1
翌日、店が休みのアマーリエは、リラ祭りの出店許可を得るためゲオルグの元を訪れた。シルヴァンは神殿で銀の鷹や黒の森の梟と一緒に修行中である。お昼は専用保温マグを使ってお弁当を持たせてあるので夕方までアマーリエは一人の予定だ。
ちなみに中身はドライカレーと塩揚げ鶏で、おやつに皆で食べるようにとプリンのはいったアイテムバッグも持たされている。
口をへの字に曲げ、難しい顔のゲオルグに、すっと頭を下げてリラ祭りの屋台参加許可をお願いするアマーリエ。
「……許可せんからの」
「南の魔女様もアルギスさんもシルヴァンも護衛してくれるって言ってくださってるんですよ!」
「お前さんが屋台をやるなんぞ、ウィル坊の耳に入ったら執務ほったらかしてこっちに跳んで来るに決まっとるじゃろうが!」
「ご褒美と温泉村視察も兼ねて呼んであげたっていいじゃないですか!大隠居様が執務代行すれば問題ないと思うんです!」
「わしだって祭りを楽しむんじゃ!」
「じゃあ先代様で!」
「フリッツに伝われば陛下まで来るといいかねんから絶対ダメじゃ!」
「うっ、そうなったら貴族がみんな来たがるのか?」
「そういうことじゃの。じゃから、却下」
「や〜た〜い〜。珍しくって美味しいもの出したかったのに!」
「ぐっ。ならばそなた、誰かにやり方教えて代わりに出てもらえばよかろう」
アマーリエの言葉に一瞬、心が揺れるゲオルグ。しかしすぐに立て直し、代案を伝える。
「私だって出たいし祭りを楽しみたい!」
「絶対ダメじゃ」
二人の子供じみたやり取りを呆れた顔で見守るスケさんとカクさん。そこに訪いの声がかかり、スケさんが応対する。
「東の魔女様?」
「あら、お取り込み中なのかしら?」
「東の魔女様、聞いてくださいよー」
やって来た東の魔女を巻き込むことにしたアマーリエ。
「まあまあ、どうしたの?」
「リラ祭りに屋台出したいのに、大隠居様ったらご領主様が来ちゃうからダメっていうんです!ご領主様に一日お休みあげてもいいと思うんです!休み大事!」
「そうねぇ、気晴らしは大事ねぇ。ダールさんなら一日お休み作るぐらい出来るんじゃないかしら。私が送り迎えをして差し上げますよ。そうしたら、一日ぐらい休めるんじゃないかしら?」
「え、魔女様いいんですか!?」
アマーリエに同意してくれた上に送迎まで申し出てくれた東の魔女にアマーリエは内心でガッツポーズを取る。
「その代わり、屋台の食べ物おごってちょうだいね?」
「もちろんです!」
「おい!東の!勝手に決めるな!アマーリエは狙われておるんじゃぞ」
「そっちは南の魔女様が護衛してくださるから大丈夫ですって」
「なんなら西のにも頼みましょうか?魔力溜まりの調査の方も一山越えたようですし、ここらで彼女もお休みを取ったほうがいいでしょうし。温泉と美味しい酒のツマミがあれば喜ぶと思うのですよ」
「わ〜、三魔女様揃い踏みとか鉄壁!あ!お弟子さん達も呼びますか?魔力溜まりの件で頑張ってらっしゃるって伺いました。ご褒美必要だと思うんです!」
「そうねぇ、皆頑張ってるし、呼んであげたら喜びそうねぇ。交代でアマーリエさんの護衛をお願いすればいいでしょうしね」
「無理矢理はダメだと思うので、一応来てみたい方でいいと思います」
「そうね!南のと西のに相談してみるわ」
「じゃあ、私、屋台参加許可取ってきます〜」
「こりゃ!わしは許可しとらん!」
「ねぇ、ゲオルグ殿、かわいいお孫さんにご褒美をあげてもいいと思うのですよ。魔力溜まりの件でも頑張ってらっしゃったでしょう?」
「うぐぐ。わかった。ただし騒動はくれぐれも起こすなよ!アマーリエ!」
「は〜い。じゃ、明日村役場に行ってきます。何を出すかはまた報告しに来ますね」
調子よく返事して、アマーリエはその場を辞した。
店に戻ったアマーリエは、リラ祭りに何を出すか考えながら、ドライカレーの残りでライスコロッケを作り始める。
「せっかくだし、カレーペーストも作って、カレーパンも作っちゃおうっと」
誰も止める人間がいないがために、のびのびと自分が食べたいものを作り始めるアマーリエ。
「うーん、一人で屋台やるより、村のおばちゃん達も巻き込んじゃおうかな。あ!携帯食の練習も兼ねればいいか。となると魔導焜炉を誰がどこにいくつ用意するかっていうのが問題かなぁ。うーんどこを巻き込むべきか……」
いろいろ考えながら、手を動かすアマーリエ。
「コンベクションオーブンはいつ村に入れるんだろ?先に焜炉は無理かな?役場のヨハンさんに許可貰いに行くついでに聞いちゃえ」
フンフン鼻歌を歌いながら、パン生地にカレーペーストを詰め、揚げていくアマーリエだった。
「嬢ちゃんおるかー?アーロンじゃ」
「は〜い」
アマーリエは声を上げ、店の入口へと向かい、ドアを開ける。
「やあ、嬢ちゃんこんにちは」
「こんにちは、アーロンさんと?」
「長男と孫娘じゃ。この間呼んだんじゃが、すぐ来てくれての」
アーロンがニコニコしながら後ろに居た、上品な中年男性と十歳ぐらいの少女をアマーリエに紹介する。
「はじめまして、お嬢さん。アーロンです、父と同じ名で紛らわしいでしょうからロニーと呼んでください。父がお世話になっています」
「こんにちは!リンジーです!よろしくね」
「ロニーさん、リンジーちゃん。はじめまして、アマーリエ・モルシェンです。こちらこそアーロンさんにはお世話になっております。さ、どうぞ中へ」
アマーリエは三人を二階の居間に連れて行く。アーロンは店のあたりから漂っていたカレーの匂いが気になって、すぐさまアマーリエに確認する。
「嬢ちゃん、カレーを作っとるのか?」
「あはは、香りがしますよね。できてるので味見されますか?」
「ええんかの?」
「どうぞどうぞ」
三人を居間に招き、椅子を勧めるが、ロニーがウィングアームソファに目をやって驚く。
「この椅子は!最新の布張りの椅子ではありませんか!」
「領都の家具屋さんに作ってもらったものですよ。飲むもの用意してきますね」
アマーリエは階下に降りてできたてのカレーパンとライスコロッケ、ユグの村から届いた新鮮な牛乳を用意する。
居間に残されたアーロンが、アチャと額に手をあてる。
「ん?作ってもらった?てっきり、ご領主からもらったものじゃと思うとったわ」
「父さん、お嬢さんにはあれこれ話しを聞いたほうが良さそうですよ。バルシュのここ最近の発展は、あのお嬢さんの活躍があるようだというのが商業ギルドでは通説になっていますから」
「そうじゃのぉ。少し現場を離れて情報に疎うなっては商人の名折れよな」
「側にいらっしゃっても、父さんなら怪しまれませんし、絶好の機会ですよ」
「確かに」
「ね、わたしもしばらくおじいちゃんのところに居ちゃ駄目?商いの仕方を習いたい!」
可愛い孫のおねだりに相好を崩すアーロンだった。
「お待たせしました。カレーパンとカレー風味のライスコロッケです。牛乳の方が合うと思って用意したんですけど、一応冷たいお茶とお水もありますから遠慮なく言ってくださいね。リンジーちゃんは唐辛子とかの辛いのは大丈夫?」
「大丈夫よ。お父さんと一緒に辛い食べ物のある国へも行ったことがあるから」
「わぁ、他の国に行ったことあるの?さすが、ベレスフォード商会のお嬢さんですね!」
アマーリエの様子に気を良くしてリンジーが、今まで行ってきた国の話を始める。アマーリエも聞き役に徹して、情報収集を図った。その様子にアーロンとロニーが目を合わせ苦笑を浮かべる。
「リンジー、せっかく温かい食べ物を出してくださったんだ。温かいうちに味わわないと」
「あ!ごめんなさい。いただきます!ん!」
カレーパンをひとくち食べたリンジーが目を丸くする。
「お味の方はどうですか?」
「美味しい!パンがほんのり甘いのね。でもそれが、中の具の辛さを和らげてくれるの。それにこの外側はサクッとしてるのに中はしっとりした感じで、それがまたいいの」
「ふむ、これは美味しいですな。ちょっと食べるのに実にいい」
「カレーライスも旨かったが、このカレーパンも旨いの。しかも手軽に食べられるから場所を選ばんの」
大店の主達は目を輝かせてこの新たなる商品に心惹かれ始めさせる。
「それに、これ支援効果があるんですね!」
目をキラキラさせてリンジーがアマーリエに話を振る。
「ダンジョンの鬱金を使ってますから、効果がつくんですよ。こっちのライスボールはさらにリジェネの効果がつくんです」
ライスボールにかぶりついていたアーロンがニンマリと笑う。
「これはカレーライスを揚げたものじゃな!こっちも手軽に持ち歩けて場所を選ばんの」
「支援効果があるなら食料アイテムとしても売れますな。支援効果のあるものと一般に流通させるもの。いやはや、色々商いの種がありますな」
「どうじゃ?カレー粉を開発したくなったじゃろ?」
「ええ、父さん。これは売れますよ!」
「あはは。頑張ってカレー粉作ってもらえたら、わたしも助かります」
「早速、ウコン以外の香辛料を手配しましょう。料理人も募集しなければいけませんな」
「もしかしたら、どこかの国に鬱金があるかもしれないので、商会の伝手で探すのもありですよ」
この間言い忘れたことをアマーリエが付け足す。
「そうじゃの。端からないと決めつけては、いかぬの」
「そうですね。栽培環境がわかればそこと似た地域にある冒険者ギルドに探してもらうよう依頼を出しますか」
二人のやる気にお腹の中でニッコリ笑うアマーリエだった。
一方の辺境伯領、辺境伯のお屋敷では。
アマーリエが屋台を出したいばっかりに、勝手に休みが作られ、前倒しで仕事を頑張る羽目となったウィルヘルム。もちろんそんなことは一言もおくびにも出さず、領主を上手く操縦するために言葉を選んで、ウィルヘルムに休みが取れることになったと話すダールだった。
「いいの?お祭りと温泉楽しんでいいの?」
目をうるうるさせて、ダールを見上げるウィルヘルム。
「一応視察という名目でございますよ?一日だけですが、頑張っている若旦那様にとのことです。東の魔女様が送り迎えをしてくださるそうですし、アマーリエが珍しいものを作るから楽しみにしててくれとのことですよ」
「ほんと!?じゃあ、今ある仕事がんばってやっつけるよ!ダール!仕事持ってきて!」
普段の二倍増で働くちょろい若旦那様にダールはにっこり微笑み、決済待ちの書類の山をドーンと築き上げましたとさ。




