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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第14章 携帯食騒動
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「なぜこうなったし?」

 アマーリエは冒険者ギルドの厨房で酒のつまみを製作中である。ちなみにシルヴァンは誰に飲まされたのか、酔っぱらいと化し、水芸ならぬ風芸を披露中である。何気に酔っても多才な魔狼であった。

「はい!のり塩ポテトあがりましたよ!きのことソーセージのソテーもいっちょ上がり!」

 アマーリエの声に冒険者ギルドの酒場担当職員がテーブルに運ぶ。

「結局私、酒場のポトフとパンしか食べてないし?おかしいだろー」

 アマーリエは石窯を覗いてピザとパンを皿代わりにしたグラタンの焼け具合を確かめる。

「そろそろいいかな?しかし……なぜだ?なぜ人が増えてるんだ?最初は銀の鷹と黒の森の梟しかいなかったじゃないか!」

 ちなみに黒の森の梟とは、この間ダリウスにうっかり巻き込まれてアマーリエに紹介されたアルバンダンジョン初めて冒険者パーティーである。彼らは既に集まった村人によって酔い潰されていた。

「あはは。職員から村人に話が回って、なんか飲みたい人が集まっちゃったみたいだよ」

「だから伝達能力高すぎだろう!」

 酒場担当職員の言葉に吠えたアマーリエだった。

「いや〜、この伝達能力の速さと正確さがないと、最前線で素早く行動できないからね」

「グハッ。もう腹が破裂するほど飲んで食ってけ!食堂の保存庫を空にするがいいわ!」

 呪いの言葉を吐くアマーリエだった。

「あ、石窯大丈夫?」

「あ、やばい焦げる〜。ホッ。良かったギリだ」

 アマーリエはピザをカットして皿に乗せ、パン皿グラタンをトレーに乗せて職員に渡す。

「お〜、美味しそう。俺も味見しよー。ついでにエール」

「樽ごとワイン持ってこーい」

「……ドワーフが混ざった。最早誰も止められない」

 ワイン樽を運ぶ酒場担当職員の背中に向けて、ボソリとつぶやくアマーリエ。そんなアマーリエの前にヌボっと現れる昔はモテたであろう中年男。

「オー!パン屋さんここに居た!依頼があるんで明日来てねー」

「どちら様?」

 たまたま持っていた包丁の柄を思わず握りしめたアマーリエに、慌てて一歩引いた中年男。

「冒険者ギルドギルド長のビンセントです!」

 ギルド長だと言う酔っぱらいの男がキリッとしてみせるが、その軽薄さを不審に思い、確認のため他の職員を探すアマーリエだった。視線の合った受付嬢がアマーリエのもとにやってくる。

「パン屋さん、どうされました?」

「この方は?」

「ああ、うちのギルド長です。嘘であってほしいお気持ちは重々承知しておりますが、間違いなくうちのギルド長ですからご安心を。今はただの酔っ払いですが、素面でもこんなものですので、お構いなく」

「はぁ(それでいいのか!冒険者ギルド!)」

 にこやかに毒を吐く受付嬢に納得出来ないまま頷くアマーリエ。

「何かありました?」

「明日、依頼したいことがあるので来てほしいと」

「ああ。携帯食のことでしょう。お忙しいと思いますが、閉店後にでもいらしてください」

「わかりました。はぁ、居てくださって助かりました。思わず不審者通報しそうでした」

 酒場の料理を作っていた女性に何かあったらすぐさま職員に申し出るようにとだけ言い含められていたアマーリエだった。

「不審なことをしてましたら迷わず通報してくださいね」

「わかりました!」

 酔っぱらいのギルド長を指差してにこやかに言う受付嬢に同じくらい良い笑顔で応えたアマーリエ。

「ちょっと君たちひどくないか!」

「「妥当かと」」

 女二人の真顔に床に崩れ落ちるギルド長であった。

「パン屋さん!色んな料理が楽しめて、お酒も進みます!今日は来てくださってありがとうございました」

「あはは、喜んでいただけたらうれしいです」

 酔っぱらいのギルド長を引きずって受付嬢がテーブルに戻っていった。

 樽酒に突入し、料理の注文がほぼ止まり、アマーリエは厨房を片付ける。そして、床に転がる人々をまたぎ越し、取り敢えず意識がしっかりしてそうなダリウスに話しかける。ピーちゃんはこの騒々しい中、ダリウスの頭の上でお眠になっていた。

「ダリウスさん?」

「おう、アマーリエ」

「そろそろ帰ろうかと思うんですが」

「ああ、もう遅いな。なんかすまなかったな。ゆっくり飯でもと思ったんだが」

「自分でも何がどうしてこうなったのかわかりません」

 実際の所、料理を運ぶのに手を貸し、そのまま厨房に巻き込まれたとしか言えない状況だった。そもそも冒険者ギルドの食堂は正規の料理人ではなく、時間雇いの村の婦人が交代で働いているため、婦人たちの勤務時間後、アマーリエがそのまま引き継ぐ形になったのだ。

「だろうな。あとで、ちゃんと労働対価をもらっとけよ」

「そうします。シルヴァン、帰るよー?」

「キュゥ」

「しょうがない。背負って帰るか」

 アマーリエは身体強化して、シルヴァンをなんとか背中に乗せる。

「ベルンは……こりゃ俺が背負わないとダメだな。ダフネ、マリエッタを頼む。グレゴールはファルな」

「わかったぞ」

「はぁ、やっぱり」

 それぞれ背中に酔っぱらいを背負い、酒場の人々に一応手を振ってギルドを出たアマーリエと銀の鷹だった。


「ダンジョンどうでした?」

 帰る道すがら話を振るアマーリエ。シルヴァンはその背中でむにゃむにゃ寝言を言っている。

「ああ、万屋のアーロンさんが言ってたように四階層まで季節に別れてた。他の部屋はまだ見てないがウコンが出た部屋を四階層分とコメが出た部屋を四階層分サラッと見てきた」

「なるほど」

「他の部屋も見ようって話になってる。色々ありそうだからな。部屋のドアもたくさんあるしな。ダンジョンの深度ばかり気にして、最初の五階層分がほぼ手付かずなのは痛いな」

「へ〜」

「取ってきたウコンの一部をお前に渡すつもりなんだが、ベルンがこれなんでな。あとでいいか?」

 安定感あるダリウスの背中でぐっすり眠っているベルンを苦笑して見るアマーリエ。

「ええ、もちろん。飲む前に鬱金を飲ませりゃ良かったかも。失敗したな」

「ああ、確か酔いに効果があったんだっけか?」

「飲む前なら消化を助けるんで。まあしょうがないんで後は水をちゃんと取るようにしてください」

「うん、そうする」

「拠点の引っ越しはいつですか?」

「資材が揃うのが遅れてるようでな、工事も遅れるそうだ。なんでも村のあちこちで改装が増えてるらしい」

「あー。それうちの庭側の壁に作った扉のせいですね」

 ダリウスの言葉に心当たりが思いっきりあるアマーリエは思わず遠い目をしてしまう。

「?」

「この村の家って、玄関とお勝手口はそれぞれ道に面して作ってあるそうなんですけど、庭に直接出る扉ってのが今までなかったみたいで」

「パン屋で見て、うちもってなったってことか?」

「そうです〜」

「相変わらず、色々やらかしてるなぁ」

「何故か大事になるんですよねー?なんでだろ?」

「確かに。まあ、皆儲かってるようだし、良いんじゃないのか?」

「そう思いたい。はぁ……あれ?」

 広場に出たアマーリエは、目にしたものを見て思わず立ち止まる。

「ん?」

「あれ」

 両手が塞がっているので、思わず顎をしゃくって視認したものをダリウスに教えるアマーリエ。

「ぬ」

「あ、レイス?」

「変な気配のやつだ」

 ダフネの言葉にハッとなるダリウス。

「前にお前が気にしてた気配か?」

「ああ。あれが同じ気配だ。レイスとちょっとち、あ、消えた」

 皆の目の前ですっと消える半透明な状態の幼女の姿。

「はじめてみました。あれ、村で噂になってるやつかな」

「噂?」

「はい。ただ現れて消えるだけみたいです。なにもないので、村ではお金がかかるため依頼はまだ様子見だそうです」

「なるほどな。確かに現れて消えるだけじゃあなぁ」

「ここ最近の話みたいなんですけど、何が原因だったんだろ?」

「さあなぁ?」

「何にせよ実害が出るまでは、討伐依頼は出ないだろ」

「はーい」

 そしてそのまま、しばらくしてレイスは発見されなくなり、リラ祭りの話題もあって村では一旦幽霊話は途絶えることとなる。


 翌日、パン屋に来た客に今度は何時冒険者ギルドの酒場で宴会をやるのかと聞かれたアマーリエ。

「いや、昨日は銀の鷹と黒の森の梟の皆さんに誘われてたまたま行っただけなんですよ」

「そうなの?」

「誰かがしきってくださるなら、村の女性陣で酒場を借り切って女子会でもいいですけど〜」

「女子会って何?」

 うっかり者のアマーリエの一言に女性陣が食いついた瞬間であった。

「えっと、女性だけで飲んで食べて話をして楽しむ会合です」

「わかった!決めてくるわね!」

 そう言うと支払いを済ませた女性達は店を出ていったのであった。

「あははははー、冗談だったのにな」

 既に昨日のことを思い返して涙目になったアマーリエだった。雉も鳴かずば撃たれまいに。

「楽しそう!」

「女子ならいいの?」

「お酒出るでしょうから、未成年はダメでしょうねぇ」

「それもそうか」

 

 ちなみにその後、行動力のあるおばちゃま達により、第1回アルバン村女子会が、神殿の食堂を貸し切ってつつがなく執り行われた。が、参加資格のない人々からの嘆きの声に、男子会と子供会が続けて行われることになったとさ。

 

「「「「いらっしゃいませ!」」」」

 やってきた冒険者たちに声をかけるアマーリエ達。

「よっ、リエ!」

「皆さん、こんにちは」

「パンとスープ、持ち帰りでお願い」

 注文を受けせっせと働くブリギッテ達。

「これ助かったよ。ダンジョンの中で温かくて美味しいものが食べられるって心強いよ」

「さっき魔道具屋で保温瓶とマグを追加注文してきちゃったよ」

 冒険者たちは次々と保温マグを取り出し、ブリギッテ達に手渡していく。

「ほうほう。魔道具屋さんも儲かってますね」

「村の人も注文してるって聞いたよ」

「そうなんですよねー」

「うちも、買ったよ!畑仕事にお父さんたち持っていってる」

「うちも鍛冶場仕事のときは持っていくって買ってた」

 ブリギッテに続いてアリッサも嬉しそうに報告する。

「夫が作ったものが喜ばれてるって実感できて嬉しいわ」

 ソニアの言葉に独身者達はごちそうさまと呟いた。

「あの、ベルンさん」

「うん?」

「今日店終わったら、冒険者ギルドに携帯食の話をしに行くんですけど、なんかご存じですか?」

 アマーリエは夕方の予定についての情報収集を図ろうとするが、その言葉に冒険者たちは挙動不審になる。

「……もしや?」

「あー。前に引っ越し手伝いの依頼料にリエが作った携帯食を持って来たろ」

「行きましたねー。職員の皆さんかなーり気にしてたようでしたけど、皆さんがいらっしゃらないから中身確認できなくて焦れてたような?」

 アマーリエはその時の状況を思い出して口にする。

「俺達が帰ってくるの勢揃いして待ち構えてたよ!普段、ダンジョンから帰ってきた時でさえあんな出迎えは受けないのにな!」

 ベルンの言葉に銀の鷹のメンバーが頷く。その様子に首をひねるアマーリエ達パン屋の女性陣。もちろん手は動かして注文はさばいている。

「お前が持ってきた携帯食はその場で完食だ」

「へ?」

「味見させろや何だで、食われちまったんだ」

「えー」

 ベルン達銀の鷹が用事を済ませて冒険者ギルドに戻ると入り口で待ち構えていた職員にとっ捕まり、酒場へ連行された。酒場には上はギルド長、下は平まで職員全員が揃っていたのだった。

 そして全員に頭を下げられ、中身を見せてほしいと懇願された銀の鷹だった。見せるぐらいならと承知した銀の鷹だったが、そのまま味見になり、皆が我も我もといい出し食い尽くされたのであった。

「……大変だったんだ」

「虫ダンジョンで虫にたかられるより怖かったぞ」

 しみじみというダフネのせいで銀の鷹に同情の視線が集まる。

「知らなかった。つーか、え、引っ越しタダ働き?」

「いや、さすがにその分はちゃんとギルド長から支払いしてもらった」

「あ、良かった」

「後、昨日ダンジョンから帰って、もう出されてるウコン採集の依頼やコメの採集依頼を済ませたんだが」

「うんうん」

「その時も、この保温マグの話になってな」

 ベルンがアリッサから手渡された保温マグをアマーリエに見せる。

「あー、使い心地とか色々聞かれたんですね」

「そうだ。その後、酒場でも売ってたら買うかとか商売の話になっちまってな。面倒になってお前の名前を出しといた」

「なんですとー」

「あんた、商業ギルドで温泉の話が出た時ゲオルグ様にぶん投げてたでしょ。同じよ」

「うぐっ」

 マリエッタが機先を制してアマーリエの言葉を防いだ。

「下に恐ろしきは食い意地か?」

「「「「「「おあんたが言うな」」」」」」

 声の揃った銀の鷹でありました。 



 

 

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