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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第17章 シルヴァンのダンジョン初探索
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 グレゴールは馬車預かり所のウッドゴーレムにリルとハルを馬車ごと預ける。シルヴァンはグレゴールの横でそのウッドゴーレムを興味津々で見つめている。

「シルヴァン、このウッドゴーレムはここの階層の管理人だから、いたずらしちゃ駄目だぞ」

「オン」

 魔女達は弟子を集めてアルバンダンジョンの説明を始めたので、シルヴァンもそこに混ざり込む。

「あっちは木賃宿で、その奥が万屋ね。万屋の店主はウッドゴーレムだから。複雑な対応は求めちゃ駄目よ?あと、ここの籠にある【零】の通行証を持っていれば、潜った階層の転移陣からここに戻って来られるから。馬や馬車がある時は必ず、これをアイテムバッグに入れておくこと」

 西の魔女の言葉に頷いてメモをとる弟子達。

「この【拾】【拾五】【廿】の札はそれぞれ十階層、十五階層、二十階層への短縮通行証だから。到達できていれば、短縮通行証を使って再挑戦もできるし、もちろん到達階層の通行証があれば、そこから挑戦できるから」

「他のダンジョンでは最初からやり直しの場所もありますよ。アイテムバッグに入った通行証は必ずなくさないように気をつけるのですよ」

「気をつけなきゃいけないのはぁ、アルバンダンジョンは致せり尽くせり過ぎて、つい自分達の実力よりも長く潜っちゃいそうになることなのよぉ。いーぃ?必ず早めに休息を取ること。無理はしないこと。攻略失敗すると、地上の石の門の前に放り出されるわよぉ。運が良ければ見回りに来た砦の騎士に見つけてもらってぇ介抱してもらえるけど、運が悪けりゃ、そのまま石の門の前で遺体で発見されて、騎士に回収されるからねぇ」

 弟子達と一緒に真剣な顔で魔女達の話にうなずくシルヴァン。弟子の一人が魔女達に質問をする。

「なぜ、ここまで、冒険者に優しい仕様なダンジョンなのに、進度が遅いのでしょうか?」

「いい質問ね。単純に言えば広いの」

「そして広い上に、面白いものがそこかしこにあるのですよ」

「ついつい端から端までぇ、探索したくなっちゃうのよねぇ」

「隠し部屋の位置が変わって、中の宝箱から出るものも変わるの」

「自制心がないと、延々と同じ階層を探索してしまうのですよ」

「アルバンダンジョンは好奇心殺しなのよぉ」

 はぁとため息を吐く魔女三人に、わからないまま頷く弟子達。いずれ、彼らだけでアルバンダンジョン挑戦するようになれば、その本当の怖さがどこにあるか理解するようになるであろう。シルヴァンの方は薄々ダンジョンの仕様を感じ取り、うへっという顔をする。

「魔女様方!初心者への注意はもう大丈夫ですか?」

 ベルンが頃合いを見計らって声をかける。

「「「多分〜」」」

 三魔女の肩をすくめる様子に一気に不安な顔をする弟子達。シルヴァンはダリウスの足元に移動している。

「ま、やってみなきゃわからないこともありますからね。今日はまだ一階層目だ。緊張しすぎるな。気になることはどんどん聞け。いいな?」

 ベルンの言葉にハイとしっかり返事をした弟子達だった。

「シルヴァンはダリウスのそば!うろちょろしたらダンジョン禁止にするからな!」

「キュゥ」

「では行きますか?」

 ベルンの言葉に頷いて社の方に移動する。

「あんたたちぃ、ちゃんとベルンのやること見てなさいよぉ」

 南の魔女の言葉に、シルヴァンと弟子達がベルンを注視する。ベルンは、石の鳥居の前でしたように、姿勢を正し魔力を高め、そして二礼八拍手一礼した。すると社の扉が開く。

「行くぞ」

 ベルンの声で皆が移動を始める。社の扉の先には何故かほの明るい、木の板壁、板床が続いている。シルヴァンは首をひねりながら、ダリウスのそばを離れないよう小走りについていく。

「オン?」

 シルヴァンがダリウスに念話でベルン以外の人達を画像で送り、その後ベルンだけの画像を送って、首を傾げてみせる。

「あーっ、なぜベルンだけがやるのかって聞きたいのか?」

「オン!」

「集団単位で、その代表がやるんだ。そしてこの建物の中を通るとダンジョン自体に、集団単位が認識されるんだ」

「オン?」

 シルヴァンは皆の画像念話を送る。

「そうそう、今回はみんな一緒。俺達だけなら、ベルン。黒の森の梟ならアンカ、ゲオルグ様や魔女様方が集団ごとに、代表を決めて、あの動作をするんだ」

「クワゥ」

 ダリウスのシルヴァンの質問を的確に読む様子に弟子達が首を傾げながらも、その内容はメモに書き写していく。

「あの、ダリウス様、シルヴァンの言うこと分かるんですか?」

「フフフ、すごいだろ。俺とシルヴァンの仲は」

「オン!」

 【念話】スキルをやたらめったら広げるつもりがないため、自慢してごまかすダリウス。他の銀の鷹のメンバーは吹き出しそうになるが、腹筋に力を入れて素知らぬふりをしてやり過ごす。

「ほい、この扉を開けたら一階層目だ」

 そういうって、ベルンが観音開きの木の扉を開ける。その先は、切り出された石が積み上げられた壁と敷き詰められた床が続いていた。

「私が、明かりを出すわ。場所によっては明かりを出せない階層もあるから、よく周囲を観察するのよ」

 西の魔女がそう言って、生活魔法で明かりを灯す。

「西の魔女様、ありがとうございます。では進むぞ。五階層まではとばすのが今までのやり方だったが、ここのダンジョンは五階層までの浅層にも有意義なものが多いということがわかった。何を目的にするかで潜り方を考える必要のあるダンジョンになったってことだ」

 ベルンの言葉に頷く、弟子達。

「保護者が付いてくれている今の間に、よく自分がどうしたいのか考えるんじゃぞ?」

 ゲオルグの言葉にハイと返事し、気を引き締める弟子達であった。

 ぞろぞろと石の通路を進むと丁字の角に行き当たる。

「この真っ直ぐ先が二階層で、ここを曲がると扉がたくさんある、どん詰まりの通路になる」

「オン!」

 ベルンに扉の画像をおくるシルヴァン。

「扉がどうかしたか?シルヴァン?」

「キュゥ」

 シルヴァンはちょっと考えて、一枚だけの扉、三枚の扉、五枚の扉で順に画像念話を送る。

「あーっと、いくつ扉があるのか知りたいのか?」

「オン!」

「四十八枚ありますよ」

 後方から黒の森の梟のアンカが答える。シルヴァンはあれーっと首を傾げる。

「助かった。数えてなかったなぁ、扉の数は。ほい、シルヴァン満足したか?こっちがコメの部屋の扉、通路の反対がウコンの部屋の扉だ」

「オン」

「今日はこっちのコメの部屋な。入るぞ?」

 ベルンの言葉に皆黙ってうなずき、ベルンがそのまま扉を開けて中に入る。続いて皆が中に入ると扉が勝手に閉まる。

『ピンポンパンポン』

「へ?」

「何?」

『侵入者の攻撃力が一階層の上限を突破しましたので、下階層より相応の魔物を召喚いたします』

「はい?」

 突然、脳に響いた音とアナウンスにうろたえるベルン達。シルヴァンは口がまた開いてしまっている。

『召喚、百階層最終守護者(ラスボス)古代竜(エンシェントドラゴン)

「は?」

 ゆっくりと石の床に召喚魔法陣が現れ、輝き出す。

「い、今、古代竜って聞こえませんでした?」

「下がって!ものすごい魔力をあの魔法陣から感じる!」

「防御魔法を展開しなさい!!」

「古代竜なら、あんた達は防御に徹しなさい!」

 悲壮感が漂いだした中、魔法陣の輝きが消え、黒に見えるほどの赤の鱗をまとった巨大なドラゴンが、姿を顕現させた。西の魔女の明かりの魔法にドラゴンの鱗が反射し、その巨躯を浮かび上がらせる。

 その威容と超大な魔力にあてられ、クラスの低い者は身動きが取れない状態になっている。

「オン!」

「シルヴァン!?」

 ファルから悲鳴が漏れる。

「何を!?」

 シルヴァンは風魔法をまとい、ドラゴンの周りを空を蹴り、駆け回っている。

 あまりのことに、皆反応できず、その様子を見つめるだけになってしまっている。

『……未だ幼き者よ、竜を見るは初めてか?』

「オンオンオン!」

『妾が何者であるかとな?』

「オン!」

『フフン、妾は(ほむら)を司る、竜の頂点の一つであり古代竜の一柱、【黒紅】という』

 突如始まったドラゴンとシルヴァンの会話に皆呆然となる。

『ふむ良かろう。久々に見る客じゃ。会話をするも、乙というもの。聞きたきことあらば、聞いてやろう。ただし、応えるかどうかは妾次第じゃ』

 これに反応したのは言うまでもなく、魔法バカ達。物理職達は、その様子を呆れたように見るしかなくなった。

 しばらく質疑応答が続き、シルヴァンが口を挟んだ。

「オン!」

『ん?小さくなれるかだと?なぜじゃ?』

「オン!」

『なるほど、見上げておっては首が痛くなるとな。承知した。造作もない、これでよかろう?』

「おお!」

 ダリウス程度に縮んだドラゴンに、皆が歓声を上げる。

『フフン、どうだ!』

 すごいすごいと褒める周囲にシルヴァンがさらに質問する。

『ブレスじゃと?もちろん、どの竜もブレスを吐くが、古代竜のは別格よな、見たいか?』

「オン!」

『よかろう。そなた達、妾の後ろに下がっておれ。よいか?とくと見よ』

 そう言うとノリノリのドラゴンは、全力で壁に向かってブレスを吹く。石の壁が蒸発し、隣りの部屋にいたオークまで蒸発した。そして壁は瞬時にもとに戻る。魔法馬鹿達はせっせとメモをとるのに忙しい。

「オン!」

『腹が減るかと?そなた魔狼であろう?そなたと同じで食べずとも、周囲の魔力を取り込めば生きてゆけるぞ?』

「え、シルヴァン、リエの料理が好きで友好結んだのよね?」

「オン」

 マリエッタの言葉に素直に頷くシルヴァンに、今度はドラゴンが質問し始める。

『食べずに済むのに、食べると?魔力補給のために魔物を食うのではなく、しかも人が作ったものとな?そなた、何を考えておるのじゃ?』

「オン!」

 美味しいからと答えて、シルヴァンは自分のアイテムバッグから、アマーリエに用意してもらった昼のお弁当をドラゴンに見せる。

『かつかれーとな?』

「あ、リエ!またシルヴァンだけ!」

「ちょっと、ベルン、今言うことはそこなの?」

「気になるんだからしょうがないだろ!」

 小声でベルンとマリエッタがお話し合いを始める中、シルヴァンがドラゴンにカツカレーを勧める。

『ふむ、食べられぬわけではないから構わぬが……。何?もっと小さくなったほうが良い?』

「オン!」

『なるほど、小さくなったほうが、いっぱい味わって食べられるというのは正しいの』

 シルヴァンの魔法マグよりも、少し小さなぐらいに身体を小さくしたドラゴンは、どうぞというシルヴァンに頷いて、カツカレーを食べ始めた。

『!!!この刺激!たまらぬ!人の作るものとはこんなにうまいものなのか!?』

 ドラゴンは、小さくなった身体めいいっぱいに、カツカレーを貪り食って魔法マグを空にした。そして、ドラゴンはその中でケプっと一息ついて座り込んだ。

 てしてし!保温マグの縁を二度前足で叩いて蓋を閉めたシルヴァン。

『!?』

「あ、シルヴァン……」

『いきなり何をする!、出せ!出さぬか!』

 ガタガタ暴れだす保温マグに、魔法職は皆一斉に防御魔法を唱え、物理職は身体強化を唱える。

『これ!駄狼!出せと言うておろう!こなくそ!ぶ、ブレス!、ぎゃ!妾に跳ね返ってきおった!』

「え」

『体当たり!ぬぅ、何故じゃ何故凹みすらせぬぅ』

 それを聞いたグレゴールがポツリとこぼす。

「ドラゴンが踏んでも壊れないって、魔道具屋さん、本気で言ってたんだ」

「はい?」

 皆、それを聞いて防御陣の中に集まって、話し始める。もちろん視線だけは魔法マグから離さない。

 シルヴァンは、カタカタ動く魔法マグをテシっと前足で抑えた。

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