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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第16章 一年目のリラ祭り
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明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。<(_ _)>

 一方、ゲオルグは、挨拶の後ウィルヘルムと一緒に屋台を楽しんでいた。カクさんとスケさんはその後ろで護衛兼荷物持ち(もちろんアイテムポーチに入れているので手はちゃんと空いている)である。ちなみにダールは領都でお留守番である。

「お祖父様。あちらで何やら香ばしい香りが!あ、あっちは何でしょう?」

「あれは、アマーリエが教えて居った、ソース焼きうどんじゃな。小麦粉を麺にして、野菜や肉と一緒に炒めて、ソースを絡めたものだ。帝国のパスタとは違った麺でな、もちもちして美味い」

「……お祖父様、もう食べたんですね」

「……味見は大事じゃからの。そなたも食べていけ」

 二人の間で飛び散る火花にお供二人が呆れた視線を投げかける。

「ええ、もちろんです。屋敷の料理人達用にも持ち帰らなければ、屋敷の料理人達が居なくなってしまいそうです」

「「「は?」」」

 若領主の不穏当な言葉に、自由な隠居とそのお供達が自分達の耳を疑う。

「今日も、料理長に連れて行ってくれとすがりつかれたんですが、流石に東の魔女様の負担を増やすわけにもいかず、置いてきちゃったんですよね」

 東の魔女のお迎え時、料理長に文字通り足にすがりつかれ連れて行ってくださいと懇願されたウィルヘルム。ダールと一緒になんとかなだめすかし、これは領主のお仕事だからとマチェット村に来たのである。

「……大丈夫なんじゃろうな?」

 料理長がまだ見習いの小僧だった頃から知るゲオルグが、心配そうにウィルヘルムを見る。

「お土産買って帰るからって、約束しました」

「左様か……」

「食べ物の恨みって、根深いですからね」

 そう言って自身の祖父をジト目で見るウィルヘルムであった。

「……」

「ああ、王宮にいらっしゃるお祖母様にもお土産忘れないでくださいよ?お祖父様」

「ゲフッ」

 ちなみに、先々代辺境伯婦人は息子(フリードリヒ)の成人後、単身赴任で王宮の女官長を務めている。ゲオルグとは七夕婚状態(アマーリエ評)で、現在、王宮のおっかさんと陰で呼ばれている。辺境伯家は女が内側から、男は外側から王家を支えている状況である。

「ウグッ、マルガレーテも知っておるのか?」

「お母様からバレてますよ」

「アチャ、フリッツに口止めはしたが嫁御に口止めするのを忘れておったわ。王妃様の耳に届いた可能性もあるの」

 ウィルヘルムの母(先代辺境伯夫人)と王妃は娘時代からの親友である。色んな意味で王家とのつながりの濃い、辺境伯家であった。

「男共で楽しんでるようですね、と王妃様より便りが来ました。陛下には一応内緒にしてあげるわとのことです」

 その心は口止め料期待してるわよである。上位者の副音声をきちんと聞き取らねば、下位者はやってられないのである。

「グハッ」

「ですので、色々とお土産を集めないと駄目なんです」

「しょうがない、一度、わしも土産を持って王妃様のご機嫌伺いしておくかの……」

 がっくりうなだれるゲオルグに、ウィルヘルムは一応父親のことも伝えておく。

「父上も、仲間はずれにされて、すねてましたからね?」

「……あやつは別なときに嫁御と一緒に温泉行きゃァ良かろうよ」

 息子はわりとどうでもいい、ゲオルグであった。

「砦の改修を早く行いませんとね。陛下の御幸も検討されてるようですよ」

「……どの線から陛下の耳に入ったのやら。まったく。ど田舎に、わざわざ来ずともよかろうに。王都近くか王領で温泉が湧いてないか、確認を済ませりゃよかろう」

「それもはじめてるようです。で、温泉最初の地ということで、作る前にご視察されたいようですね」

「左様か……色々産業が興ってある意味王国全体が活気づいてきておるのはいいことなんじゃが」

「はじめにやるので、うちはどうしても注目度が高いですよねー」

「足を引っ張られんようにせねばのぅ」

 いい加減面倒くさくなっているゲオルグであった。

「そのあたりはダールともども、調整しております」

「ウム、頼んだぞ」

「ベレスフォード商会からも、様々な商売の提案を受けてますよ」

「まあ、あそことは持ちつ持たれつだな。アーロンと息子共がシッカリして居るうちは、じゃがの」

 目を細めて、孫に釘を刺すゲオルグ。

「はい。次の世代もどう育つか、よく見て付き合わねばなりませんね」

「ウム、しっかり見極めろ。まあ、相手もお前を見極めるよう言われとるじゃろうがの」

「ウッ、お互い様ですね」

「そうじゃの。お前の未来の嫁御も大注目だしの。嫁御次第では、縁をすっぱり切られる可能性もあると見よ?大事じゃぞ?連れ合いと言うのはな」

「出会う暇すらありませんよ!色々みんなやらかすから!」

 いい加減、結婚のプレッシャーにうんざりしているウィルヘルムであった。

「次の社交の時期にでも頑張るんじゃの」

「フッ、猛獣の檻に入れられたうさぎになったような気分ですよ」

 辺境伯領の発展とともに注目度が上がって、期待値も上がっている辺境伯夫人という地位に、王都に来た令嬢方は血眼になっているのだ。ウィルヘルムは、この数年、肉食獣に狙われる草食獣の気分で社交の季節をやり過ごしている。

「……難儀じゃのぅ。わしの頃など、辺境に嫁入りなんぞ、死ぬ覚悟がいると嫌厭されておったもんじゃ。かわいい娘にそんな苦労をさせられるかとの」

「時代は代わりましたからね。はぁ、何処かにお忍びとか?」

「やめておけ。相手に最初から秘密を作るような関係はこじれやすぅなる。諦めず探し続けることじゃの」

「見合いは?」

「出会いの一つではあるが、既に家が絡んでおるからの。それをよしとするか、まず個人の関係からとするかはお前次第じゃの」

 辺境伯は、血筋を残すためや政略のための結婚は、ある誓約のため、実はご法度になっているのだが、高度な秘密のため、他の貴族には知られていないことなのである。なので代々の辺境伯夫人は恋愛婚であることだけが周知徹底されているため、令嬢方も自分で売り込みに行かねばならない状況なのである。

「はぁ、本当に身分が高いって面倒くさい。リエがパン屋のままで居たがるのもよく分かる」

「あれはポヤポヤしとるようで利口じゃからな」

「こっちに引きずり込みたいですが、引きずり込んだ途端、何やらかすかわからないから怖いんですよねー」

「……お前、御しきれる自信はあるのか?」

「あるわけ無いでしょー。あったらとっくに、横においてます!」

「ウム。お前も利口で安心じゃ」

「あれがそばにいて美味しいものが食べられる幸せと、あれがそばにいて起きる騒動に巻き込まれる悲惨さを検討した結果、放し飼いが適当と判断いたしましたよ」

 あまり大差ない状況であることに、あえて気づいていないふりをするウィルヘルムであった。

「……じゃの」

「ただのパン屋の亭主なら、おもしろかっただろうなぁ〜」

「うーん、アレの亭主か……大変そうな気がするの。なんだかんだと権力者に巻き込まれんだけの気概と知恵が必要じゃろの」

「権力に欲を出すようなのでは、アマーリエの夫はつとまりそうにないですからね」

「うむ」

「ハハハ!リエもしばらく独身だ!」

「お前の?他所の家の次男三男が家を出奔して、婿におさまりに来るかもしれんじゃろうが」

「あ」

「うちは、そなた一人故に出来ん技なんじゃぞ」

「ぬぅ?うちの親族は?」

「適当な年頃のはおらんじゃろうが」

「この際死にかけでも?」

「アホ吐かせ!そんなもん押し付けたら、それこそアマーリエに何されるかわかったもんじゃなかろうが」

「ですよねー」

 勝手にアマーリエの婿話に移る主達を見て、焼き鳥を頬張りながら、肩をすくめるカクさんとスケさんであった。


 一方勝手に婿をあてがわれそうになっていたアマーリエはと言うと。

「クシュッ。クシュン」

「あらいやだ?風邪ひいたぁ?」

「違います。これは明らかに悪い噂です。誰だ?碌でもない噂してるやつは?」

「ちょっ、リエ。顔怖い!子供が怯えてるから!」

「はっ。大丈夫。パン屋のおねーちゃんは怖くない怖くない」

 そう言って、村の子供に綿あめを手渡すアマーリエ。

((余計怖いって))

 内心でつぶやいた南の魔女とアルギスであった。やんごとなきお方は、時間がないからとお供を連れて温泉村に跳んで行った。

「オンオン!」

「あ、シルヴァンおかえり。屋台面白かった?」

「ベルン〜」

 シルヴァンとともに戻ってきた銀の鷹を見て、南の魔女がベルンに駆け寄っていく。

「一番、楽しんでたぞ」

「オン!」

「いっぱい、買ってましたよね。シルヴァン」

 アマーリエからお小遣いを渡され、しっかり自分用のアイテムバッグにしまって、買食いを楽しんだシルヴァンであった。

「そうね、ファルに負けないぐらい買い込んでたわね」

「う、マリエッタさん」

「リエにも買ってきたぞ!」

「ありがとうございます」

 ダフネから塩ダレの焼鳥とソース焼きうどんを手渡され、休憩に入るアマーリエ。

「それじゃ、俺達も売り子するか」

 アマーリエは銀の鷹から屋台や祭りの催し物の話を聞きながら、買ってきてもらった屋台の食べ物を楽しむ。

「ン、焼鳥のオジサン腕上げたね。お店できそうだよ」

「ああ、なんか村で店を出すそうだぞ?その息子は領都に店を出せないか考えてるようだ」

「へぇ〜」

「村の女性の刺繍の品評会も素晴らしかったですよ。みなさんお上手ですねぇ。今年はホーゲル村のおばあさんが優勝なさってました」

「そんなのもやってるんだ。知らなかった。秋祭りでもやるのかな?」

「秋は、豚の品評会とか農作物の品評会とかやってたわよぁ」

「へ〜」

 のんびりとした時間は過ぎ、村で大篝火がたかれる頃、流しの楽師による音楽が流れはじめる。そして火の周りに若者が集まり、踊りはじめた。

「ブリギッテさん達、相手はみつかったのかな」

 昼間、綿あめを買いに来たアルバン村の若い娘達は鼻息も荒く、祭りの踊りの相手を探すと話していたのだ。

「あんたはいいのかい?」

 西の魔女に聞かれ、アマーリエはダールから釣り上げられるなと言われていると話す。

「難儀なこったねぇ」

「しょうがないです。自分で蒔いた種ですし」

「よくよく、わかって悟りきってるんだねぇ。難儀な性分だね」

「これが私ですし」

「ふーん。なんか、面白いことはないのかい?」

 西の魔女は話題を変える。

「そうですね。花火があれば面白いんでしょうけど」

「花火?」

 アマーリエは西の魔女に聞かれるまま花火が何かを教える。

「ふむ、魔法でもできそうだねぇ。いっちょやってみるか」

 そう言うと、西の魔女は魔力を手に集め、空へと打ち上げる。ポンという音とともに光の花が夜空に広がる。魔女の弟子達も真似をして、魔力の花火を打ち上げ始める。

 突然始まった音と光のショーに、村人達は陶然と夜空の花を見上げることとなった。

 こうしてマチェット村のリラ祭りは多くの人に長く語り継がれる祭りとなったのであった。

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