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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第10章 二日目のパン屋さん
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話の構成上、今回は少し短めです。

 食事の後お茶を入れ、グレゴールが買ったラスクを皆で楽しむ。ファルはニコニコとラスクを味わって食べている。その機嫌の良さに、周りはこっそりホッと息を吐いている。

「そう言えばアルバンのダンジョンて、入るのに資格要るんですか?」

 アルバン村に来たはいいが、まるっきりダンジョンについて知識がないことに思い至ったアマーリエ。

「基本、冒険者パーティーでBクラス以上だぞ」

 ベルンが率直に答える。

「シルヴァンはどうすれば?」

「シルヴァンは俺達とパーティー組むことにすれば問題ないと思うが、一応戦闘能力は確認するはずだぞ」

「うーん。そればっかりはギルドに聞いてみないことにはわからんなぁ」

 ベルンとダリウスが同時に答える。

「なるほど。お世話かけますが、お願いしてもいいですか?」

 自分じゃ手に負えないとアマーリエは、ベルン達にお願いする。

「ああ、もちろん」

「あ、そう言えば、南の魔女さまとアルギスさんがやたら張り切ってシルヴァンにダンジョンで使う魔法やスキルを教えるつもりでいるみたいですけどね」

「……ほんとか?」

 アマーリエの言葉にちょっと青褪めたベルンだった。

「まあ、まだ店の方もどうなるかわかりませんし、それまでは手の開いてる方にシルヴァンを訓練していただいたほうがいいのかなーとか?」

「オン!」

 一声鳴いて頭を下げるシルヴァンを、デレたダリウスが呼び寄せて撫でくり回す。

「そうよねぇ。魔法もどれぐらい使えるのか見たいし」

 マリエッタがシルヴァンを見て漏らす。

「シルヴァンは索敵も隠形も上手いし、魔法も器用だぞ!な?」

 超絶笑顔で太鼓判を押したダフネだった。

「クゥ」

 ダフネに褒められ照れるシルヴァン。そのまま側に居たダリウスにひっついて顔を隠す。

「まあ、索敵と隠行は、あんた相手に鬼ごっこできるんだからスキルも高いでしょうね」

「うん!」

 ダフネの迷いのない返事にフリフリと尻尾を振って照れ隠しするシルヴァンだった。

「ダンジョンから戻ったら、一度シルヴァンを冒険者ギルドに連れて行くか」

「お願いします」

「オン」

「任せとけ。その辺の新人よりシルヴァンのほうがはるかに使えるだろうしな」

 ベルンの言葉にアハハと笑って返すアマーリエだった。話が一段落するとそわそわしたファルがアマーリエに話しかける。

「リエさん。明日は、こちらで何か用意するものありますか?」

「そうですねぇ、特に大丈夫だと思います。明日は店で雇ってる女性四人ともしかしたらその旦那さん二人、わたしとパトリックさんが伺うと思います。お菓子もお茶も用意しときますので大丈夫かな」

「キュウウ」

「あ、シルヴァンもです」

「心配しなくてもシルヴァンはアマーリエと一緒だろ?」

 アマーリエが慌てて付け足すと笑いながらダリウスがうにゅっとシルヴァンの顔を両手で挟んで軽く撫でる。

「クゥクゥ」

「で、こっちはうちの面子全員参加でいいのか?」

 ベルンの言葉に銀の鷹のメンバーが全員頷く。

「わかりました。それじゃあ、明日の鐘五つ(午後二時)過ぎに伺いますので」

「楽しみにしてますね」

「はい。それじゃあ、そろそろお暇します」

「そうだね。シルヴァンが居るから大丈夫だろうけど店まで送るよ」

「ありがとうございます、パトリックさん」

 お休みなさいの挨拶を交わして、神殿を後にするアマーリエ達。

 外は日が暮れ始め、月がのぼりはじめている。シルヴァンが練習代わりに魔法光を使い、足元を照らす。

「リエちゃん、宿の備品の魔導ポット買ってたけど、それで足りるの?お茶用のお湯」

「保温瓶があるからそれ持っていこうかと」

「ああ、なんか村で話題になってたやつ?」

「ありゃ、パトリックさんの耳にも入りましたか」

「給仕の子が噂してた。便利そうだよね。ダンジョン用の携帯食とか販売できそう」

「あ、そうだ。それで思い出した。パトリックさん、お店とか持とうとか思わないんですか?」

「俺?うーん、あちこち歩き回っていろんなもん食べるのが楽しいからなぁ」

「そうかぁ」

「どうしたの?」

「いや〜、その場の思いつきでパンとスープをその場で食べられるように庭を開放したら、思いがけず評判良くて」

「ブハッ。パン屋じゃなくなってないかい?」

「そうなんですよねぇ。この村って食事処がほぼ一軒でしょ?」

「ああ、冒険者ギルドの方の食堂ね。確かに。うちはあくまで高級志向だからなぁ。普段の食事って訳にはいかないもんな」

「せめて、そっちで持ち出し用の食事とか始めません?」

「持ち出し用?」

「ええ。保温マグ使ったりとかちょっとした軽食を持ち帰って家で食べられるようにするんです」

「う〜ん、どうだろ。そのあたりは支配人や商業ギルドのギルド長とも話し合わないと無理じゃないかなぁ?」

「やっぱり」

「あとは、ご領主様に頼んで食事処をやってみたい料理人を募集するとかだね」

「ですよね〜」

「料理人育ててみたら?村の人の中から」

「その余裕はまだない」

「ククク。シルヴァンはしばらくダンジョンに行けそうもないねぇ」

「クゥ」

「しばらくパン屋の小僧でお願いします」

「オン」

 二人と一匹はパン屋の店の前に着くとお休みなさいをして別れた。


「さて。寝るまでまだ間がある。りんごのジャムとコンポート、貰ったベリーも飾り用に少し残してジャムにするか。パイ生地も途中まで仕込んで、冷蔵しとこうかな。シルヴァン、先に寝ててもいいよ」

「クゥ」

「見る?」

「オン!」

「じゃぁ、始めますか」

 アマーリエは必要なものを揃えると最初にジャムとコンポートを作りはじめる。焜炉の前に椅子を置き、その上にシルヴァンが乗って作業を見守る。

「ウン、砂糖も溶けたし後は焦げないように弱火にしてっと……。シルヴァン、ジャムの方は焦げたり煮崩れすぎないようにたまにかき混ぜながら様子見ててくれる?コンポートの方も崩れないようにそっとかき混ぜてね」

「オン!」

「その間に私は、パイ生地の下地作りっと」

 アマーリエは二種類の小麦粉とバターを量り、バターを1cm角ほどにカットする。そして焜炉の方に行き、鍋の様子を見る。

「ベリーの方のジャムはこれぐらいで大丈夫そうね。ん?味見する?」

 アマーリエは少し味見をするとベリーのジャムの鍋が乗っている火口の火を止める。

「オン!」

「あーんして」

 大きく口を開けたシルヴァンの舌の上に冷ましたジャムを載せるアマーリエ。

「ほい、口閉じていいよ」

 舌の上のすっぱ甘いジャムにきゅっと目を細めるシルヴァンだった。

「りんごのジャムとコンポートはもうちょいかな。もう少し見ててね」

「オン!」

 アマーリエはボールに粉をふるい入れ、切ったバターを入れる。そしてバターを潰しながら、バターに粉をまぶすように混ぜていく。粉にバターを混ぜ込むのとは違うのだ。

 別のボールに水を出し、冷蔵魔法をかけ冷やす。

「こんなもんかな」

 その水を生地の加減を見ながら粉とバターのボールに入れ、練りすぎないようにひとまとめにする。

「よっしゃ。ぬれ布巾を掛けて店の冷蔵ショーケースに閉まっとこう」

 手に浄化魔法をかけて、布巾の掛かったボールを仕舞いに行く。

「オンオン!」

「はいは〜い」

 シルヴァンに呼ばれ慌てて焜炉に駆け寄るアマーリエ。

「お、良さそうだね」

 焜炉の火を切って、ジャムの味見をするアマーリエ。

「ウン、これぐらい身が残ってる方がパイにはいいね。コンポートの方はどうかな」

 一切れを小皿にとってフォークを入れる。

「ウン。硬さもちょうどいいかな。味は……いい感じ」

「キュゥキュゥ」

「はいはい。コンポートからね」

 残りをシルヴァンの口の中に放り込むアマーリエ。シルヴァンはシャクシャクと程よい硬さの残るコンポートを目を細めて食べて、最後に口の周りをべろりと舐める。そしてあーんと大きく口を開ける。

「ほい、ちょっと待って。冷めたかな?」

 アマーリエは冷ましたりんごのジャムをシルヴァンの舌の上に置く。

「ンフー」

 尻尾を振るのを我慢してプルプル震えるシルヴァン。シルヴァンの尻尾は大きく長いため、厨房では尻尾を振るのは我慢してねとアマーリエに言われているのだ。本能的に振ってしまいそうになるので、なかなか難しいようだった。我慢しきれず厨房の外に出て尻尾を振りまくるシルヴァンだった。

「問題なく美味しいと」

 その様子を見て頷くアマーリエ。

「ベリーの方は瓶詰めしてっと。りんごの方は使い切っちゃうだろうなぁ。鍋ごとショーケースに入れとこうか」

 そういってアマーリエはベリーのジャムは瓶詰めして、りんごのジャムとコンポートの鍋と一緒に冷蔵ショーケースにしまった。

「さて、そろそろ寝ようか?」

「オン」

 一人と一匹は浄化魔法を自分自身にかける。アマーリエは寝間着に着替え、ベッドに潜り込む。その横にシルヴァンが飛び乗ってくる。

「明かりの魔法消すよ」

「オン」

「……シルヴァン、毎日ありがとうね。ほんと助かってるよ」

「オン」

「明日はお茶会楽しもうねぇ」

「……オン」

「おやすみ」

「スピー」

 ヘソ天、鼻提灯のシルヴァンを見て苦笑するアマーリエ。

「かなり疲れてたか。それにしても野生はどこに行った?」

 シルヴァンを毛布でくるみ、寝落ちたアマーリエだった。

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