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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第10章 二日目のパン屋さん
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 村に鐘六つ(午後四時)の鐘の音が響き渡る。

「今日も皆さん、ありがとうございました」

「「「お疲れ様でした」」」

「オンオン!」

 店を片付けたあと庭でお茶休憩をする面々。

「明日、お店はお休みですが、ダフネさんからりんごもらってるのでパイを焼こうと思うんです。よかったらどうぞ。ただし数がそれほど焼けませんので……」

「大丈夫よ、内緒でね?」

「うんうん。みんなで来たら分前減るから、内緒にするよ。こっそりアリッサ連れてくる」

「ええ、噂の広がり方には驚いたから心するわ」

「よろしくお願いします」

 真面目な顔で、内緒にすると約束する面々にペコリと頭を下げるアマーリエ。

「でもりんごの季節になったら、お店に出すでしょ?」

「うん。りんごの仕入先が決まったらお店用に簡易版で作って出すと思う」

「うふふ、それまで内緒にするよ」

「アハハ、お願いしま〜す」

「来週からはどうするの?スープとか」

「青の日の朝市でどれだけ仕入れられるかで変わるかなと」

「そうねぇ、確かに材料の制限はあるわねぇ」

「あまり種類増やさないようにします。皆さんが落ち着いたら新しいものをお出しするようにしようかな」

「それが良いわね」

「色々やりたいですけど、流石に手が足りないですし」

「作る人があなたとシルヴァンしか居ないんじゃぁねぇ」

「持ち帰りスープに関しては、商業ギルドの宿屋でもやってみたら良いのにね」

「あ、そうですね。宿にお客がいるときぐらいしか営業してないみたいですしね」

「でしょ」

「あとは、新しくお店出す人が出たら良いのよねー」

「パトリックさんとかお店出さないのかな?」

 心当たりの顔を思い浮かべてポツリと漏らすアマーリエ。

「「「?」」」

 三人は聞いたことのない名前に首を傾げる。

「あ、今商業ギルドの宿屋の厨房の手伝いに来てる料理人さんです」

「初耳よ」

「独身なの!?」

「ブリギッテさん、落ち着いて。多分独身だったと?」

「いくつ?」

「二十台の後半ぐらいですかね?」

「大丈夫、問題ない」

 ブリギッテの獲物を狙う目にアハハと苦笑を漏らすアマーリエと既婚者二人。

「新しい店云々(うんぬん)は置いといて。休みで一日空いて、熱が冷めるかそれともその休みがさらに燃料投下するるのか。そこが問題だ」

 話を元に戻すアマーリエ。

「明日次第ですか……」

「ある意味読めなさすぎね」

「ええ」

「保温マグをどれだけの人が手に入れたかにもよると思うよ」

 ブリギッテが問題点を指摘する。

「「やっぱり?」」

「?」

「あ、ナターシャさんは見てないのか」

 首をかしげるナターシャにブリギッテが説明を始め、ソニアはできることをアマーリエに伝える。

「一応ハリーに状況を聞いておくわね」

「よろしくお願いします、ソニアさん」

「明日、お茶の時に連絡するわ」

「明日鐘五つ(午後二時)過ぎぐらいに来てくださいな。用意して待ってますから」

「「「は〜い」」」

「それにしても、そんな容器が出来たのね。うちのイワンにも持たせたいわ。きっと喜ぶと思うの。家まで戻ってくるの大変だし」

「「どうだろ?」」

「?」

「いや〜、お昼休みにナターシャさんの顔見てご飯一緒に食べて気分転換してる可能性あるよね?」

「ねぇ」

「オン!」

 シルヴァンにまでダメを押されて真っ赤になるナターシャ。

「そうねぇ、否定出来ないわね」

 ソニアはニヤニヤと自分のところは棚にあげて言う。

「なんだかんだ、この村のご夫婦ってみんな仲いいもんね」

「そりゃそうだよ。結構アルバン村は入村の審査基準厳しいんだよ?」

「へ〜」

「夫婦仲悪くて何かあったら、ダンジョン門前村として機能しなくなりかねないもの。そういうのが起こらないように、夫婦の仲の良さも大事な条件なの。だから、審査が通らないと結婚しても他所の村に行くことになるんだよ」

「初めて知った」

 真顔のブリギッテの発言にそこまで管理されてるのかと目を丸くして驚くアマーリエ。

「そうね、一緒に来たときはそれは色々聞かれたわ」

「うんうん」

 ナターシャとソニアが頷く。

「基本独り者の若い男性は受け入れられにくいし」

「あれ?そうなの」

「そうよ、この村にはそういうところがないでしょ」

「あ、なるほど」

 顔を赤くしてぼかして言うブリギッテにアマーリエはすぐ納得する。

「独身で審査が通る男の人は誠実な人が多いし、この領地への帰属意識が高い人が多いの」

「ほうほう」

「だから、パトリックさんは村に生まれた女の子にしてみれば垂涎の的なの」

「なるほどねぇ」

「アマーリエさん!紹介して!」

「あー。解った。なんとかしてみるけど、その後のことは自分で頑張ってよ?」

「もちろん」

「アリッサさんにも紹介するよ?抜け駆けは不味いでしょ?」

「うっ、確かに」

「まあ、二人の好みが違うなら大丈夫でしょ」

「そこは大丈夫かも。ぜんぜん違うわね」

「ふふふ。わかんないわよ〜。好みだなんだって言ったって恋に落ちる時はそんなもの関係ないもの」

 ソニアがニヤニヤ口元を抑えて二人に言うと、ナターシャも苦笑しながら頷く。

「「えー。じゃあお二人はどうなんですか」」

 痛恨のミスを犯した独身組二人だった。そこからは既婚者二人の怒涛ののろけ話に精神をゴリゴリと削られていくだけだった。シルヴァンはそそくさと撤退している。

「「もういいです」」

「「あら?」」

「しばらく甘いモノいらないかな、私」

「わたしも」

「ごめんごめん」

「ごめんなさい」

「「謝られるとそれはそれで納得行かない」」

「わかるけど、うふふ」

「女同士の話って楽しいわね」

「ね」

「「あははは」」

「さ、そろそろ帰らなきゃ。元気を貰ったし、私はハリーのために美味しいもの作らなくちゃ」

「私もイワンのために美味しい物作るわ」

「「はいはい」」

「「うふふ」」

「アマーリエさん明日にでも、鶏がぱさつかない方法教えてね。今日のトマトスープ美味しかったから」

「あら?」

「ナターシャもまかない食べられると良いんだけど。イワンとお昼一緒のほうがいいでしょ?」

「ええ。でも、おいしいレシピは知りたいから私も明日教えてね?」

「ハ〜イ。ごちそうさま。良いですよ、それぐらい。簡単です。鶏肉に小麦粉を薄くつけとけば良いんです。それを先にさっと表面だけ焦げないように焼いてからスープに入れるんです」

「「あら」」

「そうなの?」

「うん。小麦粉が鶏肉の旨味と水分を逃げないように覆ってくれるんだよ。トマトスープのとろみはそのせい」

「オオ〜、お母さんに教えるよ」

「ありがとう、早速やってみるわ」

「うふふ、イワンに美味しいって言ってもらえるかしら」

「アハハ、がんばってください」

「じゃあ、今日は一緒に帰りますか」

 ブリギッテの言葉を合図に三人はおみやげにラスクを貰って揃って帰っていった。


「さて、どうするよ。南の魔女さまに念話でマーサさんとの話を通しとこうかな」

「オン!」

『南の魔女様〜、今お話してもいいですか!』

「って、南の魔女さまに念話スキル生やしたっけ?アルギスさんしか生やしてなかったか。不味い、叱られる!?」

『芋っ娘ぉ!』

「きゃう」

『心臓止める気なのぉ!?』

(大丈夫、誰も止められる人なんていないと思う。むしろ他の人の心臓を止めかけてるのは南の魔女さまかと……)

『芋っ娘!返事しなさい!』

『は、はい!』

『で?何の用なの?』

『あの、テイムした魔獣用の魔道具屋さんのマーサさんとシルヴァン用の魔道具について話し合いたいなと。ダンジョン行く前にシルヴァンに袋作ってあげたいし。来週時間空いてるのっていつですか?』

『そうね。それは大事ねぇ。青の日にはそっちに戻るからぁ、赤の日以降の夕方とかあんたとマーサさんの都合の合う時でいいわよぉ』

『わかりました。あとでまた連絡します。温泉楽しんでください』

『もちろんよぉ。お肌ツルツルよぉ!今までにない効能だわよぉ』

『ヨカッタデスネー。それじゃ、また連絡します』

『じゃあね、芋っ娘。バカなことすんじゃないわよぉ?』

『はーい』

「はぁ、なんかパワーアップしてたかも?」

「クゥ」

「マーサさんのお店まだ開いてるかな?シルヴァンちょっと散歩がてら行ってみようか」

「オン!」

 一人と一匹は戸締まりを済ませ、マーサの店に向かった。途中会う人々に、挨拶され、パンやラスクの評価を受け、忙しいのを労られる。シルヴァンも頭を撫でられたり子供にギュッとされたりと大忙しだった。

「村の人はみんないい人みたいだねぇ」

「オン」

 マーサの店につくと営業中の札がでていたのでそのまま入る。

「マーサさん、こんにちは〜」

「あ、アマーリエさん!いらっしゃい」

「相談の日にち決めようと思って。赤の日以降の夕方ならいつでも大丈夫なんですけど、マーサさんは?」

「なら赤の日の夕方で!」

「わかりました。南の魔女さまに連絡しときます」

「お昼のスープ美味しかった!パンも美味しかったよ」

「ありがとうございます」

「うちの旦那にも食べさせたいわ」

「旦那さんは?」

「商業ギルドの仕事で温泉が湧いたっていうロトリーの村に行ってるわよ」

「初めて温泉村の正式名称聞いたかも」

「温泉村!?それ良いわね!わかりやすい」

「あれ、じゃあマーサさんの旦那さんてベーレントさん?」

「嫌だ、違うわよぉ。もっと下っ端、下っ端。ベーレントさんの奥さんは商業ギルドの宿屋の客室係の取りまとめしてる人なのよ」

 手を振って、知り合いのことをアマーリエに教えるマーサ。

「ほえ〜」

「要は支配人の右腕ね」

「なるほど」

「あ、それで話しもとに戻すけど」

「はいはい」

「赤の日の、アマーリエさんのお店が終わってすぐでいい?」

「はい。大丈夫です」

「じゃあ、お店でパンを買って庭で待ってる」

「いいですか?」

「もちろん」

「あ、そうだ。シルヴァン用に従魔の印になりそうなもの買いたいんですけど」

「ああ、そうね。目印は必要ね。ちょっと待って、今、出すわ」

 そう言って、マーサはあれこれトレーに乗せてアマーリエに見せる。

「シルヴァンにつけてみていいですか?」

「いいわよ」

「シルヴァン、首輪は……毛に埋もれて見えなさそうだね」

「クゥ」

「足輪かな?それとも耳にイヤーカフ付ける?気持ち悪くない方を選んでね」

「オンオン」

「つけるよ」

 アマーリエは前脚を差し出したシルヴァンに革の足輪を付けてみる。シルヴァンの脚に通ると、輪はキュッと締まって落ちないようになる。

「どう?」

「クゥ?」

 シルヴァンの微妙そうな様子にアマーリエはイヤーカフを手に取る。

「んじゃ、イヤーカフね」

 シルヴァンの耳の端に赤い石の付いた銀のイヤーカフを付けてみせる。耳をプルプルと震えさせるシルヴァン。

「気持ち悪くない?」

「オンオン」

「それじゃぁ、イヤーカフの方にする?」

「オン!」

「マーサさん、足輪外すのどうしたら?」

「指一本入れれば大きくなるわよ」

「ホイホイ。お、大きくなった。外すよ」

「オン!」

「マーサさん、このイヤーカフお願いします。もう付けて帰ります」

 足輪をマーサに戻し、財布を取り出すアマーリエ。

「毎度あり〜。五千シリングね。一応その赤い石は空の魔石だから。シルヴァンが器用なら魔力を貯めとけるわよ、そこから魔力補給もできるし」

「おお、それは良い!はいこれ、お勘定」

「ぴったり確かに。それじゃあ、赤の日よろしくね」

「はい、お願いします。お邪魔しました」

「オン!」

 アマーリエとシルヴァンは仲良く店に帰っていった。

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