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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第6章 仕事は人に任せよう
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 シルヴァンの問題が一段落すると、アーロンがゲオルグに声をかけた。

「よぉ、大将久しぶりだのぅ」

「アーロン!もう来ておったか!そなた、こんな鄙びた場所で隠居しようとか酔狂じゃの」

「いやぁ、なかなか面白いもんだぞ」

 そう言ってアーロンはちらりとアマーリエを見る。それを見てゲオルグがため息を付きながら言う。

「そりゃ、この騒動の種がそばに居れば、暇なんぞしとる場合じゃないがの」

 ゲオルグに指さされたアマーリエは、今から巻き込むことを考えてごまかし笑いを浮かべる。

「ウム、そうだのぉ。昨日は宿屋の食堂で、それその隠形がつく食べ物だ。今日はわしの店でやらかしおったぞ。他に温泉だったかの?それも気になるんで、一枚噛ませてもらうぞ。息子を呼んで構わんかの?」

 にこやかに告げるアーロンにゲオルグが顔を片手で覆い、もう片手を了承の意味でアーロンに振る。

「ほほっ、大将も楽隠居ならずといったところだのぉ」

「言ってくれるな」

 爺様二人の会話をよそに、東の魔女がアマーリエに声をかける。

「まぁ、アマーリエ。アーロンさんの所で何を見つけたの?」

「東の魔女様、香辛料や薬、染料に使える植物の根です。正しくは根茎?」

「あらあら、それは凄いわね。染料が気になるわねぇ。護符を作る時に使えそうかしら?」

「気になります?東の魔女様も混ざりましょうよ。関係者は多いほうが面白いですから」

「ちょっ、関係者って俺達もか?」

 ダリウスが焦ったように声を上げる。

「ファルさんは必須ですね。神官だし、薬師でもありますし。銀の鷹の皆さんは冒険者ということで、この植物の収集をお願いすると思います、多分。もし染料が護符にも使えそうならマリエッタさんも食いつきそうですし」

「ぐはっ」

 膝から崩れ落ちたダリウスを慰めにシルヴァンが近寄っていく。

「まあ、面白そうよねぇ」

 マリエッタは魔法馬鹿らしく、アマーリエに乗ってもいいと考えている。

「そんなわけで、ヴァレーリオ神殿長、すみませんが皆で話し合える場所がほしいんです。あとアッカーマンさんとこの薬草園の責任者の方もお呼びしたのでその方の分の席も欲しいです」

「遅くなってすみません!」

 ブリギッテが中年男性の手を引いて神殿の中に駆け込んでくる。

「あ、来た来た。ブリギッテさん!大丈夫ですよ、ちょうど今揃ったところですから」

「ふむ、この人数なら食堂が良かろうな」

 そう言うとヴァレーリオは、皆を神殿の食堂へと誘った。

 ちなみに、温泉計画のためにこの場へ足を運ばなかった、商業ギルドのギルド長とベーレントは、あとでメラニーから報告を受けて歯噛みしたとかしなかったとか。


「うわ~広い食堂ですね。ここ田舎なのに神官さん、沢山居らっしゃるんですね」

 食堂に入ったアマーリエは中を見渡して感嘆の声をあげる。百人以上は余裕で入りそうである。

「いや、今はわしとアルギスだけだ。おまけで南の魔女殿が泊まるがな」

「んっまぁ!おまけですってぇ!?」

「「は?」」

 アマーリエの感想にヴァレーリオが答え、そのあり得ない答えにアマーリエとアルギスが目を剥く。ヴァレーリオは騒ぐ南の魔女を無視している。

「こんな広いところに神官二人って!?」

「今朝までいらっしゃった方は!?」

「ありゃ留守番を頼んだんだ、もとの任官地に戻ったわ。神官の数が少ないのは、帝国中央神殿の神殿長の嫌がらせだの。まあ、最も常時でも十人ほどしか常駐しとらんぞ、この神殿は。広いのは魔物の暴走(スタンピード)なんかの有事の際のためだわ。広いこの神殿を掃除すると浄化魔法が上手くなるぞ~、アル坊」

 どうやら、ヴァレーリオは一人でせっせとこの広い神殿内の掃除をしていたようだ。

 他に居た神官たちはそれぞれ別の場所へと移動命令が出て、それに仕方なく従ったのだ。最も帝国の神殿長が失脚したらすぐ戻ってこられるよう根回しは済んでいる。

 神殿の総本山は帝国の中央神殿ではあるのだが、基本的には各国の中央神殿がそれぞれの神殿を統括しているのだ。

 そして、本来帝国皇帝が祭祀の長であり、神官の長であるのだが、何代か前の皇帝のヘマによってその権限が帝国の中央神殿の神殿長に移ってしまっているのだ。

「え゛っ、いくら神殿が独立機関と言えども、それ外交的にまずいんじゃ?魔物の暴走(スタンピード)とか二年後にあるんですよね!?回復する人が居ないと大変なんじゃ?」

 思わず突っ込むアマーリエ。

「おう、まずいぞ。頭越しに移動命令を出されて王国の神殿がブチ切れそうだが、王様が抑えてるところだ。わしも一応、王国の中央神殿長には静観しておくようにと返事をしておるがな。帝国の神殿長はまずさに気が付かん残念なオツムの出来なんだ。そのくせ、狭い範囲の政治力には力を発揮するから質が悪い」

 さして差し迫った様相も見せずにやりと笑うヴァレーリオに、アマーリエはやんごとなきお方の差配に懸かってるのか腹落ちした。

「……あんちゃん大変そうですね」

「……早くコメの栽培方法確立して帰らないと」

 最愛の兄が関わると思考が鈍るアルギスは、顔が青ざめている。

「大丈夫だろ、ササッと証拠集めて物理的にアヤツのクビが飛ぶだけだ。お主の兄は有能だからの」

「心配なんです!」

「お主のほうが余程心配だろ、泣き虫小僧が。頼まれた仕事はちゃんとやれんのか?」

「うぐっ、やり抜きますとも!」

「はいはい、アルギスさん。今からする話は帝国にも利益ありますから。参加してくださいね~」

「わかった」

 深呼吸してアルギスは意識の切り替えを図った。

「さて、お集まりいただき感謝します。まずは、こちらに集合して下さい。現物をお見せ致します」

 そう言って、アマーリエはテーブルの一つに皆を呼び集める。アイテムリュックから手に入れた鬱金の根茎をテーブルに置く。

「これが、鬱金と言いまして香辛料、薬剤、染料に使えます。今回は買っていませんが、もう一つ似た種類で姜黄と言うのもありまして、そちらも薬効があります。そちらからは精油成分がとれます。えーっとダンジョンの四階層の手前の部屋から出るそうです」

 アマーリエの言葉にアーロンがウンウンと頷く。

「ふむ。それでお主がここに皆を集めた理由は?」

 ヴァレーリオがアマーリエに聞く。

「それぞれにお願いしたいことがありまして」

「わしは調整役じゃの?」

 ゲオルグが頭痛を堪えるように眉間を揉む。後ろに控えるカクさんとスケさんも深い溜め息を吐いている。

「エヘッ、お願いします。私が仕切るより大隠居様が仕切るほうが話しが早いんで、ね?」

「やること増やしすぎじゃ!」

「適当に人を見繕って役割分担お願いしまっす!」

「かっー。早々人は育たんのじゃぞ!」

「習うより慣れろです」

「職人の台詞じゃの!」

「は~い、生粋のパン職人ですから」

 軽い調子で頼むアマーリエに、ゲオルグのこめかみに青筋がたつ。魔物の退治などで武官は多くいるが、安定してきた現在、アマーリエのせいもあって辺境伯領には文官が不足しているのだ。

「リ~エ~」

「まあ、ゲオルグ殿そうカッカなさらずに。私もお手伝いいたしますわ」

「東の、すまん」

「それで、ダンジョンから出た鬱金ですが、これの流通管理はここの商業ギルドにお願いしたいです。メラニーさん?」

「はい!任せてください。買い取りと流通先の管理は任せて下さい。他に何かありますか?」

「村の染色職人さんに、ダンジョンから出た鬱金で染を試してもらって下さい。何か支援効果が付く可能性もありますから」

「わかりました」

「香辛料としての使い方は私が責任を持って確認しますので」

「承りました。出来たらその香辛料もうちで流通を取り扱いたいのですが」

「ダンジョンから出たものを使ったものに関して、支援効果が出た場合はお願いしたいと思います」

「任せて下さい」

「アッカーマンさん。初めまして、私パン屋のアマーリエ・モルシェンと言います。これからよろしくお願いします」

「はじめまして。ブリギッテの父親のチャールズです。それでうちは?」

「村での栽培をお願いしたいんです。ダンジョンから出る鬱金は料理に使うと支援効果が付く可能性があって、うちのパンにそれを使うのもどうなんだろうかと思いまして」

「パンに使うんですか?」

「パンそのものにではなく、中に詰める食材に使います。他にも食品の染料としても使えるのでそのあたりはぼちぼち」

 沢庵を漬ける気満々のアマーリエだった。

「なるほど。ウコン?でしたか。それの生育環境がわかると嬉しいのですが」

「それは私達銀の鷹が行います!」

 ファルがまっさきに手を上げて主張する。

「あ、ファルさん」

「銀の鷹の皆さんが?」

 チャールズが驚いたように声を上げる。

「コメの方もですが、ウコンの方も調べてきますね。あと、元になる植物も必要ですよね?採取してきますから。チャールズさんでしたか、なるべく早く調べてきますから」

 ファルの言葉にチャールズが力強く頷く。

「ま、そうなるよな。いいぞ。ただ、それを採集してきた冒険者も噛ませてやれ。冒険には金が必要だからな」

 ベルンが苦笑いしながらフォローを入れる。

「あ、ベルンさん、皆さんすみません、勝手に」

 銀の鷹のメンバーは気にするなというように笑ってファルを見る。

「わかりました。アーロンさん、鬱金を持ってきた冒険者の方紹介して下さい」

「おう、明日には戻ってくるじゃろ」

「この香辛料、ベルンさん好みの美味しいものになりますから!採集の方もついででいいのでよろしくお願いします」

「わかった!」

「美味しいものなのかのぅ?この生姜のような見た目のやつが?」

「大隠居様も好きかも」

 これまでのゲオルグの食の好みを考えてアマーリエが答える。

「しょうがないの、しっかりやるんじゃぞ」

 ゲオルグの後ろの二人は顔を背けて笑いをこらえている。

「は~い。アーロンさんは、各国や各国に住む染色職人さん、農家の方の伝手を使っていただいて商品の開発と生産の方をお願いしたいんです。流通量が増えないと安くならないですから」

「アッカーマンさんのところである程度栽培方法が確立してからにしたほうが良さそうだの。栽培レシピと栽培できた物を購入しようかの。それからだの」

 アーロンの話にブリギッテの父親の手に力が入る。

「それでわしは、薬効の方か?」

「はい。ヴァレーリオ神殿長を始め、この村の薬師の方には薬効の確認をお願いしたいです」

「ちなみにその薬効は?」

「えっと、肝の機能の向上ですが副作用もありまして、肝臓がすでに何がしかの病気にかかってますと無理やり肝臓を働かせることになって逆効果になるんですよ。休めなきゃいけないのに働かせることになっちゃって。摂取しすぎないのが一番なんですけど、これはどんな薬にも言えますから」

「まあ、そうだな。薬は毒になる。毒もまた薬になる。さじ加減だ。解った、調べよう」

「あとは二日酔い防止です。飲む前に摂取するとお酒の消化が良くなったはずです」

「それは素晴らしい!」

 完全やる気になったゲオルグであった。

「大隠居様!飲み過ぎはダメです!」

「わかったわかった」

「お願いしますよ~。それで使い方なんですが、普段からの薬としてですが、生姜と同じでおろしてお湯割りや水割りして飲みます。飲みにくい場合ははちみつを混ぜたりします。薄切りにしてお酒に付けたもの、乾燥させて粉末にしたりと、用法は色々です」

「ふむ、ならばそれぞれでの状態で効能がどうなるのかも調べんとな」

「はい、お願いします。香辛料の方ですが、粉末にして使います。他の香辛料と混ぜて使うことがほとんどですが、単品で食材に色を付けたりします。お米を黄色くしたりとかですね。それはこれから私が頑張ります。ただ、ダンジョンから出た鬱金がどんな支援効果を出すのかが心配で……」

「昨日もやっちゃったもんねぇ」

 南の魔女が面白そうに笑いながら突っ込む。

「はい。魔物のお肉調理して食べたら隠形付いちゃって、下手なことが出来ないってしみじみ思いましたんで」

 アマーリエは真面目な顔して、しばらく魔物の肉は料理できないなと考えた。

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