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本日も快晴、春の青空が美しいファウランド王国バルシュティン辺境伯領アルバン村。
村に一軒しかないパン屋さんは朝から大忙し。
気温も上がり、久しぶりに庭には折りたたみの机と椅子が並べられ、村の人々が笑顔で朝食を楽しんでいる。
「アマーリエさん!銀の鷹の皆さん、いらっしゃいましたよ!」
「はーい」
ブリギッテに呼ばれて厨房からアマーリエが顔を出す。
「あ、皆さん、お久しぶりです。お元気そうですね……アルギス様?」
アルギスの前より階級が上がったような神官服を見て、わざと様付けに変えたアマーリエ。
「久しぶりだね、アマーリエ。元気そうでよかった。なんで僕がここに居るのか、不思議そうな顔だね?」
「お陰様で。ええ、とっても不思議です。喜び勇んで帰られたと思ってましたから」
「もちろん兄上の命令だよ。色々頼まれたんだ、兄上に」
最上級の笑顔で、見えない尻尾を振りまくるアルギスを、思わず、胡乱な目つきで見てしまうアマーリエ。
「……左様で」
「大丈夫。去年みたいに面倒かけたりしないから」
「ええ、本気でお願いしますね」
「ああ」
アマーリエのあまりの必死な言い様に銀の鷹の面子は爆笑、アルギスは照れたように笑う。
「いや、笑いごっちゃ無いんですからね!」
そう言って去年のことを思い出し始めるアマーリエ。それに代わって、ブリギッテが質問をはじめる。パン屋の発送係なので、銀の鷹宛に送る荷物が増え、アルバン村の住人らしく興味津々だったのだ。
「あの、ベルンさん。新人さんたちは?」
「ああ、あいつらは今、バルシュだ。今日は、アルギスさんを連れて来ただけ」
「はぁ」
「冒険者は、貢献度が必要なんですよ!」
ファルの言葉にポンと手を打つアリッサ。
「そうでした!街道の村々で依頼を受けて、貢献度を上げるんですね!」
「そういうことよ」
マリエッタが、アリッサによくできましたとにっこり笑う。
「一応あいつらの監督をしなきゃいけないから、俺たちは転移陣で、一度バルシュに戻る。そっから街道筋をいつも通り、辿ってくる予定だ」
「ほうほう」
ブリギッテとアリッサが、ベルンの言葉に相槌を打つ。
「じゃあ、久しぶりに、ここで朝食済ませていくか」
「賛成!」
ベルンの言葉に一番に賛成したのはダフネ。ダリウスはちゃっかり、自分が食べるパンをもうトレーに載せてお会計を始めていた。
「ダリウス、早いな」
「いいだろ。アマーリエのところは、パンの種類が豊富で、飽きないんだから」
「そうだけどな。なんでトレー三つ分になってるんだ?送ってもらってただろ?」
「選ぶのが楽しいんだよ!それにまだ見てないのもある!」
「あ!これ新しいパンだよね!どれがお勧め?」
「ええ。今日、出したばっかりですよ。ダリウスさん、グレゴールさん。発送は、だからまだです。私のお勧めは、これですね」
そう言って、ブリギッテがアスパラベーコン巻きパンを紹介する。
「俺は、定番のカレーパン!」
「「「「ぶっ、ベルンさん!」」」」
皆の吹き出す声に、覚醒したアマーリエ。ベルンのトレイの上の二種類のカレーパンの山を見て、苦笑する。
「いいだろ!本当は毎日でも食べたいんだ!」
「なら、うちに婿に来ますか?毎日食べられますよ」
ベルンの言葉に、アマーリエが村に来た頃のことを思い出し、真顔で言い放つ。
「「「「おお!?逆プロポーズか!?」」」」
「南の魔女様っていう、小姑もどきがもれなくついてくるわよー」
マリエッタがニヤッと笑って言う。
「じゃあ、パン職人見習いで!」
「「「「「そっちか!!」」」」」
店の中は大笑いである。
「これはこの間、送っていただいたお菓子ですね」
籠の中のマドレーヌとフィナンシェを見て、にっこりするファル。
「ファルさん、どうでした?」
「ブリギッテさん、美味しかったですけど、皆で分けたのであっという間だったんです。今日はいっぱい買っていきます!」
「「「お買い上げありがとうございます!」」」
ブリギッテたちは、在庫も持ち出し、せっせと袋詰めしていく。それに、さすがのファルも顔がひきつり始める。
「俺も買っていくよ。新人たちが楽しみにしてるからさ」
そう言ってグレゴールが、ファルの肩をたたいてなだめる。
「お、先輩、太っ腹!」
「いやぁ、すごい、いい笑顔で食べるからさぁ、あいつら」
「作りがいあるよな!グレゴールは、それで料理の腕が上がったんだ!」
ニコニコとダフネがグレゴールを褒め始める。
「そうなんですか?ダフネさん」
「うん!アリッサ。婿にしたら一生、美味しい食事が待ってるぞ!」
「グレゴールさん、プロポーズしてもいいですか!」
「ダメに決まってるだろ!」
即時、別のところからダメ出しが入る。グレゴールは状況に追いつけず、目が白黒している。
「あ、お父さんいたの?」
「居たよ!居ましたよ!仕事明けて、久しぶりに娘に会いに来たのに!この言われよう!ヨヨヨヨ」
苦笑しながらお客たちが、アリッサの父親をなぐさめはじめる。
「はいはい、営業妨害よ!父さん。注文して!」
「娘が冷たい」
「ま、年頃の娘なんて、そんなもんですよ、親方」
「パン屋さんも、ひどい」
「諦めて!さ!皆さん、どんどん買ってってくださいよー!」
「「「はいよー。パン屋さんは、やっぱりしっかりしてるねぇ!」」」
「当然!村に一つのパン屋を預かる身ですからね!」
「パン屋さんがこけたら、うちら、食いっぱぐれちゃうよ!」
「違いねぇ!」
「「「「ワハハハハ」」」」」
すっかり村に馴染んだアマーリエ。いろいろあった一年目も終え、二年目が始まろうとしている。
それがどんな年になるかは、まだだれも知らない。
4年強、お付き合いいただきありがとうございます。2年目は、1年目の小話とifシルヴァンを書き上げてから、なるべく早くスタートしたいと思います。




