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「え?もうないんですか?」

 カレーを食べ終えたアルギスが、兄の分のカレーを分けてもらおうとダニーロに声をかけた。言葉もないパトリックが、ダニーロの横で空の寸胴鍋をアルギスに見せた。

「皆様、いつも以上にお召し上がりになったようですね」

 食堂の椅子の背にもたれた被験者たちが、幸せそうにお腹を擦りながらくつろぐのをダニーロがにこやかに見る。

「……」

 アルギスはパトリックが持つ空の鍋を愕然と見つめている。アマーリエはその横で首を横に振る。

「これが全部、腹の中に収まったと。カレー粉の調合をまたやんないと。あれ結局何人前だったんだろ?」

 寸胴鍋で大量に作ったアマーリエは、量が把握できてなかった。その上ルーとご飯を別々に出したため誰がどれだけ食べたかも明確にわからなかったのだ。

「何人前だったんでしょうねぇ?コメも三度ほど炊きましたし」

 ダニーロも首を傾げる。

「うへ~」

「コメの採集依頼出さないと在庫が危ない」

 パトリックが真面目な顔をして食料庫の方に視線を向ける。

「え、そんなに?」

「そもそも、まだコメは沢山仕入れていませんでしたからな」

「アルギスさん!しっかり採集してきてくださいね。あんちゃんのためにも!」

 ショックで固まっていたアルギスを軽く叩いて再起動させるアマーリエ。

「はっ。もちろん!こうなったら兄上に私の作ったカレーを食べていただくんだ!リエ、カレーの作り方も教えてくれ」

「他の香辛料は自前で用意してくださいね」

 なにげに香辛料の類はお金がかかるのだ。香辛料が村の中で手にはいらなければ商業ギルドを通して注文を出すしかないので、アマーリエ一人でカレー粉を生産しようとは考えたくなかった。アルギスは兄という最強の伝手があるだろうから、その伝手を使ってもらうことにしたのだ。

「わかった」

 力強くアルギスが頷く。

 その後はカレーをどうするかという話を皆で始めた。

「ウコンがなければ出来ぬのじゃろ?」

 ゲオルグが首を傾げながらアマーリエに聞く。

「入れないカレーもありますけど、好みですね」

「入れないとどうなる?」

「黄色っぽさがなくなります。唐辛子の赤が前に出て赤っぽいカレーになりますね」

「そうなのか!?」

 色に拘っていたヴァレーリオがアマーリエの言葉に反応する。

「はい。あくまで色つけなので。もちろん薬効はちゃんとありますけど」

「ふむ」

「基本の調合レシピを私が無料登録して、調合は好みにしますか?販売するカレー粉は売る人それぞれということで」

 いろいろ考えているらしいゲオルグに、アマーリエが提案する。

「そう致しますか?」

 商業ギルドのギルド長がゲオルグに確認する。

「そうじゃの。辛さも人それぞれ好みがあるようじゃしのぅ」

 顎髭をしごきながらゲオルグが頷く。

「いずれは、虫ダンジョン用の食事アイテムなんかを開発できればいいですねぇ」

「あれば、あそこのダンジョンの進度も捗るだろうな」

 メラニーの言葉にベルンが同意する。

「あそこのギルドに貸しが作れます。ククククッ」

 商業ギルドの長とベーレントは皮算用をはじめている。

「カレー粉を使って他の料理も作れますよね?」

「ええ、米以外にかけるという安易な方法から肉の下味つけなど色々ありますよ」

「パトリック!これは色々始めなければ!」

「料理長、まずは自分たちのカレー粉づくりですよ」

 料理人二人は料理の話で盛り上がる。

 そんなこんなで、アッカーマンの薬草園で鬱金が栽培できるようになるまでは、ダンジョンで取れる鬱金は村の中だけで消費することに決まったのだった。その間に、染色の方や流通させるカレー粉などの道筋をたてようという話になった。

「さて、今日はこれで解散じゃの。色々詳細はまた順次決めていくことにするからの。リエとシルヴァンはこの後わしの部屋に来るように」

「は~い」

「オン」

 アマーリエは昨日、頼まれたソース類の注文をメラニーに頼む。届いたソースで騒動がおきるのだが、それはまだアマーリエに知る由はなかった。一人と一匹はゲオルグの部屋へと移動した。


 ゲオルグの泊まる部屋にアマーリエとシルヴァン、そしてゲオルグとヴァレーリオが入った。カクさんとスケさんは部屋の前で待機である。アルギスはヴァレーリオに言われて南の魔女と先に神殿に戻った。

「大隠居様、お茶いれますね」

「うむ」

 シルヴァンはヴァレーリオにつかまってモフられている。アマーリエは部屋に備え付けのお茶道具を使ってお茶を淹れる。

「この間はそれどころじゃなかったんですけど、湯沸かしポットってあったんですねぇ。初めてみました」

 やんごとなきお方にお茶を淹れる際に使ったアマーリエだったが、緊張していたせいか意識がポットにまで向いていなかったのだ。

「ああ、それな。かつて高級宿屋を始めた知恵者がおってな、その流れをくむ宿屋だけにあるんじゃ」

「はい?知恵者?」

 シルヴァンも不思議そうにゲオルグの方に顔を向ける。

「おうよ、嬢ちゃん。この世の中にはな、知恵者と言われる様々な分野に卓越した知能を持つ者が、たまーに生まれるんだ。そしてその知恵を世の中に残していく」

 ヴァレーリオの言葉に、アマーリエが目にしたことがある異常発達した物を口に出す。

「もしかして、領都にある鍛治の高炉って?」

「あれは100年ほど前に生まれた鍛冶の知恵者によって作られたもんじゃ。この村にもあるぞ?今うちの領内に居るのは農業の知恵者じゃの」

「そうなんですか」

(どおりでチグハグな発展の仕方をしてるなって思ったんだよ。私以外にも転生者が居るってことだよね?)

 内心で冷や汗をかきながらアマーリエは入れたお茶をゲオルグとヴァレーリオに出す。

「あの高炉がおかしいと思ったのなら、そなたやっぱり知恵者じゃの」

 じろりと睨むゲオルグに半笑いを浮かべるアマーリエだった。

「そなたのことじゃ。自分の異常性を口にして周りから腫れ物扱いされるのを厭うたんじゃろ」

 完全に読まれてるせいで、頷くしかなかったアマーリエだった。

「心配すんな、嬢ちゃん。生まれた場所が良かったな。こいつの領内で生まれたなら確実に守ってもらえる。詳しいことを話す必要もないぞ」

「はぁ、色々便宜を図っていただいてますので、その辺りは重々承知しております」

「人も道具も使いようなんだがな。ここの領主一族と王は人使いが上手い。他はそこそこ、もしくは使い潰すやつが多い。いい人材も、いい道具、良いスキルも結局は使うやつ次第だ。それがわかってないやつが多すぎる」

 顔をしかめてぶつくさ言い始めるヴァレーリオにゲオルグも苦い顔をして言い募る。

「当たり前じゃ。使い方というのも習うて、経験して身につけていくもんじゃ。下手なやつから習えばそれまでじゃよ。才能だけでどうにかなるほど世の中甘くはないからの」

「そうですよね」

 しみじみ言うアマーリエに、ヴァレーリオが深く頷いた。

「それでそもそも嬢ちゃんの得意分野ってのはなんなんだ?」

「お菓子作りとパン作りですけど、それに付随して関連する様々な分野の知識を。広~く、浅~くです」

「なるほどの。それで合点がいった」

「?」

「そなたがもたらす物はすべて食い気関連だからじゃよ」

「な!?食い気ばっかりじゃないですよ!」

「ほぼ、食い気じゃろうが。まるっきり食い気の絡まん物なんぞ、椅子関連だけじゃろうが」

「うぐぐぐ」

「もうちっと食い気の絡まん話を持ってきたら食い気ばかりと言わんでやろうかの」

「食い気で結構ですよ!」

「おい、ジョル。からかうのはその辺にしてやれ。知恵者だとわかったんならいいだろ。次だ次!」

「そうじゃの。この所アマーリエに振り回されっぱなしじゃから仕返しをな」

「大人げないぞ」

「ふん!年を取れば子供じみてくる部分もあるんじゃ!」

 止まりそうもない爺同士の口喧嘩にアマーリエが面倒になって止めに入る。

「あの、それで次の話ってなんですか?」

「「シルヴァンじゃ」だ」

 アマーリエとシルヴァンは共に首を傾げる。

「シルヴァンのスキル解析を見ておらんだろうが」

「あ、そうでした。これ、どうしたら?」

 リュックからシルヴァンの分の解析紙を取り出すアマーリエ。

「わしに貸してみろ」

「はい」

「シルヴァン、わしがみるぞ?」

「キュゥ」

 ヴァレーリオに強く言われ、耳をヘタレ困った顔をしながら頷くシルヴァン。ヴァレーリオは解析紙に魔力を通す。

「……【銀狼:風魔法を操ることに長けた魔狼。回復魔法持ちの特殊進化系。異界の知識を持ち、人懐こい】だと!?」

「え?」

「はぁ!?」

 驚いた三人から見つめられ、そっと顔をそらすシルヴァンだった。

「異界の知識とはなんじゃ?」

「知るか!」

 騒ぎ出した爺二人を無視してアマーリエは念話でシルヴァンに話しかける。

『シルヴァン、カレー知ってた?』

 こっくり頷くシルヴァン。

『唐揚げも知ってるよね?』

 ウンウンと頷くシルヴァン。アマーリエは思いつくままシルヴァンに質問し、シルヴァンが彼女と同じ世界、同時代の転生者であることを確信した。一人と一匹は堅~く抱き合った。

「「何して居るんじゃ?」だ?」

「色々通じ合うところがありまして……」

「オン!」

「それでシルヴァンはちゃんと言うことも聞くんじゃの?」

「人と変わらないと思ってください。嫌なことをされたら嫌がります」

「あい解った」

「村の衆が慣れるまでは、シルヴァンは必ず誰かに付いておるか、そばに誰もおれぬ時はパン屋で待機だぞ」

「オン!」

「くれぐれも一匹で行動せんようにの」

「オン!」

「ちゃんとわかって居るようじゃの。それでは二人共帰ってよし」

「はい」

「よし、嬢ちゃん。途中まで一緒にもどろうか」

「はい」

「なんじゃ、帰るのか?」

 一杯やる所作をしてゲオルグがヴァレーリオに尋ねる。

「アル坊が来たばっかりだからな。ここの神殿でやらねばならんことを教えにゃならん」

「そうか。積もる話もあったんじゃが」

「どうせまだ、この村にいるんだろ?」

「ああ、やることがいっぱいじゃからのぅ」

 ゲオルグはそういってちらりとアマーリエを見る。

「よろしくお願いしますね~、大隠居様」

 ニコリと愛想笑いをするアマーリエに、ゲオルグはしかめっ面をしてみせる。

「では、行くか?ジョル、良い夢を」

「ああ、そなたもな」

「大隠居様、おやすみなさい」

「オンオン!」

「開店準備もしっかりの」

「は~い」

 挨拶を交わしあった二人と一匹は、月明かりの中宿を出て、それぞれの場所へと帰って行った。

お知らせです。ダンジョン村のパン屋さん〜道行き編が書籍化決定しました。詳細は来週になります。

全ては読んで下さる皆様のおかげです。今後も楽しんで頂けるものを書いていこうと思います。

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