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章題がまんま、しょぼくてすみません。
翌日もきれいに晴れたアルバン村。三人の天気予報屋の予報によれば白の日まではこの陽気が続くらしい。
「さて、シルヴァン。今日はどのスープを売ろう?ヨハンソンさんは状態維持の鍋一個持って来てくれるはずなんだよね」
「クゥ……」
メラニーが帰った後、一人と一匹で大量にコーンスープ、野菜と塊ベーコンをたっぷり入れたポトフ、鶏と春キャベツと新玉ねぎのトマトスープを作った。ありったけの鍋を使って。作業台の上に様々な大きさの鍋が所狭しと並んで居る。
それぞれお皿に入れてアマーリエはシルヴァンの前に置く。順に味見をしていったシルヴァンは甲乙つけ難しと首をひねっている。
「サンドイッチは昨日と一緒だからなぁ。肉と野菜けが足りないからポトフが良いと思う?」
「オン!」
「これなら、切ったパンと合わせても栄養偏らないしねぇ。昼のまかないはトマトスープにしよう」
「オンオン」
メインのパンの方はサンドイッチ用の日本風ホワイトローフとライ麦パンを焼いただけだった。他のパンはまだ十分在庫があった。昨日のサンドイッチの量を見越し、多めにサンドイッチを作ったアマーリエとシルヴァン。余ってもアイテムボックスがあるため廃棄処分せず済むのがこの世界の良いところである。
「さて、昨日出た大量のパンの耳は昨日のうちにシュガーラスクとチーズラスクにし終えたし。これは量り売りにしようと思うの。袋詰のも出すけどね。さて、今日出た分のパンの耳はキャラメルラスクと胡椒のラスクにしようか?」
「オン!」
一人と一匹は作業分担してキャラメルがけと塩胡椒したラスクを作っていく。途中、シルヴァンがこっそり味見をして尻尾をふるのがご愛嬌である。
そうこうしている内に、ブリギッテとアリッサがやってくる。
「「おはようございます〜」」
「おはよう〜」
「オンオン!」
「聞いて!昨日貰った甘いパン、弟達に食べられちゃって一口しか食べてないの!」
「ありゃ、お姉ちゃんは大変だ。今日はラスクいっぱいあるから、持って帰ると良いよ」
「ほんと!?」
「うん。従業員特権で」
「ありがと〜。お父さんもお母さんも目が訴えてたのよね、食べたいって」
「あはは。私はそれを見越してちゃんとアマーリエさんに数貰った」
「ブリギッテてほんとしっかりというか、ちゃっかりしてるよね」
「ほほほ当然。アマーリエさん大好評だったよ。いつから売りに出すのか聞いてきたけど、まだ試作だからって言っといたよ」
「ありがとう。小豆と卵を安定して仕入れられるようになったら出そうと思ってるんだ」
「なるほどね。卵なら神殿で余ってるんじゃないかな?」
「はい?神殿?」
「神官さんが減ってるのに鶏の数は増えてるからね」
「ありゃま」
「急な時は卵とか分けてもらいに行くんだよ。うちは神殿に近いから。あと鶏糞もね」
「へ〜、なるほどねぇ。今度聞いてみるよ」
「うんうん」
三人はパンを並べたり、ラスクの味見をしながら開店準備をすすめる。
「「おはよう〜」」
しばらくするとソニアがヨハンソンと一緒にやってきた。
「「「おはようございます」」」
「オン!」
「ほい、アマーリエ、鍋」
ヨハンソンが普通の布袋から寸胴鍋を取り出して渡す。
「ありがとうございます」
「鍋五杯分の拡張にしといたから」
「え」
「昨日のスープの売れ行きから状態維持より拡張のほうが良いかもって言っちゃったの。鍋が空になるたびに追加を入れてもらわないといけないでしょう?ダメだった?」
「いえいえ、そうですね。助かります。ソニアさん、ヨハンソンさんありがとうございます」
「今日のスープはなんなの?お昼用にもらっていこうと思うんだけど。保温マグも持ってきたし」
「あ、自前の作ったんですね」
「うん。使って改善できるところがあるなら改善したいしね」
「さすが〜、ヨハンソンさん」
「褒めてももう追加の仕事はなしだからね。扉と鍋の請求書は青の日にまとめて持ってくるから」
「へ〜い。よろしくお願いします」
「それじゃ、扉つけちゃうから、スープとサンドイッチお願い」
「毎度〜。今日のスープは塊ベーコンのポトフですよ。あ、ラスクつけときますんで店の皆さんとおやつにでも食べてください。感想はソニアさんに伝えといてもらえたらうれしいです」
「わかった。ありがとう」
ヨハンソンは、アイテムバッグから扉と道具を取り出して、戸棚の扉を付け直し始める。シルヴァンはヨハンソンの隣に陣取り、風魔法を使って扉を押さえたり、ネジを渡したりとアシストする。
「!君、主人に似ないでいい子だねぇ。うちの子にならない?」
「キュゥ」
「ヨハンソンさん、誘惑しない!ソニアさん居るでしょ!シルヴァンはうちの子ですからね!」
そうヨハンソンに釘を差してアマーリエは鍋にポトフを入れに行き、ソニア達がサンドイッチとラスクの用意をする。
「ほい、ポトフ〜。一応鍋四杯分入ってるから、足りなくなったら言ってください」
「「ハ〜イ」」
「じゃあ、私が入れるわ」
「わっ!その金属のカップみたいな筒何?」
ブリギッテがソニアの持つ保温マグに視線を向ける。
「魔道具なのよ。こうやると蓋が大きく開くの」
「おお〜」
「これ便利ですよね!私昨日のまかないにこれ借りて帰ったんですよ。あ、アマーリエさん昨日のこの容器返すね」
アリッサは慌てて自分の袋から保温マグを取り出しアマーリエに返した。
「で、注目!ポトフを入れて、こう二回叩くと蓋が閉まるの、中のものは入れた時の温度が維持されてるから熱々のスープがどこでも飲めるのよ」
「わぁ!!便利!」
ソニアが保温マグを二人に見せながら説明する。いつの間にかどこかのデパートの実演販売のようになっている。
「凄いでしょ。ハリーとハリーの先輩が作ったのよ」
「外側は熱くないの?」
「二重構造になってて外は熱くも冷たくもならないのよ。もってみる?」
「ほんとだ!」
ブリギッテは保温マグを手渡され、おっかなびっくり触っている。
「旦那さんの所の魔道具屋さんで売ってるんですか?」
「そうよ」
「畑仕事の時にあったらお昼に家に戻らなくて済むから父さん達喜ぶかも。あ、でも家に戻ってご飯のほうが気分が変わるし良いのかな?家に帰ったら聞いてみようっと」
「うちは、居続け仕事になる時にこれがあったら助かるかもって両親が話してたの」
ブリギッテの話を聞いてアリッサも自分の家のことを口にする。
「ああ、鍛冶屋さんは通しで火の前で仕事するからその場から離れられない時があるものね」
ソニアの言葉にウンウンとアリッサが頷く。
「私もヨハンソンさんが勤めてる魔道具屋にあるって両親に伝えとくよ」
「うふふ、宣伝お願いね。ハリー、仕事忙しくなりそうよ〜」
「大丈夫!もう他の魔道具屋とも連携して、保温マグと保温瓶は量産に入ってるから」
「ありゃ、凄いですね」
扉をつけながら振り返って、ドヤ顔をするヨハンソンにアマーリエが半笑いで答える。
「何年君と付き合いがあると思うの?数をぼかしていっぱいって君が言う時はだいたいその後大量生産しないと間に合わなくなってるだろう?」
「……ソウデシタネ」
「領都と違ってまだアルバン村は千人ほどしかいないから生産体制さえできれば楽なんだけどね。村の中はものづくりの景気に沸いてるよ。扉に折りたたみの椅子と机、煉瓦屋も大工のところもだ。他所の業種のところも何か儲け話はないかと大騒ぎだから」
「え、まじで?あ、普及版の焜炉も火がつくかも。焜炉だけに」
「……面白いこと言ったつもり?それどういうこと?」
「えーっと昨日商業ギルドのメラニーさんが来てご飯一緒に食べたんだけど、その時に薪の竈じゃ料理が難しいって話になって、普及版の焜炉ができるよってポロリと」
「ぐはぁ。わかった。そっちもすぐに体制整えて生産に入るから」
「よろしくお願いします〜」
「君ときたら!まったく!儲かるのは嬉しいけど悲鳴になるんだからね!自重してね!領都のお店も普及版焜炉のせいで大変なことになってるみたいだから。ステファンさんから帰ってきてくれって泣きの入った手紙が届いちゃったよ!今は帰る気全く無いけどね!」
「うっへぇ。うちの親からの手紙には特に何も書いてなかったなぁ」
「君とこのご両親、基本的にあれこれ噂話をする方じゃないじゃないか」
「確かに」
言い合いを始めたアマーリエとヨハンソンを置いて、ブリギッテとアリッサは気になったことをソニアに聞く。
「「ねえねえ普及版のこんろって何?」」
「竈の代わりに火の調節が簡単にできる料理用の魔道具よ。うちもハリーに頼んで買ってもらったの。料理が楽になったわよ」
「え、そんなのあるんですか?」
「気になる!」
「ハリー、お店にもう見本出てたかしら?」
「ああ、一応置いてある」
「「お母さんと見に行こう!」」
「う〜ん、一度魔導焜炉のお披露目会とかしたらいいのかな?」
二人の話を聞いて、また思いつきを口にするアマーリエ。
「あら、それ素敵ね。使い方もわかるし、料理の講習会もその場であったら嬉しいわね」
「ですよね〜」
「「なにそれ!楽しそう!」」
「ちょ、待って!数をある程度用意できてからにして!」
女たちの盛り上がりにヨハンソンが焦りだす。
「は〜い。まあ、こっちもパン屋が軌道に乗るまでそれどころじゃないですから、安心してくださいよ」
「全然安心できないから!言質とっとかないと」
「ブー」
「うふふ。大丈夫よ、ハリー。村に噂が広がるまで時間あるんだし」
「「甘い!」」
「「え?」」
「今日、私達が親に話すでしょ?」
「うん」
「確実に明後日までに周知徹底されるね。今、このパン屋からの情報はみんな注目してるから。村の情報網はすごいよ」
「「「……」」」
「「ということで、ヨハンソンさん、頑張ってね」」
ブリギッテとアリッサに笑顔で言い切られるヨハンソン。
「……」
「ハ、ハリー?大丈夫?」
「真剣に、親方と相談する」
「「それがいいと思う」」
ウンウンと頷く自営業の家に生まれた二人。
「すぐに、店に行くよ」
「はい、これお昼とおやつ」
「うん。ソニア、今日は迎えに行けないかも」
「大丈夫よ。夕飯に美味しいもの用意しておくわ」
「ありがとう、ソニア。君だけだよ、僕を労ってくれるのは」
「まぁ、ハリー」
今日の二人のラブラブ劇場を三猿行動でやり過ごした独身三人とシルヴァンであった。




