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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第12章 割れない卵
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 相談したくとも、まだ皆が夢の世界を堪能している時間帯。店があるために気絶したくとも出来ず、二度寝することもふて寝することも出来ず、対処してくれそうな人々を叩き起こして大騒ぎするのも如何なものかと、深呼吸一つして、問題の先送りを決めたアマーリエ。

「取り敢えずさ、店開けなきゃいけないし。店が終われば南の魔女さまもマーサさんも来るから、相談に乗ってもらおう」

「オン!」

「ピ!」

 アマーリエの言葉に機嫌よく返事するもふもふとふわふわ。

「言葉解ってんのかなこっち?」

「ピ?」

 見つめ合って互いに首を傾げ合うアマーリエとひよこ。

「わかってはない感じだなぁ。はぁ、ここでこうしてても始まらない。着替えて、開店の準備と朝ごはんの支度しよう」

 アマーリエに続き、シルヴァンもベッドから降りる。ひよこは降りたいが降りられないジレンマに、ベッドの上を鳴きながら倒けつ転びつしている。その間にアマーリエは身支度を済ませる。

「鳥って最初に目にした動くものを親だと認識するっていうけど、この子はどうなんだろ。取り敢えず定位置は決めとくか。シルヴァン、ベッドの向こうはしに行ってみて」

「オン」

 アマーリエとシルヴァンがベッドの対角線上に立つとひよこは止まり、オロオロとシルヴァンとアマーリエを順繰りに見始めた。

「なんだろう、この危険な状況。明らかにわたしもシルヴァンも親認識されてないか?」

「オンオン」

「はぁ、おいで」

 アマーリエがしゃがんで、ベッドの上に手を載せるとひよこは必死に走って手のひらの上に乗る。

「とにかくお前はシルヴァンの上ね。シルヴァンは居間に行ってて」

「オン」

 アマーリエはシルヴァンの上にひよこを載せると厨房に入り、普段通りの仕事をはじめる。一通りパンを作リ、スープを用意して、朝ごはんを持って二階に戻る。

「ほい、朝ごはんにするよ」

 魔力がある方が良かろうと米を用意したアマーリエ。マジッククウェイルは共食いに近くなるし、隠形がついてもまずいと与えないことにした。

 アマーリエは、ひよこをシルヴァンの頭の上から椅子の上にあげ、硬めのお粥の入った皿を前に置く。

 シルヴァンも気になるのか、自分の朝ごはんを食べながらひよこの様子をうかがっている。

 ひよこは皿に顔を突っ込み食べ始めた。

「大丈夫そうかな?そんなに顔突っ込んで、おかゆで鼻の穴が詰まったりしないのかね?蛇の方の頭は餌要るの?そも中身の構造はどうなってる?」

 アマーリエは食べる手も止まり、思考の渦へと身を投じる。

「オン!」

「ピ!」

「はっ!?ああ、おかわりね。はいはい。ちっちゃいのによく食べるなぁ。どこに消えてんだか?」

 おかわりをよそいながら、ひよこの食欲に驚くアマーリエだった。二匹がしっかり食べ終えるとアマーリエは片付けを終えてお茶を淹れる。

「さて、君の処遇だが」

「ピ!」

 シルヴァンの頭の上に戻ったひよこが元気に返事をする。

「生き残るためには、君が危険ではなく、どれだけ価値があるのかをより多くの人に納得してもらわないとダメなんだよね」

 アマーリエの言葉に首を傾げるひよこ。

「ま、君はその可愛らしさをめーいっぱいアピールすればなんとかなるよ。メリットは私が無理やりでっち上げるから。はぁ」

「キュゥ」

「ただし説得できなきゃ、最悪は、焼き鳥処分だろうから覚悟はしといてね」

 問題の消化のため胃袋での消化になる可能性をひよこに言い切って、コカトリスをフリーズさせたアマーリエだった。シルヴァンの方は目をうるうるさせながらアマーリエを見つめる。

「シルヴァン。流石にテイム状態じゃないよね、この子?」

「オ〜ン?」

 アマーリエの言葉に首を傾げるシルヴァン。

「魔狼と石化鳥コンビが放し飼いっていう状況は、流石に皆の心の安寧に繋がりにくいと思うのよ」

「キュゥ」

「あんたが生やしたテイムスキルがある人に、この子をテイムしてもらうか、もしくは冒険者ギルドで管理してもらう必要性は出ると思うのよね」

「オン」

「今回に関しては、南の魔女さまが許可したっていうお墨付きがあるから、雷と拳骨アメは回避できると思うの」

 心配はそこなのかというアマーリエの発言にシルヴァンもその回避は大事と頷く。ここにベルンやマリエッタなど、この世界の常識人がいたら、速攻でひよこの殺処分を言い渡し、原因究明をすぐさま行ったであろう。

「まず、あんた達は発言権の強い南の魔女さまと小動物好きのダリウスさんとアルギスさんを落としなさい」

「オン!」

「ぴ?」

「それから、神殿でスキル解析してもらって、アーロンさんにも鑑定を頼もう」

「オン」

「その上でこの子を飼うメリットを常識人達にアピールして懐柔していこう」

 結局コカトリスを飼う方向で話をまとめたアマーリエだった。


 店が開く頃にはパラリパラリと雨が振り始め、ブリギッテとアリッサが雨用のローブを着て店に飛び込んできた。

 従業員達には、隠すことなくきちんと説明するアマーリエ。そして、ひよこを無闇矢鱈触ろうとしないように注意する。

 生まれて二週間ほどの雛は体温調節が上手くできず、親から離されると寒さで死ぬ場合があるからだ。

 その上コカトリスの雛ということもあり、石化と毒に関して保証できないので、シルヴァンと一緒に二階で過ごさせることを話す。

「ううっ、可愛いのに危険て……」

「まあ、南の魔女さまに相談してなんとかするから」

「最悪食べちゃうの?本当に?」

「いや、鶏だって食べるでしょうが」

「そうなんだけどさ〜」

 女四人がワイワイ話す中、唯一の男ヨハンソンは、頭を抱えて床にうずくまっている。

「……なんでいつも素っ頓狂なことが起きるんだ?鶏の卵を孵したはずが、コカトリスになる?おかしいだろ!」

「あー、そのあたりはちゃんと神殿に届け出て調査してもらいますから」

 ヨハンソンの憤りに一応、応えるアマーリエだった。

「僕がシルヴァンと一緒にひよこを神殿に連れて行こうか?ソニアの側に危険なものは置いときたくないんだけど!」

「そりゃそうですけど、むしろヨハンソンさんには裏の万屋のアーロンさんを呼んできてほしいかなぁ」

「なんで?」

「鑑定してもらおうかと」

「ああ、なるほど。危険の度合いははっきりした方がいいね」

「そうなんですよね。あとスキルの詳細なんかは神殿で見てもらう予定です」

「……アマーリエ?君、このニョロ付き飼うつもりか?」

「状況次第とだけ。シルヴァンは一緒にいたいみたいですし」

「まあ、孵しちゃったんなら情が湧くのは分かるけど……」

 ひよこを頭に乗せてヨハンソンをじっと見つめるシルヴァンに、思わず深い溜め息を吐くヨハンソンだった。

「間抜けかわいい……」

「あはははは」

「キュウ」

「ぴ?」

 ヨハンソンの言葉に不本意そうに耳をへたらせるシルヴァンに首をかしげるひよこ。

「ハリー?そろそろお店に行かないと。遅刻しちゃうわよ」

「取り敢えず、裏のご店主には伝えとくよ。ソニア、気をつけるんだよ?かわいい見てくれに騙されちゃダメだ」

「あら、あなたもよ?」

「大丈夫。僕は君だけだから」

「「「はいはい、さっさと仕事にいく!」」」

「オン!」

 お茶会以降、ヨハンソン夫妻に対して遠慮の無くなった三人と一匹だった。


 店の方は天気のせいもあってか客はまばらだったが、店の中で姿を見かけないシルヴァンを心配する声も多々上がった。順調に村の中に溶け込み始めているシルヴァンなのであった。

 昨日作ったプリンの方は、順調に売れ、店を閉める頃には完売し、村の新しいお菓子という噂の種となった。早めに家に帰ったブリギッテやアリッサもプリンの噂を聞いた家族から質問攻めに合うこととなった。

 店を閉める頃にはマーサと一緒にアーロンもやってきた。

「夕飯用のパンを買っていこうかの。表の魔道具屋で保温マグも買ったから、スープも分けておくれ」

「毎度〜」

「あら、それが噂になってた便利な入れ物?」

「そうじゃよ。なかなかに便利での……」

 アーロンがマーサに保温マグを見せて説明しはじめる。

「うちも買おうかしら。旦那にお昼持たせるのにちょうど良さそう」

「シルヴァン用の口の広いのを作って貰う予定なんですよ、マーサさん」

「あら!テイムした従魔にもつかえるわね!」

「ええ、軽く叩けば開きますからね」

「うちでも仕入れようかしら?」

「こんにちはぁ。来たわよぉ、芋っ娘」

「こんにちは」

「あ、いらっしゃい南の魔女さま、アルギスさん」

「「こんにちは」」

「あらぁ、アーロンさんどうしたのぉ?」

「ああ、そうじゃった。魔道具屋の青年からのぉ、お嬢さんが鑑定してほしいものがあると聞いて、きたんじゃが」

 ヨハンソンがアーロンに詳細を話さず、アマーリエにすべてを任せたたことを知り、内心で舌打ちするアマーリエ。

「えー。皆様にお知らせとお願いがあります」

 真面目な顔になったアマーリエに、皆怪訝な顔をして頷く。

「まず、今から見せるものを落ち着いてみてください。騒ぐと怖がると思いますので。驚いてもくれぐれも奇声や大声を発しないでくださいね?」

「「「「?」」」」

 よくわからないものの、いつも以上にマジな顔のアマーリエに頷く南の魔女たち。

「じゃ、取り敢えず上に上がりましょうか?」

 アマーリエの後ろを南の魔女たちがぞろぞろと付いて上がる。

「シルヴァン?」

「オンオン!」

 居間の入り口で尻尾を振って皆を歓迎するシルヴァン。その頭の上にはもちろんコカトリスの雛が乗っている。

「「「「!!!!!!」」」」

 皆、口に手を当てて悲鳴を押し殺したのだった。


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