
「いかがです?こちらもどうぞ?」
完全に悪徳商人の顔になったアーロンに、天を仰いだグレゴールとアマーリエだった。
ミニドラゴンは遠慮なくアーロンからライスカレーコロッケとカレーパンをもらい、食らい尽くした。
『ケプッ。抜けかけで良ければ一枚やろう。ほれ』
「ありがたき幸せ〜」
舞い上がるアーロンと、竜の鱗に目を見開くグレゴール。そして、やらかしやがったとがっくりうなだれるアマーリエ。
「ふむ、穴を開けて首からぶら下げたいが、皆に内緒で作るのは難しいのぅ」
『穴を開けるのか?貸してみい』
アーロンから鱗を受け取って、自分の爪で穴を開けるミニドラゴン。
『これでどうであろう?』
「素晴らしい出来でございます!これならば、紐を通して肌身離さず持っていられます!ああ!子供の頃の夢が叶いましたぞ!誠にありがとうございます!」
『そうか、良かったの』
純粋に喜ぶアーロンに、機嫌良く頷くミニドラゴン。
「あ、そうじゃった。カレーライスコロッケとカレーパンはそちらのパン屋のお嬢ちゃんから手に入れられますぞ」
ちゃっかり夢を叶えて、アマーリエを売り飛ばしたアーロンであった。
『真か!主!』
「オン」
『かつかれーも、とな!?』
「オムカレーも美味しいよ」
『お、おむかれーとは如何なるものじゃ?主?』
「尻の穴から火を噴くカレーを作ってあげるよ。ふひひひ」
キレたアマーリエの笑い声に、思わず尻の穴をおさえたグレゴール達であった。
ただの蓋付きの籠の中に、ミニドラゴンをカレーパンごと放り込むと、アマーリエ達は神殿へと向かう。アマーリエは道々、どういう方向に話を持っていくか考えながら歩いているため、やや遅れがちになる。シルヴァンはそんなアマーリエを、後ろから押しながら進む。
眉間に山脈を彫り上げ、極悪な顔つきで考え事をしながら歩くアマーリエを避けるため、アーロンとグレゴールの方は幾分早足になっている。
そして神殿には、待ちくたびれたゲオルグ達が石の階段に腰掛けて待っていた。
「「「「遅い!」」」」
「……スンマセン、理由は中にはいってから。ここじゃ何なんで」
グレゴールの複雑な表情を見て、すぐさま皆で神殿の食堂へと移動する。
「どうした?何があった?」
グレゴールは籠のフタを開けて、机の上に置く。皆はそれに怪訝な顔をして首を傾げる。
『着いたか?おお、さっきぶりじゃの!』
ノソノソと籠から出てきた存在に、ガコーンとあごが落ちる人多数。アマーリエは視線を宙に彷徨わせ、押し黙る。
「まぁまぁ!先ほどぶりですねぇ。どうやって村の中へ?」
「……シルヴァンが魔法マグごと連れてきたんです」
東の魔女に、アマーリエがボソボソと答える。
「え?魔法マグは置いて帰ってきたはずじゃ?」
「予備のお弁当と取り替えたみたいなんだよ、俺達が宝箱に意識が向いてる時に」
はぁとため息をついてグレゴールがファルに答える。
「んまぁ、じゃぁ、勝手にぃダンジョンから誘拐したことになるのかしらぁ?」
「「どうなんですかね?」」
「あらあら大変!」
「……大変申し上げにくいんですけど」
「言うな。言うなよ、アマーリエ?わしは聞きとうない!」
再起動したゲオルグが耳をふさいで首を振る。
「私だって言いたくないですよ。でも言います。古代竜テイムしちゃったみたいです。ヴァレーリオ神殿長、すいませんがスキルの鑑定させてください」
「……ああ」
呆然としたまま、アマーリエと古代竜を連れて、スキル鑑定の水晶がある場所に連れて行くヴァレーリオ。
「シルヴァン?わしのところへおいで?」
にこやかに笑ってシルヴァンを呼ぶゲオルグ。うるうる眼で、恐る恐るゲオルグの側に近づくシルヴァンを、皆がしっかり叱られなさいと言う視線で見つめる。
ゲオルグは両手でがっしりとシルヴァンの顔を挟むとウニウニといじりだした。
「シルヴァン?な~にを考えて、古代竜を連れ帰りよった?」
シルヴァンはアマーリエがにこやかに笑う画像をダリウスにおくる。送られたダリウスの方はあちゃぁと顔を片手で覆って、代弁する。
「……リエに見せて喜ばせたかったみたいですよ」
その言葉にがっくりするゲオルグ。
「そなたのぉ?あの、力ある存在がアマーリエの支配下にあるとなったら、アマーリエがどうなるかわかるか?」
「キュゥ」
耳をへたらせうるうるするシルヴァンの様子から、一応は理解しているようだと推察するゲオルグ。
「色んな悪いやつにアマーリエが狙われるんじゃぞ。アマーリエは一生ここで暮らさにゃぁならん。アマーリエの両親もじゃ。そなた、その対価を払えるのかの?」
ポロポロと涙をこぼし、ピスーっと鼻を鳴らすシルヴァンに、深い溜め息をつくゲオルグ。
「さて、どうしたもんか」
シルヴァンの顔を挟んだまんま、考え込むゲオルグ。ベルン達も真剣に何ができるか考え始める。
「……ダンジョンに古代竜を帰しては?」
「本人が帰る気ならば問題ないが、ありゃしばらくここにいそうだぞ?」
「テイムしちゃったんでしょ?無理じゃない?」
黒の森の梟のメンバーの言葉を、ダリウスとマリエッタが却下する。
「たとえ帰ったところで、狙うものは居なくならないと思います。力を欲する者はどんなことをしてでも手に入れようとしますから、かえってリエやリエの両親が危うくなりますよ」
苦い笑顔を浮かべ、アルギスが自嘲気味に話す。
「じゃあ、家族ごと古代竜に守ってもらうとか?」
魔女の弟子の一人がポツリと漏らす。
「過剰防衛になるわよぉ。あんた達、古代竜の底力知らなさ過ぎよぉ」
「だね。軽く街一つ消滅するね。ダンジョンでも見ただろう?あのブレス」
南と西の魔女の言葉に愕然とするゲオルグ達。魔女の弟子とネスキオは生きて帰ってこれたのが不思議だったんだねとボソボソとささやきあう。
お通夜な雰囲気が漂う中、アマーリエがミニ古代竜を抱っこしてにこやかに戻ってきた。ヴァレーリオはその後ろを苦虫を潰したような顔でついてきたが。
「「「リエ」」」
「「「パン屋さん!」」」
「アマーリエ?」
「ウフフフフ。テイムじゃなくて加護でした!イエーイ!これなら世界を巻き込んでなんとかできる!イヤッホーイ!」
碌でもないことを言い切ったアマーリエに、ゲオルグ達と銀の鷹達は慌てて耳をふさいで聞か猿状態に移ったのであった。




