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時間を戻して、アマーリエとシルヴァンがお腹いっぱいで満足した頃。
「ねえ、リエちゃん。ダリウスおじちゃん達、帝国で美味しいもの食べてるかなぁ?」
「さあ、どうだろ?聞いてみようか。帝国にもダンジョンがあるだろうしね。何が出るか聞いてみるわ。それに新人さんたちが、村にくるのかも聞かないとね」
そういう軽いノリで、アマーリエがベルンに念話を飛ばす。
『ベルンさーん!今、念話大丈夫ですか!』
『ああ。どうした?』
『アルバン村に、今年も来るんですかーって。あと、新人さんはどうするのかなって』
『新人も連れて行くぞ。魔物の暴走の討伐にも参加したいし、ダンジョンの上層階での採集も進めたいからな』
『こっちは、魔物の暴走の準備、すごく進んでますよ〜。漆黒さんたちのご親族やご友人も、手伝ってくれるそうですから、もはや過剰戦力過ぎて笑えますけどね』
『は?』
アマーリエの言葉を、脳内で明確にイメージしきったベルン。その想像力の正確さゆえに、高レベルの冒険者であり、生き残れている冒険者なのである。
『もうね、ただの素材狩りになると思います。むしろ魔物さん逃げてーな感じ?』
『……』
『ただ、油断はしないようにって。おーい?ベルンさん聞こえてます?』
『……聞こえてる』
『魔の山からくる魔物は、魔の山のダンジョンから溢れ出た魔物だそうですよー。だから、めっちゃ強いんだそうですよ!その分、素材としては最高!』
『はぁ!?』
『あれ?まだ、情報そちらに回ってませんか?』
『聞いてない!どういう事だよ!』
『あぁ。もしかして、あえて下に情報流してないのかな?下手に、人が集まり過ぎても困りますよね。兵站とかいろいろ』
『リエ!一人で納得してないで説明!』
『ういっす!カクカクシカジカで……』
アマーリエは取り急ぎそれまでの、判ったことをベルンに伝える。
『わかった。冒険者ギルドの上層部に確認する。お前、他の冒険者に言いふらすんじゃないぞ?』
『……』
『おい!リエ!?どこまで喋った?』
『いや、手紙に書いたのはダフネさんのお母さんとこと、遠距離依頼を受けてもらったとこの二つだから、広まってないって信じたい』
『クレウサさんのとこなら大丈夫だろう。もう一つは?』
『えーっと、ティーザの雷ですけど』
『ああ、あそこも口はかたいから大丈夫だ』
『よかった。あの、ベルンさん?』
『なんだ?』
『魔物の暴走の時って、冒険者の皆さんは、どこに泊まるんですか?』
『アルバン砦だと聞いてるぞ?あそこが最前線だろ』
『ああ、そっか。村じゃそこまで、いっぱい泊れませんものね。神殿は負傷者用か。あ!気絶無効までスキル上げてない冒険者は、今回参加させてもらえないですよね!』
『そりゃ、そうだろ。伝説級装備も戦術に組み込まれてんだから、って言うか、今回の要だろ?あいつら』
『ですよねー』
アマーリエとベルンがそんな話をしている頃、帝国と王国の選抜騎士たちが、気絶無効スキルを得るための特訓を受けていたのである。ちなみに、アルバン砦から、土の精霊印のスープを購入済みである。アルバン砦の方は、その収入で、砦の強化、増築を行っている。
討伐参加の言い出しっぺはもちろん、素材獲得の機会を無駄にする気のない、やんごとなきお方達であった。
さて、そんなやんごとなきお方たちも、アマーリエが発端の外交に精を出している。
年明け早々、帝都にある皇宮下宮の一室に、食の祭典の担当文官と陶工、彼らの護衛武官が集められた。それぞれ旅装姿で、手には旅の荷物を持っている。そこへ皇帝と宰相と宰相補の緑青が登場する。そこに宮廷魔道士の姿がなく、内心で首を傾げる護衛武官たちであった。
「集まったか。大儀である。では参る!」
帝国のやんごとなきお方の言葉の後、空間が歪む。
「へ?」
そして、部屋には、いってらっしゃいませと手を振る宰相だけが残った。
「……わざわざ其方が運んだのか?」
「ああ。当然だ。帝国の威信をかけておるからの」
ファウランド王宮の一番広い謁見の間に、グリニアス帝国皇帝が【世界・食の祭典!第一回古代竜杯!古代竜の加護を得る料理人は誰だ!?】の担当文官と陶工、それらの護衛武官を連れて現れたのだ。もちろん、連れていきますと訪はしてある。アマーリエの教育の賜物である。
呆れた顔の王国のやんごとなきお方たちと周囲の唖然とした大臣や文官武官に、ドヤ顔で宣った帝国のやんごとなきお方であった。
一緒に来た緑青はいい笑顔で王国のやんごとなきお方達に挨拶し、茫然自失状態の自分の部下と陶工が休める場所を求めた。さすがに帝国の護衛武官は表面を保っていたが、内心は帝国から皇帝によるいきなりの転移にドッキドキだった。
茫然自失のままの帝国からの来訪者は、手際よく女官長主導で休憩のために宿泊場所につれていかれ、帝国のやんごとなきお方と緑青は、王国のやんごとなきお方たちと共にすぐさま軽い会談に移った。
「なあ、食の祭典の打ち合わせを交互で行うために、専用の会議室を作って、転移陣を扉に彫らんか?」
「ふむ。鍵は我等か?」
「まあ、そうなるな。悪意のある者を通すわけにいかんからな」
「我と其方、其方の息子とアルギスまでは信頼に足るが、以降は分からんぞ?」
「そこは先の者が考えれば良い。それに、食の祭典までに各国ごとに転移門は設置したいしな」
「ふむ。その転移門が恒久のものになるか、一時的になるかは、互いの国の信頼関係次第か」
「それで経済がよりよく回るようになれば、アホでもない限り下手な手は打たんだろ」
「其方、甘いぞ。我の父の周りはアホばかりな上、父自身が政に興味無かったが故に、危うく国が傾くことになるところであった」
そう言って、肩を竦める帝国のやんごとなきお方。
「ふふふ。宰相様がいらっしゃったおかげで、なんとか保っていたのですよ」
緑青が口を挟むも、ジト目になった帝国のやんごとなきお方。
「最近、ようやく分かった。宰相の後ろで、其方が睨みを利かせていたということがな」
「なんのことやら」
緑青はすっとぼけて、お茶菓子に舌鼓を打つ。
「うちにも、古代竜のどなたか来てくださらんかな?うちの雀どもがうるさすぎてかなわん」
「父上。父上も時に泣くほど叱られますよ?」
王のぼやきにすかさず、自分が見たままの事実をこっそり耳打ちする王太子。
「……であったな」
いつぞや幼なじみの涙目を見たことを思い出した王は、慌てて口を手を押さえた。
「ゴホン!まあ何事も、少しづつ試しながらだ!」
「そうだな」
「そこで提案なんだが、王国と帝国それぞれで、一度小規模な食の祭典をやってみないか?」
「予行演習か!それは良いな」
「うむ。この夏辺りから冬にかけて、各地で競わせ、代表を選出。来年の夏にそれぞれの都で国の中の優勝者を決めるのだ。その際に、他の国からも客を招く」
「ふむふむ。国の中の様子を見て、調整もせねばな」
「うむ」
「ふふふ。こう言う美味しいものが、国中から集まるのか」
「うむ。経済も回るぞ」
そう言った後、表情を緩ませて、茶菓子を堪能したやんごとなきお方たちであった。
一方、王宮の奥方の実務を取り仕切るマルガレーテは、王妃と共に、帝国の客人たちのために居心地の良い場所を提供すべく、最善を尽くしていた。
年末に熱血料理人を、宮廷魔術師に王宮へ召還させ、王宮料理人たちに新しい料理を習わせた。そして料理人たちは、帝国の客人が訪れた今、全力を尽くして胃袋を掴みにいっている。
王宮で盛大に行われた歓迎の晩餐会は、王国での料理の転換期であったと、のちの歴史で語られることになる。




