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広場に戻ったアマーリエ達は、今度は反対側の通りへ足を向ける。
「通称『ダンジョン用具通り』よぉ。芋っ娘、あんた魔物の肉買ったけど、そういや、さばく包丁持ってるの?」
南の魔女の言葉にアマーリエは首をかしげる。
「あぁ、やっぱり。魔物の肉は魔力を包丁に通して切るのよぉ。魔物の魔力が高ければ高いほど魔力が要るの。だからぁ、魔力を通しやすくて耐久性の高い包丁が要るのよぉ」
アルギスも南の魔女の隣で頷いている。
「ありゃ。じゃあ魔力も料理スキルも高くないとだめですか?」
「そうねぇ、魔力に関しては、鍛冶屋に頼んで少しの魔力で高い効果が得られる物を打ってもらえば良いんじゃなぁい?値段は高くなりそうだけど、スキルの方はどうかしらねぇ?」
「うーん、植物の方はさして問題なかったのになぁ?何が違うんだろ」
「魔力抵抗かしら?」
首をひねるアマーリエに南の魔女が考えながら可能性を答える。
「魔物の肉に残ってる魔力を魔石に移せませんかね?」
「……やったことないからどうかしらぁ?店に戻ったら試してみるぅ?」
「いろいろ試してみます。後、魔道具屋さんのあとでも先でも良いです。鍛冶屋さんも紹介してもらっていいですか?」
「いいわよぉ。しかし、あんた、ホント思いもよらない事考えつくわよねぇ。面白いわぁ」
「魔物の肉なんて、領都じゃあんまりお目にかかりませんでしたから。あっても高かったですし。もっぱら家畜の肉ばかりでしたよ」
「今は領都の方も討伐されるような魔物が出ないからかしらぁ?平和になったってことよねぇ。まあ、ここはダンジョンから出る魔物の肉が主流だからねぇ。討伐物は少ないのよ」
ウンウンと実感を込めながら南の魔女が話す。
「なるほど」
「リエ、リエ。お肉取ってこようか?」
ニコニコと下心満載でアルギスがアマーリエに話しかける。
「あらぁ、アルギスさん解体スキルあるのぉ?」
「一応。何があっても食いっぱぐれぬようにと前の神殿長様に鍛えられました」
「へぇ~、なにげにたくましく育てられたんですね」
「まあ、そうだね。あの方が居なきゃ、もっと精神的に弱かったかもしれない?」
首をひねるアルギスをおいて、アマーリエが南の魔女に話しかける。
「魔女様、勝手に魔物のお肉ってやり取りできるんですか?」
「基本的にダンジョンで取ってきたものはぁ、ダンジョンで取ってきた人に所有権があるのぉ。それをどうするかは所有者次第ねぇ。まあ、揉め事にならないようにギルドに依頼を通す方がいいでしょうねぇ」
「はーい、そうします」
「ではリエ、あとで色々決めようか」
「良いですよ~」
「ゥオンゥオン」
シルヴァンも期待を込めた眼差しでアマーリエに訴えかける。
「何?シルヴァンもお肉取ってくるの?」
「オン!」
「んじゃ、料理出来るように道具揃えないとなぁ」
「んまぁ、いい子ねぇ。自分で自分の分を稼いでくるのねぇ」
「やっぱり、シルヴァンうちの子にならない?」
「キューン」
「だめかぁ。南の魔女様、テイムは……」
「アルギスさん、テイムするのは落ち着いてからにしましょうねぇ?早くお兄様のところに帰りたいでしょぉ?」
「うっ、はい。そのとおりです!」
ドスの利いた南の魔女の言葉に慌てて頷くアルギスを見て、アマーリエが笑い出す。
「あははは。神殿の鶏の世話でいいじゃないですか」
「ムッ。シルヴァン、ダンジョン一緒にいこうな」
「オン」
「ふふふ。これなら問題ないだろ?」
「ソウデスネー」
「はいはい、二人共、子供みたいな喧嘩しないのぉ。芋っ娘、ここが私お薦めの鍛冶屋よぉ。ここなら日用の品も引き受けてくれるわぁ」
「ありがとうございます。包丁見ていいですか?」
「ええ、良いわよぉ。私は装備を点検してもらうから」
「あれ?魔女様は魔法職ですよね?」
疑問に思ったアマーリエが首を傾げる。
「私は魔法剣士でもあるのよぉ。ここの鍛冶屋は魔力を通しやすい剣を作るのが上手いのよぉ」
「へぇ~。アルギスさんは?」
「私は解体用のナイフの手入れをお願いしようと思います。これも魔力の通りが良いほうが大事ですから」
「なるほど」
店のドアを開けて、南の魔女がカウンターの奥に声をかける。
「お邪魔するわよぉ~。シュミット~居るぅ~?」
アマーリエとアルギスは慌てて、南の魔女の後を追う。
「あらあら、南の魔女様ようこそ。お久しぶりです。亭主は今、鍛冶場の方に居るんですよ」
店の奥から出てきたドワーフの婦人がにこやかに南の魔女に話しかける。
「久しぶり、アリーセ。なら、頼んどいていいかしらぁ?」
「ええ、どうぞ」
「剣の点検と手入れねぇ」
「はいはい」
「わぉ!そんなところに剣が収納できるんですか!?」
左手の魔石の付いた手甲から剣を取り出す南の魔女に、驚きの声をあげるアマーリエ。
「こっちはこれから行く魔道具屋の仕事よぉ」
南の魔女はニヤリと笑って、手甲をアマーリエに見せる。アリーセはニコニコしながら受取台帳を広げ、記入している。
「アルギスさんも、頼むんでしょぉ。アリーセ、こちらは今度神殿に赴任した神官さんよ」
「まぁ、はじめまして。ご贔屓に」
「女将、私も魔獣解体用のナイフの手入れをお願いしたい」
「ええ、ええ、南の魔女様のご紹介ですもの。お預かりしますよ」
「よろしくお願いします」
アルギスが腰にさしていたナイフをカバーごとアリーセに渡す。アリーセは同じように台帳に記入していく。
「アリーセ、後この子は新しく村に来たパン屋よぉ。ほらアマーリエ」
「はじめまして、鍛冶屋の女将さん。今度、パン屋を開くアマーリエ・モルシェンです」
「こんにちは。うちはよくパン屋を利用するから、これからお願いね」
「はい、こちらこそ。あの、魔物の肉を料理する時に使う包丁ってありますか?」
「そうねぇ、手を見せてくれるかしら?」
アマーリエはアリーセに右手を差し出す。差し出された手を取って、アリーセはじっくり観察すると少し待っててくれと店の奥に戻る。
「お待たせしました。あなたの手の大きさに合う包丁はこの三本かしら。どれも肉切り包丁よ。まずは手に持って、刃に魔力を通してみてもらえる?えっと、刃を自分の魔力で覆うようにするのよ」
アマーリエは頷いて、並べられた包丁を手に持ち魔力で刃を覆う。順番に試し、一番無理せず魔力をまとわせやすいものを選ぶ。
「これが一番、魔力を通しやすい?」
「ミスリル製よ。重さはどう?」
「わぁ!ミスリル!?はじめて触ったかも。手にしっくり来ます。それにこれ、刃の重みだけで肉が切れそう」
アマーリエは包丁の背を返して刃を上に向け刃の状態を見る。
「ええ、良いものよ。ただ手入れは鍛冶屋にしか出来ないからどうしてもお金がかかってしまうのだけど」
「……おいくらですか?」
「十五万シリングね」
「うわぁ、流石に悩む値段だ。どうしよう?でもこれから使う頻度が上がりそうだしなぁ」
「私が贈ろうか?兄上に料理を送ることになるのだし」
悩み始めたアマーリエに懐柔するチャンスとばかりにアルギスが声をかける。
「イヤイヤ、お金がないわけじゃないんです。ただ単に貧乏性なだけ。でも、一生使えますよね?」
「ええ、もちろんよ。手入れは普段は浄化魔法で大丈夫。使用頻度にもよるけど年に一度か半年に一度うちに持ってくると良いわ」
「買います!シルヴァンも魔物のお肉食べたほうが良いんだろうし」
「シルヴァン?」
首を傾げるアリーセにアマーリエが周りを見るもシルヴァンの姿が見えない。
「あれ?シルヴァン?」
「キューン」
扉の外から悲しげなシルヴァンの鳴き声が聞こえる。
「あー、慌てて店に入ったから締め出しちゃったかも。テイムした狼の魔物なんですけど、お店に入れていいですか?」
「いいわよ。パン屋さんなのにテイマーなの?」
「イエ、テイムは運良く生えたとしか」
「?」
カクさんを始め周りにあれこれ言われたアマーリエはお茶を濁すことにし、扉を開けてシルヴァンを中に入れる。
「ごめんごめん、シルヴァン。入っていいよ」
クウクウ鳴きながらアマーリエにまとわりつくシルヴァンに、アリーセがニッコリ笑う。
「あら、あなたによくなついているのねぇ。それにとてもきれいな銀狼ねぇ」
「シルヴァン、ご挨拶」
「オン!」
「あら、お利口なのね。よろしくね、シルヴァン。二軒先にテイムモンスター用の道具を扱っているお店があるから、ブラシとか買ってあげたらどうかしら?」
「あ、良いですね。そろそろ換毛期で毛が抜けるだろうし」
「シルヴァンのブラシは、私も買うから!」
「好きにしてくださいよ」
身を乗り出して言うアルギスにアマーリエは呆れたように返す。
「うふふ。じゃあ、包丁包むわね」
「あ、お願いします。これお代です」
「はい、丁度。最初の手入れはおまけするわ」
「ありがとうございます」
アリーセから包丁の包を手渡され、いそいそリュックにしまうアマーリエ。
「南の魔女様とアルギスさんの分は二日後に仕上がりますから」
アリーセが二人に引換証を渡す。
「わかったわぁ。シュミットによろしく伝えといて」
「よろしくお願いします」
「じゃぁ、お暇するわねぇ」
「ありがとうございました」
アリーセに見送られて店を後にした三人は二軒先のテイムモンスターの道具屋に足を向ける。
「シルヴァン、最高級のブラシを買ってやるぞ」
「よかったねーシルヴァン。お気に入りのブラシ買ってもらいな」
「オン!」
「私はぁ、魔道具屋でダンジョンに潜る時に必要なアイテムを買ってあげるからねぇ」
「オン!」
「うちの子、貢いでくれる人がいっぱいだよ」
「あらぁ、可愛いもの、この子。ねぇ」
「ォン?」
「シルヴァン、おやつ上げるからって言われて、知らない人にひょこひょこついてっちゃだめだよ。肉屋のおじさん言ってたでしょ?革剥がれちまうって」
「キュゥ!」
「芋っ娘!脅さないのよ」
「へーい」
「いや、シルヴァン。アマーリエが信頼している人以外はホントだめだよ?」
真面目に、アルギスがシルヴァンに言いつける。
「オン」
「やっぱりお前は賢いなぁ」
「はいはい、座り込まない。ブラシ見るんですよね?」
シルヴァンを撫で始めたアルギスにアマーリエが先を促す。今度は、シルヴァンもちゃんと店に入れながら道具屋に入った三人だった。




