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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第10章 二日目のパン屋さん
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 ブリギッテが店の入口の扉に営業中の札を下げに表に出ると、すでに村の何人かとグレゴールが来ていた。

「おはようございます、いらっしゃいませ」

 ブリギッテは慌ててお客を中に入れ、定位置につく。

「すまない、今日はスープを持ち帰りたいんだが。容器はあるんだ。できるだろうか?」

 グレゴールは持って来ていたアイテムバッグから保温マグを取り出し、ブリギッテに見せる。

「あ、保温マグですか?大丈夫ですよ」

 朝話題になった保温マグの登場にブリギッテとアリッサが反応する。

「助かる。何のスープ?」

「塊ベーコンと野菜たっぷりのポトフです」

「オオ美味そう!十二個分なんだが?」

「大丈夫ですよ」

 心配そうなグレゴールにニッコリ笑って応えるアリッサ。

「あとサンドイッチも十二個、カンパーニュを二個。シルヴァン、カンパーニュをこれぐらいの厚さに切っといてくれるか?」

「オン!」

「助かる。これ容器」

 グレゴールはアイテムトートバッグから次々と保温マグを取り出してアリッサに手渡していく。その様子を来ていた村人がしげしげと興味深そうに見ている。

「はい、承りました。お会計の方お願いします。用意できましたらお呼びしますね」

「ああ。あ、このアイテムトートバッグに入れてくれるかな?」

「わかりました」

 ソニアが手渡されたアイテムトート・バッグをブリギッテに渡す。

 そして、会計を済ませて端によって待つグレゴールに声をかける村人が一人。

「グレゴールさん!おはよう」

「おはよう、ブレナンさん。珍しいね、パン屋に来るなんて」

「おうよ!ここで食べられるって聞いてな!噂に乗り遅れないように嫁さんと朝ごはんを食べに来たんだ」

「あはは。そうなんだ。女将さん、おはようございます」

「おはようございます、グレゴールさん。弓の手入れが終わってますから良い時に取りに来てくださいな」

「あ、時間見て取りに行きます。しかし、お二人は相変わらず仲いいですねぇ」

「うふふ」

「ところで、グレゴールさんさっきの容器はなんだい?」

「あ、気になります?ちょっと待って下さいよ」

 様子をうかがっていたブリギッテがグレゴールに声をかける。

「はい、グレゴールさん。用意できました」

「ありがとう」

 ブリギッテからアイテムトート・バッグを受取り、中から保温マグを一つ取り出して、ブレナン夫婦に説明を始めるグレゴール。他の村人も集まって来て話を聞いている。

「「アハハ、あっという間に村に広まりそうだねぇ」」

 その様子を見たブリギッテとアリッサが乾いた笑いをこぼす。

「ハリーたち、本当に大丈夫かしら」

 ソニアは困惑顔で首を傾げる。

「どうしたの?」

 厨房から出てきたアマーリエが三人に話しかけると、それぞれから状況が説明される。

「あらま。便利だから絶対売れるって思ってたんだよね、保温マグ。アルバン村のほうが先にお弁当文化が根付くかなぁ」

「「「おべんとうぶんか?」」」

「持ち運びできる食事のことだよ。色々あるんだ。普及版の焜炉が広まれば、たぶんみんな家でいろんな料理を作れるようになるだろうし、外で食べられるところがこの村は少ないから持ち運びできる食事があれば便利になると思うんだよね」

「確かに」

「なるほどねぇ」

「今は、パンにチーズとか干し肉とか簡単なものしか持ってけないもの」

「でしょ」

「ブリギッテ、サンドイッチとスープをここで食べていくわ。お願い」

「あ、はーい」

 グレゴールの説明を聞き終えた村人が注文し始める。

 今日は朝からパン屋に家族連れで食べに来たお客が多い。危機を感じたアマーリエがポトフの追加を作りはじめる。シルヴァンはやってきた子供に抱きつかれている。

「ブリギッテの予想が当たったわねぇ」

「新しもの好きだから、うちの村の人って」

「他に娯楽無いもんね」

「なるほどねぇ」

 三人はお客をさばきながら会話をする。ラスクの方も味見用を食べたお客がどんどん買っていく。

「このシュガーのとチーズのを中位の袋で一袋分ずつくださいな」

「はい、ありがとうございます」

「うちはこの胡椒とチーズのを。夫がワインのおつまみに喜びそうなの」

「あ、それ良いですね」

「でしょう」

 昼にはアリッサとナターシャが交代する。今日のアリッサは二階でまかないを食べて帰ることにした。昨日は食べてる間中、弟達に一口よこせとまとわりつかれ大変だったのだ。

 一緒にブリギッテも昼休憩を取っている。

「このトマトスープとろみがついてて美味しい。鶏がパサパサしてなくてほんと美味しい」

「なんでだろうね?火を通しすぎると鶏肉ってぱさつくのに。パンもこのスープに良くあってるよね」

 のんびり、一口づつスープを口にしてその味を堪能する二人。

「はぁ、落ち着いて食べられるって幸せ」

「だよね〜。弟達が居たら落ち着いて食べてられないし」

「そうなんだよね〜」

「「アマーリエさんとこに働きに出てよかった!」」

 忙しい母親の代わりに弟妹たちの面倒を見る二人はお昼に落ち着いてご飯が食べられることにホッとしている。今頃はすぐ下の弟が下の面倒を見て居る頃だろう。

「ふふふ、お姉ちゃんのありがたさを思い知るが良い」

「アリッサったら!」

「えへへ。まあ、ラスクをおやつにもらって帰るからね」

「ねーちゃんの値打ちが上がりますな」

「「うふふふふ」」

 二人がのんびりお昼を食べている頃、アマーリエ達はお昼を食べに来たり、ラスクの噂を聞いた村人の対応に追われていた。

「こんにちは〜」

「こんにちは、マーサさん」

「うふふ、盛況だね、アマーリエさん。シルヴァン居るかな?一応シルヴァン用の袋を仮縫いしてきたんだ」

「オン!」

 呼ばれたシルヴァンがマーサに挨拶する。

「こんにちは、シルヴァン。庭で試してきていいかしら?」

「どうぞ〜。シルヴァン、専用の袋を作ってもらうことにしたからちょっとマーサさんに付き合っといで」

「オン!」

「行こうか、シルヴァン」

 マーサの後についてシルヴァンは庭に出る。空いているテーブルに針道具を出し、シルヴァンに袋を着せ付けるマーサ。

「お、いい感じ!」

「ホウホウ、そりゃ良いな」

 側でお昼を食べていた村人からマーサに声がかかる。

「いいでしょ。付ける子に負担がかかりにくいし、動きやすいと思うの。シルヴァン動いてみてくれる?」

「オン!」

 シルヴァンはちょこちょこと歩いて自分につけられた袋の具合を確かめる。シルヴァンは自分のものを自分で持てる可能性に胸いっぱいになる。

「問題なさそう?」

「オンオン!」

 ブンブンと尻尾を振ってその嬉しさをマーサに伝えるシルヴァン。

「良かった!」

「うちの馬用にも作ってもらおうかな?」

 微笑ましげに様子を見ていた村人もその便利そうな袋に注文を出す。

「いいですよ〜。値段を安くできるかもしれないんでちょっと待っていてくださいね」

「そうなのか?」

「ええ。魔法を一つ付けなくて済むかもしれないんですよ」

「ほお、なら安くなるなぁ」

「でしょ。さて、後はアマーリエさんが言ってた、魔法無しで調節する方法を確認して、南の魔女さまから問題なしの太鼓判押してもらったら完成ね!」

「オン!」

「さ、シルヴァン、アマーリエさんにも一応見てもらおうか」

 マーサはシルヴァンを連れて店に戻る。

「どう?アマーリエさん」

 シルヴァンは店の中をドヤ顔で歩いてみせる。 

「お!思ってたのになってます!流石〜、マーサさん」

「任せてよ!それで相談したいんだけど、いつなら時間が空きそう?」

「えっとですね、南の魔女さまが次の青の日に戻られますから時間確認して、来週あたりにでも」

「わかった!じゃあ、私、お昼食べてくよ。ライ麦パンとスープお願い」

「ライ麦パンは切りますか?」

「あ、切ってもらえるの?助かる。八等分してもらって良い?二枚食べてく」

「わかりました」

「シルヴァンむこうで袋を外そうね」

「オン!」

 用意されたトレーと紙袋を持ってマーサがシルヴァンを連れて庭に出る。

「シルヴァンに袋を作るの?」

「ええ。ダンジョンに潜りたいみたいで、それ用に作ってみたんですよ」

「あ、シルヴァンも一応従魔だものね。むしろパン屋の小僧状態の今のほうが珍しいんだものね」

 ソニアが違和感なく働くシルヴァンに自分が毒されていたことに気がつく。

「アハハ、そうなんですよね」

「そう言えばそうねぇ」

 二人の言葉に側に居た村人も深く頷いている。村の人はダンジョンに潜る他のテイマーの獣魔を見てる分、シルヴァンの賢さと人懐こさの方に驚きを隠せないでいるのだ。

「でも、シルヴァンがダンジョンに行くとなると店が大変になりそうな予感がね」

「準備手伝ってるんでしょ?」

「ええ。まあ、慣れれば一人でもなんとかなりそうですけどね」

「無理しないのよ?」

「はい。倒れたら元も子もないですからね」

「もうちょっとしたら落ち着くよ」

「んだんだ」

「そうねぇ。今は物珍しさもあるから」

 そこに居た皆に慰められるアマーリエだった。


 その後は、ソニアとシルヴァンとアマーリエが順に休憩に入り、閉店まではパンを買いに来るお客やラスクを買いに来るお客で賑わっていた。

「すみませーん。まだラスクありますか?」

 店に勢い良く飛び込んできた十歳ぐらいの少年にソニアが声をかける。

「あら、ニック」

「あ、ソニアさんこんにちは!」

「知り合い?」

「ハリーの所の見習いさんよ。どうしたの?」

 アマーリエに答えて、ニックに話しかけるソニア。

「ヨハンソンさんが持ってきたラスクを買い出ししに来たんだ!みんなあれこれたべたいって言い出して、俺お使いなんだ」

「あらあら。好評だったのね」

「そりゃもう!店が鐘六つ(午後四時)までだって知って慌てて買ってこいって。量り売りって聞いたんだけど?」

「一番少ないのがこの小さな袋ね。あとこっち倍の量、こっちが三倍の量入るわよ」

「値段は?」

「この小さいのが二百シリングよ」

「えっと、そしたら……」

 ニックは預けられたお金を元にメモを見ながらそれぞれがほしいと言っていた種類のラスクを買っていく。

「……ニック、これ持って帰れるの?」

 それぞれの袋に間違えないようにラスクの種類と購入者の名前を紙に書いて貼っていくブリギッテとナターシャを見たソニアがその出来た袋の量を見て思わずニックに確認する。

「大丈夫!自分で作ったアイテムバッグ持ってきたから」

「あら、出来たの?」

「うん!!第一号だよ!」

「良かったわねぇ」

「えへへ」

 ソニアに褒めてもらい、お会計を済ませたニックは手渡されるラスクの袋を自分で作ったアイテムバッグにしまっていく。

「ニック、お店のほう忙しくなってるんじゃないの?」

「そうなんだよ、急にね!保温マグの注文が入って凄いことになってるよ」

「「「「オゥフ」」」」

「魔道具屋があんなに賑わったのは初めてだって親方言ってた」

「まぁ」

「なんと」

「ありゃまー」

「ハリー、大丈夫かしら?」

「あ、ヨハンソンさんなら大丈夫です。あちこちの店に声かけて仕事振り分けてましたから」

「良かった」

「でもちょっと遅くなるかもしれないですって」

「わかったって、伝えておいてくれる?」

「はい。じゃぁ!」

 ニックは元気よく手を振って魔道具屋に戻っていった。

「うーん、すごいね!この村の情報の伝播速度」

「そうね。こんなに早く広まるなんて思いもしなかったわ」

「「凄いでしょ」」

「「うん」」

「明日、うち休みでよかった。噂の収集して青の日の対策たてとかないと怖い気がする」

「だねー」

 ちょっと呆然とした入村組とさもありなんという顔の村育ち組だった。



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