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おそなりました<(_ _)>
明けて翌日。朝から相変わらず忙しい、アマーリエとシルヴァンだった。
市場でスープの材料を仕入れ、店に戻ったアマーリエとシルヴァンは開店の準備を始めた。開店時間の頃にブリギッテ達が元気におしゃべりしながらやってくる。ソニアはヨハンソンと一緒にやってきて、アマーリエはヨハンソンから鍋を受取り、支払いを済ませてしまう。
昼のまかないの時間にアリッサから、お向かいの住人のことを聞く。鍛冶職人をしている一人暮らしのドワーフであることと、仕事で鍛冶場に出ており明後日まで留守であることをアマーリエは聞いた。
夕方の片付けのときに隣と裏は空き家になっているとブリギッテから話を聞いている。
「シルヴァン、明日はマーサさんと南の魔女様と一緒に、お前用のダンジョン探索用の袋の相談するからね」
「オン!」
「明後日はお向かいさんが戻ったら、引っ越しのご挨拶に行こうね」
「オンオン!」
休み明けの店は、ひっきりなしに客が訪れ、オープンカフェも賑わっていた。ただ、お客の話から明日の天気は思わしくなさそうだと聞き、閉店と同時に折りたたみの机と椅子は片付けることになった。
「いや〜、今日もお客さんいっぱいだったねぇ」
「オン」
「明日は天気が怪しいみたいだから、外の営業はなしにするよ」
「オン」
「保温マグはどれだけ売れたんだろうね?」
「クゥ?」
「持ち帰りの人が増えるかもしれないし、もしかしたら天気が悪くて客足が遠のく可能性もあるけど、それも明日にならないとさっぱりだねぇ」
「キュゥ」
二人は二階の居間の窓から、やや雲が出てきた空を見る。
「ちょっと、肌寒くなってきたね。暖炉に火を入れようか」
「オン!」
アマーリエは、暖炉に細い薪を入れ、生活魔法で火をつける。火打ち石や種火がいらないのが魔法のいいところなのだ。細い薪に火がしっかりついたら、その上に少し太い薪、さらに太い薪を重ねていく。
「こんなもんかな」
「キュゥ?」
アマーリエに向けてシルヴァンから石油ストーブや電気ストーブの念話画像が飛んでくる。
「ん?魔道具のストーブとか無いのかって?」
「オン!」
「あー、流石に一冬越すとなったら魔石がべらぼうなことになるんだよ。提案はしたけど、あほたれと言われてしまったよ」
「キュゥ」
アマーリエがまだ幼い頃にステファンに聞いてみた所、親方と一緒に却下されたのだった。
「石炭とか泥炭とかあるとは思うんだけど、見たこと無いんだよねぇ。木炭もなかったからこっそりスキルで作ったけどね。七輪も一緒に。これは誰にも喋ってないんだよねー」
「キュゥ」
「鍛冶場の高炉の火は魔法の火なんだよ。機会があったら見せてもらおうね。詳しい仕様はさっぱりなんだけどね。秘密らしいから」
「クゥ」
「塩ダレで良かったら、今度、炭火焼の焼き鳥でもする?」
「オンオン!」
「んじゃ、塩ダレ作るよ。あーあ、醤油と味噌がほしいよねぇ」
「キュウゥウウ」
暖炉の前でのんきに話をするアマーリエとシルヴァン。そこに訪う声が届く。
「あれ?アルギスさんかな?温泉村から帰ってきたんだ」
アマーリエとシルヴァンは一緒に階下に降りて、店の入口を開ける。何やら袋を手にし、顔に引っかき傷を作ったアルギスと呆れた顔をしている南の魔女が立って居た。
「「こんばんは」」
「オン!」
「こんばんは〜。お二人ともお帰りなさい。温泉どうでした?」
「色々あったよ。その話はまた今度ね。リエに頼みがあってきたんだ」
アルギスのにこやかな語り口と比例するように南の魔女の眉間にしわが寄っていく。
「はぁ。わたしでできることでしたら」
「んもぅ、何も今日じゃなくたってプリンだっけぇ?逃げやしないのにぃ」
「兄上に食べさせてあげたいんだ!」
(誰だ、話したやつは!)
「ファル殿から聞いたよ!昨日、卵の美味しいお菓子を食べたって!」
「はぁ、ファルさんか……」
「神殿から卵を持ってきたんだ!」
「用意周到なことで。その顔の傷はめんどりですか?」
「……うちの鶏はなかなか凶暴だったよ」
遠い目をするアルギスをポカーンと見るシルヴァン。その後ろで南の魔女が呆れたように首を振っている。
「左様で。まあ、とにかく中へどうぞ」
「お邪魔します」
「お邪魔するわよぉ〜」
二人を中に入れ、シルヴァンに二階に案内するよう言う、アマーリエ。自身は厨房から地下に行き、シルヴァンと二人でまた食べようと取っておいたプリンを、アイテムボックスから取り出す。
「なぜ、秘密は守られた例がないのか!まったく!きっとここだけの話になったに違いない!」
ブツブツ言いながら、アマーリエはお茶とプリンの用意をして二階に上がる。居間にはウィングバックアームソファでくつろぐ南の魔女とラグにシルヴァンと一緒に寝そべるアルギスの姿があった。
(わたしんちで、なぜ他の人が最大限くつろいでる状況が生まれるのだろうか?緊張感なさすぎだぞ、殿下!)
「お待たせしました〜。ご要望のプリンです」
アマーリエの声に慌てて起き上がるアルギス。
「あ、リエ」
「お行儀悪いですけど、そこで食べますか?」
「いいかな?」
「魔女様?」
「しょうがないわねぇ」
「はい、プリンです。これはオーブンで蒸焼きしたのをすぐにアイテムボックスに仕舞ったから熱々です。気をつけてくださいね」
型から取り出したプリンを木の器に盛って、端に砂糖のラスクを入れたものを二人と一匹に渡す。
「あらァ、プルプルして甘い匂いがするわぁ」
「この茶色いのは?」
「砂糖水を煮詰めて焦がしたものですよ」
「オン」
「食べていいよ。シルヴァン」
許可をもらうとすぐさま食べはじめるシルヴァン。ちなみに食後は必ず、口内を浄化魔法できれいにして虫歯予防するようにとアマーリエから言われている。虫歯のオオカミなんて情けないからと。
シルヴァンを見て二人も食べはじめる。
「んん!」
「……不思議な触感。でもおいしい。このほろ苦いソースが合ってるね」
「美味しいわぁ。温かいから、今日の夜みたいに冷えてる時にはいいわねぇ」
「気に入っていただけたようで何よりです」
ゆっくり味わうように食べる二人を、お茶を飲みながら見つめるアマーリエ。
先に食べ終えたシルヴァンは、器を魔法できれいにして、ジーっとアルギスを見つめる。
「うっ、シルヴァン。ダメ。これはあげられない。まるまる堪能したいんだ。ごめん!」
「……シルヴァン、また作るし。今度はシュープリンにでもしようか?」
「オン!」
「リエ!シュープリンとは何だ!?」
「シュークリームとプリンの進化先です。また、それは今度にでも」
「わかった」
「キュゥ」
適当に返事をするアマーリエを呆れた目で見るシルヴァンだった。
「それでだな、このプリンの作り方を知りたい。兄上にぜひ作って差し上げたいんだ」
「レシピは既に登録、無料公開してますから、お好きにどうぞ」
面倒事を回避するため言い繕いはじめるアマーリエ。
「……実際に作っているところを見るほうが確実だと思うんだ」
「まあ、そりゃそうですけどね。はぁ」
「リエ。カレーに使う香辛料を兄上に頼んでおいたぞ。それと交換でどうだ?」
「わかりました。んじゃ、いつやりますか?」
「今!」
「いつやるの?今でしょ!てか?」
アマーリエの一人ボケツッコミに、真面目な顔で深く頷くアルギス。
「芋っ娘。悪いけどぉ教えてあげてぇ。でないと今日、寝そうにないのよぉ」
面倒そうな顔でアルギスを指差した南の魔女に、致し方なく頷くアマーリエ。
「わかりました。んじゃ下で作りましょう」
「やった!」
こうしてアマーリエは夕飯前に大量にプリンを作る羽目になるのであった。
厨房に入って、アマーリエは一通りの作り方をアルギスに先に教える。今回はどこでも作れるようにフライパンを蒸器代わりに使った、蒸しプリンの作り方でいくことにした。プリンの型は型吹きで作られた耐熱ガラスの容器を使うことにする。ガラス職人と鍛冶職人(金型を作らせた)を泣かせた一品だ。
ボールを取り出し、そこにアルギスが持ってきた卵を割り入れはじめるアマーリエ。同じようにアルギスと南の魔女も卵を割りはじめる。
厨房に、コツ、カチャ、ポチャとリズミカルに卵を割り入れる音が続く。
「ゴン」
「「ゴン?」」
「ワフ?」
アマーリエのボールから鈍い音が響く。アマーリエは怪訝な顔をして右手に持った卵を凝視している。
「何?何なのぉ?」
「いえ、なんかこの卵、硬くって。ヌゥ、ちょこざいな!」
苛立ったアマーリエは力加減を無視して思い切り、卵をボールの縁に叩きつけた。
「ゴィン!」
「ギャッ!」
「わぁっ」
「いだぁ!」
「キュゥ!」
ボールの縁に勝った卵はアマーリエの手をすっぽ抜け、その額を直撃し、反動でアルギスのところに飛ぶが、かろうじてその卵をアルギスが避けた。避けた先に居た南の魔女の頬に卵が直撃し、放物線を描き、落下地点でシルヴァンが見事キャッチしたのだった。
「芋っ娘ぉ!なにすんのよぉ!」
「スミマセン、スミマセン、いたたたた」
「あわわ、癒しの風よ」
慌ててアルギスが二人に回復魔法をかける。シルヴァンは口に卵をくわえたまま、床に尻餅をついている。
「ありがとうございます、アルギスさん」
「シルヴァンは卵受け止めたのねぇ」
南の魔女にこっくり頷くと、シルヴァンはアマーリエに画像を飛ばす。
「え?その卵孵すの?そりゃ、有精卵だろうから上手く行けば孵るだろうけど……なんで卵を孵したいと思うのか?」
「……」
(あー、子供って卵を孵したいって言う時期があるよねぇ)
小さな子が訴えるようにジーっと見つめてくるシルヴァンに根負けしたアマーリエが、判断を仰ぐように南の魔女の方を見る。
「まぁ、いいんじゃないのぉ。鶏が一匹増えたって。雄なら、あんたが捌けばいいんだし。雌なら卵産ませりゃいいでしょぉ」
とくに疑問に思うことなく南の魔女はあっさり許可する。
「許可出たからいいよ。ただし、今日含めて四日間の様子見ね。日に透かして中身が変わってたら、そのまま産まれるまで抱卵してていいから」
アマーリエの言葉に尻尾をフリフリ喜び、二階に上がるシルヴァン。どうやら暖炉の前で卵を温める腹積もりのようだ。
「さて、んじゃプリン作りますよ」
痛みの無くなったおでこをさすりながら、アマーリエがプリン作り再開の声をかける。
三人はアルギスが持ってきた卵を使い切って、大量のプリンをこしらえたのだった。アルギスと南の魔女は、必要な分を持ち帰ることにした。南の魔女は弟子に送るようだった。残ったプリンは明日、店で出すことにしたアマーリエだった。
そして翌朝、アマーリエは寝床でピヨピヨ鳴く存在に起こされたのであった。
「ギャー!なんでもう生まれてんの!?それになんであなたのお尻からヘビさんがこんにちはしてるの!?」
シルヴァンの頭の上で、ピヨピヨ鳴くひよこのお尻に蛇が生えていることに、気を失いたくなったアマーリエだった。




