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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第8章 パン屋モルシェン、開店するよ
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 カレーを作った次の日は、一日家でおとなしくパンを焼き、サンドイッチの具材を用意していたアマーリエだった。シルヴァンの方は遊びに来たダフネに連れられて、訓練を受けたようである。

 翌々日。朝から爽やかな空気が流れるアルバン村。そんな村のパン屋の厨房で一人と一匹が窓から差し込み始めた朝日で灰になりそうになっていた。昨日の夜からアマーリエがパン焼き作業するのをシルヴァンも手伝っていたのだ。

「……シルヴァン、昨日の夜のことは内緒ね。だれにもいっちゃ駄目よ?」

「クゥ」

 目の下に隈を飼っているアマーリエの真顔にちょっとびびったシルヴァンだった。

「さ、このパンを地下のアイテムボックスまで運んだら、ちょっと寝ようか?朝市までまだ時間あるだろうし」

「……オン」

 アイテムリュックにパンを詰めて、シルヴァンに渡すとシルヴァンはリュックを咥えて地下へと向かう。アマーリエも残りのパンをアイテムトート・バッグに詰め、生活魔法で明かりを灯し、地下へと降りる。

 アマーリエはアイテムボックスにパンを詰め込んだ後、サンドイッチの具材にする材料をリュックとトートバッグに詰めて厨房に戻る。一人と一匹は厨房にリュックとバッグを置くと、二階へ上がりそれぞれ浄化魔法をかける。アマーリエは最後の力を振り絞って靴を脱ぎ、ベッドに倒れ込み、シルヴァンと一緒に死んだように眠ったのだった。


 鐘一つ(午前六時)の音が村に鳴り響く。ピクピクとシルヴァンの耳が動く。

「……起きようか?それとも寝てる?」

「……クァァウ」

 ベッドの上にムクリと起き上がったアマーリエはシルヴァンに声をかける。声をかけられたシルヴァンも大あくびをしながら身体を起こした。

「着替えるからシルヴァンは居間で待ってて」

「オン」

 身軽にベッドから飛び降りるとシルヴァンは居間に移動する。アマーリエもさっさと着替えて居間に行く。

「さて。何食べる?お肉食べたい?」

「ウ~?」

 睡眠不足のせいか目をしょぼしょぼさせながら首を傾げるシルヴァン。

「お肉は気分じゃないか。簡単リゾットにしようか?まだクラムチャウダーが余ってたから。どう?」

「オン!」

 アマーリエは居間のアイテムボックスから塩むすびとクラムチャウダーの鍋を取り出し下に降りる。厨房でクラムチャウダーと塩むすびを使って簡易リゾットを作り、木鉢によそって居間に持っていった。

「手抜きでごめんよ~。シルヴァン専用のお皿も用意しないとダメだね。それで、椅子に座ってテーブルで食べる?それとも椅子に鉢を置いて食べる?それとも直置き?食べやすいやり方でいいよ」

 一昨日、シルヴァンが自分と同じ転生者であることを知ったアマーリエはシルヴァンをどう扱うか、シルヴァンに確認しながら決めることにしたのだ。

「……オン」

 シルヴァンからイスの画像が念話されてくる。

「オッケー、ベンチのほうが高さ的にはいい?」

「オン!」

「んじゃ置くね」

 アマーリエはリゾットの入った木鉢をベンチに一つ、テーブルに一つ置いた。

「いただきます」

「オン」

 一人と一匹は無言でリゾットを食べ終えると戸締りの確認をして朝市に向かったのだった。


 広場に着いたアマーリエとシルヴァンは店先を覗き込んで、自宅用に野菜や家畜肉、卵などを買い込んでいく。

「アマーリエさん!おはよう」

「あ、おはよう!ブリギッテさん」

 ほんわかしたブリギッテが買い物かご片手にアマーリエに声をかける。その後ろにはアマーリエやブリギッテと同じ年頃の少し垂れた目が愛らしい少女と三人より少し年嵩のキリッとした顔立ちの女性と華やかな印象の女性が立っていた。

「皆紹介するわね、こちらが新しいパン屋さんのアマーリエ・モルシェンさん」

「皆さん、おはようございます。パン屋のアマーリエ・モルシェンです。よろしくお願いします。これうちの看板魔狼のシルヴァンです」

 アマーリエが挨拶してシルヴァンと一緒にお辞儀すると、まっさきに声をかけたのはブリギッテの隣りにいた少しタレ目の少女だった。

「おはよう、アマーリエさん!私はブリギッテの幼馴染のアリッサ・ラングフォードよ。家は槍専門の鍛冶屋をやってるわ。シルヴァンもよろしくね」

「オン!」

 その次に声をかけたのは、華やかな印象の女性だった。

「おはようございます、モルシェンさん、シルヴァン。アナスタシア・オレニコフと言います」

「アマーリエと呼んでください」

「では、わたしのことはナターシャと。夫は建具職人なのよ。家の建具のことで問題があったら遠慮なく相談してくださいね」

「助かります。よろしくお願いしますね」

 残りのキリッとした顔立ちの女性がにやりと笑う。

「初めまして。ヨハンソンの妻のソニア・ヨハンソンよ。あなたのことはハリーから色々聞いてるわよ」

「え!?ヨハンソンさんの奥さん!?美人じゃん!色々って!?」

 慌てふためくアマーリエに、他の三人も興味津々でソニアの顔を見つめる。

「うふふ。詳しいことはまた後でね。ハリーが店に出てる間、私も働こうと思って。アマーリエさん、あなたのところで働く話だけど、基本的なところは商業ギルドの掲示板を見たから大丈夫よ。詳細はどうするの?」

 ソニアは軽くウィンクすると仕事のことを聞いてくる。

「この後の皆さんの時間は?」

 アマーリエの質問にブリギッテが代表して答える。

「今日、四人が揃うのは鐘五つ(午後二時)から鐘六つ(午後四時)の間なの」

「じゃあ、鐘五つに店に来ていただいても構いませんか?」

 四人は快く返事をする。

「あ、そうだアマーリエさん。村にレイスが出るみたいなんだけど知ってる?」

「初耳ですけど。それ危ないんじゃ?」

「そうでもないのよね。夜に幼い女の子の白い影がふわっと現れて消えるって話だけなのよ」

「へ〜」

「実害がないうちはそのままかもね」

「え、原因調べないんですか?」

「調べるとなったらお金が必要になるでしょ。だから実害が出るまでは何もしないの。それにまだ見たっていうのは二人だし。酔っ払いだったからね」

「なるほどー。信憑性の問題もあるのか」

「そういうこと」

「ただ夜歩きは控えたほうが良いんじゃないかって話になってるの」

「わかりました。うちも夜歩きはしないようにします」

「オン!」

「じゃあ、また午後にね」

 噂話を終え、ブリギッテ達と別れて、うちに戻ったアマーリエとシルヴァンだった。

「シルヴァン、お昼何食べようか?ブリギッテさん達が午後来るから、お菓子も用意しないとだしねぇ」

 シルヴァンから生姜焼きの画像が返ってくる。

「あんたさ、玉ねぎ大丈夫なの?一応元狼でしょ?カレーも食べてて大丈夫みたいだったけど」

 言われたシルヴァンも言われて首を傾げる。

「特になんにも感じなかったのね?貧血っぽいとかさ」

「オン」

「個体差があるからなんともだけど……どうなんだろ?」

 首をかしげるアマーリエに問題なしと日本語で文字画像がシルヴァンから届く。

「さよか。なら気にしないことにするよ」

「オン」

「あ、ちなみに味噌と醤油はまだないからね。米も見つかったばっかりでみりんも清酒もない。ナイナイ尽くしだから和食っぽいものはあるものでお試しになるよ?」

 アマーリエの言葉にシルヴァンはショックを受けた。アマーリエのことだから作ってるだろうと思っていたシルヴァンだった。

「シルヴァン、ニラと生姜と大蒜はあるから、豚つながりでニラ豚丼にしない?」

 固まっているシルヴァンを揺さぶって、再起動をはかるアマーリエ。

「オン!」

「じゃ、お昼は味噌汁抜きのニラ豚丼で」

 想像したのか早くもシルヴァンの口の端から涎が垂れ始める。

「シルヴァン、よだれよだれ」

 慌てて口の周りをべろりと舐めるシルヴァンだった。

「さて、お昼の前に明日のサンドイッチを作るよ。ライ麦パンと日本風ホワイトローフ(食パン)を使ったタマゴサンドとハムサンドを出すから、まずはゆで卵ね。っとその前に店の冷蔵ケースを冷やし始めとかなきゃ」

 慌てて厨房から店に出て、冷蔵ケースの魔法陣を起動させるアマーリエだった。

「卵茹でてる間にキュウリをスライスしてと」

 鍋に水を出し、塩と卵を入れ火ににかけると、アマーリエはキュウリをリュックから大量に取り出す。

「ダニーロさんが南の魔女さまから風魔法を使ったパンのスライスを教えてもらってたけど、私もできるかな?」

「オン!オン!」

「え、何?シルヴァンやってみるの?」

 目をキラキラさせて任せろというように頷くシルヴァンにわかったと頷くアマーリエ。

「んじゃまず1本。ここに置くよ」

 そう言って作業台の上にキュウリを置く。シルヴァンは作業台に顎を乗せ、風魔法で一瞬のうちにきれいな斜め輪切りのキュウリのスライスを作り上げた。

「凄い!シルヴァン凄いよ!流石風属性持ち!」

 褒めるアマーリエにドヤッと胸を張るシルヴァンだった。

「ハムのスライス頼んでいい?キュウリは私が切るから」

「オン!」

 アマーリエはハムひとかたまりを台に置くとシルヴァンに任せる。アマーリエは風魔法でやるのは危険と判断し、包丁を使ってキュウリを切り始める。スライスしたキュウリはボールに入れ、軽く塩もみして水分を出す。でた水分は魔法で消してしまい、ボールごと冷蔵魔法をかける。

「オン?」

「あ、この冷蔵魔法?」

「オン!」

「空気を冷やすイメージだね。なんとなく肌感覚で10度ぐらいにしてるよ。お、ハム切れたんだね、ありがとう。こっちはバットに入れて冷蔵っと。お、ゆで玉子できたかな」

 アマーリエは鍋の湯を消し、冷水を鍋に出し卵の殻を向きやすくするためにゆで卵を冷ます。

「卵の殻むきは流石にシルヴァンには無理か……。パンを持ってくるから、スライス頼んでいい?」

「オンオン!」

 アマーリエは地下のアイテムボックスからサンドイッチ用のパンを持ってきて、シルヴァンにカットを頼む。その間にアマーリエは卵の殻をせっせとむいて大きなボールに入れていく。

 シルヴァンは風魔法駆使して、ライ麦パンと日本風ホワイトローフ(食パン)をスライスすると、ひとかたまりずつにまとめ作業台に積んでいく。

「シルヴァンも風魔法上手に使いこなしてるよね」

「オン!」

「さて、卵のペースト作って」

 アマーリエは、卵を風魔法を使ってみじん切りにし、塩胡椒、マヨネーズ、ドライパセリを投入して卵のペーストを作っていく。

「シルヴァン、このチーズもスライスお願い。ハムサンドの中に入れるから」

「オンオン!」

「後はレタスちぎって」

 アマーリエはレタスを冷水仕様の浄化魔法でさっと洗い、ボールにレタスをちぎって入れていく。

「よし!具は出来た。後はパンに挟んで、成形して、紙に包む作業っと。まずバターをクリーム状に撹拌するかな」

 常温状態のバターをアマーリエはクリーム状に撹拌していく。出来上がったものを日本風ホワイトローフ(食パン)に薄くさっさと塗って作業台に並べる。ある程度並んだら、卵ペーストを塗りキュウリを並べていく。再度、日本風ホワイトローフ(食パン)にクリーム状のバターを塗って蓋をしていく。アマーリエはそれを積み重ねて軽く押し、シルヴァンにパンの耳を切り落として長方形に半分に切るようにお願いする。

 ライ麦パンの方にはマヨネーズと粒マスタードを混ぜたものを塗り作業台に並べていく。その上にハム、チーズ、レタスの順に重ね、ライ麦パンを乗せて積み上げ、シルヴァンに半分にカットをお願いする。

「オン?」

 風魔法で持ち上げたパンの耳をアマーリエに見せるシルヴァン。

「あ、ごめんごめん。このボールにパンの耳を集めてくれる?これぐらいの長さに切っといていてくれたらさらに嬉しい」

「オンオン」

 一人と一匹はせっせとサンドイッチ作りに励み、鐘四つ(正午)前には紙に包まれたサンドイッチの山が出来上がっていた。

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