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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第16章 一年目のリラ祭り
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今年もご愛読いただき、ありがとうございました。来年もがんばりますよ〜。

皆様良いお年を!

 リラの花の香りが村中を満たすようになった白の日。

 アルバン村の住民は朝早くから出掛ける用意をして、馬車の隊列を組んでマチェット村へと出かけて行く。ちなみに、魔女の弟子達は転移の練習と言われて、アルヴァン村からマチェット村へ転移魔法で移動している。魔女達は実践方式で学ばせるようである。

 アマーリエは、屋台の道具をアイテムボックスにしまい、銀の鷹の馬車に乗せてもらって移動である。他の冒険者達も珍しく、今回はリラ祭りに参加するようであった。

「なんか、参加人数増えたみたいですよね」

 御者台に、ベルン、南の魔女、アマーリエと並んで座り、幌の中は銀の鷹とそれ以外の人がギュウギュウに乗っている。

「……そりゃ、お前が色々やるからだろ」

 朝市で、アマーリエは他の村の人から屋台で出す食べ物の話を聞かれ、思いつくまま答えていたら何故か、他所の村からも料理講習会に参加する人が出て、例年より、食べ物系屋台が増えたらしいのだ。

 その話を聞いて、面白そうだと祭りを見に行く人間も増えたのである。

 そして、講習会で余った料理は、冒険者の携帯食以外にも、温泉村近くの砦跡に建つ高級宿屋の建築現場に仕出しとして使われている。順調に携帯食や仕出しの成果を出しているのだ。

「いいじゃないですか。美味しいものが増えたほうが」

「はぁ。それでご領主様はいつ来るんだ?」

「東の魔女様が、今、迎えに行ってらして、直接マチェット村に来るそうですよ。その後、温泉村だそうです」

「そうか。骨休めも大事だからなぁ。俺達も今度行くか?」

「そうだな。ゆっくり湯に浸かるのは気持ちが良いからな」

 ベルンの問いかけに、荷台の方にいるダリウスが答える。

「あーあ、大隠居様早く温泉禁止解除してくれないかな〜」

「しばらく無理だろ。下手にお前を温泉に近づけたら、また何やらかすかわかったもんじゃない」

「ちぇー」

「で、なんで神官さんのお兄さんがいらっしゃってるんだ?」

 声を潜めて、ベルンが急遽増えた祭りの見物客三人のことをアマーリエに聞く。

「……わかんないです。昨日知ったぐらいですし」

 昨日突然やってきた、忍んでるつもりのお偉いさんにゲオルグの顔がひきつったのは言うまでもない。

「アルギスさんが話したのぉ。そしたら来ちゃったのよねぇ」

 南の魔女が呆れたように小声で答える。

「「はあ」」

 南の魔女の言葉にため息を吐くように頷くアマーリエとベルン。

 そう、銀の鷹の馬車にはアルギスとネスキオ、やんごとなきお方とそのお供二人も乗っているのだ。やんごとなきお方たちは一応冒険者風の格好をして居るが、その威圧感は半端なかった。お供の一人は狼人の剣士だが、明らかに武官の雰囲気で、もうひとりのインテリ眼鏡は魔法士を装っているが、明らかに文官、しかも高位文官の空気を醸し出している。

 そんな三人が、ダリウスの未だ大きくならないコカトリスのピーちゃんを愛でているのだ。ピーちゃんの方も恐れることなく三人に、ピーピー鳴いて、愛想を振りまいている。

 御者台に逃げて正解だったと、心の中でつぶやくアマーリエだった。

 ちなみにゲオルグ達と西の魔女は、黒の森の梟の馬車に乗っている。

「シルヴァンたらぁ、お供の狼の獣人さんに釘付けねぇ」

 南の魔女の視線の先には、ダリウスの膝の上に抱っこされたシルヴァンがいた。これも誰がシルヴァンを抱っこするかで揉めに揉めた結果である。交代で抱っこしていくらしい。

 シルヴァンの方は、初めて見る狼人に興味があるのかひたすら、そっちを窺い見ている。

「ああ、人化したいみたいなんですよね、あの子。尻尾を消すところまではできてるんですよ」

「あらぁ、そうなの?」

「魔狼ってやっぱり進化しますよね?」

「あたしが見た中じゃぁ、神狼がやっぱり一番すごかったわねぇ」

「「え゛」」

 南の魔女からの予想外の答えに、アマーリエとベルンが目を剥く。

「もちろん、戦ってないわよぉ。ある森の守護聖獣だものぉ」

「ほへー」

「それは人化してたからぁ、シルヴァンも覚えればできるんじゃあないかしらぁ?きれいだったわよぉ」

 思い出してホォっとため息を吐く南の魔女に、見てみたいと言って、あんたじゃ無理よと言い切られるアマーリエ。

「人化するところを誰かに見せてもらったら、シルヴァンも覚えますかね?魔力の流れとか魔力感知を使って見てみたりとかして」

「こればっかりはぁ、あたしにもよくわかんないわよぉ」

 口を尖らせる南の魔女に、腕を組んでどうしたものかと首をひねるアマーリエ。

「よかったら、うちの母の仲間を紹介してもらうか?」

 横を並走しながら話を聞いていたダフネが、アマーリエに声をかける。

「いいんですか?」

「ああ。気のいい狼人だから、多分教えてくれると思うぞ」

「それは助かります」

「久しぶりにアルバンダンジョンに潜るとか言ってたしな」

「あらぁ、クロエ達も来るのぉ?それは楽しみねぇ」

 長生きな分、顔の広い南の魔女であった。


 小麦が青々と茂る農道を、馬車の隊列がのんびりと進み、やがてマチェット村にたどり着いた。アマーリエと銀の鷹は、村の広場の割り振られた場所に屋台の準備を始める。先に着いていた魔女の弟子達も、他の村の人の手伝いをしている。

 鐘二つ(午前八時)が鳴る頃、村長のかわりにウィルヘルムとゲオルグによって、リラ祭りの開催が告げられた。

 アマーリエの護衛には時間毎に決めた護衛兼売り子付き、順番に祭りを楽しむことになっている。アルギスは兄と一緒に祭りを楽しむ。やんごとなきお方達は流石に丸一日祭りを堪能する訳にはいかないらしく、昼頃に帝国に戻るため、先にアルギスと一緒に祭りを見て回ることになったのだ。

 シルヴァンは銀の鷹達に連れられて屋台見物に出て、三魔女は弟子達にアマーリエのことを頼んで祭り見物に出た。

 早速、綿あめを楽しみにしていた村人達がアマーリエの屋台の前に並び始めた。朝食がまだの者も、種類豊富なコッペパンサンドを見て、どれを食べるか悩みながら買っていく。

 アマーリエは子供たちと親に、綿あめを食べるときはどこかに座って食べるように注意し、食べ歩きして転んで怪我をしないように言う。

「この綿あめですか?面白いですね!今度、里帰りする時、この魔道具おみやげに持って帰ります」

「俺も買っていこう。うちの親父もこういう珍し物好きだからな」

「あはは、気に入っていただけて良かったです」

 魔女の弟子達がせっせと綿あめをこしらえて、親子連れに売っていく。

「おねーちゃん!そのふわふわの甘いの一つ下さい」

「はーい」

「色々新しい生活魔道具が売られててびっくりしました。今度ダンジョン探索に連れて行ってもらうんですよ。いいアイテム見つけてお金を貯めて、便利な生活魔道具を買う予定です」

「だよな。料理もいっぱい覚えたし」

「あはは、魔法の修行に来たのに料理の修行になちゃってましたもんねー」

「「「いやいや、いっぱいいろんなこと学べたから!」」」

「【魔力操作】も【魔力細密操作】にスキルアップできたし!」

「【省魔力】って言うスキルも覚えた!」

「来てよかったよね」

「「うんうん」」

 長蛇の列にならないようせっせと客をさばきながらも、アルバンに来てからの数日にあったことを話し合う魔女の弟子達であった。

「おそらのくもをたべてるみたい!」

「くもも甘いのかなぁ?」

「どうだろうねぇ?」

 親子の微笑ましい会話に耳を傾けながら、徐々に落ち着いていく屋台。昼近くには、コッペパンサンドを求めて人が集まってくる。

「じゃぁ、私達他の屋台見てきますー」

 魔女の弟子達に護衛の報酬を現金で払うアマーリエ。屋台での買食いする分も上乗せして入れてあるのだ。そんな魔女の弟子達と代わり、南の魔女とアルギス、ネスキオが護衛兼売り子で入る。西と東の魔女は村の子供にねだられて、生活魔法の練習を見てあげている。

「村の朝市で出してたおかげで、騒動になってなくて良かった」

「そうよねぇ」

 程々に列ができる程度の混み具合に、アルギスと南の魔女が胸をなでおろす。

「他の屋台どうでした?」

「リエが教えた、塩ダレの串焼き鳥だっけ?盛況だったよ。あと、ソース焼きうどんだっけ?それも。目新しくて人が集まってた。兄上のお供もなんかいっぱい買いだめしてた」

「ハハハ、そうですか(何やってんだ、偉い人!)」

 内心で突っ込みながら、相槌を打つアマーリエ。

「なんか、こんな風に兄上と気軽に出掛けるなんてはじめてで、すごく嬉しい」

「良かったですね。秋にも祭りがあるようですから、時間が合えばまたご一緒したらどうですか?」

「うん」

「はい、じゃ、せっせと手と口動かして、お客さんさばいてくださいね」

 しみじみした空気をぶち破るアマーリエであった。南の魔女は呆れたように首を振っている。

「アルギス、綿あめなるものを買いに来たぞ」

「兄上!見てて下さい」

 やって来たやんごとなきお方に綿あめを作って見せるアルギス。ネスキオの方はせっせと呼び込みをしている。

「おお、まことに雲のような菓子であるな」

「あ、アルギス様、わたし十本欲しいです」

「俺もいっぱい欲しい。コッペパンサンド?も全種類二個ずつ下さい」

「そなた等、どれだけ食べる気なんだ?」

 やんごとなきお方はお供の買いっぷりに呆れ果てる。ちなみにやんごとなきお方のおごりになっているそうである。

「家族へのお土産です!」

「同僚へ土産です!」

「……左様か」

 アルギスと南の魔女がせっせと綿あめを作り、アマーリエはコッペパンを袋詰して、ネスキオがお会計を済ませる。

「みんなに見せびらかすぞー」

 狼人の護衛がムフフと自分のアイテムポーチに買ったものをしまっていく。

「いったいどういう名目で、こっちにでてきたんです?」

 見せびらかして大丈夫なのかと気になったアマーリエがやんごとなきお方に声をかける。

「下町と農村部の視察と言って出てきた」

「あ〜、嘘はいってませんもんね。どこのと言わなかっただけで」

「であろう?来てよかった。きちんと領地経営できている村の状態がどんなものかよくわかって、勉強になる」

「アルギスさんとゆっくりできたみたいですしねー」

 なんだかんだ御機嫌そうなやんごとなきお方の様子に、温い笑みを浮かべるアマーリエだった。

「うむ。温泉も良かった!国に戻ったら、早速探すぞ」

「ええ、うちでもぜひ探しましょうね!帰りにもう一回入っていきませんか?」

「珍しいな?そなたがそんなに興味を持つなど」

「肩こりが楽になったんですよ!もう一回絶対(・・)入っていきましょうね!」

「俺、ちょっと毛艶が良くなった!またモテちゃいそう!ウフフ」

 インテリ眼鏡のお供の今まで見たことのない力強い同意と狼人の不気味な笑いに、ちょっと腰が引けたやんごとなきお方であった。

「ああ、血行が良くなったからですね」

「「?」」

「あそこは炭酸泉で、炭酸の泡が血行を良くするんですよ。血行が良くなると肩の筋肉のこわばりが緩和されて肩の凝りがほぐれるんです」

 のほほんとアマーリエが温泉の効能を説明する。

「そうなんですか!」

「目を酷使されてるようですし、肩が凝りやすいでしょうから、ひどいときは蒸した布をまぶたに置いたり、首筋に置いて温めるといいですよ。火傷だけは気をつけてくださいね。後は肩の筋肉を伸ばしたり縮めたりして肩周りの血行を良くすることですね」

 アマーリエは、肩周りの動かし方をインテリ眼鏡に伝授する。

「やってみます!」

 ホウホウと頷くやんごとなきお方に、肩こりの解消方法を伝授されて喜ぶインテリ眼鏡。狼人は買ったコッペパンに早速かぶりついていた。

「あんたってぇ、たまーに食い気以外の良いことも言うのねぇ」

「花より食べ物で悪かったですね!」

 南の魔女に突っ込まれてぶすっとなるアマーリエであった。

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