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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第14章 携帯食騒動
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お待ちどうさまです〜

 ベルンから頑張ってこいと鬱金を餌になだめられ、ダリウスからまたダンジョンの話もしてやるからおとなしく行ってこいとすかされ、閉店後、冒険者ギルドに向かったアマーリエ。

 シルヴァンは朝から神殿で訓練中のため、話が終わったら、アマーリエが迎えに行くことになっている。

 冒険者ギルドへの道すがら、誰か巻き込めないかと色々算段する腹黒アマーリエであった。

「こんにちは〜」

「あ、パン屋さんいらっしゃい。こっちこっち」

 待ち構えていたギルド職員に捕獲され、ギルド長室へと連行される。

「……失礼します」

「やあ!いらっしゃい。ささ、座って座って」 

 ビンセントの昨夜と変わらぬ、かる~い調子に、一人で訪れたことを後悔し始めるアマーリエであった。おとなしくすすめられた木の椅子に座り、一応仕切り直しとばかりに挨拶を済ませるアマーリエ。

「これはご丁寧に。俺はこの冒険者ギルドアルバン支部の長を任されてるビンセントだ。改めてよろしく」

 ちょっとだけキリッとしてみせたビンセントに懐疑的な眼差しのまま頷いたアマーリエ。

「俺はまだるっこしいことは苦手なんでな、単刀直入に言う。冒険者ギルドにモルシェン製のパンとスープを携帯食として卸してほしい」

「率直にお断りします。パン屋の切り盛りしつつ、他の台所も賄うと言うのは能力的に無理ですので」

 取り付く島すら与えず、速攻で断ったアマーリエだった。

「そ、そこをなんとか」

「知恵なら貸せます。ただし相談料は、頂きます」

「貸してください、お願いします!」

 あっさり頭を下げたビンセントに首を傾げるアマーリエ。

「早。商業ギルドの人とえらい違いだなぁ。もっと交渉粘るかと思ったのに」

「食い物の恨みはさすがの俺でも怖いんだよ」

「あー」

「で、知恵ってどんな知恵だ?」

「そのまえに。昨日の酒場の調理手伝いの御駄賃下さい」

 アマーリエがすかさず出した手をガッツリ握ったビンセント。

「……なんですかこれ?」

「俺との握手!」

「警備員さ~ん!この人です!」

アマーリエの声に扉が開き、あっという間にビンセントが警備担当者に拘束される。その後ろに昨夜の受付嬢がお茶のトレーを持って、仁王立ちしていた。

「ちょっ、ムゴムゴムゴ……」

「パン屋さん、何かございましたか?」

 用意したお茶を机に置きながら、ビンセントをまるっと無視して話しかける受付嬢。

「昨日の酒場のお手伝いのお駄賃を握手ですまそうとしたんです、この人」

「それは大変!消毒しなければ」

 そう言って受付嬢は浄化魔法をアマーリエにかける。警備担当者は顔をそらし、ビンセントは涙目になっている。

「ショーン、それ(・・)しっかり縛って猿ぐつわかまして、そこの椅子に置いといて」

「はっ!」

 警備員は手際よくビンセントを戒め、猿ぐつわを噛ましてギルド長の椅子に置物よろしく置き直した。その様子をしっかり確認した受付嬢が、アマーリエの対面に座りなおす。

「ショーン、そのままそこで待機ね。改めまして、わたくし冒険者ギルド、ファウランド王国統括本部長のバネッサと申します」

「やっぱり、ただの受付嬢さんじゃなかった!冒険者ギルドのもっと偉い人だったよ。でも、なんでそんな偉い人がここに?しかも受付やってんですか?」

 時に、上長より力を持つお局様が居るのはよくあることだが、それ以上の貫禄をバネッサに昨日の時点で感じていたアマーリエ。それでも、驚きのあまり自己紹介をすっ飛ばし疑問をバネッサにぶつけた。

「魔力溜まりの対策のためにいつもより早くアルバン入りをしたのですよ。本来なら魔物の暴走(スタンピード)の兆候が見られ始めてから対策のためにアルバンに来るのですけどね」

「あー魔物の暴走(スタンピード)も魔力溜まりが絡んでる可能性ありますものね」

「ええ、パン屋さん、そのとおりですよ。そして、受付の仕事は担当のミルフィリアをバルシュ支部に使いに出したからです。アルバン支部は普段ギリギリの人数で回してますから。その代わりですね」

「あ、顔見ないと思ったら領都に出張に行ってたんだ。えっとアルバン村の冒険者ギルドは魔物の暴走(スタンピード)のときだけ人を増やすんですか?」

「そういうことです」

「なるほど。ん?いつも?いつもいらっしゃる?二十年毎……」

 バネッサの言葉をとらえてうっかり地雷を踏み抜きそうになり、慌ててお口にチャックするアマーリエ。種族ごとに寿命がかなり違うが、女性の歳を話題にするのは種族関係なくタブーとなっているのである。

「うふふ。竜人族なのですよ、こう見えてわたくし」

 アマーリエがまじまじとバネッサを観る。瞳孔が縦に長い瞳をしており竜人族の特徴を示していたが、逆にそれ以外の特徴をバネッサは持っていなかった。不思議そうに首を傾げるアマーリエにバネッサが苦笑して付け足す。

「何代か前のエルフ族の特長がでて竜人族の特徴が打ち消されているのですよ」

「そうなんですね。あ、少し耳の形がエルフ族よりですか?」

「ええ。スキルも魔法職系よりなんですよ」

「へ〜。じゃあ、南の魔女さまとお付き合いも長いんですか?」

「長いわねぇ。お互い顔を見飽きるほどには」

「あはははは」

「さて、世間話はここまでにして。まずは昨日の食堂での賃金ですね。こちらにご用意しました」

 バネッサが、小さめの革の巾着袋をアマーリエの前に置く。

「ちゃんと用意してあるのに、なぜ握手で誤魔化そうとしたのか?」

 アマーリエの視線を受け、猿ぐつわ越しにヘラっと笑って誤魔化そうとしたビンセントであった。

「……冗談のつもりだったのか。有罪で」

「仕置の必要がありますね」

「おまかせします」

「ええ、任せておいてくださいな」

「むーむー」

「あれは、今は無視してくださいな。昨日の労働の対価として五千シリング入ってます。お確かめ下さい」

 バネッサの言葉に首をかしげるアマーリエ。相場よりも多かったからだ。

「昨日の料理に対する特別料金を上乗せさせていただいてます」

「わかりました」

 アマーリエは、さっと中身を確認して問題ないことをバネッサに伝え、巾着をアイテムトートバッグにしまう。

「では、本題に。携帯食の納品をお願いしたいのですが、その様子では既に断られましたか?」

「はい。携帯食の卸というお話ですが、流石に私の能力的に処理しきれませんので代案を相談したいんです」

「代案ですか?」

「ええ、冒険者ギルドの偉い方がいらっしゃってますから、これはもう一大事業として計画ぶち上げたほうが早い気がします」

 アマーリエは、人を巻き込んで早々に事業化し、さっさと面倒から逃れる方向で話を持っていくことにした。目の前に使えそうな偉い人が居るなら、なおさらである。

「事業化ですか?」

「はい。事業として、美味しい携帯食の供給事業。各ダンジョン用の食料系支援アイテム事業、そのための魔物飼育事業、関連する物流事業の四本です」

 アマーリエは今後起こるであることを、推測として話、長く生きてきて彼女自身よりさらにこの世界に詳しいバネッサに、あれこれ確認しつつ、自分の計画を話す。

「……たしかに魔力溜まりの管理が進めば冒険者ギルドへの討伐依頼数は減りますね。そうなると、ダンジョンの探索に冒険者は流れるでしょうが、ダンジョンの踏破が進めば、ダンジョンの消滅も早くなります。そうなれば必然、冒険者は淘汰されるようになりますね」

「魔力溜まりの完全管理は無理じゃないかと思ってます。人の居ないところに突発的に魔力溜まりが生まれて、そこの生き物が魔物化すれば討伐の必要性が生まれます。けれどそうなった時に討伐できる冒険者が居ないのでは話しにならないんですよ」

「そのために魔物飼育業ですか?」

「支援アイテムを作るために魔物の素材は欠かせないと思います。その為と、魔物の飼育ですから当然戦闘能力も必要になると思うんです。冒険者稼業と兼業する人がいればいいと思いません?」

「なるほど、なるほど」

「物流を冒険者の方も手伝うようになれば、さらに僻地に人が住めるようにもなります。ちなみに辺境伯領では新たな物流網を築き始めてます」

「その噂は、耳に入ってきてますね」

「物流を一つが握るより、色々ある方が庶民のためですので、冒険者ギルドの方でも検討なさってはどうでしょうか?普通の熊や狼だって十分脅威ですしね。場所によっちゃ盗賊も出るかもしれないですし。あと、一処に人が集中しすぎて、突如天災にでも見舞われれば、一発消滅してしまうような事態もありえます。そうならないためにも分散して人が住む必要性があると思うんですよ」

「それは確かに。過去数百年に消滅した種族が幾つかありますからね。あの時はちょっとどころでなく騒ぎになりましたね」

「事業の大まかなことなんかは関係各所の上の方々でお話し合いしていただいて、例えば美味しい携帯食に関してはアルバン村や近隣の農村を試験運用に使うってのはどうでしょうか?他の場所でも運用方法を規模に合わせて変えるとか」

「お試しですか」

「ええ。形式は色々あります。内職ということである一定の水準を満たした料理を納品してもらう。場所と材料を提供し、料理を作ってもらい賃金を払う今のギルドの酒場のような形態ですね、そう言うふうにする。また近隣の農村部で各村の特産品を使った料理を提供してもらう。これの運搬は初級の冒険者を頼むとかですね。現金収入が増えれば、お金を使う機会が増えますし、お金を使う先の仕事もでき、経済が発展します」

「ふぅ、そうなってきますと各領地の領主方や王族の反応も考慮する必要が出ますね」

「そこは実績のある、ここの辺境伯を見本として領地経営の方法を教えればいいんじゃないですかね?税収を上げたいならそれ相応に出資をしないとダメですよって。領主のために領地経営法指南事業!案外儲かるかもしれませんよ」

 前世におけるコンサルタント事業も話に加えておくアマーリエだった。

「……(フフ、話に聞く以上に怖い思考をお持ちですねぇ。)指南については商業ギルドのほうが得意でしょうね」

「あはは、確かに。大雑把ですが如何でしょう?」

「美味しい携帯食を食べたいという話がここまで広がるとは思いませんでした」

「後、この村の場合、魔物の暴走(スタンピード)の対策の一環として炊き出しの練習にもなると思うんです。魔物の暴走(スタンピード)の後しばらくは、魔物が降りてくる山脈の探索とかあるでしょうから、携帯食必要になりますよね?美味しいご飯は冒険者のやる気が上がるようですよ!お腹すいてたら仕事になりませんし。あ、それと温泉村の建築関係者への仕出しとか。色々できますよね?仕事いっぱいあれば、人手は必要ですし。失業率も下がります」

「はぁ、あなたときたら。どれだけ話を絡めて大きくするつもりです?」

「皆絡めば、皆儲かって、そこそこ収入も増えて幸せになるかなーと。私一人が儲かってもしょうがないですし、働きすぎて潰れちゃうのも嫌ですし」

「確かに、そのとおりですね。これは色々と、話をまとめる必要が出てきましたねぇ」

 二人はお茶で一息ついた。バネッサは美味しい携帯食について、改めて場を設けることにするとし、相談したいと言うに留めたのだった。

 騒動を大騒動に広げるのがお得意なアマーリエにうっかり何か頼むべきではないのである。

 


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