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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第9章 戦いすんで日が暮れて
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 メラニーを連れて上がったシルヴァンは、居間に通し、暖炉の薪に火をつける。アマーリエから春先で寒いようだったら暖炉で薪を燃やして良いとパン屋に住むことになった日に許可をもらっているのだ。

「わぁ。これ、今日届いた、銀の鷹の皆さんが取り寄せしてた家具のカタログに載ってた椅子だぁ。座ってみたいな……えっ!?え!?」

 メラニーのつぶやきを拾ったシルヴァンがメラニーを鼻先で押して椅子に座らせる。

「おお!すごくゆったり座れる〜。これいい!私もカタログ頼もうかな?」

 膝の上に頭を載せてきたシルヴァンを撫でながらメラニーが椅子を堪能する。

「お待たせしました〜。ああ、シルヴァン暖炉に火を入れてくれたのね、ありがと。メラニーさんこちらにどうぞ」

「わぁ、美味しそう!」

 メラニーは席につき、机の上の料理に目を輝かせる。

 アマーリエはハヤシ風味のじゃがいもチーズグラタンを取り分け皿に盛り、ガーリックトーストと普通にトーストしたバゲットを添えてメラニーの前に置く。温野菜と蒸したマジッククウェイルの胸肉も、小皿に取ったソースを二種類皿に載せて置く。

「温かいうちにどうぞ」

「マジッククウェイルなんでまた隠形付いちゃいますけど、村の中だから大丈夫だと思います」

「アハハ、影が薄くなるんですね。村の七不思議になったりして」

「アハハハ」

「キュゥ」

 この二人と一匹、笑い話にしているが、メラニーが住む辺りの住人たちの間でお化け騒動が起ることとなった。しかし、メラニーに噂が届くのは一年後のことであった。なにせメラニーの住む部屋に女性のレイスが入っていった(しかも一度きり)という噂だったので誰も本人に言えなかったのだ。

「ソースはレモンを使ったさっぱりのものとゴママヨネーズのこってりしたのです。好きな方につけて食べてください」

「は〜い」

「シルヴァンはお肉いっぱい盛り付けるからね、ソースはどうする?」

 聞かれたシルヴァンは空いている椅子に飛び乗り、前脚でゴママヨネーズの小皿を選ぶ。アマーリエはゴママヨネーズを蒸鶏の皿にかけてやる。

「シルヴァン、そのままそこに座って食べる?」

 首を横に振って、椅子を降りるシルヴァン。そして椅子の座面に前脚を置く。

「ほいよ」

 ベンチは庭に出してしまったので、アマーリエは座面が低めの椅子に料理の皿を置く。

「あら、そっちのほうが食べやすいんですね。何か台を作ってもらってはどうでしょう?」

「あ、それいいかも。お薦めの家具家さんありますか?」

「確かナターシャさんがここに勤めることになったんですよね?」

「ええ」

「じゃあ、旦那さんのイワンさんに頼んでみては?」

「建具屋さんですよね?家具家さんじゃなくて?」

「大丈夫ですよ」

「イワンさんの仕事が忙しくなるみたいだから、それは避けたいです。馬に蹴られそうなんで」

「あらら、あそこも仲のいいご夫婦ですからね」

「そうなんですよ。あ、冷めちゃいますから、まずは、いただきましょうか」

「ええ」

「オン!」

「ん!このじゃがいもの料理美味しいです!こっちのトーストだけのパンに載せて食べても美味しいですね!」

「良かった、お口に合って。まだありますから遠慮なく言ってくださいね」

「もちろん!」

「オン!」

「うーん、汁物もやっぱり作り置きしないとダメだなぁ」

「汁物ですか?」

「ええ、食べ合わせとして欲しくなっちゃうんですよね」

「アマーリエさん、これで十分ですよ。料理が上手いと良いですよね。私なんか夕飯はパンにチーズですよぉ。住んでる所の共同台所の竈って使いにくいんですよ。料理が上手な人が使ってる時は、お願いして一緒に作ってもらうんですけどね」

 そういってメラニーは蒸し肉とブロッコリーにゴママヨネーズをつけて口に放り込み、顔を緩める。

「なるほど。やっぱり火の扱いが難しいですよね、薪は」

「……ええ!強すぎたら真っ黒焦げ。弱かったら生焼けですからね!」

「あはは。ソニアさんが普及版の焜炉ができたって言ってましたから少しは火の扱いが楽になると思いますよ」

「え、普及版の焜炉ですか?あの宿の厨房で使ってる素敵な魔導焜炉の!?」

「ええ、そうです。火口一個ですけどね」

「一個あったら十分です!あれ、すごく火の調節が簡単じゃないですか!私も欲しい!いくらになるんだろう?」

「ヨハンソンさんに伺ってみては?」

「そうします!住んでる皆で共同購入してもいいですし」

「うんうん」

「クゥ」

「あ、シルヴァンおかわり?」

「オン!」

 アマーリエは空になったシルヴァンの皿に追加の料理をよそう。

「もし、焜炉が買えたら、料理教わりに来てもいいですか?」

「いいですよ。すでに銀の鷹のグレゴールさんとか神官のアルギスさんとか料理の講習会をするって約束しましたし」

「え、なんですかその眩しい面子は」

「眩しい?」

「アマーリエさんは近くに居すぎてわからないんですよ!銀の鷹の皆さん独身じゃないですか!毎年結婚したかどうだか噂になるんですよ!それに今度来た神官さんも独身でしょ!?」

「あ〜、なるほどそういう意味でね」

「この村、独身男性ははるか上の年代か成人前ですからね?」

「アハハ。ブリギッテさんが今度のリラの花祭りで頑張るって言ってたのはそのせいですか」

 拳に力の入っていたブリギッテを思い出し苦笑するアマーリエ。

「ええ、私も後がないので頑張らなきゃ」

「頑張りすぎないほうがいいですよ。余裕がなく見えて男の人が引きます」

「えっ」

「考えても見てくださいよ、余裕のない旦那。欲しいですか?」

「あー」

「結婚なんてお互い様です」

 前世結婚して子供もいたアマーリエの一言は現世独身にも関わらず重みがあった。

「は〜い。アマーリエさん、結婚願望は?」

「無いですね、親と世間様には申し訳ないですが」

 前世での少子化問題を思い出して、子を産まない選択肢は個人としてありだが社会として考えた時にはだめだろうと思ったアマーリエだった。最も産んだら産んだで人が増えすぎて食糧問題や移民問題に発展するので程よい人口というのがいかに難しいかアマーリエは答えのでない問題に悩んだものだった。

「あらまー」

「それに、私のような面倒なのを相手に押し付けようってのは申し訳なさすぎます」

「え、自己評価低いんですか?」

「ん〜、一人で生きてる自分が好きなんです。自分の時間を他人に取られたくない。俺と仕事とどっちが大事なんだ!って言われたら仕事に決まってんだろボケと言い切れるので色恋にも結婚にも向いてないと思います。そもそも色恋も結婚も自分以外に時間を割きたいと思えるからできることなんで」

「はぁ〜、確かに」

「自己分析の結果ですね」

「なるほど」

「親も察してるのか、弟子を取る方向で動いてますし」

「へぇ〜」

「メラニーさん、そう言えばご家族は?」

「親兄弟は領都に。私、こっちに単身赴任中なんですよ」

「ありゃま」

「ここ好きなんで、こっちで根を下ろしたいな〜と思ってるんですけどなかなかねぇ。仕事柄、相手が見つからなくて」

「なるほどねぇ。でも、温泉村計画が発動したら出会いが増えるんじゃないですか?」

「あ!それだ!それで今日の愚痴を思い出した!美味しい料理ですっかり忘れてたけど!」

「ありゃ、どうしたんです?」

 そこから始まったメラニーの長い愚痴を要約すると、ゲオルグを筆頭に東の魔女、ヴァレーリオ達神殿寝泊まり組、アーロンが温泉村計画のためギルド長達とまた温泉村に行ったというのだ。今回留守番は三人になったが、またしてもメラニーはくじ引きで破れたのだ。そして今回は現場の意見がほしいということで宿の支配人コンラートと料理長ダニーロも一緒に行っている。今度は青の日まで戻らない予定になっているらしい。

「前回行けなかった私は連れて行ってくれてもいいと思いませんか!?」

「それだけ皆が温泉村に行きたかったってことですよね?」

「……ええ。どんなに温泉が素晴らしかったか自慢しといてひどいですよね?」

「それは、きついですね。大丈夫ですよ。まだまだ機会はありますから!」

「そ、そうですよね!?次こそ絶対行ってやるんだー!」

((それあかんフラグや))

 こっそりお腹の中でつぶやいたアマーリエとシルヴァンだった。

「あれ?そうしたら神殿って、今誰も居ないんですか?」

「あ、銀の鷹の皆さんがお留守番役になったみたいですよ。ファルさん神官ですし」

「はぁ、そうなんだ。しかしお年寄り連中自由だなぁ」

 アマーリエはお前が言うなと突っ込まれそうな発言をする。

「良いですよね〜、あの融通無碍」

「だよね〜」

「早くあの境地に達したいもんですよ」

「ウンウン」

「クゥ」

「はぁ、ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」

「色々聞いてもらえて、美味しいものもいただいてすごく満足です。ほんとありがとうございます」

「いえいえ、私もおしゃべりできて楽しかったですし」

「はぁ〜、毎日美味しいご飯でシルヴァンちゃん羨ましい」

「オンオン!」

「あ、料理の講習会、ちょっと気後れしますけど私もお願いします!」

「もちろん!多分白の日とか他の日は夕方になっちゃうと思いますけどね」

「は〜い。あ、そうだソース!」

「あ、そうでした」

「えっと代金は先に頂いてますので、受け渡しだけですね。確認お願いします」

 メラニーはアイテムバッグからソースを取り出していく。アマーリエは伝票を持ってきて確認する。

「……はい、問題ないです。全部揃ってます。うーん、頼んだ人たちが青の日にならないと帰ってこないのか。ま、いいか」

「確かにお渡しいたしました。ところで、この茶色いの美味しいんですか?」

「濃い味が好きな人は好きですねぇ。いずれ、味付けにこれらを使った惣菜パンも出しますから楽しみにしててくださいな」

「わかりました。ダニーロさんも頼んでましたよね?料理の試作のときにお邪魔しちゃおうっと」

「アハハ、それ良いですね。ダニーロさんはそういうところ気にしない方のようですし」

「ええ。前の料理長の気難しさったら凄かったですもの。料理人以外は一歩も厨房に入れなかったですし」

「へ〜。お客さんに身分が高い人が多いから安全管理が厳しい人だったんですかね」

「度を超えてましたけどね。その点ダニーロさんは管理はキッチリされてますが、穏やかですし、こちらも尊重してくださいますから、こっちもあちらの仕事の助けになるよう頑張れます」

「なるほど」

「長々とお邪魔しちゃって。そろそろお暇しますね。今度は何かお土産持ってきます」

「お仕事お疲れ様。また休みの日にでも遊びに来てくださいよ」

 二人と一匹は階下に降りていく。

「それじゃ、おやすみなさい。良い夢を」

「メラニーさんも。おやすみなさい、気をつけてね」

「影が薄くなってるし大丈夫だよ」

「ブクク、確かに。じゃあ」

「じゃあ」

 手を振って帰っていくメラニーはあっという間に姿がぼやけていったのであった。


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