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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第8章 パン屋モルシェン、開店するよ
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 ジュブワと入れ替わるようにソニアとナターシャがやってきた。

「こんにちは!遅くなってごめんなさい」

 ソニアが生け垣越しにアマーリエ達に声をかける。ナターシャはそっと会釈する。

「こんにちは~。今、始めたところですから。門から庭の方にお願いします」

「こんにちは!ソニアさん、ナターシャさん。はやくはやく!」

「こんにちは!お二人さん!アリッサったら急かさないのよ」

 アマーリエ、アリッサ、ブリギッテがそれぞれ二人に挨拶を返す。

「椅子を持ってこようか?」

「あ、そうですね」

 アマーリエはダフネに頷いて、一緒に二人の分の椅子を机に並べる。

「すごく変わりましたね」

 やってきたナターシャが庭を見渡してアマーリエに声をかける。

「ええ。皆さんに手伝っていただいて、買い物に来た方がゆっくりできるようにしてみたんです」

「これなら明日、そこそこ人が来ても待っていただけそうですね」

 ホッとしたようにナターシャが言う。

「お二人もどうぞ座ってください」

 ソニアとナターシャが席に着くとアマーリエがダフネを紹介する。

「えっと、皆さんご存知かもしれないですが、銀の鷹のダフネさんです」

「よろしくな。銀の鷹のダフネだ。リエとは今回の道中で仲良くなったんだ」

 ダフネの言葉に村の四人がダフネに挨拶し終えると、アマーリエはお茶を入れて皆に渡していく。お菓子はそれぞれ取り皿に取ってもらうようにする。

 早速、女達はお菓子を手にとり話に花を咲かせる。シルヴァンはそれぞれから分けてもらってラスクを堪能している。

「これ、甘くてサクサクして美味しい」

「パンのかかとですけどね」

 アマーリエはアリッサにこちら風に言い回しを変えて言う。

「まぁ、あれがこんな風にお菓子になるの?」

 ナターシャがラスクを指でつまんでじっと見て言う。

「ええ」

「こっちのチーズの味のはハリーが喜びそう」

「うちのイワンも飲む時に喜びそうよ」

 既婚者二人は夫が喜びそうなお菓子に顔を見合わせて笑い合う。

「まだありますから、持って帰ってください」

 アマーリエの言葉に皆嬉しそうに感謝を告げる。

「領都にはこんなふうに外で食べられるような場所があるんですか?」

 ナターシャの言葉にダフネが返事をする。

「ないぞ。王都にもない。領都はそもそも庭付きの家も少ないしな」

「ええ、ないわね。領都にもできたら流行るでしょうね」

 ダフネの言葉にソニアが頷く。

「あー、食堂はありますけど休憩処のような軽食屋はありませんもんね。広場の屋台とかですね」

「ああ、そうなるな」

 アマーリエの言葉にダフネが頷く。

「買った物をここで食べられるのって良いと思う」

 ブリギッテが考えながら言う。

「お庭でお茶するなんて考えもしなかったわ。素敵ね」

「庭が、殺風景だけどね」

 ナターシャに苦笑しながらアマーリエが答える。

「そうだね、花壇とかあったらもっと良くなるよね」

 ブリギッテも頷く。

「まあ、二人共。まずは、明日の開店準備のほうが先よ」

 ソニアが苦笑しながら二人をたしなめる。アマーリエとブリギッテは確かにと苦笑を浮かべる。

「そうだ、ナターシャさん。建具をお願いしたいんですが」

「どうするの?」

「庭側の壁にドアを付けて出入りしやすいようにしようかと。今のままだと混んだ時に人をさばくのが難しいかなと」

「そうね。庭側にドアがあったら流れが一方向になるから無理がなくなると思うわ。でもレンガを崩してからになるから時間がかかると思います」

「あ、それは大丈夫です。ドアを持ってきていただけば、その大きさにスキルで穴を開けて、ドアが付くように枠も付けちゃいます」

「まぁ、そんなことが?」

「明日と明後日はとりあえずドア無しでなんとかしようかと思うので時間が出来たときにでも……」

「いくらなんでも物騒ですよ!今すぐ夫を呼んでくるわ!ドアを付けるだけなら難しくはないもの。待っててちょうだいな」

 ナターシャはすぐさま夫の勤める店に走っていく。

「あ」

「意外にナターシャさん行動派だったね」

「うん」

 唖然とする残されたアマーリエ達だった。

 

 ナターシャはさして時間も経たないうちに、ドアを担いだ職人二人を連れて店に戻ってきた。

「アマーリエさん、夫のイワンと同じ店に務めるダンよ」

「お二人とも急な話なのにありがとうございます」

「いや、全然訳がわかってないんだがな」

「うんうん。うちの店で余ってる扉を持ってきたぞ」

「とりあえず店の中に」

「ああ」

「わかった」

 アマーリエは職人二人を連れて店の中に入る。

「あの壁にドアを付けて庭に出入りしやすいようにしたいんです」

 アマーリエは庭側の何もない壁を指差して、イワンに説明する。

「ああ。で、穴は?」

「今から開けます。ドアを壁にあてて、あたりを取ってもらってもいいですか?」

 イワンはわけがわからないまま、言われたとおりにアマーリエの指示に従う。

「ああ。ドアはこの位置でいいか?ここのあたりなら問題ないはずだ。ダンこっち側を支えててくれ」

「おう」

 イワンはダンにドアを支えてもらい、ドアを開閉するように動かしてみせる。

「はい。ドアの開け閉めにも問題なさそうですね」

「よし、ダン。ドアを壁にあてて押さえてくれ」 

「ほいきた」

 イワンはチョークで壁に印をつけていく。

「それでパン屋さん、この後どうするんだ?」

 ダンとイワンはドアを持って壁から離れる。

「まあ見ててください。こうします」

 アマーリエは壁に手を当てて、チョークの内側のすべての素材を再構築する。アマーリエの手を中心に魔法陣が浮かび上がり。眩しく光りだす。

 光が収束した後、そこには見事にドアがないだけの穴が空いていた。穴の向こう側は驚くダフネ達が見える。

「はぁ。流石にきつかった」

「オン!」

 アマーリエのところにやってきたシルヴァンが、すかさず魔力回復の魔法をかける。

「りゃ、シルヴァン凄い!魔力回復の魔法もあるの!?」

 シルヴァンをモフるアマーリエをよそに、口のあいたままの職人二人と皆がその穴に集まってきて騒ぎ出す。

「ちゃんとドア枠があるんだが!」

「外側にレンガのアーチもできてるぞ!」

「ちゃんと段差の解消のために階段も出来てますよ。しかも板張りで、漆喰処理もされてます!」

「凄いな~、リエも」

「ダフネさん、凄いって。そりゃ凄いけど……」

 河原の温泉用の岩屋を見ていたダフネは特に大騒ぎするでもなく、アマーリエを賞賛する。ブリギッテは目を白黒させ、ソニアはありえないと首を横に振っている。

「「パン屋さん!」」

 イワンとダンがアマーリエを呼ぶ。

「あ、はい。一応壁のレンガは外に張り出して軒代わりのアーチに。壁の腰板をドア枠と階段の踏み板にして、残った壁の漆喰を階段の側面に塗っときました」

 自分のイメージどおりに仕上がった穴を見て、アマーリエは満足そうに頷く。

「「どうやって!?」」

「えっと、これが私の天恵スキルなんですよ。説明すると難しいので、形を変えられるスキルとでも思っててください」

「「はぁ~」」

「ほら、あなた。ドアが付くか見なきゃ」

 ナターシャがイワンを急かす。

「あ、お願いします」

「ああ」

 イワンとダンはドアを穴にはめる。

「「ぴったりだ!」」

「よっしゃ!」

 アマーリエはガッツポーズを取る。

「あとは蝶番で止めて、鍵穴の処理をすれば大丈夫だ。すぐやる」

 職人の顔に戻ったイワンとダンは腰の道具袋から道具を次々出して、ドアと鍵をつけてしまう。

「これで、あっち側から入ってパンを選んだら、お会計を済ませてこっちのドアから出られると」

「うんうん。色々ありえない事、目にしたけど、これなら明日混んでも大丈夫そうだね」

 アマーリエが満足そうに頷く横で、ブリギッテが思考が追いつかないまま相槌を打つ。

「ねぇ、ところでこのガラスの棚は何?ひんやりしてるんだけど」

 アリッサが、店の中にあった冷蔵ショーケースを指差す。

「あ、それ。冷蔵ショーケースって言うの。冷たいお菓子や冷やしておきたいものを入れておくんだよ」

「状態維持の魔法じゃダメなの?」

 ブリギッテが首をひねる。

「それね。一応作ってもらう時に考えたんだけど、状態維持の魔法だとケースが大きいから値段が高くなっちゃって。冷蔵のほうが安かったんだよ。それに、状態維持だと冷やしてから入れないと意味が無いから、魔力が少ない私だと効率悪いんだよね」

 冷蔵ショーケースはアマーリエがガラスの一枚板が作れると知った時に、魔道具職人とガラス職人に頼んで作ったものだった。領都の肉屋や魚屋、食料品店などで少しずつ取り入れるところが出てきている。

「なるほど」

 アマーリエの説明に納得したブリギッテだった。

「冷たいお菓子?」

「うん。明日はサンドイッチ入れるだけだから、まだないけどね」

「楽しみにしてるね」

「うん」

 ニコニコとアリッサが頷く。

「パン屋さん!終わったよ」

「あ、はい。ありがとうございます。おいくらになりますでしょうか?」

「ドアと鍵、それと取り付けの値段で五万六千シリングになる」

「はい。コレでピッタリ」

「毎度。これにサイン頼む」

 ドアの取付代金の請求書をイワンから渡される。アマーリエはサインをして、領収書をもらう。

「いやー何か、化かされた気分だ」

「確かに。夢見てるみたいだったな」

 建具職人二人は首を振り振り帰っていった。

「アマーリエ、私はシルヴァンと外でのんびりしてるから」

「わかりました。おやつ食べすぎないでくださいよ」

 ダフネとシルヴァンはアマーリエに頷くと、いそいそと新しいドアから庭にでて遊び始めた。

「それでは、皆さん明日の話をしましょうか」

 アマーリエは、店の配置を皆に説明し、やってほしいことをや気づいたことなどを話し合い、明日のシフトを決める。

「とりあえず、明日様子を見ながら順次、やり方を変えていきましょう」

「そうね。なんとかなると思うわ」

「明日は早めに来ようか?」

 朝から来るブリギッテ、アリッサ、ソニアがアマーリエをみる。

「だいたいで大丈夫ですよ。鐘、鳴りませんし」

「わかったわ」

「私はハリーを送り出してからになるけど大丈夫かしら?」

「ええ。問題ないです」

「私は、お昼をイワンに届けたら来るわね」

「はい。それでは明日は三角巾と前掛けをお願いします」

「「「「はーい!」」」」

「じゃぁ、お茶の続きしましょうか」

「そうね、まだ時間あるし」

 女達は鐘が鳴るまでお菓子と話を楽しんだのだった。

 そしてダフネは、夕方頃、探しに来たベルンに連れられて宿に帰ったのであった。もちろん、ダフネはファルのためにもラスクをしっかりゲットしていった。

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