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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第8章 パン屋モルシェン、開店するよ
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 アマーリエはダフネとシルヴァンを居間において厨房に移り、余ったパンの耳でラスクを作り始める。

「簡易式でいいかな~」

 フライパンにバターを入れて溶かし、パンの耳がカリカリになるまで、焦げないように混ぜながら炒める。少しずつ、パンの耳を揚げ焼きしていく。

「半分はお砂糖にするか。残りは粉チーズと胡椒っと」

 ボールの中で軽く和えて、完成だ。

「さてと。次の鐘が鳴るまでまだ間があるから、開店の準備しないと」

 ラスクを作業台の上において、アマーリエは一旦居間に行く。ダフネとシルヴァンはラグの上で午睡に入っていた。アマーリエは寝室から毛布を持ってきてダフネの上に毛布をかける。

「……ダフネさんがうちの子になっちゃってるけど、ま、いいか。そのうちベルンさん(おかん)から連絡来るでしょ」

 そうつぶやいてアマーリエはリュックを背負って地下に行って、アイテムボックスから販売用のマヨネーズとマスタードの瓶やディスプレイ用の什器やポップ用の紙をリュックに放り込んでいく。店の方に戻って、アマーリエはマヨネーズとマスタードの瓶を並べはじめる。

「うーん。庭側の壁に出入り口欲しいかも。でないと今の出入り口一つじゃ、客の回遊がうまくいかなさそうな?錬金術で開けて、ナターシャさんの旦那さんに頼んで扉つけてもらったりできるかな?一応聞いてみるだけ聞いてみるか」

 アマーリエは出入り口から庭にまわり、庭の方をみる。

「草ぼうぼうなんだよね。シルヴァンに頼んだら草刈りしてくれるかしら?芝生にするまでの間だけでも。うーん?」

「アマーリエさん!」

 庭の生け垣の方からアマーリエに声がかかる。

「あ、ブリギッテさん、アリッサさん、いらっしゃい」

「ちょっと早いんだけど来ちゃった。ナターシャさんとソニアさんはぎりぎりになるよ」

「そうなんだ。わかった~」

「どうしたの?」

 アリッサがアマーリエに尋ねる。そのまま、生け垣越しに会話が始まる三人だった。

「うん、庭をさ、どうにかしたいと思って」

「どうしたいの?」

 ブリギッテが具体的にどうしたいのかアマーリエに聞く。

「今のところ、建物をちょっと建て増しして、庭は芝生と花壇と小さな家庭菜園にして木の長椅子とか置きたいなーとか」

「素敵ね!おばあちゃんたちゆっくり買い物できるね」

 アリッサがニコニコとアマーリエに言うとブリギッテは考え込んでから、アマーリエに言う。

「……明日は、人出がどのぐらいになるのかわからないから、庭に木の長椅子とか台とかあったほうがいいかもね」

「いっぱい来ると思う?」

「そりゃ、他に娯楽がないもの」

 アマーリエの言葉に肩をすくめてブリギッテが答える。

「居間に木の長椅子があるからそれを出すか。でも足りないと思うんだ」

「予算ある?冒険者用の折りたたみの机と椅子を売ってるところがあるから買っちゃう?」

「あるんだ!いくらぐらい掛かるんだろ?」

「ツケもきくよ」

 アマーリエの心配にブリギッテがフォローを入れる。

「前金でいくらか払って、頼んじゃうか」

「なら、今から私達が頼んでくるよ。支払いはここですればいいと思う」

「お願いしていい?」

「うん!、任せといて!」

 そう言うとブリギッテとアリッサは来た道を駆けていった。

「ドアは、白の日にでもなんとかしてもらうか。今の入り口から入ってもらって、庭側から出てもらう流れでいいかな。よし!なんとかなる気がしてきた」

 アマーリエは、厨房に戻ってお茶の準備をする。秘密兵器は高級宿屋の備品だった状態維持の掛かったポットだ。支配人にお願いして、予備を一昨日、買い取ってきたのだ。沸かした湯をここに入れて、財布を取りに上がる。

 寝室の衣装箪笥からお金を取り出すアマーリエに、ダフネとシルヴァンが声をかける。

「オンオン!」

「毛布ありがとう、アマーリエ。誰か来てたのか?」

「お店の手伝いを頼んだ人が来るんですよ。今から開店の準備です」

「私も何か手伝うことあるか?」

「なら、居間の木の長椅子を下ろすの手伝ってもらっていいですか」

「いいぞ。あれなら私一人で持てる」

「あ、そのほうが安全ですね。下手に私が一緒に持つより」

「ああ。階段が危ないからな」

 そう言うとダフネは居間に戻り、ベンチを肩に担ぎ上げて持ってくる。シルヴァンが一声鳴くとベンチに魔法が掛かる。

「ぬ?軽くなったぞ?」

「風魔法で浮き上がらせたのかも」

「凄いな!シルヴァン!」

「オンオン!」

「それなら大丈夫ですね。シルヴァンにもお願いがあるんだけど」

「オン?」

「庭の草を風魔法で刈り取ったりとかできそう?」

「オンオン!」

「お!任せた、シルヴァン!じゃあ、下に降りるか」

 二人と一匹は階下に降りて、庭の方に行く。

「あ、ダフネさん、ベンチその辺りに置いちゃってください」

「ああ」

「シルヴァン、草丈をこの位にして刈れちゃう?」

 アマーリエはしゃがんで十cmぐらいの高さをシルヴァンに指示しする。

「オンオン!」

 シルヴァンは庭全面に風を走らせ草を刈ると、刈った草を風でまとめて山にする。

「「凄いな~」」

「シルヴァンちゃん凄い!」

 戻ってきたアリッサからも声がかかる。ブリギッテと店の主人らしき中年の男も荷車を道の端において、生け垣越しに目を丸くしてシルヴァンを見つめている。

「アマーリエさん!」

 我に返ったブリギッテがアマーリエに声をかける。

「はい」

「その刈った草ください!肥料にしますから!」

「いいですよ~。うちも助かります」

「あ、どうやって持って帰ろう?」

「アイテムトート・バッグの予備があるからそれに詰めましょうか?シルヴァン、机の横に引っ掛けてあるトート・バッグ持ってきてくれる?」

「オン!」

 シルヴァンが家の中へ走っていく。ジュブワはアイテムボックスを持って、アリッサとブリギッテの後について庭の方に回ってくる。

「アマーリエさん、アイテムトート・バッグ持ってるの?」

「庶民向けの値段を抑えたのが領都で売り出されてるんだよ。ここのベルク魔道具店でも売りに出されるかもしれないから、余裕があったら買ってみたら?」

「わかった!お父さんに頼んでみる。薬の配達とかで使えそうだし。えっと、こちらがジュブワ生活道具店のジュブワ親方よ」

「初めまして。パン屋のアマーリエ・モルシェンです。よろしくお願いします」

 アマーリエは道具屋の親父に挨拶をする。

「モルシェンさん、よろしくな。ジュブワだ。なんでも、折りたたみの机と椅子がいるんだって?」

「はい。庭に置いて、待っててもらうようにしようかと」

「そりゃいい考えだ!いくつ要るね?」

「終わった後に片付けることを考えると、あんまりあっても困るような?」

「何なら、このアイテムボックスごと買うかね?そうしたら好きなだけ出し入れできるぞ?」

 そう言ってジュブワはアマーリエにウィンクする。

「あはは、ジュブワさんたら商売上手!」

「なに、ツケもきくぞ。椅子は十脚持ってきた。机は大きいのが一台に小さいのが二台の二種類だ。合計で十四万シリングだな」

 そう言って、ジュブワはアイテムボックスから椅子一脚と小さい方の机を一台取り出してアマーリエに見せる。そこにシルヴァンがトート・バッグを持ってやってきた。

「あ、ありがと、シルヴァン。ブリギッテこれ使って」

「ありがとう~。シルヴァンもありがとうね。じゃあ、私はあの草の山片付けてくるよ」

「私も手伝うわ」

 ブリギッテとアリッサは草の山を片付けに行く。アマーリエは出してもらった椅子と机を検分する。

「すごくしっかりした作りですね。それにすごく丁寧に作ってある」

「ここの道具は作りがしっかりしてるから頑丈だぞ。うちでも旅に使ってる」

「だろ?ダフネさん!久しぶりだな。今年もダンジョンに潜るのか?」

「久しぶりだな道具屋の。婆さんは元気か?」

「ああ、矍鑠としてる」

 悩んでいるアマーリエをよそに二人は村やダンジョンの噂話を始める。

「ぬ~んいくつ買おうか。どこにしまおう?アイテムボックスかなぁ?」

 アマーリエのつぶやきに反応してジュブワが声をかける。

「このアイテムボックスは十二万シリングだ。それほど大きな拡張がかかってないから、広げるなら魔道具屋に頼むといい」

「合計で二十六万か。うーん、アイテムボックスはやめて、棚の下に拡張魔法をヨハンソンさんにつけてもらおうかな。場所空いてるし。それなら、机と椅子の分、耳を揃えて払えるし……。決めた!椅子と机買います!」

「いいぞ!どこに運ぶ?」

「どうしよ。庭に置くつもりなんですけど、今日から白の日まで天気の具合どうですかねぇ」

「外に出しっぱなしか?白の日まで天気は崩れないだろうな。うちの婆さんは自分の骨の具合で天気を当てるんだが、この所調子がいいって言ってたから、しばらく雨はないだろ」

「お父さんもしばらく晴れが続くって言ってたわよ」

 ジュブワの言葉の後にブリギッテも続けて晴れの予想を言う。

「しばらく晴れてるぞ。毛並みで分かるんだ」

 ダフネが最後に二人の言葉を肯定する。

「なら、盗る人もいないと思いますし、出しっぱなしにしちゃいます」

「わかった。なら庭に並べちまうか?」

「ああ、その前にお金払っちゃいます。はい金貨十四枚。確認してください」

「毎度!んじゃぁ、並べちまうか」

「お願いします」

「私達も手伝うよ」

「ありがとう、人が通れる隙間を開けて配置してくれるかな?ダフネさんはベンチを家の壁際においてください。私、お茶とお菓子持ってくるよ」

「やった!任せといて!」

 アマーリエは厨房に行き、小さな紙袋に二種類のラスクを分けて入れる。

「ジュブワさん用はこれぐらいでいいかな。ダフネさんは食べてくだろうな」

 あれこれ用意しながら大きな木のお盆にすべて載せて、庭に戻るアマーリエ。

「リエ!出来たぞ」

 ダフネが満面の笑みで呼びかける。

「おお!いい感じですね!皆さんありがとうございます」

 アマーリエは大きな折りたたみの机の上にお盆を置く。

「わしも、お相伴に預かりたいが、あんまり油売ってると女房にどやされるからな。コレで失礼するよ」

「ジュブワさん!ありがとうございます。コレ、ご家族で食べてください」

「ほほ!ありがとう。二つもあるのかね?」

「甘いのとしょっぱいのです。店でもたまに出す予定ですのでお味見代わりにどうぞ」

「ありがとう!明日は多分女房がパンを買いに行くはずだ。じゃ、また」

「はい、奥様によろしくお伝えください」

 ジュブワはアマーリエ達に生け垣越しに手を振ると荷車を押して帰って行った。

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