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本日で連続投稿打ち止めになります。次からはまた週一更新のペースに戻ります。ありがとうございました。
一息入れ終わったアマーリエとパトリックは厨房に入り、お菓子を作りはじめる。シルヴァンは二人のアシスタントということで、邪魔にならない位置で二人を見守っている。
作業台に打ち粉を撒き、アマーリエ指導でパイ生地を作り始めた。昨日の作業を簡単にパトリックに伝え、今日やる折込式のパイ生地の作り方をアマーリエはやってみせる。
「この生地と折り込むバターの最初の硬さを覚えといてくださいね。指で抑えてこれぐらいです」
「触っていい?」
「どうぞ」
「うん、これぐらいね」
アマーリエは麺棒で長方形に生地を伸ばし、折りたたむ作業をパトリックに見せる。
「この三つ折りを二回で一組と数えて冷やします。これを三回やります。今回は時間短縮のため私のスキルを使いますが、パトリックさんがやるなら生活魔法を使って冷やしてくださいね。やり方も教えますから。じゃ、パトリックさんもやってみてください」
「うん。この折り返す層が多いほど、焼きあがった時に層がいっぱいできるパイ生地が出来るんだね?」
「ええ」
「で折りたたむ最初の時に、中のバターと生地が均等に伸びないとダメだから中央から端に半分ずつ伸ばすと」
「そうそう。なので生地とバターの硬さが近いほうが良いんですよ。後はもう手の感覚としか言いようがないですね。中のバターと生地が同じように伸びるのが手に伝わってくるといいますか」
「経験だねぇ」
「です。後は打ち粉をしっかりと。厚みは均等に。冷やすことで小麦のコシが出ないようにすると生地が伸びやすくなるんですよ」
パトリックは最初生地に集中していたが、慣れてくるとおしゃべりを始めた。
「リエちゃんとこって、領都のお屋敷の厨房にない料理用の魔道具、結構あるよね」
「あ〜そうかも。パン屋で必要なものをお願いして作ってもらってるから、お屋敷の厨房だと必要ないかも。むしろ王都のお屋敷のほうが必要だとは思うんですけどね。お客様いっぱい呼ぶでしょ?」
「うん。でも王都のお屋敷の厨房は魔導焜炉しか無いんだよね」
「あぁ、他のは使い方を覚えないと難しいってのがありますからね」
「今、領都のお屋敷の料理長はこのオーブンの使い方を教え込んでるところだね。覚えたら王都の方のお屋敷にもオーブンを入れるってさ」
「へぇ〜(コンベクションオーブンも公開するんだ。おっちゃん達また忙しくなりそうだなぁ)」
パトリックの言葉に、領都にいる馴染みの職人の悲鳴が聞こえるような気がしたアマーリエだった。
「ほい、これで二回終了。冷やすのって?」
「ああ、一旦店の方に出てもらっていいです?」
「うん」
二人と一匹は厨房から店の方に行く。
「この冷蔵ショーケースの中に手を入れてみてください」
パトリックとシルヴァンが言われるまま手を入れる。
「冷たい」
「その冷たさを、風の魔法で再現するんです。冷たい風で生地を覆う感じです。凍るほどじゃダメなんです。あくまで、このひんやりした感じを覚えてください。」
「覚えた。ちょっと手を貸して」
「はい」
パトリックは、アマーリエの手に冷風をまとわせるイメージで生活魔法を使う。
「バッチリです」
「オンオン!」
「シルヴァンもやる?」
「オン!」
「ん!シルヴァンもできてるよ。これが冷蔵魔法です。飲み物を冷やしたりとか果物を冷やすのに向いてる冷たさです。もちろん凍るほどの冷たさを覚えれば凍らせることも出来ますよ。その分魔力要りますけど。慣れたら無駄な魔力は減るかな」
「なるほど。で、この魔法をどう使うの?」
二人と一匹は厨房に戻り、折りたたんだ生地の一つをアマーリエはバッドに入れ、冷蔵魔法をかける。
「触ってみてください」
「あ、さっきのガラスのケースの中と同じぐらい?」
「ええ、これで鐘一つ分置いて、生地を落ち着かせるんですよ」
「わぁ、時間掛かるねぇ」
「ええ。練り込み式の簡単なパイ生地の作り方もあるんですが、それとはまた食感が違いますからね。こっちも後で作りますけど」
「色々あるんだね」
「あるんです。で時間短縮のための私の専売特許スキル!状態変化!」
アマーリエがスキルを使った生地をパトリックが触ってみる。
「あ、最初の硬さと冷たさに生地が戻った?」
「冷蔵して鐘一つ分経った生地になってます」
「リエちゃんのスキルって便利かつ君向きだよねぇ」
「ええ、ほんと助かってますよ。で、またこの折りたたむのを二回やって冷やし、もう一度同じことをやります」
「え〜と、三つ折りを二回、それを三度で十八枚重なる感じ?」
「ええ。基本ですね。後は中に入れるものやどう食べたいかによって層を増やしたり減らしたりします」
「なるほど。で、後四個ある下地をせっせと折りたたまないとダメなわけね」
「えへへ。つい増やしちゃいまして」
「まぁ、経験値になるからいいけどね」
「よろしくお願いします」
二人はせっせとパイ生地を作り上げる。シルヴァンはその間、アマーリエにプリン用のカラメルの作り方を教わって作っている。いい感じに焦げたあたりで、火を止めてそっと生活魔法で水を入れてカラメルソースにする。
「さて、まずはアップルパイです。今回中に入れるフィリングはこのりんごのジャムとコンポートですね。色んなクリームも入れることがあります。好みです。今回はりんごのみで勝負します」
「そっちも後で教えてよね」
「ういっす。んじゃ、まずこのパイ皿に生地を敷くんですがその前にオーブンを予熱しときます」
「ウン、それ大事だよね」
オーブンの設定を済ませ、アマーリエはパトリックにアップルパイのオーソドックスな飾り方を教えていく。
「最後にこの卵黄液を塗ってオーブンで焼けば完成です」
「なるほど、美的感覚も要求されるわけだ。口に入った時の調和とか」
「その通りです」
「奥が深いねぇ」
「中に入れるものの仕上がりでも変わってきますからねぇ」
「オン」
「あ、カラメルソース出来た?ん?生地の端っこ気になる?シルヴァンも作る?」
「オン!」
シルヴァンは、アマーリエから生地の端っことりんごとベリーのジャムをもらって一口パイを作りはじめる。
「ぬっ、シルヴァン何作ってるんだい?」
「オン」
「一口パイでしょう。何層にもなってるパイ生地って食べる時に生地がこぼれやすいですから。一口で食べられるなら、こぼさず食べられますし。あの大きさならシルヴァンも一口でいけそうですよね」
「なんだろう、突然沸いたこの好敵手!負けないんだからね!」
「ちょ、あっ。生地残しといてくださいよ!エッグタルトの方にも使うんですから」
アマーリエは慌てて、パイ生地二つを確保する。シルヴァンはさらに調子に乗り、アマーリエにグラニュー糖と粉チーズ、抜き型の画像を念話してくる。
「……シルヴァン、あるけどさ」
「オンオン!」
「なになに?」
「型抜きのも作りたいんですって。ほい、ここに入ってるから好きなの使っていいよ」
やる気に満ち満ちたシルヴァンに負けて、作業台の足元の引き出しを開け、型の在処を教えるアマーリエ。そして、粒の大きな精製糖と今朝の粉チーズの残りをシルヴァンに渡す。
「何はじめるの?」
「オン!」
パトリックに見ててとばかりに、シルヴァンは縁が波になったダイヤ型の抜き型を使ってパイ生地をくり抜いていく。
「型抜き上手ね、シルヴァン。無駄が少ないわ」
「えー、なにそれ!」
「あると便利ですよ。色々使えます」
「オン!」
そしてシルヴァン、くり抜いた生地の表面に卵黄液を塗り、粒の大きな製糖を風魔法を使って均等にまぶしていく。サンドイッチ作りで培った風魔法の技術をいかんなく発揮している。
「あ、それ美味しそうじゃん!」
「オン!」
シルヴァンは余った生地の端を風魔法でまとめて、プレスの要領で生地を伸ばし、表面に卵黄液を塗って粉チーズをまぶす。そして、風魔法で細長い長方形に生地をカットし、持ち上げひねりを入れていく。
「!!!!!」
「ああ、お酒のツマミにいいよね。チーズ味のパイって」
「ちょっと!何?何なの?この高等技術!シルヴァンはなんで出来ちゃうの!」
(それは前世に冷凍パイシートというものがありましてですね、お手軽に誰でもパイが作れたわけなんですよね。シルヴァン前世で絶対使ってたね)
「色々ありまして……」
アハハと笑って誤魔化そうとするアマーリエ。
「……リエちゃん?」
「さ、オーブンに入れますかね。その間にエッグタルト作りますよ〜」
アマーリエは次の作業に移し、パトリックの質問を強引に躱す。
「次は練るタイプのですが、二種類あります。使う粉と砂糖の量と練り方とまとめ方で違ってきます」
そう言って、アマーリエはパトリックに次の生地を教え始める。シルヴァンはオーブンの前に陣取って焼き加減を監視している。きつね色になったら、アマーリエに知らせるのだ。
次々とパトリックを作業に巻き込み、エッグタルトを仕込み、プリンの仕込みに入る。そして二人と一匹は怒涛の勢いですべてのお菓子作りをやりきったのだった。
「フゥ。なんとか終わった。焼きあがったプリンは型ごと冷蔵魔法をかけます」
「今回は冷やすんだ」
「ええ。焼きたても美味しいんですけどね。今日は冷やしたプリンを果物やクリームで飾り付けします」
「ああ、言ってた盛り付けね」
「ええ。それは、神殿の厨房に行ってからやるつもりです」
「わかった。じゃ、冷やしちゃおうか」
「ええ」
二人と一匹は型ごとプリンに冷蔵魔法をかける。
「この余ったパイ生地は?」
エッグタルトで残った折りたたみのパイ生地を指差してパトリックがアマーリエに聞く。
「冷やして、アイテムボックスに入れとけば使えますから」
「例えば?」
「ひき肉料理を詰めたりとかですね」
「美味しそうだね」
「タルト型に敷いて昨日作ったいろいろ入った卵液を入れて焼いてもいいですしね」
「あ、それも美味しそうだね」
アマーリエの言葉を聞いて出来上がりの味を想像するパトリック。
「まあ、お菓子にも料理にも幅広く使えちゃうんですよ」
「なるほど。色々使えるわけね」
「ええ」
「あとで練習しよう」
「そうしてください」
「んじゃ、お昼ごはん作りますか。もう鐘四つもなっちゃいましたしね」
「甘い匂いでなんか麻痺してるけど、お腹は空いたと思う」
「キュゥ」
一旦その場を片付けて、二人と一匹はお昼の支度に入った。
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